IRとは、カジノをはじめホテルや文化施設、国際会議場などが集まる大規模な統合型リゾート施設です。
インバウンド向けのコンテンツとしても大きな武器となることが予想されるため、インバウンド関連事業者は誘致の動向を注視しておくべきでしょう。
この記事ではIR誘致の各候補地について、IR施設の規模や現在の方針などをまとめて解説します。
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有力候補自治体
カジノ開業の候補地は、国によって最大3か所と定められており、誘致のために各自治体が準備を進めています。
カジノを含むIR(統合型リゾート)の誘致を希望する自治体は、国に認定申請を行うことができます。
各自治体からの申請を受けて国が計画内容を審査し、IR開業の候補地は2022年中に正式決定される予定です。
大阪
大阪府・市は2019年12月に「大阪IR基本構想」を策定し、民間事業者の公募・選定手続きを開始しました。
2021年9月に事業予定者として、ラスベガスを拠点とする企業「MGM・オリックス コンソーシアム」を正式に選定し、現在は区域整備計画を作成中です。
候補地として選定される場合、当初は万博と同時期に2025年の開業を目指していましたが、国のスケジュール遅延やコロナ禍の影響により、開業は2020年代後半を予定しています。
長崎
長崎県は2021年1月に「九州・長崎特定複合観光施設区域整備実施方針」を策定公表し、民間事業者の公募を開始しました。
人口や雇用の減少、財源不足といった問題を解決するため、長崎県は早期からIR誘致を推進してきました。
誘致に成功すれば、世界遺産や温泉など元々観光資源が豊富な九州全体への集客の相乗効果が期待されるため、九州全体で長崎IRを支援しています。
有力事業者のカジノオーストリアは、最短で2027年度中の開業を提案しており、県と事業者の共同で区域整備計画を作成しています。
和歌山
和歌山県は2020年3月に「和歌山県特定複合観光施設設置運営事業募集要項」を策定公表し、民間事業者の公募を開始しました。
コロナ禍で応募事業者の撤退が相次いだものの、2021年7月にクレアベストグループを選定し、全国初のIR事業者選定となりました。
当初和歌山県は2026年春の開業を目指していましたが、クレアベストはそれより1年半ほど遅らせて2027年秋頃の開業を提案しています。
今回の区域認定申請には参加していない自治体
ここからは、誘致への動きが見られたものの今回の区域認定申請には参加していない候補地を紹介します。
東京都
小池百合子現都知事はIR誘致について「メリット・デメリットの両面について検討する」と慎重な姿勢を見せつつ、2021年度の都予算にIR調査費1,000万円を計上しました。
構想中の都心部再開発計画に参加している事業者からはIR計画提案書も提出されていましたが、2021年7月に新型コロナウイルス対策を優先することを理由に検討作業の休止を発表しました。
候補地のお台場周辺の湾岸エリアには、東京オリンピックの競技場として建設されたものの、今後の利用方法が決まらず赤字が見込まれている施設が複数残されています。
IR建設地として有効活用すれば収益を上げられることから、今後積極的な誘致に乗り出す可能性は高いと考えられます。
愛知県
愛知県では中部国際空港と周辺エリアにおいて、MICE施設を中心とした国際観光都市を実現する「あいち・とこなめスーパーシティ構想」を掲げています。
IRについても事業者から意見を募っていましたが、大村秀章県知事は常滑をIR候補地に推薦しつつも誘致には慎重な姿勢を取っており、コロナ禍の影響もあってIRへの動きは見られていません。
もともと「あいち・とこなめスーパーシティ構想」とIRは別のプロジェクトですが、今後検討作業が進みIR誘致が決定した場合は、IRと連携して実現する可能性は高いと考えられます。
また名古屋市がIR建設地候補として挙げる名古屋港・金城ふ頭周辺では、名古屋国際会議場(ポートメッセなごや)や名古屋港水族館があり、近年ではレゴランドやリニア鉄道博物館もオープンするなど、再開発が進んでいます。
いっぽうナガシマスパーランド周辺もIR施設として整備したい河村市長が、一方的に三重県・桑名市を候補地として指名し、誘致意向のない三重県側から抗議を受けました。
