「御朱印」集めにハマる中国人、その行動心理から読み解く「爆買い」の次に流行るコンテンツ(後編)

「御朱印」集めにハマる中国人、その行動心理から読み解く「爆買い」の次に流行るコンテンツ(後編)

【連載】橋梁(チャオリャン)Vol.4では、前編に続き、微博(ウェイボー)アカウント45万人のフォロワー数を誇る在日中国人KOL 「七日野鬼(ナノカノオニ)」さんの登場です。


中国人の「爆買い」現象から4年......中国人の旅行スタイルが「モノからコト」へと拡大しています。その背景を理解するためには、まず中国人の行動心理について知る必要があります。本編では、実際に今中国人が興味を示している日本のコンテンツについて語ってもらいました。

▲[七日野鬼(ナノカノオニ)氏]
▲[七日野鬼(ナノカノオニ)氏]

▼連載「橋梁(チャオリャン)」 インバウンドにおいて、圧倒的なシェア率を誇る訪日中国外国人。連載「橋梁(チャオリャン)」では、中国マーケットのインバウンド・アウトバウンド分野で話題の「人物・企業」を筆者独自の視点で深堀。インバウンド企業やインバウンド担当者、インバウンドに興味を持ち始めた人向けに、“現場取材”のトレンド情報をお届けします。
▲[「七日野鬼」微博(ウェイボー)フォロワー数47万人]
▲[「七日野鬼」微博(ウェイボー)フォロワー数47万人]

前編はこちら

「動画コンテンツは5分以内が鉄則」中国SNSの微博(ウェイボー)で年間3億PVを稼ぐ在日インフルエンサー「七日野鬼」が語る、中国人ファンを惹

2015年2月の中国春節(旧正月)、大型バスに乗った訪日中国人たちが次々と日本製の家電製品を大量買する光景が「爆買い」という表現に置き換えられ、世間をわかせました。それらはパッケージツアーの訪日中国人(団体旅行)によるもので、2016年下半期以降は個人旅行(FIT)との二極化が進みました。その結果、旅行スタイルは「モノ」を買い求める団体旅行客から、日本の文化体験など「コト」を楽しむ個人旅行客まで裾野が広がりました。旅先は、ゴールデンルートと呼ばれる東京や大阪、京都などの主要都市だけでなく、...

 

日本コアファンのコミュニティから探る、最新コンテンツ

旅行業界に精通している「七日野鬼」微博(ウェイボー)には、日本旅行にまつわる情報が溢れています。

日本にはさぞかし「微博(ウェイボー)映え」する情報がたくさんあるのだろう、と思いきや、「正直、微博(ウェイボー)に載せるネタがない」と、七日氏は嘆きます。

というのも、既にほとんどの人気の観光名所や美食は、すでに微博(ウェイボー)で紹介しつくされているからです。

七日氏は、日々コンテンツ探しに没頭しているのだとか。そのため、彼は今年から新たな試みとして、微博(ウェイボー) 以外のツールを使った話題探しを開始しています。

七日氏がネタ探しに利用しているのは、中国のメッセンジャーアプリ「微信(ウェイシン)」のグループ機能を活用したコミュニティです。WeChatのグループ機能はLINEと同じように無料で作成でき、1グループ最大500人まで参加できます。

七日氏は「日本情報を交換するコミュニティとしてのチャットグループ」の会話を通じて、新鮮な情報を入手したり、流行の変化の兆しを読み取ったりしています。

▲[「七日野鬼」微信(ウェイシン)グループチャット]
▲[「七日野鬼」微信(ウェイシン)グループチャット]

「グループチャットのメンバーは、私より日本に詳しいかもしれません。何度も日本を訪れているリピーターばかり。彼女たちが語る生の声に着目し、そこからコンテンツのヒントを得ています」(七日氏)

筆者も同グループに参加させてもらいました。同グループ内では、平均1日1,500件以上の日本に関する発言が交わされています。

こうした情報や七日氏の微博(ウェイボー)には、今、流行の兆しを見せるコンテンツが見えてきます。 3つを紹介します。

1. 中国人にも「御朱印」ブーム到来

コミュニティ内で、最も盛り上がりをみせていたのは、「朱印(ジューイン)」。御朱印のことで、神社やお寺にお参りした証として授けられる印です。こうした御朱印ブームは、最近になって流行りだしたといいます。

「2016年頃から御朱印集めを始め、当時微博(ウェイボー)に投稿しても反応はうすかったです。今は、各地の観光名所で神社へ行く中国人が多い。浅草寺や明治神宮も同じ神社なのに印は全く違うので、それが魅力です。中国人は、希少価値のあるものをコレクションすることが好き。駅のスタンプラリーやスタバのカップ集めも人気です」(七日氏)

▲[メンバーのひとりの朱印コレクション]:「七日野鬼」微信(ウェイシン)グループチャットより引用
▲[メンバーのひとりの朱印コレクション]:「七日野鬼」微信(ウェイシン)グループチャットより引用

▲[同メンバーの各地博物館や美術館チケット]:「七日野鬼」微信(ウェイシン)グループチャットより引用
▲[同メンバーの各地博物館や美術館チケット]:「七日野鬼」微信(ウェイシン)グループチャットより引用

