「動画コンテンツは5分以内が鉄則」中国SNSの微博(ウェイボー)で年間3億PVを稼ぐ在日インフルエンサー「七日野鬼」が語る、中国人ファンを惹きつけるコンテンツ(前編)

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2015年2月の中国春節旧正月)、大型バスに乗った訪日中国人たちが次々と日本製の家電製品を大量買する光景が「爆買い」という表現に置き換えられ、世間をわかせました。それらはパッケージツアーの訪日中国人(団体旅行)によるもので、2016年下半期以降は個人旅行(FIT)との二極化が進みました。

その結果、旅行スタイルは「モノ」を買い求める団体旅行客から、日本の文化体験など「コト」を楽しむ個人旅行客まで裾野が広がりました。旅先は、ゴールデンルートと呼ばれる東京や大阪、京都などの主要都市だけでなく、個人旅行(FIT)により地方まで拡大をみせています。

インバウンド市場の変化に密にかかわり続けてきた「七日野鬼(ナノカノオニ)」氏は、訪日外国人のガイドや旅行代理店の経験があり、旅行業界に精通している在日中国人インフルエンサーです。 これらの在日中国人インフルエンサーは、「KOL」(キーオピニオンリーダー)と呼ばれ、日本のインバウンド市場でもプロモーション手法として、注目を集めています。

KOLの意味とは?インフルエンサー・網紅(ワンホン)との違いやメリットは?効果的なマーケティングのための3ステップ

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今回は、連載「橋梁(チャオリャン)」のvol.3として、中国SNS「微博(ウェイボー)」で日本旅行にまつわる美食や豆知識などのコンテンツを発信し、47万人以上のフォロワー数を持つ七日野鬼氏(以下、七日氏)。KOLの活動や訪日中国人の旅行動向について、前編と後編の二本立てでお届けします。

▼連載「橋梁(チャオリャン)」 インバウンドにおいて、圧倒的なシェア率を誇る訪日中国外国人。連載「橋梁(チャオリャン)」では、中国マーケットのインバウンド・アウトバウンド分野で話題の「人物・企業」を筆者独自の視点で深堀。インバウンド企業やインバウンド担当者、インバウンドに興味を持ち始めた人向けに、“現場取材”のトレンド情報をお届けします。
▲[優しい面持ちで取材を受けてくださった七日野鬼(ナノカノオニ)氏]
▲[優しい面持ちで取材を受けてくださった七日野鬼(ナノカノオニ)氏]

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鎧兜を身につけた中国人、その正体とは

七日氏の微博(ウェイボー)は、鎧兜を身につけたアイコンが目を引きます。その真意は、もともと日本の侍や武士好きで、その力強いイメージと自分の理想を重ね合わせたものだそう。

▲[鎧兜をつけたアイコン]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
▲[鎧兜をつけたアイコン]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
鎧兜の他に筆者が気になったのは「七日野鬼(ナノカノオニ)」というネーミングについて。その由来は、七日氏が留学生として来日したばかりの生活から名付けられました。

七日氏が初めて日本へ来たのは、2011年のとき。団体旅行客として初めて訪れた日本に、どことなくふるさとのような感覚を抱き、日本への留学を決意。2013年1月に念願の日本留学を果たすものの、日本語レベルは簡単な挨拶程度。当時、掃除などのアルバイトをしながら生計を立てたといいます。

「ご飯を食べるお金もなかったので、週7日毎日コンビニのおにぎりを食べて凌いでいました。店員に、「七日哥」(七日間のお兄さん)と呼ばれたのがきっかけです」(七日氏)

「七日」の二文字に、当時の苦労が集約されています。そして、「野鬼」は中国語の「孤魂野鬼(グーフンイェグイ)」(日本語:「浮遊霊」)から成され、孤独のなかでひっそりとおにぎりを食べていた自分を現しているといいます。

▲[「七日野鬼」のルーツには「おにぎり」 ※画像はイメージです]
▲[「七日野鬼」のルーツには「おにぎり」 ※画像はイメージです]

七日氏の微博(ウェイボー)は、47万人以上のフォロワーを持ち、その人気の背景には、日本旅行にまつわる豊富な知識や情報にあります。その豊富な知識や情報量は、彼の日本留学時代から今に至るまでの経緯にあります。

