3月に策定された第5次観光立国推進基本計画では、2030年までに「地方部における外国人延べ宿泊者数1.3億人泊」などの目標が設定され、戦略的な地方誘客促進が期待されています。
日本政府観光局(JNTO)は2023年、全国の広域連携DMOと連携協定を結び、観光コンテンツ収集やプロモーション事業に取り組んできました。
JNTOとDMO両者が連携して進める各事業について、東北地域の広域連携DMOである東北観光推進機構(以下、東観推)推進本部長の佐々木隆博氏と、JNTO地域プロモーション連携室マネージャーの山田泰史氏、加藤憲司郎氏に話を聞きました。
取材・文/萩本良秀(地方創生パートナーズネットワーク)
前回の記事:JNTO企画総室長に、新・訪日マーケティング戦略について聞く
地域ごとのニーズに向き合い、プロモーションや人材研修を実施
――まず、JNTO地域プロモーション連携室の役割と、広域連携DMOとの連携内容について教えてください。
JNTO 山田氏:地域プロモーション連携室はその名の通り、地域の方々と連携してプロモーションなどの各事業を行っています。活動の柱は、「地域への情報提供」「地域の観光コンテンツ収集」「地域との広域連携プロモーション」の3つです。
全国10の地域ブロックに2人ずつ担当を置いており、日常的に広域連携DMOや地方運輸局とお互いの事業予定を共有し合うことで、相乗効果を生み出せるような情報連携を意識しています。
また、世界26都市にあるJNTOの海外事務所から「この地域のこういう情報が欲しい」という要望を受けて情報を収集したり、反対に各地域が関心を持っている市場をヒアリングし、該当する海外事務所につなげたりしています。

――今年度はどのような事業を行うのでしょうか。
JNTO 山田氏:「地域への情報提供」では、JNTOのサイトを通じた地域の取り組み事例紹介、対面でのインバウンド事業者向け研修会、オンラインセミナーなどを実施しています。
「地域の観光コンテンツ収集」では、JNTOの多言語Webサイト内の「Experiences in Japan」のページに掲載するコンテンツの募集や情報発信、地域へのフィードバックなどを行っています。
「地域との広域連携プロモーション」では、広域連携DMOや地方運輸局と共に、全国10の地域ブロックごとに記事広告の配信や、招請事業を推進しています。

――研修会は地域ごとに異なるテーマで開催していますが、どのように内容を決定しているのですか。
JNTO 加藤氏:一方的にこちらが選ぶのではなく、たとえば地域から「アドベンチャートラベルを盛り上げたい」といった声があったら、関連するトレンドや事例を紹介するなど、各地域が取り組む課題に沿って選定しています。
JNTOや外部講師からの情報提供だけでなく、地域の方と連携し事業を行っていくヒントになるような実践的な内容を心がけています。

――「Experiences in Japan」に新規掲載されたコンテンツには、伝統的な文化体験のほかに、奈良県吉野町のe-Bike(電動アシスト機能がついたスポーツサイクル)ツアーや愛媛県内子町のはなよめ体験など、新たに作られたプログラムもあります。
JNTO 加藤氏:広域連携DMOや地方運輸局から地域に周知していただいて、事業者からの自発的な応募が増えていますね。JNTOでは、その中から市場目線、そして各海外事務所の意見も取り入れながらコンテンツを選定しています。
多言語対応をはじめとした受け入れ体制の整備状況に加え、体験コンテンツとして磨き上げられているかという点も考慮しています。

アドベンチャートラベルなど、東北エリアの重点テーマをJNTOが支援
――続いて東北観光推進機構から、東北における観光の状況について伺います。
東観推 佐々木氏:2025年の東北6県における外国人延べ宿泊者数は、2019年(168万人泊)を上回り、257万人泊*に達しました。
宿泊者数のピークシーズンにも変化があり、2019年は秋が最多だったのに対し、2025年は雪が降る冬へと移行しています。主に東アジアや東南アジア、オーストラリアなどから関心を集めていますね。
市場別では、台湾が約半分を占めていますが、タイやシンガポールなどの東南アジアや欧米豪も非常に伸びています。時期によっては、タイやオーストラリアが上位に入ることもあります。
*東北観光推進機構 発表データより
――米国も伸びているようですね。
東観推 佐々木氏:背景には、いくつかの要因があります。
まず「みちのく潮風トレイル」といったコンテンツの人気や「AdventureWEEK2025 東北」の開催です。さらに、ニューヨーク・タイムズ紙「2023年に行くべき52か所」での盛岡、ナショナル ジオグラフィック「2026年に行くべき世界の旅行先25選」での山形の選出も影響しているといえます。
また、ここ数年欧米豪を意識したプロモーションに取り組んだ成果もあると思います。

