あの世界遺産「熊野古道」の宿は今...GoToトラベルの光と影:昨年超える日本人客も、全国停止で再び危機に

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7月22日に政府による観光支援策GoToトラベル事業が始まって、約5ヶ月が経過しました。GoToトラベル事業によって国内観光の需要は刺激され、前年なみの盛り上がりを見せた観光地もありました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大第3波などの影響を受けて2021年1月11日まで全国で利用が一時停止となっています。

国内の観光事業者にとっては少なからず好影響を与えたGoToトラベル事業でしたが、年末年始の書き入れ時ともいえるタイミングで状況は悪化し、このまま2020年も暮れようとしています。

今回は、コロナ前である2019年までのインバウンド業界で特に活況を迎えていた「熊野古道」の現状について、直接現地の宿泊事業者にインタビューしました。

訪日外国人に非常に人気のあった熊野古道は今どのような状況なのでしょうか。GoToトラベル事業を実際に活用する事業者側の生の声や、観光事業者としての本音を紹介します。

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熊野古道とは

熊野古道とは正式には「紀伊山地の霊場と参詣道」といい、京都の城南宮から和歌山の熊野三山(熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社)まで続く全長約800kmに渡る参詣道です。

その参詣道は紀伊半島全体に及び、古くから神が宿る霊場として信仰され、 古来から中世にかけては後白河上皇を始め多くの参詣者が歩いた山道です。

この熊野古道は2004年に世界遺産に登録されたことをきっかけに、観光客が増加しはじめます。また、同じく世界遺産の道である“サンティアゴ・デ・コンポステーラ”と共同でプロモーションを実施しており、コロナ禍以前はスペインやフランスからの旅行者も多く訪れていました。

熊野古道(発心門王子~熊野本宮大社)
▲熊野古道(発心門王子~熊野本宮大社)

【海外の反応】神社をつなぐ熊野古道が外国人観光客を惹きつけた魅力とPR手法とは

和歌山県の「熊野三山」と称される神社、熊野速玉大社、熊野那智大社、熊野本宮大社を目指す参詣道、「熊野古道」が外国人観光客から注目を集めています。人気の理由は、

熊野古道の現状

昨年はバックパックを背負った外国人たちが大勢歩いていた山の参詣道は、今は人影もまばらです。

観光庁によると、2020年度11月の訪日外国人客数は56,700人で、前年同月の2,441,274人に比べると-97.7%と激減しています。熊野本宮大社のある和歌山県田辺市本宮町の場合、2019年9月の訪日外国人客数は2,510人でしたが、2020年はわずか34人だったといいます。

世界遺産『つぼ湯』を有する湯の峰温泉で民宿を営む女将たちも、2019年は「ずっとほぼ満室が続いている」「今年ほど忙しい年はない」と口をそろえていましたが、2020年は一か月に予約が一件だけだったという声もあるほど、顕著に客足は減っています。

宿泊事業者の声は

コロナ禍の打撃を受けた熊野古道沿いの宿泊施設は今どうなっているのでしょうか。主に7月22日から始まったGoToトラベル事業について、現地の宿泊施設のマネージャーの方から現場の声を聞いてきました。

【1泊1名3,500円~ゲストハウス(素泊まり宿)の場合】

熊野古道沿いの温泉地に建つゲストハウスのマネージャーYさんにお話を伺いました。

_7月22日にGoToトラベル事業が開始されましたが、その時の宿の状況はどうでしたか?

もともと予約が入っていた7月の連休にGoToが重なったことで、休館(4/15~5/31)明けの久々の忙しさとなり、現場は混乱してました。

宿側の私たちも、泊まるお客様たちも誰もがGoToについてよくわかっていない状態だったのが正直なところです。GoTo開始当初、お客様に対して発行しなければならなかった宿泊証明書※の公式なフォーマットが発表されたのもGoToが開始した後でした。それまでは自作したものを使用していましたね。

※宿泊後、割引額35%分の還付申請をする為に事務局に提出が必要な証明書(~8/31まで)

熊野本宮大社の旧社地:大斎原(おおゆのはら)を見渡せる見晴らし台
▲熊野本宮大社の旧社地:大斎原(おおゆのはら)を見渡せる見晴らし台

_宿泊客数、客層などで、GoToトラベル事業開始前後で変わったことはありますか?

GoToトラベル事業を経て、お客様の数は確かに「微増」しました。

少しは増えましたが、経営が黒字に向くレベルにはほど遠いのが実情です。そして客層はガラッと変わりましたね。

昨年まではゲストハウスに慣れたバックパッカーの外国人、特にヨーロッパ・北欧系が多かったです。それが緊急事態宣言下で外国人は来れなくなり、GoToトラベル事業開始後はほとんど日本人になりました。

GoToトラベル事業によって国内観光の需要が喚起されたことで、あまりゲストハウスに泊ったことがない新しい層にも来て頂けるようになりました。

_年末年始のGoToトラベル事業停止を受け、現場はどのような状況でしたか?

