今もなお世界全体を脅かしている新型コロナウイルスの感染状況は、未だ終息の兆しが見えません。
先日発表されたJNTOの調査によると、2020年3月の訪日外客数は約19.4万人と、前年同月の約276万人から93%減少していることがわかりました。4月の訪日外客数はさらに減少が見込まれ、この厳しい状況はまだしばらく続くと思われます。
訪日ラボは、この厳しい状況下を、今まで当たり前と思われていたインバウンド戦略のあり方を見つめ直す時間と捉えています。本記事では、インバウンド需要が「モノ消費」から「コト消費」へと移り変わっているという、インバウンド業界の一般常識ともいえる現状について再考します。
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これまでの日本の「モノ消費」を振り返る
今回はあえて、「欧米豪市場のモノ消費」の秘めたるポテンシャルについて考察します。
昨今の日本政府の方針として、いわゆる「客単価」の高い欧米豪市場に力を入れるために、「コト消費」に関する観光資源を磨き上げていこうという動きがあります。
しかし、欧米豪市場の訪日外国人は本当にモノにお金を使わないのでしょうか。
今回は、欧米豪市場に対する「モノ消費」のアプローチとして何ができるのか、そしてこの試みが日本のインバウンド市場においてどのように寄与するかについて解説します。
コロナショックだけでは説明できない、インバウンドのこれからの課題
中国の「爆買い」ブームに代表される日本の「モノ消費」に対して、日本の各企業はその大きなムーブメントと自社の戦略とをうまく噛み合わせ、結果として訪日外国人旅行消費金額の増加に大きく寄与したのは事実です。一方で、今後もこの増加傾向は続くのでしょうか。
2016年、日本政府は「明日の日本を支える観光ビジョン」を打ち出し、2020年までに訪日外国人旅行者数4,000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円とすることを目標に掲げていました。
まずはこの目標に対して、昨年までの経過を見てみましょう。
JNTOの発表によると、2019年の訪日外客数は約3,188万人、訪日外国人旅行消費額は4兆8,113億円(速報値)であることがわかりました。
訪日外客数の2020年に達成すべき目標への進捗が約80%に対して、訪日外国人旅行消費額の目標対進捗は約60%と、訪日外国人旅行消費額の方が目標との乖離が大きいことがわかります。当然ですが、たくさんの外国人に日本に訪れてもらうことよりも、日本で多くの消費をしてもらうことが本質的な目標であるにもかかわらずです。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大によってインバウンド業界は大きな打撃を受けましたが、もしその打撃がなかったとしても、2020年の訪日外国人旅行消費金額の目標達成は現実的ではありませんでした。ここに、コロナショックのせいにはできない、日本のインバウンドにおける本質的な課題があります。
東アジアのみにフォーカスしていた「モノ消費」戦略
日本の「モノ消費」に対するマーケティングは、主に東アジア市場に向けて取られてきたといっても過言ではありません。中国の「爆買い」に代表される「モノ消費」に対応するために、日本の小売関連企業は中国をはじめ、韓国、台湾、香港といった東アジア市場に向けたプロモーションや受け入れ環境の整備を行ってきました。
そしてもちろん、このような取り組みは一定の成果を上げて来ましたが、今後これだけでは不十分だと考えられます。
海外ブランドの「爆買い」は日本のメリットになるのか
さらに付け加えると、中国人を代表とする「爆買い」ブームの、日本経済への効果は実は限定的だったのではないかということです。
「爆買い」のピーク時、免税売上の上位は海外ブランド品が占めていました。海外ブランドのモノを訪日外国人が購入したとして、本当の意味で日本経済に寄与していると捉えていいのかについては疑問が残ります。
「日本でつくられたモノ」を訪日外国人に購入してもらうことこそが、「モノ消費」の本来の恩恵と呼べるのではないでしょうか。
「コト消費」の限界について
2020年の訪日外国人旅行消費額の目標金額8兆円に対する、約3.2兆円の乖離をどうやって埋めるのかという課題に対して、「コト消費」の金額の増加のみによって解決することは果たして可能なのでしょうか。
「コト消費」の金額を上げるためにはどうしても「時間」が必要です。なぜなら、どんなに高級なホテルの選択肢が充実していたとしても、旅行客が泊まれるのは1日につき1泊だけだからです。
また、素晴らしい料理を提供するレストランがあったとして、料理のグレードを上げることはできるかもしれませんが、1日に何十食も食べられるわけではないでしょう。
このように、「コト消費」は本質的には旅行客の「時間」を消費につなげることとも言い換えられます。
消費活動が購入のみによって完結し、購入数に制約がない「モノ消費」とはこの部分で対照的な性質を持ちます。
だからこそ、「コト消費」に注力するだけでは訪日外国人旅行消費額の目標達成には不十分といえるでしょう。「モノ消費」を過去のトレンドとみなすのではなく、新しい観点から「モノ消費」の可能性について深く考えていかなくてはならないといえます。
今後求められる「モノ消費」への再アプローチとは
冒頭でも述べましたが、
- 訪日外国人旅行消費金額を今よりも(大幅に)増やすために、一人当たり旅行消費金額の高い欧米豪市場に注目する。
- 欧米豪市場の消費の多くは「コト消費」が占めている。したがって、日本の「コト消費」を磨いていかなければならない。
というのが現在の日本のインバウンド業界の潮流です。
確かにそれも正しいのですが、「欧米豪市場のモノ消費」にも向き合う価値があるのではないでしょうか。
つまり、「外国のモノを訪日外国人が買っても、日本のメリットは限定的」なのであれば、日本で生産したモノを訪日外国人に(特に、滞在期間が長く旅行に多くのお金をかけてくれる欧米人や、富裕層といったセグメントに向けて)購入してもらうにはどうすればよいか?について真剣に考えるべきではないかということです。
これまでの東アジア市場を対象としたものとは別に、欧米豪市場や富裕層へ「モノ消費」の需要を喚起するようなアプローチとはどんなことが考えられるでしょうか?
