前編では、豊岡観光イノベーションの観光DXの取り組みを紹介しました。後編では、それらの取り組みの一翼を担う地域の事業者に取材。DMOと事業者とが連携し、「まち全体で取り組む」観光DX戦略の全貌が見えてきました。

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豊岡DMOとの理想的な関係性を体現する事業者の一つ「小宿 縁」
城崎温泉街の一角にある旅館「小宿 縁」。但馬牛を使ったメニューを提供する館内レストラン、そして貸切温泉やレンタサイクルの提供などで人気を博している宿です。
豊岡観光イノベーションの一幡氏によると、ここでの施策がさまざまな面で理想的な動きだと感じているとのことで、今回は小宿 縁を運営する株式会社イースリー 代表取締役 田岡氏に取材しました。

まず、小宿 縁で実施しているインバウンド対応について伺いました。
田岡氏「宿の予約前後にやりとりをして、不安を解決するようにしています。実際に泊まっていただく際の対応としては、スタッフにも英会話の学習をしてもらったりして、ようやく英語で対応できるようになったところです。チェックインする際などに『誰に話しかけても対応できる』『言語ができないなりにも笑顔で対応する』ことを心がけています」
そんな小宿 縁では、海外からの宿泊客を受け入れる中で、豊岡観光イノベーションの施策の成果を実感しているといいます。
田岡氏「宿泊客は4割の方が海外からで、米国、香港、台湾などが多いです。コロナ明けからは、これまで来ていなかった北欧や中東など、多様な国々からインバウンド客が訪れていて、TTI(豊岡観光イノベーション)の施策の効果が出てきていると感じます」

豊岡観光イノベーションは、地域の若手経営者とともに、城崎温泉における宿泊施設の宿泊予約データを面的に自動収集するシステムを構築・運用しています。小宿 縁では、このデータを随時従業員に共有。活用方法としては、たとえばデータを見て宿泊需要が少ない日は客室の値段を下げる、他の宿泊施設の料金を参考にする*、といったレベニューマネジメントに活用しているほか、レストランのシェフも仕入れの調整などに使っているといいます。
* このデータでは、選択した5施設以上の平均宿泊料金が閲覧できる

田岡氏「データを活用しているのはもちろんですし、ほかにVisit Kinosakiで特に欧米からの外国人客向けのレンタサイクル・サイクリングツアーを販売しています。他のOTAも使っていますが、今の予約はほぼVisit Kinosaki経由ですね。
城崎温泉で連泊してくれる人、滞在時間が長い人に向けての提案が少ない・できていないのがまだまだ課題だと思っていて、レンタサイクルで普段見られない場所に行くなどの体験を提供できるのはいい取り組みなんじゃないかなと。今後もVisit Kinosakiを通じて、城崎での楽しみ方を提案できたらと思っています」
まずはDMOが、事業者が使えるデータや仕組みを整備すること。そして事業者側は、DMOが作った仕組みを積極的に活用して経営に活かすこと。これにより、インバウンド客の受け入れ環境をより高度なものにしていることがわかりました。
観光案内所「SOZORO」が支える地域マーケティング
続いて伺ったのは、城崎温泉駅前の観光案内所である「城崎温泉ツーリストインフォメーション SOZORO」。現地のバス会社である全但バス株式会社が運営しており、観光客向けに現地の観光スポットやツアー&アクティビティなどの案内を行うだけでなく、豊岡観光イノベーションが進める取り組みにとって欠かせない役割を果たしているといいます。

SOZOROの運営に携わっている全但バス株式会社 観光事業部 栁原氏がまず見せてくれたのは、施設内に展示している「観光情報口コミ掲示板」。城崎温泉街を実際に訪れた人たちが、どんな観光スポットがあるか、何が楽しかったかなどを書いて掲示するもので、半分程度が外国人の口コミとなっています。

栁原氏「当時の所長が『広告色のないリアルな口コミをお客様同士で共有してほしい』という思いから設置したそうです。口コミを旅の思い出にと書いてくれる人もいれば、口コミを見て観光する場所を考える人もいます。
デジタルが主流のこの時代に、あえてアナログで書いてもらうというのが肝だと思っています。『次も来るよ』『また来ました』といったメッセージがもらえるのも嬉しく、スタッフの励みにもなりますね。
また、国籍や出てきたキーワードなどをデータ化して行政、事業者にも共有し、地域のマーケティングにも活用しています。たとえば『食べ歩きは楽しいけど、ゴミ箱がなくて困ってる』といったフィードバックがあった際に、地域全体に共有し、清掃の取り組みがすでに始まっていたり、ゴミ箱の設置についても協議を進めたりしています」
SOZOROのこの取り組みは、日本政府観光局(JNTO)による2023年度 認定外国人観光案内所の表彰で、「リピーター獲得戦略」部門を受賞。旅行者間の交流の場になっていることや、口コミを見るために案内所を再訪したくなること、スタッフ側が新たな旅のスタイルを口コミで発見できることなどが評価されました。
さらにSOZOROでは、豊岡観光イノベーションが集め、マーケティングに活用している外国人来訪者アンケートの収集にも大きな役割を果たしているとのこと。英語ができるスタッフが観光客に声がけし、一つひとつ口頭でアンケートの設問を聞いているといいます。

栁原氏「QRコードで集める方法もありますが、なかなかそれだけでは集まらないですよね。直接聞いて、会話の中で回答を引き出しています」
デジタルだけでなく、アナログ施策も組み合わせて理想を実現する取り組みは、DX・デジタル化にハードルを感じている地域にとっても参考になりそうです。
伝統工芸を守り、広める取り組み:麦わら細工「かみや民藝店」
最後に訪れたのは、麦わら細工を使った伝統工芸品を販売する「かみや民藝店」。店内で麦わら細工体験も提供しています。城崎の麦わら細工には300年の歴史があり、兵庫県伝統的工芸品・城崎町の町指定無形文化財にも指定されているそうです。

かみや民藝店の神谷氏にお話を伺ったところ、粘度を調整するために米粒を糊にして貼ったり、凹凸をなくしてなめらかな表面にするための技術など、簡単には真似できない技術が使われているということで、工芸体験は特に欧米客などに人気だといいます。

豊岡観光イノベーションとの取り組みとしては、まず「小宿 縁」と同じくVisit Kinosaki内で体験予約を受け付けていることに加え、城崎温泉周辺の観光地を巡る「Kinosaki Must-Visits Pass(3日間の観光フリーパス)」内にも組み込まれています。
神谷氏「体験ではお土産として持って帰ってもらえるように、その日のうちに作り終わるものにはしていますが、それでも1時間以上かかるので、Visit Kinosakiで予約してもらってから来てもらうとありがたいですね。言語の対応は紙での説明を配っているほか、簡単な英語やジェスチャーで通じます」

さらに、豊岡観光イノベーションとともにInstagramやFacebookでライブ配信なども実施していて、SNSを活用して国内外からの耳目を集める工夫も欠かしません。
伝統工芸品の魅力を広めていくため、受け継いできたものを守るだけでなく新たな挑戦を続ける。そうした事業者のサポートも豊岡観光イノベーションが担っていることがわかりました。
以上、豊岡DMO取材の後編をお届けしました。DMOが独走するのではなく、地域との対話を続けながら施策を行い、地域の事業者もその成果を実感している様子がうかがえました。
古くから温泉地として人気な中でも新たな取り組みに挑戦していく姿勢は、他の地域でも参考になりそうです。訪日ラボでは今後も、インバウンドの誘客や受け入れに取り組む地域の事例をお伝えしていきます。
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