インバウンドの一極集中が課題となるなか、地方への誘客促進は日本全体が取り組むべき重要な戦略となっています。一方で、地方の自治体やDMO、企業の現場からは、人手不足やノウハウの少なさから「どのように魅力を発信すればいいかわからない」といった課題もあがっています。
そうしたなか、株式会社JTBパブリッシングは、旅行ガイドブック「るるぶ情報版」で長年培ってきたコンテンツ制作や編集のノウハウを強みに、日本の地域の魅力を海外に発信する情報プラットフォームサービスを展開し、地方誘客を促進しています。
事業担当者に、インバウンド集客における現場の課題や、地方が海外の旅行者から選ばれ、実際の来訪につなげるための独自の戦略、情報設計のポイントについて聞きました。
※本記事は、訪日ラボ主催カンファレンス「THE INBOUND DAY 2026」スポンサーの株式会社JTBパブリッシングに、事業概要や観光・インバウンド業界への想いについて伺うスペシャルインタビューです。
「OTAに登録しても実際の来訪につながらない」地域の課題にこたえる
── JTBパブリッシングでは近年、訪日インバウンドソリューション事業を展開されています。具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
JTBパブリッシングでは、出版・情報サービス事業にとどまらず、「るるぶ情報版」で培ってきたコンテンツ制作や編集のノウハウと、JTBグループのネットワークを活かし、自治体や企業向けにさまざまなソリューションを提供しています。
そのなかで近年注力しているのが、地域の魅力を発信して誘客を促し地域活性化を支援する、訪日インバウンドソリューションです。
具体的には、①市場調査・コンテンツ開発、②情報の発信・拡散・マッチング、③プロモーションの大きく3つのソリューションを提供しています。
この一連の流れにおいて当社は「グローカルウィン」というコンセプトを掲げ、3つのソリューションを連動させることで、地域が抱える課題を総合的に支援しています。
── インバウンド集客に取り組む自治体や企業の現場からは、どのような課題の声が上がっていますか。
もっともよく聞くのが、「魅力的な観光資源はあるのに、なかなか海外の人たちに伝わらない」という声です。この悩みは地域やその規模を問わず、広く共通しています。
FIT(個人手配の海外旅行)をターゲットとしているところでは、「海外のOTAにアカウント登録し情報を発信しているものの、なかなか予約や来訪につながらない」というご相談も増えています。
そのほか「富裕層を誘致したい」「地方を周遊してもらいたい」「せっかく整備した二次交通を活用したい」といった、より具体的なニーズも増えています。こうした現場の声から、単なる情報発信ではなく、実際の誘客を生みだす仕組みへの期待が高まっていると感じています。
海外の旅行会社と連携し、既存ツアーに地方のコンテンツを組み込む
── こうした課題に対してどのようなアプローチを進めていますか。
2025年4月にグローバル情報プラットフォーム「RURUBU & ALL WAY JAPAN」をスタートしました。JTBパブリッシングが長年にわたり蓄積してきたコンテンツ制作や編集のノウハウを活かし、地域と海外旅行者の架け橋になりたいと考えたことが、立ち上げの背景にあります。
コンテンツが分散していると情報はなかなか伝わらないため、「RURUBU & ALL WAY JAPAN」に集約することで、ユーザーに地域の魅力を伝えていきたいと考えています。
ユーザーとなる自治体や企業の皆さまは、このプラットフォームを通じて、観光スポットや体験コンテンツといった各地域や自社の魅力を、自動翻訳機能により多言語で発信できます。
海外からの情報の問い合わせに対しては、当社が窓口となって取り次ぎます。単に海外に情報を発信しマッチングさせるだけでなく、実際の旅行商品の造成や送客にまでつなげる、一連の流れを構築できるモデルを目指しています。

── 情報発信において重視しているターゲットはいますか。
「RURUBU & ALL WAY JAPAN」が主なターゲットとしているのは、海外の旅行会社やランドオペレーターといったビジネスユーザーです。
海外の旅行会社やランドオペレーターは、毎年何千本というツアーや企業のインセンティブツアー(報奨・招待旅行)などの旅行商品を造成し、販売しています。
彼らには「毎年コースが同じなのでアレンジしたい」「主要都市だけでなくさまざまな場所を巡りたい」というニーズがあり、そこに日本の地方のコンテンツを組み込んでもらうことが、地域への送客を実現する有効な導線だと考えています。とくにインセンティブツアーに対する需要は高いと手ごたえを感じています。
すでに具体的な成果も出始めています。たとえば山口県は、訪日観光客になかなか宿泊してもらえないという課題がありました。そこで大阪や広島から九州方面に向かうツアーに対し、中間にある山口県湯田温泉などでの宿泊を組み込む対応をしています。
既存の広域ルートのツアーに、新たな地域への立ち寄りを提案するこのアプローチは、海外の旅行会社・ランドオペレーターにとっては旅行商品の多様化につながり、地域にとっても来訪者の増加が期待できます。「今回は新しい日本を体験できた」という満足感が得られるようなツアー設計ができると、訪日のリピートもより生まれていくでしょう。
アリババと共同で運営 地方産品の海外販路開拓もサポート
