日本旅行業協会(JATA)は7月、第4回「インバウンド旅行客受入拡大に向けた意識調査」を実施しました。
前回の実施から1年が経ち、大阪・関西万博開催による影響など、インバウンド受け入れに関する最新動向や課題についての調査が行われました。
前回調査:第3回意識調査(2024年7月)
インバウンド受け入れの最新動向
本調査は、国内の観光関連事業者や自治体などを対象に行われます。2025年7月に実施された4回目の調査では、1,107件の回答が集まりました。
前回調査と比べると全体の回答数は減少したものの、観光施設からの回答は過去最多となりました。さらに全国通訳案内士など新たな層からの回答も増えたことで、より幅広い観光関連事業者の声が反映される結果となりました。
インバウンド未対応事業者は受け入れに慎重 割合減少が背景か
今後のインバウンド受け入れ計画については、現在インバウンド対応を行っていない事業者のうち、「受け入れたいと思う」が11%、「受け入れたいと思っているが、課題があると感じている」が22%となり、受け入れに前向きな姿勢を示した事業者の割合は前回調査から11ポイント減少しました。
一方で、前回調査と比較すると、「インバウンドを取り扱っていない事業者」の割合は27%から21%へと減少しています。このことから、受け入れに意欲を示す事業者の多くはすでにインバウンド対応を始めており、結果として肯定的な回答が減少したと推測されます。
インバウンドを取り扱っていない理由としては、「人手不足・人材不足」が最も多く挙げられました。加えて、前回に引き続き「インバウンドを受け入れる余裕がない」「多言語対応のインフラが不十分」といった回答も多くなっています。

インバウンドが観光客数を押し上げ 一方で事業者間では受け入れに差が
観光客の受け入れ状況については、全体(国内旅行含む)・インバウンドともに、「2024年とほぼ同水準」の回答が最多でした。
また全体では23%、インバウンドでは35%が、前年比110%以上と回答しており、観光客数の伸びをインバウンドがけん引していると考えられます。
一方で、「観光客数が減少した(前年比70%未満)」と回答した割合についても、全体よりインバウンドの方が高く、事業者間での二極化が見られました。

春・秋に訪日需要が集中
インバウンド観光客が多い時期は、第3回調査に引き続き、「春季(桜のシーズン・イースター:50%)」と「秋季(紅葉シーズン:48%)」が多くなっています。前回調査と比べるとその比率は上昇していることから、春季・秋季への集中が顕著になっていることがうかがえます。
また、自由記述でインバウンド客が多い(多くなると想定される)時期を聞いたところ、春季(桜シーズン)以降の5月・6月が挙げられたほか、夏休みや年末年始、旧正月などの長期休暇という回答が多く見られました。

旅行スタイルでは新たな需要も見られる
インバウンド観光客の旅行スタイルは、個人レジャーが最も多く、団体レジャー、MICE、学生団体、個人ビジネス、スポーツ団体も前回を上回りました。受け入れ順位に大きな変化はなく、従来の傾向が継続しています。
一方、自由記述においてはクルーズ船旅行が引き続き目立ったほか、アニメ聖地巡礼や健康診断、教会巡礼といった特定の目的を持った新たな需要も確認され、多様な旅行スタイルが受け入れられていることが分かりました。

注目コンテンツに「高付加価値旅行」「ガストロノミー」 スポーツツーリズムも台頭
「新たに発達した、もしくは力を入れている」旅行・観光関連コンテンツでは、「高付加価値旅行(23%)」「ガストロノミー(18%)」が、前回調査と同様に多く選ばれました。
一方で、前回最も多かった「サステナブルツーリズム(16%)」は、他のコンテンツに組み込まれるなどの影響から、大幅に減少しました。
また、今回新たに選択肢に加わった「スポーツツーリズム(10%)」は、「スノーツーリズム(9%)」を上回る結果となりました。
関連記事:高付加価値旅行とは?今こそ知りたい「インバウンド売上UP」戦略、徹底解説

インバウンド重点市場は引き続き「台湾」
インバウンド重点市場は、前回調査に引き続き「台湾(51%)」が他市場を大きく引き離し、最も多く挙げられました。第1回調査の38%、第2回調査の45%、第3回調査の49%からさらに上昇しており、事業者における重要度がいっそう高まっています。
台湾に続く重点市場は、中国(37%)、北米(32%)、欧州(32%)、韓国(27%)、香港(25%)でした。第3回調査と比べると、中国・北米・欧州で増加しています。
また将来においては、欧州などの新規市場開拓の傾向が見られたものの、「特にない(国・地域を問わない)」が45%と、前回に引き続きもっとも多くなりました。

政府の2030年目標、具体的な取り組み実施は17%
観光庁が掲げる2030年の目標に関して、なんらかの目標を設定している事業者は合計で54%でした。
しかし、実際に具体的な施策を実施している割合は17%にとどまり、目標設定から具体的な取り組みへの落とし込みが課題であることが明らかになりました。
事業者別にみると、旅行会社や自治体、観光協会では具体的な施策に取り組んでいる割合が22%と、他の事業者と比べて高い傾向が見られました。
注力している施策としては、「受け入れ体制(人材確保・育成、設備改善など)の拡充」が48%で最も高く、「コンテンツ・サービス開発関係の地域コンテンツの開発」(38%)、「高付加価値化・サービス開発」(35%)が続きました。
関連記事:インバウンドを「ブーム」で終わらせないために——「2030年6,000万人・15兆円」に向けた議論

「広域・官民連携」が長期的な課題に 「人材不足」も増加
インバウンド観光客の受入の課題については、現在と将来の課題を比較すると、いずれも最大の課題となっているのは「人手不足や人材不足」でした。
また、現在と将来で差が大きくなっているのは、「国・政府の支援、官民連携」「自治体の広域連携の拡大」「観光インフラの整備」といった国や自治体、広域で取り組む課題となり、一事業者のみでは対応できない課題解決の必要性がうかがえる結果となりました。

具体的な必要な国・政府の支援、官民連携については、「地方への誘客促進と広域連携強化への支援」が36%で最も高くなりました。次いで、「事業運営・拡大のための資金的支援および効率的な補助金制度」「オーバーツーリズム対策と持続可能な観光への取り組み支援」が26%でした。

人手不足・人材不足の要因である「待遇の改善」「就職希望者が少ない」「労働環境の改善」については、前回調査から改善がみられました。
一方で、「インバウンド観光客受入の経験者不足」「インバウンド人材を育成する余裕がない」の項目は比率が増加しており、インバウンド需要が拡大している一方で、対応可能な人材の不足が顕著になっています。
観光産業は季節によって需要に大きく差がでることから、繫忙期の労働力確保や正社員雇用が難しいといった声が寄せられました。

大阪万博、関西ではより影響大きく
大阪・関西万博を契機としたインバウンド誘致への取り組みについて、関西に拠点のある事業者で「すでに実施した・計画中である」と回答した割合は28%となり、全体(15%)を大きく上回りました。
また、万博によりインバウンド受け入れ人数が「大幅に増加している」「若干増加している」と回答した割合は、関西に拠点がある事業者では28%と、こちらも全体(11%)を大幅に上回る結果となりました。
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<参照>
日本旅行業協会(JATA):インバウンド旅行客受入拡大に向けた意識調査 第4回アンケート分析結果報告
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