――東北観光推進機構では、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
東観推 佐々木氏:現在は自治体やDMO、民間企業など約350の会員に賛助いただいており、メインであるインバウンドプロモーションのほか、国内の教育旅行や復興ツーリズムなど、オール東北で広域観光の推進に取り組んでいます。
また、2021年には「東北観光DMP(データマネジメントプラットフォーム)」を構築し、どの市場の旅行者が広域でどう動いているのか、自治体自らが分析する流れも浸透してきました。
たとえば、秋田空港から入る訪日観光客はほとんどが台湾からですが、秋田駅では6割を他の市場が占めています。広域で周遊するインバウンドの動きが可視化できると共に、どうやってプロモーションを行っていくのか、戦略を考える素材としても活用されています。
――アドベンチャートラベル(AT)には継続的に注力していますね。
東観推 佐々木氏:「AdventureWEEK2025 東北」に続き、今年度はカナダのケベックで開催される「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS 2026)」にもJNTOと連携して出展します。
AdventureWEEK2025 東北開催後も、JNTOトロント事務所がアドベンチャートラベルの商品を販売する旅行会社を集め、商品を体験するツアーを実施しました。関西空港から京都を経て秋田の角館(かくのだて)に行き、乳頭温泉に宿泊、「みちのく潮風トレイル」を巡って東京に戻るという、日本での滞在時間だけで1人100万円のツアーです。実際にこのツアーは、商品として売られています。
カナダにはない伝統的な日本文化に非常に関心を持っていただき、東京からわずか2時間の場所にこうした自然文化が存在しているという点でも、東北の価値を認めてもらったと思います。
今後も、AdventureWEEK2025 東北で飛躍的に認知が高まったみちのく潮風トレイルや山形県出羽三山などを中心に、東北の魅力をアドベンチャートラベル市場に発信し、誘客につなげていきます。
関連記事:2026年アドベンチャートラベル業界、少人数・高付加価値へシフト 注目目的地に北東アジア
――体験商品の造成を推進している地域DMOとは、どのように関係性を構築していますか。
東観推 佐々木氏:各DMOとは、年2回DMO会議を開催したり、実際にすべてのDMOに訪問して意見交換を行ったりなど、連携を大事にしています。また「フェニックス塾」という観光人材育成プログラムを11年続けており、約400名の卒業生を輩出しました。中には、DMOで代表的な立場になった方もいます。
こうしたDMOと長年築き上げた関係値があったからこそ、AdventureWEEK2025 東北の成功につながったと感じています。
――観光関係者の方々は、地域にこうしたポテンシャルがあることは認識されているのでしょうか。
東観推 佐々木氏:こうした誘致や東北観光推進機構の取り組みをきっかけに、認識されてきていると思います。
マーケットインの視点に立つと、福島のネコママウンテンや岩手の安比高原のようなスノーリゾートが、会津若松や盛岡といった伝統文化を体感できるエリアと隣接している点は、東北ならではの強みです。こうした地理的な優位性は、オーストラリアからのスキーヤー招請事業でも高く評価されており、関係者の間でもその認識が広まっています。

――今後、中期的に注力する市場などはありますか。
3か年計画として、認知獲得や商品づくり、旅行会社やインフルエンサーの招請などを、東北観光推進機構が自治体と連携して推進する自主事業として行うほか、JNTOパリ事務所に協力いただき、JNTOの広域連携プロモーション事業としても行います。こうしたJNTOのご支援には感謝しています。
フランス以外にも、オーストラリア、米国、シンガポール、マレーシア、タイなども、JNTO各事務所に協力いただきながら認知向上や誘致を行っています。
――佐々木さんは、広域連携DMOの立場で両者の連携を推進しているのですね。
東観推 佐々木氏:JNTOは、SNSフォロワー数が全海外事務所合計で1,000万人いるとお聞きしています。(2026年4月現在)そのため、東北観光推進機構のSNSで自治体や地域DMOから預かったコンテンツを発信すると共に、JNTOの会員サービスを利用し、年間で100件を超える情報発信に活用いただいています。
一方で、シンガポール事務所から来ているインフルエンサーの仙台での案内など、JNTOの海外事務所からの依頼に応えることもあり、双方向的に関わっています。

