Wovn Technologies 株式会社 取締役COOの上森です。Wovn Technologiesは「WOVN.io」という、インバウンドを含めたWEB多言語化テクノロジーを提供している企業です。
われわれはクライアントにツールを導入していただくだけでなく、企業のWEBインバウンド戦略を叶えるコンサルティングも実施しています。本連載ではその知見を活かしながら3回にわたって、企業がWEBインバウンドというミッションを達成していくうえでのノウハウや、プロジェクト失敗の前兆と解決策を紹介していきます。
第1回目となる今回は「全社戦略に沿ったWEBインバウンド施策を立案・実行」。多言語化・インバウンドプロジェクトの責任者やチームの方はぜひともご覧ください。
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WEBインバウンド施策3つのポイント
日本は2020年に東京五輪を控えており、インバウンドが関連する企業各社では、訪日外国人対応の準備が数年前から進められ、大詰めを迎えている企業も多いでしょう。
しかし店舗や交通などの対応は進んでいても、WEBの多言語化施策はこれから…という企業も多いのが現状です。私の観測ではWEB対応はプロジェクト化されている場合もあれば、プロジェクト化される前にボトルネックを超えられず、頓挫しているケースも多いようです。プロジェクト失敗の裏では必ずと言ってよいほど、以下3つのいずれかが失敗しており、逆に言えばこの3つがWEBインバウンド施策のポイントとなっているのです。
- 全社戦略との整合性
- 他部署の巻き込み
- ベンダーとの要件定義
以下順番に3つのポイントを解説していきます。
1. 全社戦略との整合性
全社戦略とはいわば企業における法令のようなもので、必ず遵守すべき事項と言ってよいでしょう。法令遵守という言葉があるように、WEBインバウンド施策も企業の法令である全社戦略と整合したものである必要があります。逆に言えば、これさえ守っていればWEBインバウンド施策の計画が大きく狂うことはありません。
全社戦略とWEBインバウンド施策を整合させるには当然ながら、まずはWEBインバウンドチームや担当者が全社戦略を十分に理解する必要があります。上場企業やある程度大きな会社を前提とすれば、各企業は中期経営計画や事業説明会の資料などを公開しています。意外と自社の中計をご存知ない方も多いと思いますが、WEBインバウンドの担当者にとってはそれは論外。いますぐ自社の全社戦略をチェックしましょう。
また可能であれば、全社戦略策定の関与者(部長等)にヒアリングを実施することがベターです。そうすることによって公表していない細かい話だったり、社内のキーパーソンを抑えることができるからです(2の「他部署の巻き込み」にも繋がります)。
仮に全社戦略とWEBインバウンド施策が整合していないとどのようなことが起きるでしょう。たとえば全社戦略が「中華圏中心に訪日外国人対応」だったら、対応言語は中国語(繁体字、簡体字)と英語くらいでいいですよね。
でもそんな戦略を無視してあなたの上司が「多言語化するなら20言語は対応しろよ!」なんて言ってきたらどうでしょう。部署としては20言語の予算をとりにいきますが、会社としてはそんなに予算は出せません。一部だけ実施しよう、となればいいですが、「ROIがあわない(コストとリターンが見合わない!)から多言語化は全部中止!」なんてことになったらWEBインバウンド施策はなにもできないことになってしまいます!(実際にできていない会社がたくさんあります)
しかし「中計で全社戦略として中華圏の訪日外国人対応を掲げていますので、WEBでも中国語(と英語)中心に対応するのはどうでしょう」と相談すれば、経営層や上司はないがしろにできません。こちらのほうが予算をつけやすいのは納得いただけるでしょう。
2. 他部署の巻き込み
当然ながらWEBインバウンドは、プロジェクトチームだけでなく多言語化されるWEBの担当者や情報システム部、カスタマーサポートなどさまざまな部署が関係し、他部署の担当者の協力なくして成功させるのは不可能といっても過言ではありません。他部署の協力を仰ぐのに必要なのは「1分理解」と「制約・インセンティブの把握」です。
「1分理解」というのはその名のとおり、「1分で理解してもらえる程わかりやすく資料をまとめる」ことです。そもそもWEBインバウンドは、ある意味で他部署の仕事を増やすことになる、嫌われ役です(全社戦略で経営層から言われてるんだからおとなしくやれよ!という気がするかもしれないですが、それでも仕事が増えるのは嫌なものです)。
したがって、WEBインバウンドチームが気をつけるべきは、他部署の時間をなるべく奪わないこと。困りごとや不明点が発生することは避けるようにし、やってほしいことを明確にしたプロジェクトマネジメントを実施しましょう。
よく聞く失敗例としてはたとえばこんな感じです。
WEBインバウンドチームで使っている資料をそのまま他部署との打ち合わせで利用したが、他部署にとってはその資料では細かすぎて概要がわからず、何回も打ち合わせを実施した(多分他部署もイライラしてますよ…)。
他方の「制約・インセンティブの把握」では、他部署の制約やKPIなどを把握して、それにプラスになるようなWEBインバウンド施策の設計をします。
