東京オリンピックがテロの標的になる理由:米イランの緊張が日本のテロ対策と無関係ではないワケとは

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2月11日、イランでは1979年のイラン・イスラム革命から41年目を迎えました。テヘラン市内で行われた記念式典には、1月3日にアメリカ軍の無人機に殺害された革命防衛隊のソレイマニ司令官のポスターを手に多くの市民が集ったそうです。

米イランの深刻な対立の動向は、東京オリンピックを7月に控えた日本への影響も少なくありません。オリンピックは世界最大のイベントであり、テロ組織にとっては、目的を達成するために最も適した場所であると言えます。

過去にスポーツイベントで発生してしまったテロ事件を振り返り、国、民間事業者、個人、それぞれの立場から備えておくべき対策を解説します。

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米イランの対立関係、そのいきさつ

米イランの対立は、国と国との全面戦争はいったんは回避されたとみられます。しかし、イランによる報復として、民兵組織や過激派組織によるテロやゲリラ攻撃の可能性は完全には否定できず、今後の動向は予測が難しい状況です。

1979年に起こったイランによる米国大使館占拠事件から約40年もの間国交を断絶している米イランですが、対立関係が深まったきっかけの1つに、2002年にイラン核開発問題があります。

イランの核開発を中止させるために、アメリカが強力な制裁を課したため、イラン経済は一気に落ち込み国民の不満が高まっていきました。

そういった対立のなか、2009年に発足したオバマ政権がイランとの交渉に乗り出します。2015年には、イランが核開発を大幅に制限する条件で経済制裁を解除するイラン核合意を結び、戦争一歩手前の状況を救ったとされました。

しかしトランプ大統領の就任以降、アメリカはほぼ一方的に核合意から離脱しイランへの制裁を再開したため、イランも経済制裁に対抗すべく、核合意で定められた制限に従わず、ウラン濃縮活動を強化すると発表しました。

事件1:2020年1月3日 アメリカ ソレイマニ殺害

米イランの対立関係をさらに深めることとなった事件が、アメリカによるイランのソレイマニ司令官の殺害です。トランプ大統領は「これまで多数のアメリカや同盟国の人々を殺害してきたイラク軍指導者に対する報復攻撃」としています。

ソレイマニ司令官は長年にわたり、イランのイスラム革命防衛隊で、アメリカに対するさまざまな作戦の指揮を執ってきた人物です。イランでは英雄中の英雄と称されていたこともあり、国内での反米感情はさらに高まり、イラン側も報復攻撃を実施すると言明しました。

こういった緊迫した状況下で、過激派勢力「イスラム国(IS)」は、ソレイマニ司令官の殺害を歓迎しているのも注視すべき点です。ISにとっての敵同士が仲間割れで弱体化している現状は、ISが勢いづくうえで好条件と言えます。さらにソレイマニ司令官殺害後、米軍主導の国際有志連合はイラクでの対IS作戦を中止したうえに、イラク議会が駐留米軍の即時退去を求める決議を採択するなど、実際にISが勢力を再び拡大させやすい状況となりました。

事件2:2020年1月8日 イラン 米軍施設にミサイル発射

米国防総省は、イラク国内で少なくとも2か所の米兵駐屯施設付近が、弾道ミサイルで攻撃されたと発表しました。米兵に死者は出なかったものの、少なくとも11人が負傷したとされています。

イランのイスラム革命防衛隊は、今回のミサイル攻撃はソレイマニ司令官が殺害されたことに対する報復だと宣言しました。イランに対する攻撃行為の出発点となるあらゆる領土が標的になると、アメリカをはじめアメリカ軍に基地を提供したすべての同盟国に警告しています。

アメリカのトランプ大統領が「何もかも大丈夫だ!」とツイートする一方で、イランのザリフ外相は「我々はエスカレーションや戦争を望んでいない」とツイートしました。

東京オリンピックもテロの標的?過去に起きたイベントを狙うテロ事件

世界中の注目を集めるオリンピックは、過去にもテロの標的にされてきたことも事実です。これまでにスポーツイベントで発生した、テロ事件の例を振り返っていきます。

1996年 アトランタオリンピック 爆破事件

大会7日目の午前1時20分頃に、オリンピック公園の野外コンサート会場で爆破事件が発生し、2名が死亡、111名が負傷しました。現場では警備員が不審なバックパックを発見し、周囲の人々を立ち退かせはじめていた矢先に発生したとされています。

事件後は、その場での犯人逮捕にはいたりませんでしたが、会場およびアトランタ周辺の環状高速道路を閉鎖するなどの措置が取られました。

2013年 ボストン・マラソン爆弾テロ

第117回ボストンマラソンの競技中であった4月15日14時45分頃、ゴール地点付近で爆弾テロが発生しました。現場となったコプリー広場では2度爆発が発生し、観客が3人死亡、282人が負傷したと報じられています。

爆発で周辺の店舗の窓ガラスが粉々に吹き飛ばされるなど、大規模な爆弾テロとなりました。事件発生後すぐにマラソンは中止され、ボストン市警察は事前に決められていた対処計画に基づき、残っていたランナーや観客を避難させました。

