熊本の空の玄関口「熊本空港(阿蘇くまもと空港)」は2020年4月の完全民営化に向けて、インバウンド施策の強化に積極的です。2018年に訪日外国人宿泊数が延べ100万人を突破しましたが、九州・沖縄エリアの中では第4位と、同エリアのライバルに差をつけられています。熊本空港の改善の余地はまだありそうです。
熊本空港の新しいインバウンド施策を九州エリアの事情と絡めて解説します。大人気のゆるキャラ「くまモン」や眠っている観光資源を活かすポイントはどこにあるのでしょうか。
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熊本県のインバウンド事情:熊本城も被災した2016年の大地震から復興を遂げる
熊本の2018年の訪日外国人訪問者数は60万2,159人で、全国18位です。観光庁「宿泊旅行統計調査(平成30年・年間値(確定値))」のデータによると、熊本の訪日外国人宿泊数は延べ1,013,020人の全国17位と、いずれも全国では平均的なインバウンド事情となっています。また2016年の熊本地震により、重要文化財に指定されている熊本城が被災し、観光へのダメージもありました。
現在は熊本城の再建が進み、訪日外国人観光客を受け入れる体制は整ってきましたが、さらなる復興のアピールや熊本の認知度向上が求められます。
訪日外国人の割合は台湾が31.49%、次いで韓国が26.87%、香港が18.31%、中国が14.84%と、東アジア諸国が約9割を占めています。
現在の熊本空港の国際線4路線はいずれも、韓国、台湾、香港と東アジア諸国であり、直行便がある圏内からの観光客が多い傾向です。
ウィークポイントは?
熊本のインバウンド関連数値は全国的には平均値ですが、宿泊日数と消費単価は全国の順位では40位台まで落ち込んでいて、課題となっています。国内外でも大人気のゆるキャラ「くまモン」ですが、主要な東アジア諸国からの観光客に対して「熊本」の認知度向上にまだ上手くつながっていないようです。
同じ九州・沖縄エリアの外国人宿泊数では、沖縄の620万人、福岡の336万人、大分の144万人に次いでの101万人で第4位と差をつけられています。
それぞれの観光地に目を向けてみると、沖縄は特定免税点制度が施行されており、東アジア諸国からの観光客に、”爆買い”ができて豊富なレジャーを楽しめる旅行先として人気です。大都市の福岡は東アジア諸国以外からの訪日外国人も多く、韓国の釜山からフェリーも就航しているため、全国5位の訪問率・訪問数を誇っています。
大分は宿泊日数と消費単価は熊本よりも下がりますが、温泉の知名度の高さや隣り合う福岡から入国する外国人観光客の存在という強みがあります。
また、熊本への重要な玄関口である熊本空港の国際線は、4路線のうち2路線(韓国仁川線・大邱線)が2020年2月現在運休中で、実質香港と台湾の2路線しかありません。
海外人気の高いくまモンの存在や、阿蘇のダイナミックな自然など、観光に効果的なコンテンツは持っていますが、活かしきれていない印象です。新しく変わる熊本空港の施策やくまモンを効果的に活用した情報発信に期待がかかります。
熊本県のインバウンド需要
訪日外国人訪問率や訪問数、インバウンド宿泊人泊数など中央値を越える数値で、インバウンド需要があるといえる熊本県。2016年は熊本地震の影響、風評被害によりインバウンド、国内旅行含めて観光業に大きなダメージを与えましたが、数値を通してみればインバウンド需要はあると言えます。
熊本県のインバウンド誘致3事例を紹介|効果的なPRの方法と戦略
熊本で最大震度7の大型地震が発生してから3年、熊本県のシンボルである熊本城全体の復元作業は約20年かかるとも言われており、今後も復興には時間を要するでしょう。このような大災害が起こってもなお、自然豊かで魅力的な熊本県はインバウンド需要が高まる可能性があります。実際に熊本県では魅力を発信するために、公式サイトやパンフレットの多言語対応のほか、ユニークなPR動画を作成しています。この記事では、熊本県のインバウンド状況やインバウンド対策の事例について、またくまモンを利用したPR動画などを紹介しま...
