いよいよ中国の春節(旧正月)が1月28日から始まります。中国は訪日旅行消費額が1位であり、インバウンド事業を展開する企業にとって見逃せない市場の一つです。一方で、FIT(個人旅行)化、SNSの発達などにより中国人旅行者のニーズは多様化しており、旅行トレンドも目まぐるしく変わることから、最新情報を把握することが非常に難しくなってきています。
そこで本記事では、めまぐるしく変化する中国人旅行者のニーズを把握するために、2024年の「国慶節」に関する中国当局や中国企業のレポートをもとに、中国人旅行者の特徴を深掘りします。
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中国人若年層「00後(2000年代生まれ)」の旅行消費
日本のZ世代やミレニアム世代のように、中国でも80後(1980年代生まれ)、90後(1990年代生まれ)、00後(2000年代生まれ)と年代を表す言葉があります。中国のOTAであるCtripによると、特に00後の若年層は、国慶節期間中の旅行注文率が全体の約20%を占め、85後や90後を上回る注文率を見せました。今後、観光市場で成長が期待される00後の中国人若年層。その消費傾向やトレンドについて紹介します。
自由で個性的、計画に縛られない旅行スタイルが人気
00後の中国人旅行者は「自分を楽しむ旅」を求め、体験重視の傾向が強いと考えられています。個人旅行に慣れているため、あえて厳密な計画を立てず、即興的な旅を好む傾向も見られます。また、予定を詰め込みすぎずリラックスしながら、旅行先で予定外の時間を使って没入感のあるローカルな体験を楽しむことを求めているようです。中国の国営通信社であるCNSの報道によると、一人旅を計画している若年層の旅行者は76%にのぼり、多くの若者が一人旅が最適な旅行スタイルと考えていることがうかがえます。
アニメキャラクターのグッズを持ち歩く「谷子旅」が流行
近年、00後の若年層による新しい旅行スタイルが注目されています。彼らは「二次元文化」を旅行に取り入れる傾向があるといいます。二次元文化とは、アニメや漫画、ゲームなどの世界で形成される独特な価値観や理念を指します。日本のアニメや漫画などのサブカルチャーと近しいものと考えてよさそうです。この二次元関連の市場では、関連グッズや音楽、イベントなどが人気を集め、市場規模が拡大しています。この流れの中で、人気スポットや飲食店にアニメキャラクターのグッズを持ち歩き、撮影を楽しむ「谷子旅」が若者の間で流行。「谷子(グーズ)」とは、中国語でアニメキャラクター関連のグッズを指す言葉です。中国国内では「谷子店」(アニメグッズ販売店)が急増し、多くの若者を惹きつけています。
Ctripのデータによると「二次元」や「谷子」に関する検索が前月比120%増加。また、日本への旅行需要には、アニメの「聖地巡礼」を目的とするものも多く、アニメと実際の景色の違いを確認するための中国人向け聖地巡礼のWebサイトも存在するようです。
二次元文化や谷子旅は、デジタルネイティブな00後ならではの活発な新市場であり、今後も拡大が予想されます。
中国国内旅行では、レンタカー利用が115%増加
国慶節期間中、中国国内では近距離旅行の需要が高まり、高速鉄道や自動車を利用した移動が主流になったといいます。レンタカーや自家用車旅行が増加し、中国人の自動車利用は80%を超えました。Ctripのレンタカー予約データによると、00後のレンタカー利用率が前年比115%増加。新エネルギー車の予約が72%増加するなど、若者を中心に旅行スタイルの多様化が進んでいます。その一方で日本では、中国人観光客がレンタカーを移動手段にするのは難しいとされています。理由としては、中国がジュネーブ条約に加盟していない関係で、中国国内で発行された運転免許証や国際免許証は日本国内で有効ではないためです。*
00後の若者を中心にレンタカー需要が高まっていますが、日本においては公共交通機関とセットの観光を考えることが基本となるでしょう。日本のインバウンド事業者は、中国人旅行客誘致の際、交通事情も念頭に置く必要があり、観光地によっては送迎サービスを提供することも有効になりそうです。
中国人シニア層の旅行消費
