スマートツーリズムとは、デジタル技術を活用して、これからの消費者の観光ニーズを満たす観光サービスを提供するツーリズムを指します。このスマートツーリズムによって、観光における地域への集客や滞在の長期化、消費の拡大などの効果が期待されています。
スマートツーリズムは、すでにヨーロッパを中心にではさかんに取り組まれており、日本でもいくつかの機関や自治体が取り組みを始めています。
本記事ではまずスマートツーリズムの定義や効果について解説し、次に国内外の事例を通してスマートツーリズムがどのように実施されているのかを紹介します。
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スマートツーリズムとは?
経済産業省が2020年3月に発表した「スマートリゾートハンドブック」では、スマートツーリズム(なおハンドブック内では同義の「スマートリゾート」を使用)を下記のように定義しています。
デジタル技術を活用し、これからの人々のニーズ(学びや現地での本物体験への追求等)を満たすサービス提供により、地域への誘客拡大、滞在長期化や消費促進、及びそれによる地域の各主体(住民、行政組織や事業者、地域環境・文化等)の持続的な価値獲得や創出を目指す。
スマートツーリズムと聞いてまず連想されるのはVRやARを使った観光の仮想体験ですが、それだけではありません。観光施設のリアルタイムの混雑状況、天候などの情報に基づいた観光ルートやスポットの情報提供、災害時の避難支援サービスなども同様にスマートツーリズムに含まれます。
スマートツーリズムが登場するまで
観光関連産業におけるデジタル化の波は、1950年代に航空券のオンライン予約システムが開始されたことに端を発し、その後ホテルやアクティビティの予約、観光地案内など、さまざまな分野でのオンライン化が進みました。
時代が進むにつれ情報処理技術の精度が上がり、膨大な観光地や観光客のデータをAIで処理し、スマートフォンなどの情報端末を通して観光客に情報やサービスを提供するスマートツーリズムが現れました。
スマートツーリズムで期待できる効果
スマートツーリズムは、観光客の利便性向上だけでなく、観光地のオペレーションの改善や新しい観光価値の創造にもつながります。期待される効果のひとつとして挙げられるのが、オーバーツーリズムの解消です。
交通網やイベントの情報、観光客のGPS情報などのビッグデータを集計・処理し、観光客がスマートフォンなどの端末で、リアルタイムの観光地などの混雑状況を確認できるようにすることで、観光地にキャパシティを超えた観光客が押し寄せることを防ぎます。
また、スマートツーリズムではVRやARを使った仮想体験も可能になり、どこにいても世界中の観光ができます。
たとえば現在のような新型コロナウイルス感染症の流行下で旅行ができない状況でも旅行の仮想体験を提供でき、アフターコロナに向けた訪日旅行の喚起などにも効果が期待できます。
オーバーツーリズムとは?|問題点・対策・取り組み事例を紹介
昨年まで日本の観光業界では
日本国内のスマートツーリズム事例
日本でもすでにスマートツーリズムに積極的に取り組んでいる自治体や政府機関があります。ここでは日本におけるスマートツーリズムの事例を紹介します。
1. 文化庁:日本遺産特設サイトでVR旅行を提供
文化庁は日本遺産ポータルサイトを運営しており、地域の歴史的特色やストーリーとして認定された日本遺産についての情報を提供しています。
この日本遺産ポータルサイトには英語版があり、ウェブサイト内ではVR映像や4K、8Kの高画質映像を配信しています。
文化庁は、これらの映像や、各文化財の歴史や解説などのコンテンツを通して、日本を旅しているような臨場感や文化財の魅力に触れる機会の提供を目指しています。
同ポータルサイトでは実際に日本を旅する際に役立つホテルやグルメ、体験アトラクションなどの情報も発信しています。
2. 沖縄都市モノレール:観光ガイドマップ モノなび沖縄AR
観光ガイドマップ モノなび沖縄ARは、沖縄都市モノレール「ゆいレール」の観光ガイドブック「モノなび沖縄」と一緒に使う、ARの技術を用いたアプリです。
このアプリを立ち上げ、スマートフォンを「モノなび沖縄」の冊子の中の特定の写真にかざすと、ゆいレールからの車窓動画や、現在地から目的施設までのルートを確認できます。これは、従来の紙媒体のガイドブックとデジタル技術を融合させたスマートツーリズムの例といえます。
ガイドブックとアプリ、ウェブサイトは、日本語、英語、韓国語、中国語(簡体字・繁体字)の5か国語に対応しています。
