コロナショック、観光業へのダメージは世界で「290兆円」業界の弱み浮き彫りに…今できる対策事例とは

公開日:2020年05月22日

世界中の人々から自由の一部を奪った新型コロナウイルスによって、観光業界は大幅な収益の減少や雇用の喪失、休業など大きな被害を受けています。

連日のように報道される新型コロナウイルス関連のニュースには、観光業従事者の不安の声も多く含まれています。

他の業界に比べ、観光業で甚大な影響が出ている理由はどういったところにあるのでしょうか。観光業従事者以外にはあまり知られていない影響の理由と実情を解説します。

そして観光業以外の企業でも参考になる、収束前の今からでも取り組める施策を、とあるサッカーチームと企業の事例とともにご紹介します。

新型コロナウイルスがもたらす観光業への影響

新型コロナウイルスが世界の観光業界へ与える影響は計り知れません。

実際にどの程度の影響が出ているのかを、観光業界から上がっている声を含めて紹介します。

世界全体での損失

世界規模で活動する唯一の観光関連企業団体である世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、全世界で1億1,080万人の職が失われると予想しています。

この数字には、7,500万人近くのG20諸国に住む人々が含まれており、4月の時点で世界では既に毎日100万の雇用が失われていると発表しました。

WTTCでは、新型コロナウイルスにより世界の旅行・観光産業が被る経済損失は最大2.7兆ドル(執筆時点レートで約290.9兆円)と試算しており、甚大な影響が懸念されます。

日本国内の観光業界の声

政府の新型コロナウイルス対策本部は、3月にさまざまな産業の企業や個人に影響や意見、要望のヒアリングを実施しました。

旅行業界では、全国旅行業協会(ANTA)の副会長で全観トラベルネットワークの代表取締役社長である近藤幸二氏が、会員向けに実施した緊急調査結果を公表しました。

そのなかで、現状が続いた場合に資金繰りがどのくらい持つかという質問に関し、4割が2~3か月3割は3~6か月と回答しました。

定期航空協会の会長を務めるANA ホールディングス代表の平子裕志氏は、旅客数が1ケタ台の便も散見されるほど航空業界は危機的な状況にあると述べました。

2020年5月までの減収見込みは、リーマンショック発生時の約3,000億円を超える約4,000億円以上となっており、今後さらに拡大すると予想しています。

バス業界からは日本バス協会の中村靖氏が、貸切バスの運送収入減の状況について2020年3月は前年比79%ダウン、4月は64%ダウン、5月は55%ダウンするとの見込みを提示しました。また3月のキャンセル数やキャンセルは3月中旬時点で1万9,259件となり、被害額は19億9,552万円にも上る見通しも明らかにしています。

SARSやMARSによる影響との違い

MERS(中東呼吸器症候群)の際は、日本の旅行業界は流行していた韓国の代わりに台湾をプロモーションするといった対応をしました。しかし新型コロナウイルスは世界中に感染拡大しており、そのような誘導ができない状態にあります。

観光業界は新型コロナウイルスが一刻も早く収束し、需要が回復することを首を長くして待ち望む一方で、需要が一気に回復した場合にホテルやバスが確保できないなど、回復後の供給不足を心配する声も上がっています。

観光業へのダメージが大きい理由

国内を含め、海外から渡航制限が敷かれている状況は、観光業に大きな打撃を与えています。しかし、観光業を苦しめているのは、移動制限だけではありません。

世界の観光業界を窮地に追い詰めているその他の要因を解説します。

1. キャッシュフロー・手元資金の少なさ

全国旅行業協会(ANTA)の有野一馬専務理事は、もともと業界自体の収益性が低く、手元資金が薄いことを指摘しています。

国際航空運送協会(IATA)では、企業活動や財務活動によって実際に得られた収入から、外部への支出を差し引いて手元に残る資金の流れを表すキャッシュフローについて言及しています。

このキャッシュフローへの言及に際し国際航空運送協会(IATA)は、新型コロナウイルスが流行する以前にデルタ航空やユナイテッド航空を含む国際航空会社が保有していたキャッシュフローが、平均2ヶ月未満分であったことを述べています。

対してアップル社は6年分をカバーできるキャッシュフローを有しており、観光業界の手元資金の少なさが明らかになりました。

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観光業界で行われている試みは、ほかの業種にも活用が期待できるものです。困難な状況が続いていますが、このような状況だからこそ、今できる取り組みを1つでも多く実践していくことが少しでも状況を改善する手掛かりになるでしょう。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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