「フードツーリズム」とは、ある地域ならではの食事や食文化を楽しむことを目的にした旅のことを指し、欧米で広く普及していますが、日本でも浸透してきています。
近年、日本の食文化の多様性や美食は欧米を中心に海外から注目を集め、外国人観光客の訪日目的のひとつにもなっているようです。
また1970年代ごろから定期的に「B級グルメ」「ご当地グルメ」などに代表されるブームを起こしているフードツーリズムは、訪日観光客の誘致だけではなく、地方誘致の戦略としても活用されています。
本記事では、フードツーリズムの概要や、食をテーマにした観光事業の例、そして地域振興におけるフードツーリズムの成功事例を紹介します。
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フードツーリズムの概要
欧米を中心に浸透している「フードツーリズム」とは、訪れた土地ならではの食事や食文化を楽しむことを目的にした旅のあり方です。
以下では、フードツーリズムの概要や、日本におけるフードツーリズムの歴史、地方誘致におけるフードツーリズムの可能性を紹介します。
フードツーリズムとは
日本フードツーリズム協会によると、フードツーリズムは「地域ならではの食・食文化をその地域(土地)で楽しむことを目的とした旅」と定義されています。
旅行先の食や食文化を味わうことに楽しみを見出す旅の総称であるフードツーリズムは、食べ歩きや美食ツアーなど、食事の格式を問わず食に関わる旅全般のことを指します。特に欧米では広く普及しています。
日本フードツーリズム協会では、観光関連事業者や地方自治体関連者などを対象に「フードツーリズムマイスター養成講座」と呼ばれる資格講座も運営しており、フードツーリズムの発展をサポートしています。
日本のフードツーリズムの変遷
国内における初めてのフードツーリズムの流行は、1970年代〜1980年代でした。その後1990年代〜2000年代にかけて第2期、2010年以降に第3期目となるブームが訪れ、それぞれの期間で異なる特徴が見られます。
第1期となる1970年代〜1980年代では、旅行代理店などが取りまとめるパッケージツアーが主流で、高級グルメをテーマにした旅行が人気を集めました。
第2期の1990年代〜2000年代では福島県喜多方市で生まれたご当地ラーメン「喜多方ラーメン」などに代表される「ご当地グルメ」が注目され、地域の飲食店や食品関連事業者が主導するフードツーリズムが展開されました。
リーマンショック後に訪れた第3期目のフードツーリズムブームでは、特に「B級グルメ」と呼ばれる、低い価格設定と地域ならではの味の両方を兼ね備えた食を味わうツーリズムの需要が高まりました。
また、食を売ることだけでなく、地域住民が一体となって体験型グルメイベントを開催するなど、食文化を通して「地域」がアピールされるようになった点も第3期の特徴のひとつです。
地域振興におけるフードツーリズムの可能性
人口が減り、産業が活気を失いかけた地域を経済的に建て直す「地域振興」の戦略としても、フードツーリズムは有効な手段といえます。
宿泊施設や飲食店との連携が求められるフードツーリズムには、観光産業を通じた経済の立て直し効果のほか、事業推進を通じて地域コミュニティの構築を達成するといった効果が期待されています。
さらに、地域の特色を反映しやすいフードツーリズムは、地域そのものが持つブランド力強化にもつながり、観光客の誘致だけでなく、その地域への定住者の誘致に寄与することも期待されます。
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フードツーリズムの3つの分類
フードツーリズムには「食の観光事業」「食によるまちづくり」「美食エンターテイメント」これら3つの分類があるとされています。
以下では、フードツーリズムにおける3つの分類について紹介します。
食の観光事業
フードツーリズムの3つの分類のなかで、観光価値が高いグループが「食の観光事業」にあたります。下記の表の右側にある「A群」に食の観光事業の例が含まれています。
上記の「フード・ツーリズム概念図」を参照すると、食の観光事業には名物料理、温泉旅館などが含まれていることが分かります。
「食の観光事業」群では、観光的な付加価値の要素を中心に、美食要素も兼ね備えたツーリズムが属していることが特徴です。
食によるまちづくり
「フード・ツーリズム概念図」の上部に位置するB群は、「食によるまちづくり」と呼ばれるフードツーリズムの分類で、たとえば地産地消のレストランや、地域の屋台、ご当地グルメなどがこのグループに含まれます。
食によるまちづくり群は、フードツーリズムの中でも観光の付加価値が低いとされています。しかしこの分類では「食の観光事業」「美食エンターテインメント」といった他のフードツーリズムに比べ、地域で日常的に親しまれている食を提供していることが特徴です。
地域が持つブランド力とかけ合わせるなど、展開方法を工夫することで観光の付加価値も高められる効果が見込まれています。
