「what3words」とは、地球上を57兆個のマスに分割し、3つの単語で表現する新しい住所システムです。このシステムを提供する英国のスタートアップ企業what3wordsは、2018年11月にソニーから出資を受けたことでも注目を集めています。
見慣れない文字で構成される日本の住所は、訪日外国人にとっては「複雑すぎる」場合がほとんどでしょう。英字表記であっても、聞きなれない地名を覚えるのは至難の業です。
観光という観点では、穴場スポットに個別の住所が割り振られていない場合には地図アプリでたどり着くのは難しいでしょう。こうした問題を解決する新しい住所システムが「what3words」です。
本記事では、what3wordsについて、その仕組みとメリット・デメリットについて解説します。
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what3wordsとは
what3wordsは、今使われている住所とは全く異なるシステムです。その仕組みとはどういったものなのでしょうか。
ここではまず、what3wordsの仕組みと活用場面について解説します。また、what3wordsが解決する社会課題について見ていきます。
what3wordsの仕組み
2013年に創業した英国ロンドンに本社を持つスタートアップ企業what3wordsが開発した、新しい位置情報システムです。地球上を3メートル四方、合計57兆個の正方形に区切り、それぞれの区画に3つの単語で構成する「3ワードアドレス」を割り当てています。今までになかったシンプルなコーディング(符号化)システムです。
現在はウェブ版とアプリ版があり、アプリ版はオフラインでも利用可能です。1区画の大きさは3×3mなので、これまでの住所では指定できなかった「エントランスの前」「建物の南側面の道路側」といったピンポイントな場所を表せます。
例えば、九段下駅の1出口を表す3つの単語(3ワードアドレス)は「くみこむ・しまうま・かしだし」です。
what3wordsの公式ホームページによると、現在は日本語を含む35ヵ国以上の言語に対応しており、今後も対応言語は増える予定だそうです。
日本では、インクリメント・ピー株式会社が提供する地図検索サイトMapFanとコラボして、通常の「3ワードアドレス」のサービスに加えどこか懐かしいRPGゲームをイメージさせる「MapFanクエスト ~まちあわせはぼうけんだ~」というサービスを提供しています。
どんな場面で役立つか
what3wordsは、自動車や物流、eコマース、配車サービス、旅行、緊急サービスといったさまざまな分野で活用されています。現在では1,000を超える企業や政府機関での使用があります。
近年では、特に緊急サービスへの導入が増えているといいます。例えば、被害者が気が動転している状態でも3つの単語であれば住所よりも伝えるのが簡単です。また、河川や山道など、住所が明確でない場所でもwhat3wordsであればより正確な位置情報を伝えられます。英国の警察ではwhat3wordsを救助や救命の現場で積極的に活用しています。
メルセデス・ベンツやタタ・モーターズがwhat3wordsのシステムを搭載した車種を発表していたり、海外のドミノピザではデリバリーにwhat3wordsを活用しています。
日本では、タクシー配車サービスアプリのS.RIDEが同種アプリでは国内で初めてwhat3wordsと提携することを発表しています。
このようにwhat3wordsの実用化はさまざまな分野で着々と進んでいます。
what3wordsは単なる待ち合わせにも便利です。例えば大きなコンサートホールでの待ち合わせや河川でバーベキューをしている時の待ち合わせなど、what3wordsを使えば住所がない場所でも、自分がいる3×3mの場所を正確に伝えることができます。
what3words利便性の向上や社会問題を解決できるサービス
共同代表兼CEOのクリス・シェルドリック氏はウェブメディアの取材に対し、コンサートホールなど施設において、音楽家たちが会場のどこが待ち合わせ場所なのか混乱する様子を見て、このサービスを発想したと言います。
国連の推定によると、世界の約40億人もの人々が住所のないところに住んでます。住所が特定できないと、様々な行政や民間サービスを受けるのが困難な場合があります。また、住所がないということは法の外に(違法に)暮らしている、つまり法律上存在しないことにもなりかねません。
また、地震や洪水などの災害が発生し、道路や建物が崩れてしまうと、既存の住所では特定の位置を識別することは難しくなるでしょう。そして、位置を特定できないと、救助活動も難しくなります。
日常でも、最終的に目的の相手と出会うためには、電話をかけたりする必要があります。
このような既存の住所では解決できなかった課題を解決するためのソリューションとしてwhat3wordsは開発されました。日々の生活の利便性を高めることに加え、住所がない場所においても信頼性の高い位置情報を示すことで多くの社会問題を解決します。
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what3wordsを使用する上でのメリット
ここまで、what3wordsの仕組みと活用場面、解決する課題について述べてきました。では、what3wordsを利用するメリットとは何でしょうか。3つの点を紹介していきます。
メリット1. 住所を正確に伝達でき、運輸・移動を効率化できる
