2021年の東京オリンピック・パラリンピックや2025年の大阪万博など国際的な祭典の開催が予定されている中、新しい観光ビジネスやインバウンド需要に対応する実践的な人材を育む観光教育が必要とされています。
2003年に観光基本法が観光立国推進基本法に全面改訂されるまでは、観光学を学べる教育機関は多くありませんでしたが、近年では様々な教育機関で観光教育が行われています。
また、観光学は学術領域が多方面にわかれていることもあり、その教育も社会状況に合わせて変化を遂げています。
観光産業の主軸となる宿泊施設では、現場の人手不足や地方創生のノウハウ構築などの課題があげられています。
いまだ発展途上の観光産業の担い手を創出するために、学校教育における観光学の普及をはじめ、観光産業を担う経営人材、即戦力となる人材の育成をすすめる事業が講じられています。
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観光教育とは
2000年代初頭に日本において観光産業が注目され、今や観光業は日本の経済成長のための重要な産業として位置づけられています。
観光産業の発展のため、観光が持つ役割や地方創生に取り組む人材を育てる観光教育が注目されています。
観光教育とは
観光教育とは、観光が果たす役割について理解し、関心を持ち、地域資源の魅力を自ら発信できる人材育成を目指した教育を指します。
2003年に小泉内閣が観光立国宣言を行い、観光基本法が観光立国推進基本法に全面改訂されたことを契機に、観光が21世紀における日本の重要な政策の柱として位置付けられました。
それまでは観光学を学べる教育機関は少なかったものの、現在は多くの大学、短大、専門学校、高等学校で観光関連の教育が行われています。
大学での観光学系カリキュラム
インバウンドや地方創生など観光における課題が注目されている昨今、観光系の大学・学部・学科が新設され、高等学校でも、観光関連学科・コースが編成されています。
観光教育の学問領域は、経営学、経済学、言語学、文化人類学などと学際的です。
観光学は、比較的最近になって教育として焦点をおかれたほか、学術領域が多方面にわかれており、実務的な観光教育のニーズもあるため、社会状況に合わせ進むべき方向性を模索していく段階といえるでしょう。
学校教育における観光庁の取り組み
観光庁は、子どもたちが上述したような観光が担う経済効果や地域振興としての役割を学び、観光資源の魅力を発掘、発信できる力を育めるよう学校教育の現場において観光の視点を取り入れたプログラムの開発に力を注いでいます。
例えば、教育関係者向けに、学校教育の現場において観光教育を実践する意義や効果、また、教える側のガイドラインや授業の仕方の参考になる情報をまとめた動画である「観光教育ノススメ」を公開しています。
この動画では人口減少が進む中で経済成長を維持するために有効とされる「交流人口の増加」の解決手段として観光が重要であるとした上で、沖縄県や秋田県、福島県の実践を事例にケーススタディできる内容となっています。
観光庁は、その他モデル授業の構築や実証、勉強会やシンポジウムの開催などにも取り組んでいます。
観光業に関わる人材・育成における課題
観光業に関わる人材育成が注力される中で、観光産業の現場である宿泊施設では、数値に基づく経営が行われていないことや、自ら地域及び施設の魅力を発信するノウハウや実行力の不足、そして人手不足が課題となっています。
宿泊旅館経営者の課題
観光庁が平成29年に公開した「観光産業における人材育成をはじめとした課題と今後の対応について」では、観光産業の主軸である旅館経営者の課題は大きく2つあるとしています。
1つ目は、経営手法を経験や勘に依存していることです。宿泊業は、家業として経営を受け継ぐ場合が多く、管理会計を導入していないなど、調査分析に基づく経営が行われていない旅館が多いとしています。
2つ目は、ターゲットを日本人に設定し、集客を旅行会社や団体旅行に依存していることです。
宿泊施設が自ら施設のPRをすることが少なく、外国人受け入れへの意識も低いことで国内海外問わず情報発信力が弱いとしています。
また、旅行形態が団体旅行から個人旅行にシフトしている中で、個人客に向けたターゲットの絞り込みが不十分であることもあげています。
人材不足
同資料では、観光産業の人材不足についても述べられており、帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」において、従業員が不足している上位10業種の第4位が旅館・ホテルであり、観光産業の現場は人手不足の課題に直面していることがわかります。
また、公益社団法人日本観光振興協会が行ったアンケート調査によると、インバウンド誘致を促進するための組織として注目されているDMOにおいても、人材不足は大きな問題であるとしています。
インバウンド誘致へ必要性増すDMO 課題は「人材確保」に:観光庁のアンケート調査から把握できるDMO内部の実態とは
さまざまな関係者と協業しながら魅力的な観光地域づくりを推し進め、地域の「稼ぐ力」を引き出す組織であるDMO。 広域連携DMO、地域連携DMO、地域DMOの3種類に分かれており、現在日本国内には計123ものDMOが存在しています。近頃の訪日外国人観光客の急増により、インバウンド誘致を促進するためにもDMOの必要性は増してきていますが、実際に組織として運営していくとなると、未だに多くの課題が存在している模様です。公益社団法人 日本観光振興協会(*)が行ったアンケート調査によると、財源に関する問...