美食エンターテインメント
「美食エンターテインメント」は、リゾートホテルやオーベルジュなどで展開されるフードツーリズムのあり方を指し、「フード・ツーリズム概念図」ではC群にあたります。
他の分類に比べると美味の付加価値が高く、日常の食事より高級志向の食事が提供される傾向にあります。ミシュラン・レストランやフードフェスティバルなどもこの群に含まれます。
観光の付加価値も高いとされる群である一方、顧客が食に対して持つ期待値が高いという特徴もあり、サービスや味の満足度が欠けると価値を損いかねないというリスクもあります。
日本のフードツーリズムの事例
この項目では、フードツーリズムの事例を紹介します。
日間賀島(愛知県南知多町)の事例:タコとフグによるフードツーリズム
愛知県南知多町(みなみちたちょう)にある離島・日間賀島(ひまかじま)では、特産品であるタコとフグを活用したフードツーリズムを展開しています。
日間賀島に、盛んに観光客が訪れるようになったのは平成以降で、2018年には年に23.4万人が島を訪れています。
島がフードツーリズムを取り入れたのは1980年代で、旅館経営者の一人が過疎化の進む島に観光客を呼ぶため、観光資源としてタコの活用を考案しました。実際にタコを使った食のPR活動を実施し、観光客の誘致に成功しました。
しかし、依然としてタコのシーズン外には閑散期が続くという課題があり、その解決策として同じく水揚げ量の多かったトラフグが注目されました。そして、タコとあわせてフグも活用し、PRを実施したことで、年間を通して観光客が訪れるようになりました。
また、日間賀島と名古屋鉄道が協力して旅行商品の開発や宣伝を行ったことは、島のPRが集客効果を発揮した最大の要因だとされています。
富士宮(静岡県)の事例:焼きそばによるフードツーリズム
静岡県にある富士宮(ふじのみや)は、B級グルメの「富士宮やきそば」を利用したフードツーリズムで注目を集めました。
富士宮は、富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)の門前町でもあり、周囲には白糸の滝や朝霧高原などがある都市です。
以前は観光都市として栄えていたものの、フードツーリズムを取り入れるまで町の市街地は衰退しつつある状況でした。
富士宮やきそばの存在が地域で注目されるようになったのは1999年ごろのことで、中心市街の活性化計画を策定するために集められたワークショップの参加者が「富士宮やきそば学会」を設立し、富士宮やきそばの研究を実施しました。
設立当初より「やきそば学会」「やきそば G 麺」などの独特のネーミングがメディアやマスコミに取り上げられ、富士宮やきそばの認知度が向上する結果につながりました。
にし阿波地域(徳島県)の事例:農泊×食文化を海外向けに発信
徳島県にあるにし阿波地域は、徳島県の北西部に位置する美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし町の4つを主なエリアとする観光圏域です。
にし阿波地域は「SAVOR JAPAN(農泊 食文化海外発信地域)」と呼ばれる農林水産省のインバウンド誘致制度に認定されている地域で、民宿や料理店などが共同で運営する「にし阿波ガストロノミーツーリズム」と呼ばれるフードツーリズムの提供を通し、特にインバウンド観光客の誘致に取り組んでいます。
観光客はにし阿波地域で郷土料理である「そば米雑炊」や、サトイモの味噌田楽の「でこまわし」、石の上であゆや野菜を焼いた料理「ひらら焼き」などの他、地域ならではの農村風景や農村文化を楽しめます。
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日本ならではのフードツーリズムで、インバウンド誘客やまちおこしを
フードツーリズムは、旅行先の土地に固有の食や、食文化を楽しむことを目的とした旅です。
日本では1970年代からフードツーリズムの存在が注目されはじめ、「美食ツアー」「ご当地グルメ」「B級グルメ」などさまざまな形での地域と食の楽しみ方が提案されてきました。
地域の文化と食の両方をテーマとするフードツーリズムは地域振興への効果も期待されており、地方における観光客の誘致や、経済、ブランド力の再興をうながすきっかけとして多くの都道府県で取り入れられています。
日本はいま観光先進国を目指して、外国から訪れる観光客の誘致に力を注いでいます。今後、「日本全体における日本食」としても「地域ごとの食文化」としても両面からインバウンドにアピールできるフードツーリズムはますます注目されていくことでしょう。
ガストロノミーツーリズムとは?食×旅の新しい旅行の形とインバウンド需要のトレンド
訪日...
<参考>
大阪観光大学観光学研究所報『観光&ツーリズム』第15号:フード・ツーリズムについての考察
農林水産省食料産業局:日本食・食文化によるインバウンド誘致:SAVOR JAPAN
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