新しい熊本空港:地方空港トップ目指す
熊本空港は2020年4月にコンソーシアム(企業連合)により完全民営化されます。民営化に伴って大幅な改革を進めて地方空港トップを目指し、アジアを中心とする訪日外国人観光客にアプローチする計画です。現在、国際線は4路線(2路線は運休)と、地方空港としても少ない印象ですが、新しい熊本空港は2027年度に11路線、2051年度には17路線までへと拡大する目標を掲げています。航空会社の誘致を勝ち取るために、現在の国内線ターミナルを建て替えて、2023年春に併用開始予定の国内線・国際線一体型のターミナルビルを建設します。
地方空港では観光客に向けた旅行前後の大事なキャッシュポイントである、飲食やお土産店舗が充実しておらず、顧客の満足度も低いところがありました。これに対して新しい熊本空港では、保安検査通過後の制限エリアの店舗面積を計2,500平方メートルと、現状の約50倍にして対策に取り組みます。有効的な店舗を誘致できれば、魅力的な地方空港として目指す姿に近付けるでしょう。
そのほかにも、空港から各観光地へのアクセス改善の取り組みとして、県内外へ向かうバス路線は現状の11路線から23路線に増やし、JR豊肥線と空港を結ぶ予定の「空港アクセス鉄道」の計画を発表しました。市内中心部から熊本空港までは1時間以上掛かり、アクセスの悪さはインバウンド関連数値に響いていると思われるため、期待がかかります。
熊本県がインバウンドに訴求できる観光資源
熊本は自然や文化遺産、テーマパークなど幅広いジャンルの観光資源があります。県内の観光地を6つのエリアに分けると、県北、熊本市、天草、阿蘇、県中、県南となります。空港から各観光地までのアクセス問題は、新しい熊本空港の計画によって今後改善され、より遠くまで足を伸ばす観光客も増えるでしょう。
また、熊本地震による被害から復興中の熊本城は「観光復興ツーリズム」と称して、復興の過程自体をポジティブな観光に取り組もうとする動きがあり、復旧工事や崩落した石垣を見学するツアーなどが行われています。
熊本市内には路面電車が運行されていたり、市内の水道水原がすべて地下水でまかなわれていたりなど、街全体で見どころが多く、プロモーションの余地は残されていそうです。
天草エリアの「天草の崎津集落」は2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺跡」のひとつとして、世界遺産に登録されています。キリスト教徒をターゲットにした巡礼ツアーやインバウンドへの案内の強化によって、東アジア諸国以外の外国人観光客にアプローチできると考えられます。
買い物による消費額を増やす以外の施策としては、世界最大級のカルデラを有する活火山の阿蘇山一帯で自然を楽しむ「コト体験」など、観光客の五感を刺激するそのほかのレジャー、グルメ、温泉などに誘導できます。モデルコースの設定や初心者でも始めやすいトレッキングの案内など、阿蘇エリアの観光資源の開拓は有効です。
まとめ
熊本には伝統的文化と自然が残る魅力溢れる観光資源があります。しかし、現状はアクセスの悪さや認知度の向上が進まない問題があります。
くまモンの人気を持ってしても、インバウンドへの対策としては充分ではないようです。しかし、完全民営化される新しい熊本空港の取り組みによって、アクセスの問題は改善されていくはずです。
アクセス問題の改善と、くまモンの魅力を活かしたプロモーションなどによって、熊本の観光資源の認知度向上につなげることができます。さらに多言語対応や観光ルートの作成など、引き続きインバウンド誘致の細かい施策を続けていくことが重要となってくるでしょう。
<参照>
日本経済新聞:熊本空港・八代港 外国人誘致へ魅力ある「港」に
【インバウンド情報まとめ 2024年11月後編】中国、タイの2025年祝日発表 ほか
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