新型コロナウイルスの感染拡大は旅行業界に甚大な影響を及ぼしています。
世界中で規制が広がり、国境を超えることはおろか、国内の移動も大きく制限を受けるようになりました。人が動くことで成り立っていた旅行業界には今、最新のデジタル技術を活用した新しいビジネスモデルの創出が求められています。
実際に多くの旅行会社・旅行代理店では、コロナ禍を機にデジタルトランスフォーメーションによる事業変革が積極的に進められています。
今回はデジタルトランスフォーメーション(DX)とは一体なにか、旅行業にできるデジタルトランスフォーメーション、実際の事例を紹介します。
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デジタルトランスフォーメーション(DX)とは
AIやIoT、VRや5Gなどさまざまな最先端デジタル技術が生み出される中、企業にはそれらを活用したビジネスモデルの変革が求められるようになりました。新しい技術を適用化することによる製品やサービスの改革も促進されています。
デジタルトランスフォーメーションによって、特定の分野や組織内のみで最適化されていたシステムが社会全体にとって最適なものへ変貌することが予想され、期待が高まっています。
デジタルトランスフォーメーションの背景
デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)は、「ICT(情報通信技術)の浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が、2004年に提唱しました。
2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を取りまとめたことを契機に、日本でもその概念が広がり始めます。
同ガイドラインの中では、以下のようにより明確な定義が示されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
デジタライゼーション(デジタル化)との違い
ICT技術の発達に伴って、「デジタライゼーション」という言葉を耳にすることも多くなりましたが、デジタルトランスフォーメーションとの間には明確な違いがあります。
前者は、デジタル技術を適用化してビジネス業務の効率化を図ったり、生活の向上を実現したりすることを目的とします。最新のデジタル技術を活用することで既存のシステムをより便利にします。
他方、デジタルトランスフォーメーションは、IoTやAIといった最先端のデジタル技術を駆使し、今までに無いビジネスモデルを創り出すことを指します。つまり、デジタライゼーションの目的がデジタルトランスフォーメーションだと理解できます。
デジタルトランスフォーメーションの事例
デジタルトランスフォーメーションの主な事例には、サービス向上など顧客目線のものと、業務の効率化を図るものとがあります。
前者の例としては、ECサイトのamazon.comが挙げられます。インターネット上にプラットフォームを構築し、場所や時間を問わず好きな商品を注文できるという新たなスタイルを創出しました。
また、トライグループとギリア株式会社が共同開発した「トライ式AI学習診断」も、その例の一つです。生徒の学力を網羅的に測定することで、学習効率の飛躍的な向上を導きました。
後者の例としては、三菱電機が考案したリモートサービス「iQ Care Remote4U」が挙げられます。顧客の稼働工場、データセンター、三菱電機サービスセンターがそれぞれIoTでつながりあうサービスを実施したことで、現場の状況を効率的に把握でき、迅速な対応が可能になりました。
旅行業のデジタルトランスフォーメーション
新型コロナウイルスの感染拡大は早くから観光業に大きな影響を及ぼしています。こうした中、デジタル技術を有効活用して新たなビジネスモデルを構築していこうとする試みが始まっています。コロナ禍での旅行需要の落ち込み
新型コロナウイルスの感染症拡大は旅行業界にも大きな影響を及ぼしています。
日本旅行業協会が実施した3月期の調査によって、国内旅行・国外旅行共に10~12月から低下が始まっていたことが明らかになりました。海外旅行については、中国旅行に留まらず各方面に影響が出ています。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う旅行の中止や延期は未だに広がりを見せており、団体旅行、個人旅行とも低下が続いています。新型コロナウイルスが終息するまで積極的な対応はできない状況であり、従来の旅行に捉われないデジタルを活用した新しいビジネスモデルが必要とされています。
旅行業にできるデジタルトランスフォーメーションとは?
新型コロナウイルスの感染拡大が旅行業界に壊滅的打撃を与える中、グーグルの「ストリートビュー」を使ったバーチャル・ツーリズムが注目を集め、大手企業もバーチャル・ツーリズムに参入し始めています。
デジタルトランスフォーメーションの推進にあたっては、デジタル技術に対する高い理解度をもった人材の確保や法制面の整備も必要となります。外部人材の登用や権限の委譲、消費者保護の観点からビジネスに様々な制約を課している旅行業法の見直しなどが求められるということです。
他にも、旅行業界で培われたノウハウを有効活用することで、異業種との連携を見据えた観光プラットフォームの構築に大きな期待が寄せられています。
旅行業界のデジタルトランスフォーメーションの例
デジタル技術を駆使したバーチャル・ツアーやライブストリーミングイベントには自宅から無料で視聴できるものが多くあります。そして、ロックダウン中の認知度向上を図り、コロナ禍収束後の業績回復を期待する企業が世界中で見られるようになりました。JTBが進めるデジタルトランスフォーメーション
JTBは訪日外国人向けのスマートフォンアプリである「JAPAN Trip Navigator」を開発しました。
宿泊やツアーの予約機能や観光情報の提供など旅行客の多様なニーズに応じるとともに、AIのチャット機能を活用した地域ごとの情報発信などが可能です。ユーザーの行動データを詳細分析してサービスにフィードバックしたり、自治体と連携したより地域的な観光情報を掲載したりすることもできます。
ほかにも、RPA(Robotic Process Automation:定型業務を自動化して生産性向上を図る取り組み)の導入により接客の効率化を図るほか、ディスプレイを活用したリモート接客も展開しています。
トリップアドバイザーがVR旅行を提供
トリップアドバイザーを母体とするViatorは協業する小規模なツアーオペレーターを支援するため、バーチャル旅行キャンペーン“#RoamFromHome”を立ち上げました。
有料コンテンツの全売上は提供元のツアーオペレーターに寄付されます。100以上の体験が提供されており、無料コンテンツも含まれています。現在は英語のみでの提供ですが、順次多言語で対応していくことが予定されています。
また、旅行ガイドブック出版社であるロンリープラネットは今月、アパラチア山脈のバーチャル・ハイキングが楽しめるアプリを発表しました。
他にもコロナ禍を機にバーチャル・ツーリズムに参入する企業は多く、世界中で規制が続く中、旅行業界ではこの効用に対する期待が高まっています。
「観光DX」で顧客に新たな旅行体験を
デジタルトランスフォーメーションは、90年代の情報通信革命に次ぐ第4の産業革命ともいわれています。AIスピーカーやIoT、VRやキャッシュレスなど、私たちの日常生活も既にデジタル技術によって大きな変化を遂げており、その勢いは今後も留まるところを知りません。
ビジネスの世界でも、デジタルテクノロジーの導入は今や経営改革の大きな柱となりました。
新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために、人の移動が制限を受け、旅行業界は大きな打撃を受けています。そのような中で、最新のビジネス技術を活用することで、今までにはない新しい旅行スタイルや経営形態を創り出している企業が、世界各地で注目を集めています。
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