コロナ禍が明けてインバウンド市場は順調な拡大傾向にあり、2024年3月には初の月間300万人超えを突破しました。飲食事業を展開されている方の中には、昨今のインバウンド需要の勢いを自社のビジネスにも取り込みたいと考えている方も多いでしょう。
訪日外国人の中には、宗教的な理由で日本での食事に困る方も多く、「食のインバウンド対応」を実施することで集客アップが見込めるケースもあります。そこで本記事では、「仏教」において食べてはいけないものを紹介するとともに、食のインバウンド対応の重要性や考え方についても紹介します。
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食のインバウンド対応の重要性
観光庁の訪日外国人消費動向調査(2023年)によると、インバウンド客の83.2%が、訪日前に期待していたこととして「日本食を食べること」を挙げています。
日本食への関心が非常に高いインバウンド客ですが、宗教的、文化的な理由から特別な食事制限を持つ人たちも少なくありません。現在の日本では食のインバウンド対応を行っていない飲食店が多く、食事に困っている訪日客がいるのも事実です。
すべての飲食店で対応するというのは現実的ではないですが、外国人の食のニーズに対応することで競合との差別化になり、満足度向上や売上・利益拡大につなげることができるため、お店やブランド、企業ごとに方針を検討しても良いでしょう。人によって食べてはいけないものや気をつけるべき食材があることを理解して対応することで、そうした人々のコミュニティの中で口コミが広まり、行列のできる人気店へと成長させることも夢ではありません。
関連記事:「食の多様性」対応事例
アジアに多い仏教徒
厚生労働省の「厚生労働科学研究成果データベース」によれば、仏教を信仰する国はアジア(東南アジア)に多く、タイとカンボジアでは国民の95%、ミャンマーでは89%、スリランカでは70%、ラオスでは60%となっています。
東南アジアのインバウンド需要も、他の地域と同様にコロナ禍からの回復傾向にあります。なかでもタイは親日国として有名で、ピークとなった2019年には131.8万人に達しています。日本を訪れる仏教徒が増加傾向にあることから、食事における彼らのルールを理解し、対応することが重要です。
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仏教の食事のルールについて
イスラム教ではおもに豚、ヒンドゥー教では牛と豚を避けるなど、宗教によって食事のルールはさまざまです。
では、仏教においてはどのようなルールがあるのでしょうか。ここでは仏教徒が避ける具体的な食材について解説していきます。
仏教徒は肉食を避ける、その理由とは
東京都産業労働局が発行している「訪都外国人旅行者インバウンド対応ガイドブック」では、 仏教徒には動物性の食品を避ける、いわゆる「菜食主義者」が多いと記されています。
仏教では生き物を慈しみ、殺生(=生き物を殺すこと)することを最も重い罪として強く禁じています。また、肉食は欲望や怒りなどの煩悩を刺激し、心身を清浄に保つ妨げになるとも考えられていることから、精進料理では動物性の食材が避けられているのだそうです。
仏教徒が避ける「五葷(ごくん)」とは
仏教徒のなかには、肉食だけでなく「五葷(ごくん)」を避ける人たちもいます。五葷とは、長ネギや玉ネギ、ニンニク、らっきょう、ニラなど香りの強い食材を指します。これらが持つ強い香りや刺激が心を乱し、修行の妨げになると考えられているのです。
五葷を避けるのは、仏教徒だけではありません。とくに台湾に多い「オリエンタルヴィーガン」と呼ばれる人たちも、動物性の食品と五葷を排除した食生活を送っています(この「オリエンタルヴィーガン」の習慣も、元々は仏教の教えから来ているようです)。
このように、ある特定の宗教について対策を講じることで、ほかの食文化への配慮を同時に実現できる場合もあります。
関連記事:五葷(ごくん)とは?台湾に多い「オリエンタルヴィーガン」が五葷を避ける理由、対応するための3ステップを解説
仏教ではアルコール(飲酒)OK?NG?