まず「他部署の制約」ですが、たとえば独自サーバーをたてる前提でプロジェクトを進めていたけれども、そのためには情報システム部がセキュリティ対応が必要。しかし結局協力を得らずにWEBインバウンドプロジェクトそのものが頓挫してしまった、なんていうケースが考えられます。とくにセキュリティは「ダメなものはダメ」となりがち。なので関係部署にはなるべく早く状況を共有して、対策を考えましょう。
次に「他部署のインセンティブ」の把握です。たとえばカスタマーサポート部のKPIは「顧客満足度の向上」であることが多いでしょう。ここで注目すべきは一般に、「外国人の顧客満足度は(日本人に比べて)低い」という事実。WEB多言語化のノウハウがなかったり、外国語対応する人材不足で、対応が後手にまわってしまうためです。
そこで「WEBインバウンド対応をすれば外国人の方もWEBが使いやすくなって、満足度が向上するはずです」とカスタマーサポート部に提案できれば、カスタマーサポート部のKPIである顧客満足度が改善するため、WEBインバウンドプロジェクトに協力するインセンティブがカスタマーサポート部に働くことになります。このように他部署が協力しやすいような制度設計をすることが重要というわけです。
よく聞かれるのは以下のような失敗例です。
- 情報システム部:セキュリティ条件等のクリアが必須なのに確認していなかった。
- カスタマーサポート部:外国語であっても顧客に出す情報はすべてチェックしなければならないのにそれをWEBインバウンドチームが考慮しておらず、リソース不足が発覚してWEBインバウンド施策ができなくなった。
- その他:翻訳結果の責任部署が未設定。事業部ごとにバラバラの翻訳会社を使っており、翻訳の二重発注が発生してコスト高に。
3.ベンダーとの要件定義
「1. 全社戦略との整合性」「2. 関係部署との調整」を経たら、次のポイントは「WEBインバウンドシステムの要件定義」です。ベンダーを使ってシステム開発をする場合、ベンダーに丸投げにならないように注意が必要です。ちなみにこのときのベンダーというのは「翻訳会社」「システム開発会社」「WEB制作会社」「業務コンサル会社(影響が多岐・複雑な場合)」を指します。
重要なことはベンダーにもしっかりWEBインバウンドプロジェクトの目的を共有すること。これはベンダーに「気を利かせて」もらえるようにするためです。
たとえばWEBインバウンドの目的が「『正確な』情報を外国人に届ける」だとしましょう。近年の人工知能の発達などもあいまってGoogleなどの自動翻訳精度の発展はめざましいものがあります。しかしそれでもまだ、こと日本語においては完璧な自動翻訳は困難なので、「『正確な』情報を外国人に届ける」ことを最優先にするならば自動翻訳のあとに人力翻訳をするか、最初から人力翻訳をするべきでしょう。
他方発注社側からすると、システム開発費用は少なければ少ないほうがいいものです。このとき「『正確な』情報を外国人に届ける」という最優先の目的をベンダーに伝えていなかった場合、ベンダーはシステム開発費を少なくしようとするあまり、自動翻訳しか対応しないシステムをつくろうとするかもしれません。
しかし、目的を伝えておけばベンダーから「費用はかかりますが、目的からして人力翻訳ができるシステムにしましょう」という提案をしてもらえる可能性が高まります(もちろん単なるシステム開発業者ではなく、このような提案をしてくれるPM(プロジェクトマネージャー)やコンサルタントがいる会社に発注するというのも重要です)。つまり、ベンダーを外部業者ではなく、WEBインバウンド施策を成功させるためのパートナーとして協働することが大事なのです。
上記は理解いただくための少々極端な例ですが、多言語化システムには「システム予算」「CMS(コンテンツマネジメントシステム)選定」「動的コンテンツ対応」「サイト内検索」「SEO対策」「言語ごとのデザイン」「セキュリティ条件」「SaaSか自社開発か」など、たくさんの論点が浮上してきます。だからこそベンダーと協力しながら開発をしていくことが重要になのです。
「ベンダーとの要件定義」に際して、よく聞く失敗例はこんな感じです。
- コストのみに着目して、すべて機械翻訳を計画。しかし他部署が翻訳結果に不満をもち、プロジェクト自体が頓挫。
- 翻訳更新運用を検討せずに、WEB多言語を開始。あとからシステム改修をしようとするも、予算がとれずに多言語化はすべて中止に。
ちなみに上記で翻訳の話をしましたが、近年はテクノロジーの発展もあり「人力翻訳」「オンデマンド翻訳」「機械翻訳」など、翻訳方法が多様化しています。それもあって「すべて機械翻訳」「すべて人力翻訳」と十把一絡げにする必要はありません。コンテンツや翻訳品質、予算などにあった翻訳法方法を選択しましょう。
まとめ:WEBインバウンド施策を成功させる
以上WEB多言語化を成功に導く3つのポイントを紹介してきましたが、「そんなの当たり前でしょう」と思った方もいるのではないのでしょうか。そのとおり。WEB多言語化に必要なのは難しいことではなく、当たり前のことを当たり前にやること。しかし実際には、WEB多言語化はあちこちに論点が広がることもあって影響が多岐にわたり、なかなかうまくできない会社が非常に多いのです。
WEBインバウンドは重要な課題でありながら、ついつい「若手がひとりで対応」「外部ベンダーにまるっと依頼」などとしてしまいがち。プロジェクト責任者は「全社戦略との関係を明確化」し、「関係部署を巻込み」、「ベンダーへ要件定義」をしていきましょう。そうすればWEBインバウンド施策は必ず成功するはずです。
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