統合型リゾート(IR)とは|有力候補地、カジノ推進の課題

統合型リゾート(IR)とは、Integrated Resortの略称であり、国際会議場施設をはじめとするMICE施設、ホテル、レストラン、ショッピング施設、劇場、映画館、カジノなどが一体となった複合的な観光施設のことを指します。

IRは2014年に安倍政権で成長戦略の目玉とされており、その建設と運営を通じて観光振興や地域活性化に寄与されています。

2016年に「IR推進法」、2017年に「IR整備法」が公布・施行されことにより、IR施設の開業は2020年代半ばに見込まれています。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、当初2021年1月4日~7月30日と予定していたIR誘致を目指す自治体から区域整備計画を受け付ける期間が2021年10月1日〜2022年4月28日に延期されました。

インバウンド業界においても注目されているIRですが、本記事では日本におけるIR推進の現状や海外の成功事例、また期待される経済効果について整理します。

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統合型リゾート(IR)とは

IRはMICE施設やカジノを含む複合型エンターテインメント施設ですが、そのほかにレストランや劇場などさまざまな施設が含まれます。

日本に先立ち、アメリカのラスベガスやシンガポール、中国のマカオなどではすでにIR建設を進めています。

ここではIRの定義や日本政府が推進しようとする「日本型IR」について紹介します。

カジノを含む統合型リゾート:IR実施法案の可決によって進む建設構想

IRとは「Integrated Resort」の頭文字を取った言葉で、IR整備事の推進を統括する日本の内閣に設置された機関「特定複合観光施設区域整備推進本部事務局」によると、「観光振興に寄与する諸施設」 と「カジノ施設」が⼀体となっている施設群のことを指します。

観光振興に寄与する諸施設の中には、MICE(国際会議場や国際展示場)、レストランやショッピングモール、劇場や水族館などのエンターテインメント施設、ホテルなどが含まれています。

これら巨大な施設の設立には莫大な資金が必要ですが、IRにおいてその採算性を担保するのがカジノによる収益です。

日本においてカジノは刑法第185条の「賭博行為」として禁止されてきましたが、2016年にIRの設立を推進する「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(通称「IR推進法」や「カジノ法」)」が公布され、2018年にIR推進法を具体的に進める「特定複合観光施設区域整備法(通称「IR実施法」や「IR整備法」、「カジノ実施法」)」が成立ししたことで、日本におけるIR構想が一層現実味を帯びてきました。

日本での統合型リゾート計画:公共政策としての「日本型IR」

海外の先行事例を参考に、日本政府が提唱する「日本型IR」は、2017年特定複合観光施設区域整備推進本部事務局の「IR推進会議取りまとめ(概要)〜「観光先進国」の実現に向けて〜」では、以下の機能を有すべきとしています。

  • MICE誘致戦略の中核となる機能
  • 多様なエンターテイメントやアクティビティの提供(日本の魅力の「ショーケース」)
  • 日本の旅の「ゲートウェイ」機能
  • 様々なニーズを生み出す宿泊機能

こうした機能を有する日本型IRを整備することによって、2030年に訪日外国人数を6,000万人、旅行消費額を15兆円とする目標を後押しすると期待されています。

日本型IRは今後国内最大3か所で新設される予定がありますが、その設置場所は自治体が実施方針の策定や事業者の選定を行った上で国の認定を受け、決定されることになっています。

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シンガポールの成功事例に見る統合型リゾートの経済効果や影響

世界的に有名なIRの代表例にはラスベガスやマカオなどがありますが、近年その成功ぶりが世界各国から注目を集めている国に、シンガポールがあります。

同国では2010年に2か所のIRを開業しましたが、施設の成功だけではなく、大きな経済効果をもたらしています。

そこでここではシンガポールのケースに見る、IRが与える経済効果や影響について紹介します。

シンガポールの統合型リゾートはどう生まれたのか?

シンガポール政府は、国内への外国人旅行客数と消費額の停滞やアジア近隣諸国の観光産業の発展から危機感を感じ、2005年に「IR開発推進計画」を発表し、IRの導入を決定しました。そして2010年には、シンガポール国内に2つのIR施設が開業しました。

一つは、シンガポール島の南にあるセントーサ島の「リゾート・ワールド・セントーサ」で、ホテル、カジノ施設のほかに水族館やユニバーサル・スタジオを併設しており、メインターゲットを家族連れのファミリー層にしているのが特徴です。

もう一つのIR施設が、チャンギ国際空港より車で約20分の距離にある「マリーナ・ベイ・サンズ」で、こちらはMICEに集うビジネス層をターゲットにしています。

シンガポールのIRの特徴は政府主導である点であり、当初カジノの導入に対して国民から強い反発があったこともあり、カジノには入場制限を設けるなど厳しい規制を設けています。

IR開業後の経済効果:インバウンドの成長と雇用の促進の大きな契機

シンガポール観光庁(STB)の発表によると、IR開業前の2009年において約968万人の外国人来訪客数が順調に増加しており、2019年には約2倍となる1,910万人を記録しています。

また観光収入も年々増えており、2009年において126億シンガポール・ドルだった観光収入は、2019年には277億シンガポール・ドル(約2兆2,500億円)と2倍以上を成長し、過去最高を更新しました。

特に「観光と娯楽(IRを含む)」にかける消費金額が急増しており、その値は2009年には2億シンガポール・ドル(約162億円)でしたが、この10年間で30倍近く拡大し、2019年には59億9,700万シンガポール・ドル(約4,865億円)となっています。