── 大きな特徴の1つとして、世界有数のプラットフォーマーであるAlibaba(アリババ)の日本法人と共同で運営を行っています。その理由を教えてください。
アリババグループが持つユーザー数の多さは圧倒的で、日本の地域の魅力を広く届けられると考えたためです。同社が有する世界200以上の国・地域、約13億人のネットワークを活かすことで、世界中のビジネスユーザーへ向けた広範な情報発信を実現しています。
ECを展開している点も特徴です。「RURUBU & ALL WAY JAPAN」では、世界最大級のBtoB向けオンライン・マーケットプレイス「Alibaba.com(アリババドットコム)」への地域産品の出品も可能にしています。
地域経済を活性化するには、訪日旅行者を増やすだけではなく、地域産品の海外販路開拓や輸出を推進していくことが重要です。そうした点からもアリババグループとの協業は理想的であると捉えています。
今後は、アリババグループのエコシステムを構成する多様なサービスとの連携も視野に入れています。同グループが抱えるユーザーの中には、富裕層も多く含まれています。こうした購買力の高いユーザー層に対し、当社が強みとする編集力を活かして日本各地の魅力を発信することで、訪日需要の喚起と、現地への送客を後押ししていく方針です。
情報設計のポイントは「体験価値」「ストーリー化」「予約導線の設計」
── 海外のビジネスユーザーの心を動かし、実際の来訪へと結びつけるためのプロモーションで重視している点を教えてください。
当社が長年培ってきた、地域の魅力を発掘する企画力や、外国人に響く編集力、さらには観光データなどを全面的に活用し、記事やコンテンツを制作しています。
その際に私たちが重視しているのは、ページビューやインプレッションの数ではなく、実際の来訪と旅行商品の購買を増やす情報設計です。
ポイントは大きく3つあります。1つ目は「体験価値を伝える」ことです。「何があるか」ではなく「何が体験できるか」を伝えます。スポットや施設の紹介にとどまらず、旅行者がその場所を訪れたときに感じられる体験の価値を、言葉とコンテンツで伝える工夫が海外の旅行者の興味を引きつけます。
2つ目は、「ストーリー化」です。背景にある、歴史や文化、人との出会いなどの物語を織り交ぜて、地域の魅力を伝えています。
3つ目は、「予約導線まで設計する」ことです。情報発信だけでは不十分で、実際にその魅力を体験できるツアーやプランを用意し、簡単に問い合わせができる状態を提供しなければいけません。誘客の実現には「情報発信」と「販売」を切り離さないことが重要です。
── 実際に手応えのあった成功事例を教えてください。
愛知県西尾市の事例があります。同市は、全国有数の生産量を誇る抹茶の産地として知られています。そこで「RURUBU & ALL WAY JAPAN」上で、同市の観光情報とともに、近隣で楽しめる抹茶体験のコースを5つ掲載しました。
たとえばコースの1つ「抹茶ツアーと抹茶作り」は、製茶工場や茶畑を実際に訪れ、伝統的な衣装を着用して茶摘みをしたのち、抹茶作りができるという内容です。「産地である西尾市だからこそ叶う特別な抹茶体験」というストーリーを軸に情報を発信しました。
その結果、近隣の名古屋市や豊田市を目的地とするビジネスツアーや教育旅行の行程に組み込みたいという旅行会社から問い合わせを受け、商談へと発展しました。現在、具体的な送客に向けた取り組みが始まっています。

地域経済を活性化する「質の高いインバウンド集客」を目指す
── 訪日インバウンド向けソリューション事業では、今後はどのような展望を描いていらっしゃいますか。
これまでは自治体やDMOからの依頼が中心でしたが、今後は企業向けの提案にも力を入れていく方針です。事業者が、自社で磨き上げたコンテンツを海外市場に届けていくための支援を幅広く展開していきます。
当社が目指しているのは「質の高いインバウンド集客」の実現です。地方の価値を海外市場に正しく伝え、実際の来訪や周遊、さらには地域産品の販路開拓にも結びつけ、地域経済の活性化につながるような循環を生みだしていきたいと思っています。
── 訪日ラボ主催の「THE INBOUND DAY 2026」にスポンサーとして協賛いただいています。当日来場される自治体や事業者の方々とどのようにつながっていきたいとお考えですか。
日本の地域には、世界に通用する自然や文化、伝統、食、アクティビティなどが数多く存在しています。自治体やDMO、事業者の皆さんとは、そうした地域の魅力を伝え、地方誘客、さらには地域経済の発展をともに実現できる、パートナー関係を築きたいと考えています。ぜひ会場で気軽にお声がけいただければ幸いです。
RURUBU & ALL WAY JAPAN:https://www.allway-japan.com/
いよいよ8/7開催!業界最大級のカンファレンス「THE INBOUND DAY 2026」
訪日ラボは8月7日、インバウンド業界最大級のカンファレンス「THE INBOUND DAY 2026」を開催します。
訪日ラボが培ってきたネットワークを活かし、各領域のキーパーソンを登壇者に迎え、業界の本質的な問いに深く切り込む議論を展開。オンライン参加も可能なハイブリッド型で実施し、全国どこからでもご参加いただけます。
イベントの詳細および参加申し込みは、下記の特設ページよりご確認ください。