さらに市民のためのホットラインを設置し安否情報の提供を行ったほか、Googleの安否確認サービス「Googleパーソンファインダー」による災害サービスも始動しました。

2017年 マンチェスター・アリーナ 爆発物事件

5月22日に英国のマンチェスターで開催されていた、アメリカの人気歌手アリアナ・グランデのコンサートで発生した爆発物事件です。公演終了直後で観客が帰り始めた22時33分頃、会場のマンチェスター・アリーナのロビー付近で爆発が発生しました。

場内には煙が上がり、コンサートの観客らと実行犯を含む計23名が死亡、少なくとも120名が負傷したと報じられています。

爆発により行き場を失った子どもたちのための一時的な避難所として、会場近くのホテルを開放するなどの対策が取られました。

日本政府のテロ対策、個人でできるのは「情報収集」

このように海外では、オリンピックをはじめ大規模なイベントがテロの標的になりました。

海外の事例をふまえ、東京オリンピックを控えた日本に万全の対策が求められます。今後求められるオリンピックに向けた、テロ対策について解説します。

日本政府のオリンピックに向けたテロ対策強化策

2015年3月に東京都は、東京オリンピック・パラリンピックの開催決定を受け、テロ対策の必要性から「国民保護計画」を策定以来9年ぶりに改訂しました。テロに強いオリンピックを目指すとして、「テロに対する情報収集の実施」「東京都大規模テロ等対処マニュアルの作成」「テロ対策東京パートナーシップ推進会議の活用」の3つの対策を掲げています。

すべての対策は官民連携によるものとし、平時からテロ情報の収集を行うことはもちろん、「テロ対策東京パートナーシップ推進会議」などを活用し、東京都・警視庁などの関係機関・民間事業者との間でテロ発生の可能性や犯行予告などの情報共有に取り組みます。また、テロの種類に応じた初動対処の手順を明確化するための、マニュアルも整備するとしています。

民間事業者のテロ対策「ソフトターゲットテロ」も想定

日本政府が掲げるテロ対策が官民連携を前提としているとおり、民間事業者にとっても、情報の収集と活用は重要な役割を果たすといえるでしょう。

テロ攻撃の傾向や実例の情報は、ニュースや欧米シンクタンクなどが公開している情報からも収集可能です。

また昨今では、テロの標的が行政組織ではない非武装の市民を狙ったソフトターデットテロも多発していることから、標的になりやすい観光地やショッピングセンター、交通機関などを対象に、日本政府は「ソフトターゲットにおけるテロ対策のベストプラクティス」を公開しています。

民間事業者は収集した情報から、自分たちの事業が被害や影響を受けるであろうテロ攻撃について分析し、結果に基づいた対策の検討や訓練の実施が求められます。さらにテロ発生時の緊急対応方針や手順を明確化することで、よりテロに強い組織づくりにつながるでしょう。

個人としてできること

個人レベルでできるテロ対策の1つとして、国民保護に関する国の基本方針や、関連する「緊急情報ネットワーク(Em-Net)」「全国瞬時警報システム(Jアラート)」などのインフラを理解しておくことが大切です。

「テロ遭遇時に生き延びるための10ステップ」として、日本防災教育訓練センターが緊急時の対策を紹介しています。

日ごろから意識すべきは、人が多く集まる場所に行く際は、一番早く外に出られる、幅が広い手動で開くドア出口を確認しておくことです。

万が一、テロが発生してしまい身の安全を確保するには、逃げることが効果的です。迷わず逃げるための行動を即座に取ることが身の安全につながります。

何が起きているのかを理解しようとして、思考が停止したり何も決断できないままパニックになったりしますが、脱出以外は考えず、事前に確認した最も安全な出口から逃げることが重要です。

東京オリンピックのテロ対策はAll Japanで

今もなお続く米イランの緊張関係は、けっして他人事ではありません。ISなどのテロ組織は、敵同士が仲間割れをしている状況を勢力拡大のチャンスと捉えるとの見方もあります。

日本においても、政府・自治体のみならず、民間企業でもテロの危険性を認識し対策をすすめることがオリンピックを無事成功に導くための鍵となるでしょう。

また日本人だけでなく、オリンピックに参加する選手や観戦のために訪日する外国人にとって、少しでも安心できるAll Japanでのテロ対策も同じく重要です。多言語化など、訪日外国人が万一の場合でも困らない環境の整備が、オリンピックを前に求められているといえるでしょう。


<参照>

・NHK:アメリカ vs. イラン(1)なぜ対立するの?

・JBpress:ソレイマニ殺害で"戦争再開"に米軍内でも疑問の声

・Newsweek:トランプがイラン司令官殺害を決断した理由は、石油と経済

・BBC:【解説】ソレイマニ司令官殺害 なぜイスラム国に朗報なのか

・BBC:イランの選択肢は ソレイマニ司令官を殺害され

・BBC:イラクの米軍基地に弾道ミサイル攻撃 イランが司令官殺害の報復と宣言

・ニュートンコンサルティング リスク管理Navi:オリンピックテロを想定した東京都の国民保護計画

・ニュートンコンサルティング リスク管理Navi:2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて策定された西武のテロ対策計画と民間事業者の役割

・一般社団法人日本防災教育訓練センター:テロ攻撃で生き延びるための10ステップ

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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