今、新たな旅行のトレンドとして「何もしない旅(Do-Nothing Vacation)」が注目を集めているのをご存知でしょうか。コロナ禍を経て、観光地でのアクティブな体験よりも、ゆっくりとした時間を楽しむ旅行スタイルが人気です。
この傾向は訪日外国人観光客にも広がっており、温泉旅館での滞在など、宿泊施設でのリラクゼーションが注目されています。
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「何もしない旅(Do-Nothing Vacation)」が新たなトレンドに
旅行といえば観光名所巡りやアクティビティがメインと思われがちですが、「何もしない旅」という新しい旅のスタイルが人気を集めています。これは、心身のリフレッシュや休息を目的とし、特別な行動をせず、ただ「ゆっくり過ごす」ことを楽しむものです。
「何もしない」をどう定義するかは旅行者によってさまざまですが、観光名所を巡ったりアクティビティに参加したりするのではなく、ホテルで読書をしたり、温泉に浸かったり、自然の中でぼんやり過ごすことなどが含まれます。
2022年にExpediaが米国の4,000人を対象に実施した調査によると、ほぼ全員(96%)が、次回の旅行で「何もしない時間をとりたい」と回答しています。
この結果からも、過密なスケジュールから離れ日ごろのストレスから解放される「何もしない旅」が求められていることがわかります。
関連記事:「何もしない時間をとりたい」旅行者の96%が"nothing-cation"を求める
訪日前に期待していたことの上位に「旅館に宿泊」「温泉に入浴」
観光庁のインバウンド消費動向調査によると、日本旅行において期待することの上位には「旅館に宿泊」や「温泉に入浴」が挙げられています。これらは忙しなく観光スポットをめぐるような旅行のあり方とは異なり、「何もしない旅」のコンセプトにも当てはまります。
伝統的な旅館文化、その土地ならではの美味しい食事、温泉の癒やし効果などが、訪日客にとって大きな魅力となっています。
また、日本の宿泊施設が提供する質の高いサービスは、「ただゆっくり過ごしたい」という訪日客のニーズを満たす最適な環境といえるでしょう。
何もしない旅、どう過ごす?
ここでは、「何もしない旅」において、具体的にどのように過ごすのかを解説します。
温泉に入る
温泉に入ることは「何もしない旅」を象徴する体験の一つです。美しい自然景観とともに、上質な泉質で心身をリフレッシュさせる日本の温泉体験は、「何もしない旅」の目的にマッチしています。
さらに温泉宿では、静かにくつろぐ時間に加えて、日本の伝統的な建築様式や食文化を楽しむことができ、訪日客にとって大きな魅力といえます。
しかし、宿泊施設・温泉施設が掲げるルールや暗黙の了解が、訪日客の温泉体験を妨げる場合があります。以下の内容について事前に伝えておくと、安心して利用できるでしょう。
- タトゥーフレンドリー:アメリカやオーストラリアではタトゥーが一般的ですが、日本の温泉では、タトゥーがあると入浴を制限されるケースが多くあります。タトゥーのある訪日客も不安なく温泉を楽しめるよう、タトゥーを隠すシールの提供や、専用の入浴時間を設けると良いでしょう。
- 入浴マナー:中国やタイの旅行者には、日本の入浴マナーに不慣れな方も多く見られます。「タオルを浴槽に入れない」「体を洗ってから湯船に入る」といった基本ルールをイラスト付きで事前に説明することで、訪日客・日本人の双方が快適に温泉を楽しめるでしょう。
- 水着着用の有無:水着を着用して温泉に入るのが一般的である国もあります。水着禁止の温泉施設は、その旨を事前に案内することで、無用なトラブルを避けられるでしょう。また、訪日客に配慮し、水着着用の許可を検討することも、事業者側の選択肢の一つかもしれません。
温泉宿や観光施設が、日本と海外の文化の違いを理解し対応することで、より多くの訪日客が「何もしない旅」を楽しめるようになります。
ホテルでまったり
「何もしない旅」においては、ホテルでまったり過ごす時間も大切な要素です。
その中でも「オールインクルーシブ」タイプのホテルは、「何もしない旅」を求める訪日客のニーズを満たす選択肢となり得ます。オールインクルーシブとは、宿泊料金に食事、飲み物、アクティビティなどが含まれるプランのことで、滞在中の追加費用を気にせずリラックスできる点が特徴です。
オールインクルーシブタイプのホテルはZ世代からも注目を集めており、エクスペディアが実施した調査では、Z世代の約3分の1が「オールインクルーシブに対する認識が良い方向に変わった」と述べ、42%が「オールインクルーシブリゾートを好んでいる」と回答しています。
関連記事:エクスペディアが2025年の旅行トレンドを発表 「第二の旅先」や「買い物旅行」など
エステやスパでリフレッシュ
「何もしない旅」では、エステ・スパで心身を癒す時間も魅力の一つです。日本のエステ・スパは清潔感や高い技術力に加え、円安の影響でコストパフォーマンスの高いサービスとして評価されており、訪日客から人気を得ています。
とくに長期滞在する訪日客は、休日・平日を問わず自由な時間を持つことが多く、この顧客層を平日昼間や閑散期に集客できれば、稼働率の向上と売上アップを見込めます。
これまで低稼働だった時間帯を有効活用することで、「日本のエステやスパを体験したい」という訪日客のニーズに応えられるだけでなく、事業者にとっても効率的な店舗経営を実現するチャンスとなるでしょう。
キャンプで自然とともに過ごす
都会の喧騒から離れ、大自然のなかに身を置くキャンプも「何もしない旅」に合う過ごし方です。焚き火を眺めたり、星空を見上げたり、何もせずただ自然に身をゆだねるだけで、心身ともにリフレッシュできます。
一方、本格的なキャンプは準備などを含め、"何もしない旅"という定義から大きく外れる場合もあります。そこでアウトドア初心者や快適さを求める訪日客には、手ぶらで贅沢なキャンプを楽しめる「グランピング」が好まれます。トリップドットコム発表の「Trip.Best GLOBAL」&「ASIA」TOP100ランキングにおいて、富士山山麓のグランピングリゾート「星のや富士」が、絶景ホテルのアジア1位、グローバルランキングでも2位にランクインしました。グランピング施設への注目度の高さが伺えます。
