在日外国人向け街歩きツアーや海外向けオンライン体験の企画運営をしております、Japan Localizedインバウンドアナリストの宮本です。
未だにオミクロン変異株に関する報道で株式市場は大きく変動しています。また、岸田総理が記者会見で「年末年始の状況を見極めつつ、当面の間、水際対策を延長することとしました。」と述べたように、2022年もインバウンドの復活には厳しい見通しです。
さて今回の記事では年末という事もあり、「株式市場から読み解く2022年のインバウンド業界の動向は?」というテーマで考えていきたいと思います。
前回までの連載
・大手旅行会社2社の株価推移の差から分かる、市場の期待感は(Vol.1)
・「インバウンド銘柄」の正体(Vol.2)
・インバウンド需要を「カテゴライズ」し、株価を比較する(Vol.3)
・オミクロン変異株がインバウンド株に与えた影響(Vol.4)
2022年は「脱・インバウンド依存」と「新たな価値提供」の2つがテーマ
いきなりですが、2022年は「脱・インバウンド依存」と「新たな価値提供」の2つがテーマになると思います。
何故「脱・インバウンド依存」と「新たな価値提供」なのかを考える前に、2021年の簡単な振り返りをしたいと思います。
2021年は東京オリンピックとワクチン接種開始という二大イベントがあり、株式市場には「インバウンドが戻るのではないか?」という期待感がありました。まずは以下の図をご覧ください。

インバウンド銘柄の株価パフォーマンス
上記の図は2020年12月末から2021年6月末までのインバウンド銘柄の株価パフォーマンスです。
図を見てもわかると思いますが、ほとんどの銘柄が赤い棒線のTOPIXのリターン(個別銘柄のパフォーマンスを評価するときに、TOPIXのパフォーマンスを基準にします)を上回っています。
つまり、株式市場はインバウンドの復活を期待していたことが一目瞭然だったかと思います。
しかし、年後半(12月17日時点まで)は全く違う動きとなりました。まず、以下の図をご覧ください。

TOPIXのリターンを上回るのは3銘柄で、残りの銘柄はすべてTOPIXのリターンを下回りました。
オミクロン変異株による水際対策強化で外国人の新規入国が原則停止となり、インバウンド復活の期待感が大きく遠のいたことが伺えるかと思います。
この中で東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランド(銘柄コード:4661)は+23.5%と、株価パフォーマンスが良くなっています。
これは何故か?その理由の中に、2022年の「脱・インバウンド依存」と「新たな価値提供」のヒントが隠れています。
株式市場でオリエンタルランドが評価されている理由
まず、オリエンタルランドが発表している2022年3月期決算の通期業績予想ですが、売上高2,390億円、営業損失-242億円の予想となっております。
これは2020年3月期決算の売上高4,644億円、営業利益968億円と比べても、売上高は約半分、営業利益は赤字となっています。
しかし、オリエンタルランドの株価を見てみると、2019年12月30日の終値は14,880円に対して、2021年12月17日の終値は19,555円です。
売上高が半分、営業赤字なのになぜ株価はコロナ前の水準を上回っているのでしょうか?

これは、オリエンタルランドが「稼ぐ体質」に変化している事を市場が評価をしていることの現れです。
オリエンタルランドはコロナ禍での厳しい経営環境の中、チケット代の値上げをしました。
加えて、制限がある中での体験価値(ディズニーホテルの宿泊ゲストに向けた「アーリーエントリーチケット」のトライアル実施や東京ディズニーランドでのアルコールのテスト販売等)の向上に取り組みました。
その結果、ゲスト1人当たりの売上高は向上しました。
オリエンタルランドの来場者の10%はインバウンドだった
コロナ前、オリエンタルランドの海外ゲスト比率は約10%、つまりインバウンド客が占める売上は約8.7%でした(「インバウンド銘柄」の正体を参照)。オリエンタルランドに限らず、コロナ前はインバウンドで「量を稼ぐ」というのがほとんどの企業が行っていた戦略でした。
なんとしてでもインバウンドを取り込み、量を増やすという流れでした。つまり、「質より量」です。
しかしコロナでそれらがすべて蒸発し、緊急事態宣言下での休園や時短営業、入園人数を制限してのテーマパーク運営を強いられました。
オリエンタルランドはその中で「稼ぐ体質」を構築することに成功し、インバウンドが戻ったときには売上がさらに伸びるのではないか?という市場の評価が株価に反映されていると考えられます。
「脱・インバウンド依存」とは、インバウンド客がいなくなっても稼げる体質になることで、それに加えてインバウンドが戻って来た時にその分売上が増える事を含んだ意味になります。
また、国内顧客の体験価値を高めていくことによってインバウンド客の体験価値にも応用できるため、そのノウハウを常に向上させながらインバウンド復活に向けて準備をしている企業が株式市場から評価されることがわかります。
「脱・インバウンド依存」と「新たな価値提供」を実現した企業が株式市場から評価される
2022年にインバウンドが復活しても2019年の訪日客数までには到底及ばないと思います。なので、「量より質」なのです。2022年は「脱・インバウンド依存」と「新たな価値提供」が出来た企業が株式市場から評価され、加えてインバウンドが復活した時には、株価はさらに評価されると考えられます。
ここまで読んで頂きありがとうございました。良いお年を!
筆者紹介:Japan Localized代表 宮本 大
立命館大学卒。SMBCフレンド証券(現SMBC日興証券)を経てかんぽ生命保険入社。外国債券・為替ポートフォリオマネイジメント、日本株アナリスト兼株式ポートフォリオマネイジメントを担当。
米国College of William & Mary School of Business卒(MBA)。
Japan Localized設立後、訪日観光客向けへ体験ツアーの企画運営、インバウンド市場のリサーチ業務に従事。
Japan Localized 公式サイト
インバウンド対策にお困りですか?
「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!訪日ラボに相談してみる