2. 山梨のイチゴやブドウ狩り

日本ファンの中国人の中では、日本のブランド品種の果物に対する関心も高まっています。

とりわけ、イチゴやブドウ狩りは、海外個人旅行で日本を訪れる中国人に人気です。

山梨のイチゴやブドウは、微博(ウェイボー)などから情報を得て、英語の公式ウェブサイトから直接予約して訪れる人もいます。こうした状況を考えてみると、地方のお店に突然外国人がやってきたら対応に困るのではないか…と心配にもなりますが、実は言葉の壁は大して問題ではない、と七日氏は語ります。

「お店側は、日本語しかできなくても大丈夫です。用意しておきたいのは、ルールを記した看板です。食べるだけ、時間制限『Takeout×、30minits』など簡素化した内容だけでも、中国人に意味は正しく伝わります」(七日氏)
▲[山梨のイチゴ狩り]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
▲[山梨のイチゴ狩り]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
山梨の果物が人気には、中国人はKOLらの影響によって、日本の果物の品種が広く知られるようになった背景があります。山形の佐藤錦や北海道の夕張メロンなども、こうした流れで知名度が向上しています。

食べるもの、薬といった体に入れるものの安全性といった話題に、中国人は人一倍敏感です。交通インフラを整え、誘客さえできれば、農作物が豊かな地方こそインバウンド商機があるといえるでしょう。

3. 今や着物体験も「あたりまえ」より高級な一着や変わった衣装に需要

浅草や京都の街は、着物を着て散策する中国人で溢れています。

単に着物を着ればOKではなく、よりグレードの高い着物や装飾品をまとって写真を撮り、SNSで共有することがステータスになっているようです。中国人にとって、一般の着物一式を身にまとうという体験にはもはや珍しさはなくなっています。こうした中、現在では、一風変わった「鎧兜体験」には大きな反響があったといいます。 

▲[自ら鎧兜体験をする七日氏]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用 ▲[自ら鎧兜体験をする七日氏]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
▲[自ら鎧兜体験をする七日氏]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
「鎧兜を着て写真を撮る体験を投稿しました。中国には、実際に鎧兜を着る体験のできる場所がなく、驚いたことに、女性からの関心も高かったです。2016年に放送されたNHK大河ドラマ『真田丸』で主演された俳優の堺雅人さんは、中国でも女性に人気が高いので、影響しているかもしれません」(七日氏)

▲[女性のユーザーからも関心を高めている]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用
▲[女性ファンからも関心の声がコメントされる]:「七日野鬼」微博(ウェイボー)より引用

女性ファンのコメント和訳:「わぁ!うらやましい。一枚目の千軍万馬の写真がすてき。値段も妥当。女性が行っても同じ装備をしてくれますよね?あぁ、行きたい」

「爆買い」に飽きた中国人、いまハマるコンテンツとは

前述で紹介した流行は一部にすぎませんが、それらにハマる中国人には共通点があります。「新たな発見+初体験+情報共有」の三拍子に価値を見出す傾向がある点です。

こうした人々の心情について七日氏は、「彼らは、微博(ウェイボー)や微信(ウェイシン)に共有して、『ほら見て。私は誰も知らないスポットを発見したよ』という優越感にひたることが好きなのです」と語ります。

訪日中国人にとって、一昔前は日本で家電や理美容品など「日本製品」を買うことがステータスでしたが、今は他の中国人が見知らぬ未経験の場へ足を踏み入れることがステータスになっているのです。モノを得る喜びよりも、コトや情報を新たに得た喜びが、彼女たちの面子心をくすぐるのです。

「情報+体験」に価値が生まれている今の状況はまさに、訪日中国人の旅行スタイルが成熟化したことを意味しています。こうした成熟した旅行を志向する中国人の視点では、今、日本列島が「ポケモンGO」の舞台のようにとらえられていると言えるかもしれません。彼らの話ぶりや好むものを聞いていると、より便利な武器(情報)を入手し、経験を積む(旅先でその地らしい体験をする)ことで日本マスターへとなるべくレベルアップしていく感覚を持っているかのようにも感じられてきます。

インタビューを終えて:新しきものにとってかわられる古きもの

取材のなかで、七日氏はこんな言葉を教えてくれました。

「长江后浪推前浪(cháng jiāng hòu làng tuī qián làng)」

新しいものが入ってきては、古いものは追い出されていく様を意味するこの言葉のように、ここ数年でインバウンド市場のトレンドも様変わりしています。古い流行は、やがて新しい流行にとって代わられるでしょう。その背景には、中国人の生活のリズムがより加速していることや、様々な観光コンテンツが広く認知されてきたという現実があります。

七日氏は、自分自身もまた既に古い立場にあり、留まることはできないと考えていると言います。そうした現実の中で、彼の目指すゴールは日中関係良好の「架け橋」であると、熱く語ってくれました。KOLの「七日野鬼」の活動は、この最終ゴールへ向かう間の通過点に過ぎません。まだ旅の途中ですと語る七日氏の、今後の活動には要注目でしょう。



【連載】:橋梁(チャオリャン)

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この記事の筆者

沖 えり

沖 えり

山口県生まれ。中国ハルビンの黒龍江大学に留学、中国在住歴8年。インバウンド事業を手がける外資系小売企業の広報を経て、2019年ライターに転身。「爆買い」時代から現場の取材経験を重ね、「インバウンド」「中国人」にフォーカスした原稿を得意としている。