オーバーツーリズム調査、インバウンド観光客への「マナー啓発」が最も重要な対策に(じゃらんリサーチセンター)

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リクルートが運営する調査・研究機関「じゃらんリサーチセンター」は11月に、「観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート」を発表しました。

本記事ではこのレポートを踏まえて、観光地のオーバーツーリズムの現状や影響、事業者の対策状況などをお伝えします。

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インバウンド観光客の増加による混雑状況と影響

2024年は1か月の訪日客数が300万人を超える月もあり、インバウンド市場は拡大傾向が続いています。

しかしその一方で、一部の地域では国内外から観光客が集中することによる問題が起こっているのも事実です。

まずは、「観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート」をもとに、インバウンド観光客の増加による混雑状況とその影響をお伝えします。

コロナ前と比べて約60%が「混雑している」と回答

同調査では、混雑度について「日常生活エリア」と「業務・事業エリア」の2つに分けて調査が実施されています。

どちらのエリアでも、「混雑している場所やスポットがある」「やや混雑している場所やスポットがある」の合計は60%前後となり、半数以上の人がコロナ前の2019年と比べて混雑していると感じていることがわかりました。

▲旅行者の増加による混雑度:じゃらんリサーチセンター「観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート」より
▲旅行者の増加による混雑度:じゃらんリサーチセンター「観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート」より

業務・事業エリアでは「良い影響」が優勢

インバウンド観光客の増加における混雑の影響は、業務・事業エリアでは「悪い影響」の合計が59.9%だったことに対し、「良い影響」の合計が75.8%と優勢になりました。

  • 良い影響が出ている:23.5%
  • 悪い影響が出ている:7.6%
  • 良い影響も悪い影響も出ている:52.3%
  • 影響なし:14.1%
  • わからない:2.5%

一方で日常生活エリアでは、「良い影響」の合計が52.4%だったことに対し、「悪い影響」が60.5%で優勢となりました。

  • 良い影響が出ている:7.0%
  • 悪い影響が出ている:15.1%
  • 良い影響も悪い影響も出ている:45.4%
  • 影響なし:29.2%
  • わからない:3.3%

また、インバウンド観光客による混雑が「良い影響」か「悪い影響」かについては、回答者の所属先やエリアによって回答が異なりました。

例えば宿泊施設に所属する人は、行政や民間企業に所属する人と比べて、「良い影響」と回答する人が多くなっています。

日常生活エリアにおいて、北海道東北では日常生活エリアであっても「良い影響」が優勢となっています。

問題点は「マナー」「雰囲気の変化」「価格高騰」

混雑エリアであてはまる状況を聞いた質問で、「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した人の割合が50%前後となったのは、以下の項目でした。

  • 旅行者の増加によって、生活圏の雰囲気が変わった:57.5%
  • マナーが悪い(割り込み、路上飲酒、ポイ捨てなど)旅行者がいる:52.2%
  • 旅行者の増加に合わせて物価や飲食店の価格が急激に上昇した:49.2%
▲混雑による影響:じゃらんリサーチセンター「観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート」より
▲混雑による影響:じゃらんリサーチセンター「観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート」より

特に、生活エリアの雰囲気やインバウンド観光客のマナーに関する部分は、50%を超えており、引き続きインバウンド観光客を受け入れていく中で、迅速に対策を行う必要があるといえるでしょう。

関連記事:外国人観光客のマナー問題 | 日本ルールが伝わらない理由と対応策

83.2%の事業者がオーバーツーリズム対策を実施せず

同調査では、オーバーツーリズム対策の実施状況に関する調査も行っています。

オーバーツーリズムに対して行っている対策が「ある」と回答したのは、全体の16.7%にとどまり、多くの事業者は対策を行えていない現状が明らかになりました。

また、所属別で見ると行政では38.2%がオーバーツーリズム対策を行っているのに対して、民間企業は17.5%、宿泊施設は20.2%と、低い水準になっていました。

▲オーバーツーリズムに対する取り組み:じゃらんリサーチセンター「観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート」より
▲オーバーツーリズムに対する取り組み:じゃらんリサーチセンター「観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート」より

最も必要な対策は「マナーの啓発」「住民への説明」

オーバーツーリズム対策として必要なことを聞いた質問では、以下のマナーに関する2つの項目が50%を超えました。

  • 旅行者へのマナーの啓発(情報発信):50.5%
  • インバウンドへのマナー啓発(多言語対応等):54.8%

また所属別で見た場合でも、民間企業・宿泊施設では上記の旅行者へのマナー啓発の項目の割合が高く、マナー啓発の重要性がうかがえます。

その上で、オーバーツーリズム対策として最も必要な対策を聞いた質問では、「インバウンドへのマナー啓発(多言語対応等)」に続いて、「観光が地域にもたらすメリットの住民への説明・インバウンド受容の雰囲気づくり」が多くなっています。