さらにIRの開設は、雇用面と税収面にも良い影響を及ぼしています。

2010年にオープンした2つのIRでは、直接雇用・間接雇用を合わせると約6万人を雇用するといいます。

また、カジノなどギャンプルに係る税収は2018~2019会計年度に27億シンガポール・ドル(約2,189億円)を記録し、財政の改善にも寄与していると考えられます。

日本の統合型リゾートはどこにできる?設立で予想される効果と問題点

冒頭でも触れたように、現在IR施設誘致の立候補地の募集受付は2021年10月まで延期されていますが、すでに立候補予定として名乗りをあげている自治体においては、IR誘致でもたらされる地元経済の活性化に対して期待の声があります。

一方で、主にカジノが開設されることでのギャンブル依存症や治安悪化への不安から住民の間で反対運動も起きています。

ここでは日本初となるIRがどこに設立されるのか、そしてIRが開設されることのメリット、デメリットについて紹介します。

各候補地の誘致への動き:大阪、横浜、和歌山、長崎がすでに立候補表明

2019年9月に行われた赤羽国土交通大臣の会見によると、2019年9月に国交省が調査した際には、北海道、千葉市、東京都、横浜市、名古屋市、大阪府・市、和歌山県、長崎県の合計8地域から「認定申請を予定又は検討している」との回答があったとしています。

もともとIR誘致の申請期間は2021年1月4日~7月30日の予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、新たな申請期間は2021年10月1日から2022年4月28日となりました。

これにより、最終的に2020年代半ばをめどに目指されていたIRの開業が遅れる可能性があると考えられています。

2021年3月時点でIR誘致を表明しているのは、大阪府・市、横浜市、長崎県、和歌山県の4か所です。

大阪府・市では、国内外からの集客力の強化、東アジアにおける情報文化創造発信拠点、大阪をはじめとする関西全体への経済効果の波及をIR開設の3つの目標とし、大阪市のベイエリア夢洲地区でのIR開設を目指しています。

横浜市では、「横浜を世界から選ばれるデスティネーション(目的地)へ」をコンセプトとし、横浜都心臨海部に世界最高水準のIRを実現すると同時に、横浜の魅力と観光資源を活用・創造し、観光・経済に革新をもたらすことを目指します。

長崎県は、「日本の産業革命発祥の地「長崎」からの『観光産業革命』の実現」をコンセプトとして掲げ、地方への新たな人の流れの創出や九州広域周遊観光の促進を構想しています。

和歌山県は、ダイビングなどのマリンレジャーやトレッキングなどのアウトドアスポーツが満喫できることや、訪日外国人からの人気を集める熊野古道など豊富な観光資源を生かして、リゾート型のIR誘致を目指します。

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日本の統合型リゾートで予想される経済効果

大和総研が2017年に発表した「統合型リゾート(IR)開設の経済波及効果(2017年版)」によると、仮に横浜、大阪、北海道にシンガポールと同規模のIRが開設された場合の経済波及効果(※資料では「生産誘発額」と呼称)は、建設段階で約5.1兆円、運営段階では年間約2兆円をもたらすと見込まれています。

大和総研は、推計にあたっての前提条件が変わればこの値も大きく変わる可能性があるとしているため、この数値をそのまま将来のIR建設による経済効果の予想値とすることはできないでしょう。

しかし同調査から、IRが建設されることでこれほどの莫大な経済効果が生まれる可能性があることがわかります。

カジノを巡る賛否の声、地域格差の問題も

大きな経済効果をもたらすIRはカジノ施設としての役割も担うことから、建設に反対する人は少なくありません。

日本世論調査会が2019年12月に行ったIRの国内整備に関する世論調査の結果によると、反対は64%で、賛成の32%を大きく上回るものとなっており、自分の生活圏へのIR整備に反対と回答したのは77%に達しています。

国会でも度々議論の俎上にのぼり、一般市民の中からも不安視する声が多く挙がっているのが、ギャンブル依存症の増加や反社会的勢力の介入、マネーロンダリング(資金洗浄)の懸念、生活環境の悪化といった、いわばギャンブルがこれまでもたらしてきた負の要素に対するものです。

さらに、IR施設が建設されることで、現在の地域格差問題をさらに増幅させる可能性があるとの声も上がっています。

大阪府・市や横浜市などがすでにIR施設建設地への立候補を表明していますが、IR施設がそういった大都市に建設された場合、大都市への経済力集中が加速化することが予想されます。

その結果、大都市と地方部の間にある地域格差がこれまで以上に広がる懸念があります。

観光業では見逃せない統合型リゾート:日本での設立で経済、インバウンド促進

日本の観光業は、近年好調なインバウンド需要などを受けて右肩上がりで推移してきました。

ところが現在はその状況が一変、観光業は新型コロナウイルスの影響をまともに受けている代表的な業界となり、まさに復調のための起爆剤の投入が渇望されている状況です。

IRは観光業やホテル業だけではなく、エンターテインメント業界から飲食業界まで経済効果が波及する業界が多方面に及ぶため、各業界からは早期実現を望む声が高まっています。

その一方で、ギャンブル依存症の問題やIR施設周辺の治安の悪化など、周辺の住民の不安を解消する具体的な提案を国から示されていないということがあります。

いかにこうした負の側面に対する対策を徹底し、温泉や日本食、伝統芸能なども絡ませた日本独自のIRを構築していけるかが、今後の課題として残されています。

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<参照>

・首相官邸:IR推進会議取りまとめ(概要) 〜「観光先進国」の実現に向けて〜

・首相官邸:公共政策としてのIRについて

・国土交通省:赤羽大臣会見要旨

・大和総研:統合型リゾート(IR)開設の経済波及効果 (2017 年版)

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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