キャンプやグランピングを通した自然体験は、訪日客に癒しのひとときを提供するだけでなく、日本の美しい自然を感じてもらう絶好の機会です。
関連記事:トリップドットコム、2024年版「Trip.Best」ランキング発表 日本は「温泉」「スキー」「レストラン」で存在感を発揮
宿泊施設が目的地化する好機に:成功事例2選
「何もしない旅」への人気の高まりは、宿泊施設が「旅行の目的地」として選ばれる好機をもたらしています。そのためには、ただ寝泊りをする場所ではなく、滞在そのものが目的となるよう、宿泊施設の価値を高める取り組みが欠かせません。
まず、最寄りの空港や駅から施設までの二次交通を整備することで、訪日客の移動の負担を軽減し、施設全体の満足度を向上させることが期待できます。
また、食事メニューの充実も重要なポイントです。たとえば、和食になじみのない訪日客に向けて洋食の朝食ビュッフェを用意するなど、多様なニーズに対応する工夫が求められます。
こうした取り組みは、「何もしない旅」を求める訪日客の心をつかむだけでなく、宿泊施設そのものを目的地化し、新たな集客チャンスを生み出す基盤となるでしょう。
ここでは、宿泊施設として「目的地化」に成功し、「何もしない旅」へのニーズに応えている施設を紹介します。
星野リゾート:国内客だけでなく訪日客からも人気
星野リゾートは、国内外問わず、多くの旅行者から高い評価を受けている宿泊施設です。その人気の理由は、地域の特性や文化を巧みに反映した独自のコンセプト、高いホスピタリティ、質の高いサービスなど。ほかにはない特別な価値を宿泊者に提供しています。
さらに、星野リゾートは「星のや」「界」「リゾナーレ」など、多様なブランド展開を通じて、ラグジュアリー志向の旅行者からファミリー層まで幅広いニーズに応えています。
星野リゾートの魅力は国際的にも認められており、2023年には「界 由布院」がCNNトラベルの「2023年に予約すべきホテル20選」に選出されました。
このように、独自性、高品質なサービス、多様なブランド展開といったすべての強みが結びつき、星野リゾートは「何もしない旅」を求める旅行者にとって理想的な目的地となっています。
関連記事:「2023年に予約すべきホテル」20選 日本からは「由布院星野リゾート」が選出
コンラッド大阪:広い客室と充実の設備でおもてなし
コンラッド大阪は、大阪市北区中之島フェスティバルタワーウエストに位置する高級ホテルです。ヒルトン・ホテルが展開する「コンラッド」ブランドの一つで、風や光をテーマにした洗練されたインテリアと、地上200メートルからの絶景が特徴です。
大阪メトロの駅直結という便利なアクセスに加え、隣接するアート施設やショッピングエリアも魅力の一つ。滞在中は気軽に文化体験や買い物、食事を楽しむことができます。
宿泊した訪日外国人観光客の口コミで、広々とした客室やスパ・ジムといった設備、エグゼクティブラウンジの充実したサービスも人気です。また、スタッフの柔軟で親切な対応は、とくに訪日客から高く評価されています。
こうした魅力が一体となり、コンラッド大阪は「何もしない旅」を求める旅行者にとって、滞在そのものが特別な体験となる目的地といえるでしょう。
「何もしない旅」がもたらす新たな可能性
「何もしない旅」は、観光地を忙しく巡るのではなく、心身のリフレッシュや癒しを求めてゆっくり過ごすことを重視した、新しい旅行スタイルです。このトレンドは、とくにコロナ禍を経て、日常のストレスからの解放を求める訪日観光客の間でも注目されています。
温泉やホテル、エステ、自然など、日本には「何もしない旅」に適した魅力的な観光資源が多くあります。このトレンドをうまく捉え、宿泊施設やウェルネス施設がサービスや環境を整備することで、インバウンドの集客を高める可能性があると言えるでしょう。
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<参照>
- expedia:7 Relaxing Vacations For Doing Absolutely Nothing
- 観光庁:訪日外国人の消費動向(2023年 年次報告書)
- 日本政府観光局(JNTO):訪日インバウンド市場別情報(アメリカ、オーストラリア、タイ、中国)
- トリップドットコム:Trip.com、 2024 年 「Trip.Best GLOBAL」&「ASIA」TOP 100 ランキングを発表
- トリップドットコム:Trip.Best 2024 GLOBAL 100
- CNN:The best hotels to book in 2023
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
本イベントでは「顧客への情報アピール」「顧客体験(ゲストエクスペリエンス)」「運営のデジタル化」など、施設運営に必要なをテーマを、市場の最前線を走るエキスパートたちが集結。お客様が施設を見つける「旅マエ」から、実際に滞在する「旅ナカ」まで、あらゆるフェーズにおける最新戦略と成功事例を徹底解説します。
<本セミナーのポイント>
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詳しくはこちらをご覧ください。
→宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」【7/3開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
→「THE INBOUND DAY 2025」特設ページを見てみる
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
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→「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年6月後編】
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