それには、モノに込められた日本の文化や伝統といった「ストーリー」を伝えることが大切だと考えています。次の項目で詳しく解説します。
ストーリーのある「モノ」なら欧米人も買う
2018年に特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)が実施した「クールジャパンの再生産のための外国人意識調査」にて、日本に興味がある・日本が好きな外国人に対してアンケートが実施されました。
その結果、「日本に興味を持ったきっかけは何ですか?」という設問に対して、欧州と北米の外国人は「歴史」をきっかけと回答している人の割合が、アジアと比較して多くを占めていることがわかりました。また、「伝統文化」「伝統工芸品」「日本独自の精神文化」についても同様の傾向が見られました。
こうした傾向を踏まえると、欧米豪市場の訪日外国人の「モノ消費」需要を消費につなげるためには、モノに込められた日本の文化や伝統、歴史的な価値から訴求していくことは有効といえるかもしれません。
実際に、南部鉄器や日本刀は外国人にとても人気を博している商品です。その理由には、商品の優れた品質や美しい見た目に魅力を感じただけではなく、背景にある日本の歴史と伝統といった「ストーリー」が訪日外国人の心をつかんだことにあるのではないかと感じています。
そのほか、旅行体験・オプショナルツアーのオンライン予約サービスを提供するVoyaginの旅行商品に「刀鍛冶体験」というものがあります。
このサービスでは刀職人の指導のもと、1日かけて旅行者自身で刀を鍛える体験ができます。そして体験が終わったのちには、自身が鍛えた小刀を持ち帰ることもできます。料金は決して安くはなく、多くの時間を必要とするものにもかかわらず、毎月50人前後の訪日外国人から予約が入っています。
こうした事例の他にも、日本酒の酒蔵の見学や醤油の工場見学といったツアーも欧米豪からの訪日外国人に人気を博しています。日本の「モノ消費」を欧米豪市場に訴求する上では、その商品が作られる工程を見学できるような環境づくりも有効に働くと考えられます。
また、これも一例ですが、とあるギリシャ系のジュエリーブランドの社長が、日本滞在中に有田焼に出会い、その商品が持つ背景に惹きつけられ、10万円以上する逸品をその場で複数購入したという話もあります。
一般的に富裕層とされる方々は、モノそれ自体の機能よりも、モノに込められたストーリーに価値を見出すことがあります。このエピソードはその好例といえるでしょう。
伝統工芸品と欧米豪市場の親和性
欧米豪市場の訪日外国人は、「せっかく遠い日本に来たのであれば」ということで長く日本に滞在する傾向にあり、そしてより多くの金額を日本旅行に費やす傾向にあります。
その一方で、往々にして日本の伝統工芸品も高級品であることが多いのではないでしょうか。だからこそ、日本旅行のために多くの金額を使ってくれる欧米豪からの訪日外国人に対するアプローチとして、日本の歴史や伝統が込められたモノをストーリーと共に訴求する価値は高いといえます。
ここまでインバウンドの観点から解説してきましたが、日本国内に目を移すと、日本の伝統工芸品づくりに携わる業界はなかなか安定した買い手が確保できないといった問題から、衰退の危機にあるといいます。
このことは日本の伝統文化の喪失につながるばかりでなく、これからの日本のインバウンド業界の更なる成長、ひいては日本経済の未来を展望する上でも非常に由々しき問題といえます。
今後のインバウンド業界の発展と伝統文化の保護という観点においても、「モノ消費」を違う角度の視点から捉え直すことの意義はあるのではないでしょうか。
まとめ
日本のこれからのインバウンド業界をさらに発展させるために、「コト消費」における観光資源を磨き上げることはもちろん重要です。
しかし、今まで注目されることのなかった「欧米豪市場のモノ消費」については、まだまだコンテンツの拡充が進んでいないといえます。
ここまで述べてきた通り、「モノ消費」は東アジア市場にのみ当てはめられるのではなく、ストーリーとともに訴える「モノ消費」であれば欧米豪市場にも勝負ができると考えられます。
こうした新しい「モノ消費」に関するコンテンツの拡充が、訪日旅行消費金額の更なる増大に大きく寄与するのではないしょうか。
欧米豪市場への「モノ消費」戦略をはじめるにあたって、まずは欧米豪からの訪日外国人のニーズや消費動向を正しく理解した上で、どのようにアプローチしていくかを検討する必要があるでしょう。
アプローチをはじめる方法については企業の規模や状況に合わせた戦略が必要です。「訪日ラボ」までお気軽にご相談ください。
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