what3wordsで使用される1区画の大きさは3x3mとなっており、住所よりピンポイントな位置情報を伝えることが可能です。これにより「自動車・配車サービス・ナビゲーション」「物流・eコマース」「ドローン配達」などの分野で効率化が期待できるといいます。
実際にロンドンで宅配業務における検証を行っています。2社の宅配業者に20個の荷物を預け、一方には既存の住所を使ってもらい、もう一方には3ワードアドレスを使ってもらったところ、3ワードアドレスを使用した業者の方が、宅配にかかる時間を30%削減できたといいます。また、3ワードアドレスは永久固定されるため、アップデートが不要な点も運送業などにとっては利用しやすく安心です。
メリット2. 音声入力に適している
what3wordsは、3つの単語を口にするだけで詳細な目的地を設定できます。一般的に住所は通り名と番地で指定することが多いですが、同じ都市内でも同じ路地が複数存在するケースがあります。例えば、ロンドンにはChurch Road(チャーチ通り)が14も存在します。
しかし、3ワードレスを使えば同じ通り名に惑わされることなく、正確な目的地に到着することができます。また、what3wordsは既存の住所を全て読み上げるよりも簡単で使いやすいため、ユーザーエクスピリエンスを向上させます。緊急時や車の運転中にも位置情報を正確に伝える・入力することができると考えられるでしょう。
what3wordsの公式サイトによると、3ワードアドレスは従来の住所より25%速く音声入力でき、what3words音声認識はアドレス認識度を135%向上させたといいます。what3wordsにSony Innovation Fundが出資した理由は、「正確な位置情報を音声で入力する」という大きな課題を解決したことにあるそうです。
メリット3. システムだけでなく、導入方法もシンプル
企業や行政機関はwhat3wordsのtoBサービスを利用すれば、わずか数行のコーディングを加えるだけで自社のアプリや公式サイトにその機能を取り込むことができます。個人では、無料アプリをダウンロードすれば、誰でも3ワードアドレスの地図を使うことができます。
現在では、業務にwhat3wordsの3ワードアドレスを活用している企業から使用料を得てるそうですが、自然保護や人命救助などの用途で使用する団体には、人道的見地から無料でサービスを提供しているといいます。
また、what3wordsの提供する3ワードアドレスの露出を増やしてより多くの人に認知してもらう目的で、ホテルや企業が所在地を表記し、宣伝する用途では無料にしているそうです。
what3wordsを使用する上でのデメリット
ここでは、what3wordsを使用する上でのデメリットについて見ていきます。
デメリット1. 設定言語が違えば、同じ場所を表す単語が違う
英語や日本語だけでなく、現時点で35ヵ国以上の言語に対応しています。新たな言語に対応する際は、単に翻訳するのではなく、それぞれの言語で全く新しい3つの単語を割り振っています。
例えば、上記で紹介した九段下駅の1出口を表す日本語の3つの単語は「くみこむ・しまうま・かしだし」ですが、英語では「narrow・pizzas・purest(狭い・ピザ・最も純粋な)」と表示されます。
このように使用言語が違えば、同じ場所を表す単語が違います。そのため、外国人への位置情報の伝達などには注意が必要です。
デメリット2. 現状では、高層ビルやマンションの多い大都市には不向き
現在のwhat3wordsが提供するサービスは、2Dの位置情報を使用しています。そのため、高層ビルやマンションの多い大都市には不向きだと言えます。現在は、階数を示すためには3ワードアドレスに加え、階数も記載する必要があります。
今後、Uber Eatsの配達やドローンでの配達が増えることを想定すると、階数などの3Dの情報を組み込めるかが課題になりそうです。
what3wordsの共同代表であるシェルドリック氏は「長期的には3D化も視野にある」とコメントしているため、3D化の実現にも期待が寄せられています。
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what3wordsは従来の住所システムのあらゆる課題を解決する画期的なシステム
デメリットもありますが、それを考慮してもメリットは多いといえます。訪日外国人にとっては不慣れな日本の住所よりも3ワードで詳細な場所を指定てきるwhat3wordsは簡単で便利です。飲食店やホテル、旅館など旅行者が多く訪れる場所では、店舗情報に3ワードアドレスを追加することで、簡単に見つけてもらえやすくなります。
また、3ワードアドレスの単語の組み合わせはランダムですが、ストーリーが思い浮かべられるようなものもあり、面白さとともに記憶しやすい面もあるでしょう。上記に紹介している九段下駅の1出口を表す日本語の3つの単語「くみこむ・しまうま・かしだし」は、日本語話者であれば組み込むシマウマの貸し出し…と考えられ笑いを誘われるかもしれません。
既存の住所では示すことのできなかった詳細な位置情報を伝えられるwhat3wordsは、これから様々な分野で目にする機会が増えそうです。
<参照>
CNET Japan:世界中のどんな場所でも“3つの単語”で指定できる「what3words」--CMOがビジョン語る -
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