JNTOと地域が一体となって優先市場のアプローチを進める
――今年度策定された新たな訪日マーケティング戦略では、変更の背景として「地域からのニーズ」を挙げています。JNTOでは、地域プロモーション連携室がこのニーズに応える役割を担っているといえますね。
JNTO 山田氏:新戦略で求められるコンテンツに取り組む地域関係者へヒアリングを行い、そこで得た情報を担当部署に集めていく。そうした、いい意味での「御用聞き」として全体戦略と各地域の取り組みを結びつけていくのが、私たちの役割だと理解しています。
――広域連携プロモーション事業では、各地域ブロックごとに優先度の高い市場やテーマへ対応するため、どのような進め方をしているのでしょうか。
JNTO 山田氏:JNTOでは、「この市場に注力したい」「この地域と一緒に取り組みたい」といった、市場ニーズと地域ニーズをマッチングさせるところから行っています。
東北では、今年度はフランス・オーストラリア・マレーシアを優先市場として招請事業を実施します。たとえばオーストラリアでは、秋田・山形・福島にて、スキーだけでないディープな冬の体験を提供する、という方向性で動いています。
有名スポットはJNTOでもリストアップできますが、地域から「こんな面白いコンテンツがある」と教えていただくこともあります。秋田の角館(かくのだて)では「侍食べ歩き」という海外向けガイドツアー商品があったため、招請事業で紹介し商品販売ページへの誘導も行いました。
――広域連携DMOの立場では、ブロック全体での優先市場の決定や各県の露出の公平性など、どのように配慮していますか。
東観推 佐々木氏:優先3市場は東北運輸局と一緒に決めました。中でもフランスは、3年に渡り東北6県で事業を推進しています。昨年はインフルエンサー招請を行なったため、今年は旅行会社招請を行う予定です。
こうした優先市場へのアプローチは、JNTOの広域連携プロモーション事業だけでなく東北観光推進機構の自主事業としても進めており、内容に重複がないように施策や時期をずらすなど、バランスよく実施計画を立てています。
――観光庁が行う「DMO総合支援事業」では、広域連携DMOが策定する広域連携観光戦略に基づく取り組みを支援する事業も始まります。
東観推 佐々木氏:東北観光推進機構は、広域観光戦略をつくり、自治体や地域DMOのやりたいことを含めながら東北全体のインバウンド観光を盛り上げる、地域のけん引役を期待されていると思います。私たちはこの期待に応えるべく、東北観光の将来を見据えた戦略を策定し、その戦略に即した事業を推進していきます。そうした取り組みが評価されて事業採択や予算獲得につながれば、地域DMO単独では実現が難しい施策もできるようになります。
――地域DMOがプロダクトを造成し、広域連携DMOはそのマーケティングの枠組みを提供するという役割分担ですね。
東観推 佐々木氏:広域連携DMOは観光庁とJNTOから支援を受けられる立場にあり、地域DMOにもそれぞれの役割があります。両者間で連携を深め、効果を最大限に高めていく役割を担っていきたいと考えています。
オーストラリアに向けては、JNTOの広域連携プロモーション事業に加え、JNTOシドニー事務所、東北観光推進機構それぞれでも事業を実施します。またフランスでは、ジャパンエキスポへの出展やインフルエンサー施策などでJNTOパリ事務所の協力を得ています。
地域連携部だけでなく、市場横断プロモーション部や海外プロモーション部など、JNTOのあらゆる部署とも連携していきたいです。
――地域の情報を集め、今後さらなる連携強化を図るために、DMOや地域コンテンツを手がける事業者の方へのメッセージをお願いします。
JNTO 山田氏:地域のみなさんからの声を教えていただきたいです。広域連携DMOに声を集約してもらうだけでなく、私たちが直接地域に伺う際に、ぜひ対面でお聞かせください。同じ方向を向きながら、お手伝いできることを一緒に考えていきたいと思います。
東観推 佐々木氏:仙台空港から入国した場合でも、多くの人は宮城以外の県に訪れますし、欧米豪からの旅行者の場合はさらにそこから全国を周遊します。そのため、一県のみにとどまらず、広域の枠組みで各県と連携しながら施策を進めていきたいと考えています。JNTOの力も借りながら、地域それぞれの強みを結集し、旅行者・観光産業・地域社会・地域環境にとって「四方良し」な取り組みをオール東北で推進していきたいです。

著者プロフィール:萩本 良秀
地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター

民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語ウェブサイトやInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士(英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「DMO総合支援(広域連携観光促進)のための専門家派遣事業」など観光庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める。
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<参照>
- 東北のアドベンチャートラベル「みちのく潮風トレイル」~まだ知られていない東北の美しい自然と地域の人たちとの触れ合い~
- 広域連携で取り組むアドベンチャートラベル─2度のAdventureWEEKからみえてきたこれからの日本におけるATの在り方
観光庁:DMO総合支援事業
東北観光推進機構:東北域内外国人宿泊者数の推移(宿泊者数・シェア)
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