さらに2020年8月からは名古屋国際会議場の改修工事が優先して開始され、IR計画は難航しています。
北海道
北海道では複数地域がIR誘致に名乗りを上げ、各候補地合同で「北海道IR推進連携協議会」を発足させるなど積極的な活動が行われていました。
いっぽう鈴木直道北海道知事は、環境アセスメント(事業の実施が環境に及ぼす影響を総合的に評価する制度)の結果から、誘致には慎重な姿勢を見せていました。
2021年3月、鈴木知事はコロナ禍における事業者の経営状況悪化を懸念し誘致申請を正式に見送ることを発表しました。
しかし「IRに挑戦するという考えに変わりはない」として、7年後の2020年代後半の誘致区域数の再検討に向けた意欲は見せています。
苫小牧市
苫小牧市は、森林や湖に囲まれた自然豊かな環境を活かした「自然共生型IR」をコンセプトに打ち出し、新千歳空港に近い植苗地区の民有地883ヘクタールを予定地としていました。
特急停車駅や高速インターから近く、大型客船が寄港可能な港湾もあるなど、交通アクセスも良好な土地だったものの、希少野生動物の生息が判明したことを理由に、2019年11月に鈴木知事がIR誘致見送りを表明しました。
いっぽう岩倉博文苫小牧市長は誘致推進の姿勢を崩さず、再検討を働きかけていましたが、2021年3月に正式に見送りとなりました。
留寿都(ルスツ)村
留寿都村は小樽、苫小牧、釧路に続く候補地として誘致に向けた取り組みを行っており、メリットとして、約850室の宿泊施設やスキーコース、ゴルフコースを備えた通年型のリゾート施設を備えており開発に要する時間が短いことを挙げていました。
しかし当時IR担当内閣副大臣だった秋元司衆院議員が、留寿都でIR事業を計画していた中国企業「500.com」から賄賂を受け取っていたと発覚し、2019年12月に逮捕されました。
コンソーシアムとして共にIR計画に携わっていた「加森観光」の会長も贈賄罪で在宅起訴され、「マイナスイメージを払拭するには相当な期間を要する」として2020年3月にIR誘致凍結を決定しました。
横浜市
横浜は2019年にIR誘致を正式に発表し、大阪に立候補していた事業者が横浜への参入に転向するなど有力視されていました。
いっぽうで横浜の土地は、地元経済界に強い影響力を持つ横浜港ハーバーリゾート協会・横浜港運協会・市民などからの反対も非常に強くありました。
2021年8月の横浜市長選で、IR誘致を推進してきた林文子前市長を破って、カジノ反対派である山中竹春氏が当選し、2021年9月16日に正式に撤退を表明したことから、提案審査に進んでいた「ゲンティン・シンガポールとセガサミーホールディングス」と「メルコリゾーツ&エンターテインメント」は参加中止を発表しました。
10月1日には市のIR推進室も廃止されたものの、山中市長は横浜の経済対策として「カジノ抜きの山下ふ頭再開発案」を検討していく考えを示しています。
千葉県
千葉市では、候補地とする幕張新都心が成田国際空港に近く、すでに広大な土地と大規模なMICE施設、幕張メッセなどの集客施設なども備えていたことからIR成立が検討されていました。
与党系議員からも過半数の賛成を得て本格的に誘致の検討に入ったものの、国が公表した申請期間が想定より短く準備が間に合わないことや、2019年の台風15号による被害からの復興優先を理由として、2020年1月に熊谷千葉市長が誘致見送りを発表しました。
IR誘致の魅力は大きい一方、住民の反対や新型コロナウイルスの懸念も
自治体にIRが誘致されれば、インバウンド増加や財政難の解決が期待されます。
また利用者が駅や空港からIRまで行きやすくなるよう、インフラ整備が進むため地域の活性化にもつながります。
いっぽうでIR誘致をめぐる住民との対立や議員による汚職、自然破壊の懸念などの問題も山積しています。
さらに現在では新型コロナウイルスの影響もあり整備のためのスケジュール管理も困難に直面しており、IR誘致をめぐる道筋は決して平坦なものではありません。
2022年中に正式決定するとされるIR開業の候補地について、今後もその動向に注目していきます。
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