中国人シニア層は、1970年代以前に生まれた世代を指します。旅行者全体に占める割合は多くないものの、成長率と消費額は市場平均を上回っているといいます。中国でも高齢化が進む中、主要都市の裕福なシニア層を中心に、退職後に国内外を旅行する人が増加しているようです。今後も進む高齢化に伴い、いわゆるシルバーツーリズムの需要がさらに拡大する可能性があります。
若年層を上回る旅行頻度と消費額、潜在的な成長に注目
中国人シニア層は人混みを避け、自然景観や文化施設を楽しむ傾向が強いとされています。Ctripのシニア向けの会員サービスには、すでに100万人の会員がおり、そのうちの25%が海外旅行を経験しています。シニア層の旅行頻度と消費額は若年層を上回り、観光市場をリードする存在となっており、今後も潜在的な市場の成長が期待されます。
「愛国観光」も人気に
2024年の国慶節は建国75周年の節目であったこともあり、シニア層を中心に「愛国観光」が人気を集めました。愛国観光とは、自国の歴史や記念施設を巡る観光のことです。Ctripのデータによると、愛国観光の注文数は前年同期比で70%増加したといいます。なお「全民SNS時代」といわれる中国では、国民の多くがSNSを使っており、シニア層も例外ではありません。中国人シニア層にいかにアプローチするかも、今後の課題となりそうです。
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中国人富裕層の旅行消費
Ctripによると、国慶節期間中、中国人富裕層の間で人気が高まった目的地として、日本、モルディブ、イタリア、ブラジル、ハワイが挙げられました。消費額が高く、経済効果の高い中国人富裕層は、日本のインバウンド事業者にとって重要なターゲットといえるでしょう。ここからは、訪日ラボが以前に中国人富裕層に関するコンサルティング事業を行うmingle株式会社 代表取締役 小林智樹氏に取材した内容をもとに、中国人富裕層の旅行消費の傾向やポイントを紹介します。
関連記事:中国の「ウルトラ富裕層」ってどんな人?インバウンド戦略のカギとは
体験型のニーズには「特別感」と「貸し切り」がポイント
富裕層においても体験型の旅行ニーズが高まっており、特に「個人では叶えられない価値の提供」が求められるようです。日本はルールが厳格で、観光地の時間や利用範囲にもさまざまな制限がありますが、中国人富裕層にとっては、自由度の高い柔軟な対応と「特別感」や「貸し切り」が重要なポイントとなるといいます。富裕層をターゲットにする場合、日本のルールにとらわれすぎないような、柔軟な対応が求められそうです。
中国人富裕層の特徴として、神経質な一面も
富裕層に限らず、中国人旅行者には神経質な一面も。福島第一原発の処理水問題や南海トラフ地震など、少しでも懸念要素がある場合、旅行をキャンセルすることも多い傾向にあるといいます。
また中国人は購買力が高い一方でキャンセル率も高く、ネット通販などの返品率も高いとされています。こうした「気が変わりやすい」傾向は注意点ともいえるでしょう。
消費額や年収によってターゲットを細分化し、方針を立てることが重要
「富裕層」と一言でいっても、その範囲には幅があります。ターゲットを分類してそれぞれのニーズを探り、適切な方針を立てることが重要です。観光庁では、1人当たりの着地消費額が100万円以上となる旅行者を富裕層(高付加価値旅行層)と定義しています。また特に消費額が大きいハイエンド層(総消費額300万円以上/人)の誘客も念頭に置き、取り組みを進めているといいます。
mingleでは年収を基準にターゲットを分類しているとのこと。年収1億円以上を「ウルトラ富裕層」、年収3,000万円以上を「富裕層」、年収1,000万円以上を「新富裕層」と定義しているそうです。定義したターゲットごとに施策を練り、企画を検討するといいます。
なお、中国人富裕層向けのプロモーションとして、富裕層をターゲットにした旅行会社へのアプローチや、SNSも有効な手段だとされています。
国慶節期間中、日本は中国人富裕層の間で人気の旅行先の一つでした。2025年も引き続き、富裕層を取り込むため、早め早めの施策が求められるでしょう。
前編を見る:2024年国慶節から見える、中国人旅行者の旅行動向を解説後編を見る:中国の最新旅行トレンドを解説!訪日旅行における今後の課題や対策とは?
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