七日氏は、2013年から1年間日本語学校へ通った後、旅行の専門学校に2年間通う傍ら、休暇を利用し全国を旅して回ったといいます。

その後、2016年から2017年にかけて、訪日中国人の旅行ガイドや、個人旅行(FIT)向けの旅行企画の経験を重ねます。 旅行業務に携わってきた七日氏は、「全国通訳案内士」の国家資格を所有する強者です。日本政府観光局JNTO)の発表によると、七日氏が受験した年の合格率はわずか15.6%と狭き門でした。語学はもちろんのこと、日本文化、歴史、地理を深く理解し、この難関を突破しました。

同時期に、「日本といったら、七日野鬼」をコンセプトに、微博(ウェイボー)をスタートさせます。

2018年以降は、現職であるSNSマーケティングなどを手掛けるクロスボーダーネクスト(株)にて、SNS運用をはじめ、コンテンツ編集、日本企業の取材・中国語記事の執筆に携わっています。本業の傍ら、KOLという顔も持ち合わせているのです。 

ストーリーは5分以内に語れ

現在、微博(ウェイボー)のMAUは約3億、芸能人をはじめ、数多のKOLがしのぎを削っている状況にあります。たとえば、著名MCタレント「谢娜(シェナー)」のフォロワー数は1億2000万人、コミカルさが人気なKOL「papi酱(パピちゃん)」は3,000万人超と、凄まじい数字です。 

こうしたなかでも、「七日野鬼」は日本関連のKOLとしてはトップクラスです。1日およそ80万~100万PVを稼ぎ、2018年は年間1.6億PV、今年は3億PVを見込んでいます。微博(ウェイボー)という中国市場における日本ファンを母数に考えれば45万フォロワー、100万PVは目を見張るものがあります。日本でいえば、トップYoutuberのようなものでしょう。

そんな七日氏の微博(ウェイボー)は、3つの主力コンテンツに分けられます。 

1. 食レポ「野鬼最爱吃」

七日氏の主要コンテンツのひとつである「野鬼最爱吃」。日本語で「野鬼が一番好きな食べ物」という意味で、日本食にまつわる食レポを短編動画+テキストで発信しています。「野鬼最爱吃」の短編動画は、「試食レポ動画」と「飲食店で食レポするVLOG動画」があり、いずれも2つのポイントがあるといいます。

一つ目は 、動画内では率直な意見をレポートすること。そこから、視聴者にとってプラスαの発見があることで、信用につなげることです。

「日本が素晴らしいことは、既に周知されています。今、求められているのは、単に美味しいや美しいだけのものではありません。視聴者は、まずいものや変わり種などの意外な発見に興味を示す傾向にあります。90%は良い面を紹介し、10%は率直な意見も入れます。かえって興味を持ってもらえるので、良い面も一緒に受け入れてもらえます」(七日氏)

日本に興味を持つ中国人にとって、今や日本食の「美味しい」はあたりまえになり、プラスαのパンチが効いてなければ、視聴者からの関心を得ることは難しくなってきた状況にあります。 

もうひとつのポイントは、「動画の尺」にあるといいます。

「今、中国人はSNS上で5分以上の動画を見ません。抖音(ドウイン:中国版TikTok)の動画も1分間が多い。スポンサー案件の場合、詳細な紹介を入れるので5分間は難しいですが、それ以外の基本的な動画は5分以内に納めています」(七日氏)

▲[森永アイス 新フレーバー試食レポ]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
▲[森永アイス 新フレーバー試食レポ]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
中国人の生活リズムは加速化し、いかに動画内で目と耳を使い、より多くの情報を短い時間で伝える、コンパクトで質の高いコンテンツが求められているのです。

2. 豆知識「野鬼小百科」

次に、日本の豆知識を紹介するコンテンツ「野鬼小百科」です。日本の歴史やマナーなどの文化と、新幹線チケットや地下鉄1日乗車券の購入方法など交通機関の利用方法を紹介しています。 
▲[新幹線の券売機で購入する動画]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
▲[新幹線の券売機で購入する動画]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
交通情報については、公共交通機関が発達している都心部だけでなく、地方の情報も、中国人観光客は求めているはずだ、と七日氏は語ります。

「地方に行くと、交通に不便というのが難点です。交通情報をどこで調べていいかも分からない中国人が多いです。例えば、長野県の上高地。上高地までの交通手段にタクシーがあります。交通費が高くついてしまうイメージですが、タクシー会社によっては3時間前後4000円程で貸し切りできるサービスもあります。旅行シーズンは高くなりますが、そういった情報も積極的に発信しています。インフラが不便だから、行くのを断念してしまうのはもったいないです」(七日氏)