仏教の禁止する5つの行いである五戒(ごかい)。そのひとつに、アルコール(飲酒)を禁じる「不飲酒戒(ふおんじゅかい)」があります。
- 不殺生戒(ふせっしょうかい)
- 不偸盗戒(ふちゅうとうかい)
- 不邪淫戒(ふじゃいんかい)
- 不妄語戒(ふもうごかい)
- 不飲酒戒(ふおんじゅかい)
タイやスリランカ、ミャンマーなどで信仰のあつい小乗仏教(もしくは上座部仏教)では、禁酒を厳守する傾向にあります。一方、東アジアでおもに信仰されている大乗仏教(クシャーナ朝時代に生まれた新しい仏教理念)では、仏教信者の飲酒について比較的寛容な考え方も見られます。
宗派だけでなく社会の変化や個人の価値観、その場の状況によっても飲酒に対する解釈は異なります。仏教における飲酒について、明確に可否の判断をすることは容易ではありません。さまざまな理由によって飲酒ができない方々がいることは、念頭においておきましょう。
仏教の戒律にのっとった食事=精進料理
日本の伝統食のひとつに精進料理があります。精進料理とは肉や魚、卵など動物性の食材は一切使用せず、野菜や豆腐などの植物性の食材のみで作られた料理のことをいいます。
仏教の戒律を守る修行僧の食事として誕生したものですが、現在では健康ブームを背景に「健康食」として注目されることもあります。
仏教徒に向けた食のインバウンド対応、どうすべき?
では、飲食店ではどのような対応をすれば良いのか、解説していきます。
肉の代わりになる「もどき料理」(代替肉)
対応策としてまず挙げられるのは、肉の代わりに別の食材を使用した「もどき料理」を提供することです。
このもどき料理は、そもそも精進料理が発祥です。肉食を禁じる仏教徒がその代用品として考案し、植物性の食材を使用して肉類のような見た目と食感を再現しました。古くは精進料理にもよく登場する「がんもどき」が有名ですが、最近は「大豆ミート」と呼ばれる代替肉を利用したメニューが注目を集めています。
大豆ミートは大豆を原料としており、脂質が低く栄養価も豊富です。仏教徒やヴィーガンだけでなく、普段肉類を食べる人たちにも健康食品として積極的に受け入れられています。 ミンチタイプ、スライスタイプなどさまざまな種類の大豆ミートがあり、肉と同じような方法で調理できるため、既存のメニューにも取り入れやすいでしょう。
メニューの多言語化と、使用している食材の表示
せっかく仏教徒に向けた商品を作っても、それを適切に伝えられないと意味がありません。外国人向けに多言語対応したメニューを作成することも重要な対策のひとつです。
その中で「使用している食材」を表示することで、仏教徒だけでなく、他の宗教やアレルギーを持つ人たちにも安心して食事を楽しんでもらえるようになります。文字だけでなく、ピクトグラムなどを利用して視覚的にも理解しやすいよう工夫しておくとより良いでしょう。
ただし、「仏教徒向け」「ヴィーガン向け」といった表記をすると、そうでない方が頼みづらくなってしまう可能性もあります。特定の食文化の方だけでなく幅広い客層に気軽に食べてもらえるような表記を検討しましょう。
関連記事:今すぐできる飲食店の多言語対応とは?おすすめの方法や対応すべき言語も紹介
仏教以外にもある「食のインバウンド対応」
食に関する制限はイスラム教やヒンドゥー教などさまざまな宗教で存在します。さらに、ハラルやベジタリアン、ヴィーガンなど宗教由来ではなく、文化的な理由で食事を制限している例もあります。
事前に情報を収集して適切な対応をすることが重要ですが、精進料理であればヴィーガンやベジタリアンの人たちの多くも食べられるため、一度に食のインバウンド対応をすることが可能です。
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「美味しい日本食が食べたい」という気持ちは誰でも同じ
最後に一つ注意していただきたいのは、こうした食の対応が必要な人々も「日本食が食べたい」「美味しい料理が食べたい」というニーズはほかの外国人観光客と変わらない、ということです。
肉などを使わず野菜だけで仕上げた料理は、ともすれば味が薄く、美味しくないものになりがちです。「どうすれば、日本人やほかの外国人と同じように美味しいものを食べてもらえるか」といった工夫を考えることが、お客様に喜んでもらうためには重要だといえるでしょう。
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〈参照〉
日本政府観光局(JNTO):訪日外客統計
観光庁:インバウンド消費動向調査(旧 訪日外国人消費動向調査)
厚生労働省:構成労働科学研究成果データベース
東京都産業労働局:訪都外国人旅行者インバウンド対応ガイドブック
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