ドラッグストアで購入可能な、日本の一般医薬品が訪日中国人や訪日台湾人から大きな人気を集めています。
こうした人気の医薬品は中国語で「神薬」と呼ばれ、訪日中国人や訪日台湾人購入し、現地でも転売されているといいます。
特に「小林製薬」の売上はこうした需要に大きく支えられているとされ、それだけに中国で今年1月から施行された「新EC法」による影響が懸念されていました。実際には一時的な影響を受けたのみでしたが、今後は越境ECや中国現地の店頭販売などにも注力していく方針と伝えられています。
本編ではこうした小林製薬の商品を始め、日本の医薬品の中国市場における人気について紹介します。
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神薬とは
神薬とは、訪日中国人や訪日台湾人が"必ず購入していく"という日本の医薬品のことです。中国の大手ポータルサイト捜狐(Sohu)上の記事で、「日本に行ったら買わねばならない12の医薬品」として「サロンパス」や「熱さまシート」といった12個の日本製の医薬品が紹介され、「神薬12」として注目を集めました。これらは高品質低価格の医薬品として中国市場で人気の商品となっています。
訪日中国人の旅行消費額は1兆5,370億円!
観光庁の発表した2018年の訪日外国人旅行消費額の合計は4兆5,064億円で、消費額が高いのは上から中国、台湾、韓国の順でした。群を抜いて最も高かったのが訪日中国人で、旅行消費額は1兆5,370億円に上ります。
訪日中国人外客数は年々増加傾向にあり、日本での買い物を目的の一つとしている人も少なくありません。
買い物をする場所については「コンビニエンスストア」「空港の免税店」「ドラッグストア」の順に多くなっており、「医薬品・健康グッズ・トイレタリー」を購入する訪日中国人は、滞在中に消費税免税の手続きをする人も多くなっています。
なぜ日本の医薬品が人気なのか?
では、なぜ日本の医薬品は人気なのでしょうか。その理由は、第一に「日本の製品は品質が良いから」が挙げられます。「Made in Japan」はブランドとして確立されており、日本製品は安全という意識が世界中にあります。医薬品は身体の内部に取り込み、各器官に作用することを目的としたものであり、最も安全性の求められる製品の一つであると言えるでしょう。
もう一つ、日本の薬は飲みやすいことも大きなポイントです。
中国では漢方薬などを子どもに飲ませるのにかなり苦労するようですが、日本の製品はパッケージもかわいく色々なフレーバーが付いているため、乳幼児が飲みやすいことが購買の動機を強めています。
また日本国内での購入にこだわる中国人もいます。中国国内でも購入できる日本の医薬品はありますが、送料や手数料を支払うよりも日本で購入した方が安いということから、買い物を目当てに訪日する人も増えています。
訪日中国人・台湾人に人気の神薬12選
こうした神薬と呼ばれる製品はいくつかありますが、きっかけとされているのが中国の大手ポータルサイト捜狐(Sohu)に掲載された「日本に行ったら買わねばならない12の医薬品」という記事です。記事は2014年10月に公開されました。
ここで紹介された12種類の医薬品の人気について、報道等で伝えられることにより、日本でも徐々に広まってきました。
当時「神薬12」として中国市場の注目を集め、現在も中国人観光客から引き続き支持されている一般医薬品12種類について紹介します。
1. サンテボーティエ(参天製薬)
「瞳本来の輝きをサポートする目薬」サンテボーティエは、瞳の組織細胞の生まれ変わりを促進し、疲れた瞳の回復を促す製品です。香水瓶のようなパッケージとローズ、フローラルハーブの香りのする目薬は、特に女性の支持を集めています。
2. 熱さまシート(小林製薬)
急な発熱にぴたっとはるだけの熱さまシートは常備薬として購入されているようです。
はがれにくく冷却時間が長いだけでなく、肌に優しい弱酸性であることも訴求ポイントとなっているようです。発熱だけでなく、歯痛やスポーツの後のほてった肌にも使える用途の広さも支持される理由の一つです。
3. アンメルツヨコヨコ(小林製薬)
肩凝り、筋肉痛、腰痛、打撲、神経痛など、あらゆる痛みに対応できる塗り薬です。
容器の首部分が曲がっているデザインで、首や背中などの塗りにくい場所にも対応しており、こうした気遣いが中国製品との差別化に一役買っていると言えるでしょう。中の液体薬がラバーキャップから滲み出す形ですが、スムーズに塗布できることも評価されています。
4. サロンパス(久光製薬)
疲れた筋肉の痛みやコリに貼る製品です。
はがすときも痛くない、大きめのサイズで患部をしっかりとカバーできる、色は目立ちにくいベージュを採用しているといった点が中国人消費者の心をつかんでいます。貼っていることが見えにくい点で、女性の支持を集めています。
5. ハイチオールC(エスエス製薬)
ハイチオールCはシミやそばかすなどの肌のトラブルに効果を発揮する薬です。また、疲れやだるさを取り除きます。
中国では美白に対する意識は非常に高くなっています。メイクアップ用品で肌の美しさを演出するよりも、地の肌を美しく保ちたいと考える人が多数派であり、こうした消費者心理とマッチしているといえるでしょう。
また湯船のある家庭や入浴習慣はほとんどないので、疲労回復を図る際には食事やこうした飲み薬を頼りします。
6. サカムケア(小林製薬)
サカムケアは「塗る絆創膏」です。傷口に塗って薄い皮膜を作り、ばい菌の侵入や水にぬれてしみるのを防止します。
このような製品は中国ではほとんど見られないため、便利さが際立って感じられていると考えられます。
7. ニノキュア(小林製薬)