続けて七日氏は、日本文化は歴史だけでなく、日本での中国とは違ったマナーや習慣にも着目しています。視聴者にとって、単純に面白い発見にもなれば、ときに現地で恥ずかしい思いをしないように役立つ知識にもなり、理解を深めるきっかけになるといいます。

「文化の違いで面白いと思ったのは、日本のお店は「白湯」がないこと。中国人はレストランでも白湯を飲む習慣があります。あとは、レストランに入ったら店員が座席を案内すること。中国のレストランは大抵が自由席です(笑)。店員からの案内を待ち、勝手に座らないことも伝えます」(七日氏)

日本のマナーや日本人の習慣は、外国人にとって興味深い、異文化体験といえます。筆者も中国ハルビンに留学時代にそれを感じた記憶があります。

氷点下30度の頬を突き刺す極寒のなかでも、筆者は防寒よりファッション性を優先し、スカートとレギンス(80デニール)で過ごしていました。まわりの中国人にひどく驚かれる一方で、スカートやデニムの下に「ももひき」を重ね履きする。異様なまでに着膨れしたその彼女たちのパンツ姿に、カルチャーショックを受けたのを覚えています。

七日氏も同じく、北海道でそういった日本人女性を多く見かけたということです。中国人にとって、そういった行為は「関節炎になる」という認識があるといいます。驚きの基盤には文化の違いがあり、こうした意味でも日本の旅は中国人にとって常に面白いコンテンツで溢れているようです。

3. 旅行記「头条文章」

七日氏の強みとされる旅行記は、微博(ウェイボー)内にある長編記事「头条文章(トウテャオウェンジャン)」と呼ばれる機能を使って公開されています。これまでに書き溜めた本数は、300以上にのぼります。たとえば、最近フォロワーからの問い合わせが多いという「JRPASS(ジャパン・レール・パス)」について紹介したのも、「头条文章(トウテャオウェンジャン)」のコンテンツです。

JRPASS は、JRグループ6社共同で訪日外国人を対象に提供する特別企画乗車券です。記事では、名古屋の旅行記のなかで名古屋城の観光名所や手羽先などの美食をふまえながら、JRPASSや地下鉄、バスなどの一日乗車券などの違いなど、画像を取り入れて解説。閲読数は13万人以上に及びます。 

▲[名古屋の観光名所、JRPASSを紹介した旅行記]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用 ▲[名古屋の観光名所、JRPASSを紹介した旅行記]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用

▲[名古屋の観光名所、JRPASSを紹介した旅行記]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用

中国人は5分以上の動画コンテンツは見る習慣がありません。ならば長編記事も、時間をかけて読み通すことはしないのでは?と疑問を抱きますが、七日氏のフォロワーの場合、必ずしもそうではないといいます。

微博(ウェイボー)を始めた当初から旅行記を書くスタイルを貫いているため、フォロワーたちは「読む習慣」ができています。」(七日氏)

七日氏が2017年に微博(ウェイボー)を始めてから2年、今は47万人以上のフォロワーから支持を得ています。フォロワーには「日本に興味がある」という共通点はあるものの、求めているコンテンツの形式は一概に同じとは限りません。

短編動画で気軽に情報を得たい視聴者もいれば、現地の周辺環境、アクセス方法、店舗情報などより深い情報を知りたいので、長編記事を読みたいというリクエストもあるといいます。

つまり、七日氏は一定のフォロワーに刺さる5分以内の動画コンテンツだけでなく、コアファンが求める長編記事なども用意し、「フォロワー層によってコンテンツの棲み分けを図る」ことで、異なるニーズを持つフォロワーから、同様に強く支持されているのです。


連載「橋梁(チャオリャン)」のvol.4後編は、日本コアファンのコミュニティを作る七日野鬼氏が明かす、「爆買い」の次に流行るコンテンツについてご紹介します。 

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この記事の筆者

沖 えり

沖 えり

山口県生まれ。中国ハルビンの黒龍江大学に留学、中国在住歴8年。インバウンド事業を手がける外資系小売企業の広報を経て、2019年ライターに転身。「爆買い」時代から現場の取材経験を重ね、「インバウンド」「中国人」にフォーカスした原稿を得意としている。

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