実施が難しい対策は「ハード・仕組みの整備」に集中

実施が難しいオーバーツーリズム対策を聞いた質問で高い割合となったのは、主にハード・仕組みの整備に関する項目でした。

  • 公共交通の輸送力増強:17.9%
  • 受け入れ環境の充実:13.4%
  • 交通渋滞の解消:11.6%
  • 公共交通の混雑緩和:10.7%

また「インバウンド対策で最も重要なこと」で最も高い割合だった「インバウンドへのマナー啓発(多言語対応等)」も12.6%となっており、必要性が高いものの実施が難しいということがわかりました。

関連記事:オーバーツーリズムの具体的な対策事例17選 課題やケース別に徹底解説!【連載:オーバーツーリズムを考える 〜真の観光立国への道のり〜 第四回】

混雑状況の偏りを感じている人は80%以上

混雑に関する調査として、混雑状況の偏りについての調査も実施されました。

同調査では、「時間的な偏り」と「地域的な偏り」の2つに分けて調査されていますが、どちらも「偏りがある」と回答した人の割合は80%を超えました。

「時間的な偏りがある」の内訳

  • 混雑が集中する時間帯がある:43.5%
  • 平日・休日の繁閑差が大きい:31.4%
  • シーズンによる繁閑差が大きい:47.2%

「地域的な偏りがある」の内訳

  • 域内スポットの一極集中が起きている:37.8%
  • 県内の地域間での繁閑差が大きい:42.9%
  • 広域エリア間での繁閑差が大きい:25.0%

観光客の増加によって発生する混雑は、時間やシーズン、エリアによって混雑状況に偏りがあり、今後のインバウンド対策において分散対策や地方誘客が重要であるといえるでしょう。

混雑エリアでは37.3%が分散・誘客対策を実施

分散・誘客対策の実施状況に関する質問では、「対策している」と回答した人の割合は23.2%にとどまり、分散対策や地方誘客が進んでいない現状が明らかになりました。

また行政は30%~50%台と比較的高い割合で対策を行っている一方で、民間企業・宿泊施設では、「対策されていない」「分からない」の回答が多くなりました。

しかし、分散・誘客対策を実施している割合も一定数あり、特に以下の対策は「対策している」と答えた中の40%前後が実施していました。

  • モデルルート・コースの提示:46.4%
  • 旅行客向けの魅力的なコンテンツ造成:45.0%
  • 多言語の情報ツールの整備:42.3%

一方で、「混雑、非混雑地域間の連携」(10.8%)や「住民向け説明会の実施」(3.2%)は実施されている割合が低いことがわかりました。

関連記事:オーバーツーリズム対策の鍵、「地方分散」を成功させるための秘訣とは

人手・人材不足や連携の難しさから対策ができない場合も

分散・誘客対策がされない理由として、人手不足や人材不足が大きな課題となっていることがわかりました。特に、民間企業と宿泊施設では、その割合が高くなっています。

民間企業

  • 人材(スキル・専門性)が不足している:51.0%
  • 人手(労働力)が不足している:43.8%

宿泊施設

  • 人材(スキル・専門性)が不足している:55.6%
  • 人手(労働力)が不足している:58.3%

加えて、「エリア間での連携・役割分担が難しい」という理由も民間企業が54.2%、宿泊施設が47.2%と高い割合となりました。

関連記事:宿泊・観光業の「人手不足」に挑む、観光庁の戦略と展望:観光庁 観光産業課長 羽矢氏インタビュー

インバウンド観光客の受け入れ環境の整備が課題

観光立国を目指し、2030年には訪日外国人旅行者数6,000万人を目標に掲げている日本では、オーバーツーリズムへの取り組みや対策は欠かせません。

また、今回紹介したレポートで挙がっている問題点である「インバウンド観光客のマナー問題」は、あくまで文化や習慣の違いによるものであり、マナーの啓発が進んでいないことが課題として考えられます。

今後も多くのインバウンド観光客が日本を訪れ、日本の事業者や地域住民もインバウンド観光客を快く受け入れられる状態にするためにも、マナーの啓発を含め適切な受け入れ環境の整備を行うことが重要であるといえるでしょう。

調査概要

  • 調査方法:インターネット調査
  • 調査期間:2024年8月28日(水)~10月4日(金)
  • 調査対象:JKN会員*
  • 有効回答数:956名

*じゃらんリサーチセンターが保有する観光行政や観光関連事業者のメールマガジン会員データベース

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<参照>

株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター:観光地のオーバーツーリズムおよび分散・平準化対策に関する現状調査報告レポート

日本政府観光局(JNTO):訪日外客数(2024年10月推計値)

国土交通省:観光の現状について

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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