当初の政府の発表では年末年始の予約を12月24日までにキャンセルして貰わないと、宿に対してキャンセル料が保障されないということだったため、OTA経由で予約してくださったお客様に対して「24日までにキャンセルしてください」というメールを送り、その甲斐あって年末年始のGoTo予約はほとんどキャンセルして頂きました。

年末年始の空き状況ですが、GoToトラベル事業での予約がキャンセルされた後にGoToトラベル事業を利用しない予約が多く入ってきており、 年末年始のGoToトラベル事業の利用停止の発表前まで予約が7割方埋まっていたものが、今の時点で6割まで戻っています。GoToがなくても来る人は来てくれるんだなぁと感じましたね。

_Yさんの思うGoToトラベル事業の良い点と課題に思う点をお聞かせください。

宿側としてはやはり、宿泊者の数が増えたことです。そのほか、今まで常連さんに宿負担で10%くらい割り引いて販売してたいたものを、割り引かなくて良くなったことですね。

お客様としては10%引きよりもGoToの35%割引のほうが大きいですし、宿側としても割り引いた分は国から全額払ってもらうため、宿負担がゼロになりました。

課題点でいうと、変わり続けるルールに現場が混乱してしまったことは否めません。加えて、事業者しかり旅行者しかり、インターネットを使いこなせない人が蚊帳の外になってしまっていると感じます。このあたりの制度づくりは難しそうですが、デジタルネイティブ以外の皆にもっとわかりやすく使いやすい制度であったらよかったんじゃないかなぁとは思います。

_今後のGoToトラベル事業に対して率直な感想をお願いします。

宿側としては、GoToトラベル事業が長く続くに越したことはないと思いますね。

GoToきっかけで一定数お客様が増えたのは事実です。密にならないように対策を取った上で、これからも続いていって欲しいと思っています。

【一泊平均11,000~20,000円 温泉旅館の場合】

和歌山県の有名な温泉地である川湯温泉の近くで温泉旅館(従業員約40名)を経営するオーナー、Nさんにお話を伺いました。

_GoToトラベル事業開始前後で宿泊者数や客層にどのような変化がありましたか?

宿泊客数の前年比でいうと、9月は6割、10月は9割、11月はほぼ10割(去年と同じぐらい)に戻りました。施設内の売店では地域共通クーポンを使ってくださるお客様も多く、売り上げは去年の2倍になりました。

客層に関しては、県内からのお客様が増えましたね。普段旅行というとどうしても県外に行きがちで、県内はあまり行ったことがないというお客様方がたくさん来てくださるようになりました。

川湯温泉。川底から絶えず湧き出す70度以上の源泉に、青く澄んだ熊野川の支流、大塔川が混ざり合い、程良い温泉が出来上がる。
▲川湯温泉。川底から絶えず湧き出す70度以上の源泉に、青く澄んだ熊野川の支流、大塔川が混ざり合い、程良い温泉が出来上がる。

GoToトラベル事業は県内の旅行促進キャンペーンとも併用可能なため、よりお得にお泊り頂けますし。そのお客様が2回目、3回目と足を運んでくださるようになって、ありがたいです。

_年末年始のGoToトラベル事業停止の決定から、どのような影響を受けたでしょうか。

キャンセルは増えました。年末~1月6日までずっと満室だったのが、12月31日は半分、3が日は3割まで既存予約は減りました。4日以降は...目もあてられません。

売上のことを言えば厳しいですが、今後のことを考えると、人の動きが活発になる年末年始にGoToを一旦停止したのはよかったと思っています。

一人でも多くのお客様に来てほしい思いはもちろんありますが、スタッフ皆コロナウイルス感染リスクを恐れながら働いているのも事実。いつもは忙しい年末年始、今年ぐらいはゆっくりしようと思っています。

_GoToトラベル事業の良い点と課題に思う点をお聞かせください。

良い点としては、ほとんど完全にストップしていた旅行需要の回復の起爆剤になったことです。外出自粛で我慢を強いられていた人々に、「(感染防止対策を講じた上で)そろそろ旅行していいよ」という良い合図にはなったと思います。

当施設も4月から約2ヵ月間休館していましたが、7月22日からのGoToがなかったらもう少し休館が延びていたかもしれません。

もう一つのいい点は、GoToをきっかけに新しい客層が来てくれるようになったことですね。国内観光の需要を刺激したことで、これまで訪れることになかった方々も目を向けてくれるきっかけになったのは大きいと思います。今後はこういった新規の顧客にファンになってもらうための工夫が宿側に必要だと思いました。

課題点としては、制度がわかりにくいところですかね。GoToトラベル事業に参画する事業者向けの申し込み手続きや、各種申請方法が煩雑という理由で、GoToトラベル事業に参加しない事業者も少なくありません。

実際に、GoToトラベル事業の開始当初は特に参加事業者が少なかったです。そのため、GoToトラベル事業の恩恵が同じ地域内でも特定の施設に偏ってしまっている現状があります。

取材を終えて

今回、熊野古道の周辺で経営する二つのタイプの異なる宿泊施設から話を聞くことができました。11月の観光庁の発表によると、GoToトラベル事業で最も利用されることの多い宿泊施設の価格帯は「5,000円以上〜10,000円未満」とされていますが、この価格帯による利用率の差は現場レベルでも確かに現れているようです。

しかし、いずれの宿泊施設もGoToトラベル事業の開始によって客足の増加につながったと回答しており、国内観光を喚起する目的で始まったGoToトラベル事業は一定の効果があったと言えます。しかし、二つの宿泊施設の方が口を揃えていうのは、事業者側にとっての制度の複雑さです。

旅行者側にとってはOTAと連携していることもあり、GoToトラベル事業の割引を受けることや、地域共通クーポンを受け取ることは難しくありません。しかし地方を中心に事業者側の高齢化が進んでいる宿泊施設では、インターネットをつかった制度の利用に戸惑う方も多く、サービスが浸透していない点も今回の取材で指摘されています。

政府の支援策が受けられないことによって、貴重な観光資源である歴史ある宿泊施設が姿を消してしまうことにつながってはいけません。とはいうものの、ウィズコロナ時代においては、デジタル化、DX化は避けては通れない要素です。地域の重要な事業者を守るためにも、このあたりは政府の支援方法の見直しを要求するだけでなく、地域の事業者同士の相互のサポートも重要でしょう。

<参考>

・和歌山県:令和2年 主要観光地における夏季の観光客入込状況について

・観光庁:Go To トラベル事業における利用実績等について

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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