3. 日本政府観光局(JNTO):JAPAN Where tradition meets the future VR
JAPAN Where tradition meets the future VRは、日本政府観光局(JNTO)がヨーロッパ15か国に向けてビジット・ジャパン・キャンペーンの一環として制作した360°VR動画です。「伝統と革新が出会う場所」というコンセプトで、「知られざる日本の魅力」が鮮やかに描かれています。
通常、360°VR動画ではカメラマンや機材が写り込んでしまうためアングルが固定されてしまいやすいところ、特殊な機材と技法が駆使されており、カメラワークに臨場感があります。
動画は公開直後からYouTubeやFacebookを中心に話題となり、YouTubeに公開されているVR映像の再生回数は2021年1月時点で約600万回となっています。
海外のスマートツーリズム事例
日本よりも早い段階から海外ではスマートツーリズムの研究や実際の取り組みが始められていました。ここでは、実際にスマートツーリズムに積極的に取り組んでいる各国の事例を紹介します。
1. EU:The European Capital of Smart Tourism
2019年からEUでは「The European Capital of Smart Tourism(スマートツーリズムにおけるヨーロッパの首都)」を選定しています。これは、EUの都市内にスマートツーリズムの普及を促進するためのコンペティションです。「首都」に選ばれると、主にプロモーションやブランディングなどの面でEUからのサポートを受けられます。
審査では、アクセシビリティ、サスティナビリティ(持続可能性)、デジタル化、文化遺産と創造性の4つのカテゴリーに分けて評価が行われます。
具体的には、都市のバリアフリー化、多言語化、天然資源の保全、デジタル技術を使っての観光体験の向上、地域の遺産や文化資産の保護と活用などです。
2020年にはヨーテボリ(スウェーデン)とマラガ(スペイン)の2都市が選ばれました。
2. ヘルシンキ(フィンランド):バーチャルヘルシンキ
ヘルシンキ(フィンランド)は、リヨン(フランス)とともに初代「The European Capital of Smart Tourism」を受賞しています。
ヘルシンキは特にデジタル化に力を入れており、2019年にはVRスタジオZOANの専門チームと協力して、ヘルシンキを360°バーチャル観光できる「バーチャルヘルシンキ(Virtual Helsinki)」を立ち上げました。
バーチャルヘルシンキでは、現地では普段訪れられないような場所を見学できるほか、さまざまな要因によって現地へ旅行できない人も市内観光を体験できます。
3. コペンハーゲン(デンマーク):観光客向けシティカードアプリ
コペンハーゲンでは、観光の際に美術館や公共交通機関で利用できる「コペンハーゲンカード」というシティカードをデジタル化し、スマートフォンアプリで提供しています。
このアプリでカードを購入するとQRコードが生成され、対象の施設や交通機関でこのQRコードの画面を提示すると、無料で入場または利用できます。
今まで、紙やカードを使ったパスでは、事前予約をしていたとしても空港などの観光案内所に行って手続きが必要でした。
その手続きがアプリで完結できるようになったことで、利用者は到着してすぐに周遊パスのサービスが利用でき、また施設は手続きにかかるコストを削減できるようになりました。
観光地・観光客両者の利便性を向上するスマートツーリズム
新型コロナウイルス感染症流行下で、訪日外国人の行来の減少にともない、多くの観光地が危機的な状況に直面しています。
このような状況下で観光を活性化させる手段として期待されているのがスマートツーリズムです。たとえばVRやARの技術を用いることで、世界に向けて観光地のプロモーションができるほか、「バーチャルヘルシンキ」のように仮想旅行を提供できます。
特にヨーロッパではEU規模でも、また各国においても積極的にスマートツーリズムが推し進められていますが、日本国内でも、VR映像の発信やアプリの活用を通して外国人観光客に向けた観光サービスの提供が行われています。
今後のインバウンド対策、訪日需要の喚起の一環としてスマートツーリズムのさらなる整備を行うことが、アフターコロナの誘客に有効であると考えられます。
<参考>
・YouTube:[360°VR] JAPAN - Where tradition meets the future | JNTO
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