二の腕のぶつぶつを治すクリームタイプの塗り薬です。上述のように、地の肌の美しさを求める消費者心理に合致している点や、代替する効能の薬が中国には存在しないことが影響し、広く支持を集めています。
8. ビューラックA(皇漢堂製薬)
ビューラックAは下剤です。便秘に対する効果の高さが支持されているようです。
9. 口内炎パッチ大正A(大正製薬)
口内炎パッチ大正Aは、口腔内に貼る口内炎・舌炎治療薬です。一般的な口内炎薬は塗り薬が多いですが、これは貼り薬であるため使用感が異なります。こうした使用感や実感できる効果が評価されているようです。
10. 命の母A(小林製薬)
女性の更年期障害に効果のある薬です。13種類の生薬とビタミン類、カルシウムなどを配合しています。口にするものに敏感な中国人にとって、天然由来というイメージの強さが製品の購入を後押ししていると考えられます。
11. 龍角散(龍角散)
龍角散は水なしで服用できる粉末ののど薬です。生薬が直接のどに働き、せきや痰、のどの不快感を取り除きます。
中国国内には空気中のちりが多い地域もあり、のどの不快感を抱く人も少なくありません。こうした需要にマッチして購入されているようです。
12. イブクイック(エスエス製薬)
イブクイックは、解熱鎮痛剤です。解熱鎮痛剤の副作用としての胃痛が防げるだけでなく、即効性があるとして支持されています。
「神薬」で最多の5製品、小林製薬のインバウンド戦略
神薬の12製品のうち、5つは小林製薬の製品です。小林製薬は神薬に選ばれて以降、売上げを伸ばしています。2016年度の1,200億円から、2017年度には1,567億円へと、1年間で実に367億円も成長したのです。ここでは、小林製薬の特徴的な戦略2つを紹介します。
1. 小さな市場規模を狙うことで確実な利益をあげる
神薬の12製品のうち、5つは小林製薬の製品です。
小林製薬は日用品や医薬品など、多数のブランドを展開しています。もともと日本国内に向けて商品開発をしていますが、ニッチな市場に絞り、熾烈な価格競争とは一線を画すマーケティングを行ってきました。
例えば、熱冷ましの冷却シートは市場規模は47億円と、医薬品マーケットの中ではそこまで高額ではありません。しかし、小林製薬の「熱さまシート」だけで、市場の半分以上となる53%のシェアを占めています。
小林製薬は、この戦略を「小さな池の大きな魚」と表現しており、小規模の市場を狙うことが、確実な利益につながると考えています。
こうして開発された商品が中国人消費者にも支持され、特に神薬12選に5つもの製品がリストインしていることで、平成26年度の売り上げは約8億円伸びたと分析しています。
さらに、現地で製造販売する体制を整えるため、2018年には中国の医薬品メーカーを買収しました。
2. わかりやすいイラスト付きパッケージ
小林製薬の製品はパッケージにわかりやすいイラストを採用しています。
これにより、日本語が読めなくてもイラストでどんな製品か一目でわかるようになっています。例えば「熱さまシート」の包装には寝ている人の額に冷却シートを乗せたイラストが描かれており、一目で製品の用途がわかります。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が2018年12月に発表した調査によると、日本製品に対して「使い方や機能、効能が分かりにくかった」と感じている人が、14.3%存在していることが分かっています。これらを踏まえると、イラスト付きパッケージは中国人や台湾人の間で爆発的に人気が出た理由の一つといえるでしょう。
龍角散は大気汚染が進む中国人観光客の健康面に訴求
龍角散もまた、中国人消費者の需要にマッチし、購買意欲を高めることに成功しています。特徴は、訪日中国人に響くような宣伝方法を用いたことです。
のどを「守る」で中国人観光客アピール
中国の大気汚染は年々そのひどさを増しています。体調を崩す人も多く、特に呼吸器系の疾患を持つ人が増えています。
龍角散はこうした消費者心理に寄り添い、製品を使用することで花粉やほこり、乾燥からのどを「守る」ことができると宣伝して、中国人観光客の購入を促進しました。
神薬に選ばれてから、龍角散の売上高は変化し、2016年度から2017年度では135億円から151億円へと16億円もの成長を遂げました。
さらに、2019年3月期の売上げは204億円にも上ります。同年夏には中国の大手大衆薬メーカーの華潤三九(深圳市)と提携し、中国国内においても販売を拡大することを目指すことを発表しました。
【中国】日本の地方に「洗肺(シーフェイ)」しにくる中国人急増
2015年、訪日中国人による「爆買い」ブームの到来で、テレビでは春節特集一色になりました。中国春節では、爆竹を鳴らす風習があり、環境汚染などの問題により爆竹規制が設けられましたが、現在、PM2.5の数値が発表され驚きの結果が明らかになりました。 一方で2016年下半期頃から、訪日中国人のFIT(個人旅行)が徐々に増加し、日本の地方でしか味わえない「あるコト」が話題になりました。 今回は、訪日中国人のFIT(個人旅行)の地方インバウンドと中国PM2.5との関係性をひもといていきます。 ...
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訪日外国人はいまや製薬業界の重要顧客
中国人を筆頭として、日本の高品質な医薬品を購入したいと考える外国人観光客は多く存在します。いまやインバウンド消費は製薬業界にはなくてはならない一大マーケットです。
また一時期に比べて「爆買い」傾向は落ち着いたものの、中国人観光客の購買力は衰えていません。引き続き中国人消費者の需要を分析し、インバウンド市場に向けて販売促進の策略を練っていくべきでしょう。
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