観光業界に求められる人材と観光庁の支援
観光庁は、観光産業を日本の成長の一翼を担う産業であるとし、より高度な観光立国となるために、観光産業における人材を「観光産業をリードするトップレベルの経営人材」「観光の中核を担う人材」「即戦力となる地域の実践的な観光人材」の3層構造にわけて育成する必要があるとしています。
観光産業をリードするトップレベルの経営人材
上述した3層構造の内、「観光産業をリードするトップレベルの経営人材」の育成施策においては、観光MBAの設置や観光産業の強化、発展を推進する優秀な経営人材の育成や強化に向け、産学連携による人材育成事業の実施をするとしました。
観光MBA(Master of Business Administration)とは、観光経営科学のことで、ここでは、観光産業や地域行政に携わっている人や、これらの分野で事業を起こそうと考えている人を対象とし、観光事業の経営能力を育成しています。
観光庁は、観光MBA協議会およびワーキンググループの開催や、国立大学と連携し観光産業における観光MBA人材の活用等に向けた調査事業を行い、平成30年には、一橋大学と京都大学で、観光MBAプログラムが開学されました。
この取り組みにより、観光産業の発展と、MBA保持者のキャリアモデルが観光産業における人材意欲の発現の機会とされ、MBA人材活用の現状、課題整理がまとめられました。
観光の中核を担う人材
「観光の中核を担う人材の育成」については、旅館やホテルなど宿泊施設をはじめとした地域の観光産業を担う中核人材の発展的な育成が重要として、大学における教育プログラム構築や、産学連携による持続可能な仕組みづくりについての支援を行うとしました。
産学連携の取り組みとして、中核人材の育成事業を大学へ委託し、参加大学をひとつの共同体として束ね、観光業界からの人材派遣、観光庁からの講師派遣などにより、全国での旅館ホテル経営人材育成事業の継続実施を展開しました。
また、事業の継続を目的として、受講者へのフォローアップ調査、全体会議への自走化校関係者の参加促進なども行っています。
観光庁、観光産業の人材育成を行う大学支援を開始
目次観光立国を目指して観光産業の人材育成を行う大学を募集教育プログラム開発や運営、検証の支援観光立国を目指して観光庁は平成31年1月7日(月)、「産学連携による観光産業の中核人材育成・強化事業」の募集を開始しました。平成31年度予算事業として、観光産業の人材育成に力を入れていきます。産学連携による観光産業の中核人材育成・強化事業観光産業の人材育成を行う大学を募集同事業は、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」における新たな目標として、「観光産業をリードするトップレベルの経営人材」、「観...
即戦力となる地域の実践的な観光人材
「即戦力となる地域の実践的な観光人材」育成においては、旅館、ホテル旅行会社、交通機関、DMOなどおける観光産業の人手不足への対応として、観光産業を志望する学生、働く意欲のある女性・シニア等の活用、外国人の登用といったアプローチが検討されました。
令和元年度の取り組みとしては、観光庁より採択を受けた3地域に対し、地域の連絡調整をする事務局の設置や、自立持続可能なノウハウの構築、全国セミナーでの取組の横展開などにより、3地域の人材の確保や育成事業を支援しました。
観光教育でインバウンド人材の育成を
観光産業は人口減少が進む中で経済成長を維持するための「交流人口の増加」の解決手段として有効とされており、観光がもたらす経済効果やインバウンド需要への対応力からも観光業を担う人材の育成に力が注がれています。
観光業の主軸となる旅館では、家業として経営を受け継いできたことによる課題や人手不足の問題があげられ、これらを解消するためにも観光人材の発掘や育成は重要です。
観光庁は、人材を「観光産業をリードするトップレベルの経営人材」「観光の中核を担う人材」「即戦力となる地域の実践的な観光人材」の3層構造にわけて育成するとしており、今後もこのような事業や支援を展開していくことで、日本の観光産業における国際競争力をさらに高めていくことが予想されます。
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