コロナ禍によって我々の生活は一変し、旅行に何を求めるかといった価値観も変化していきました。
そして、観光客を受け入れる側である事業者や自治体もコロナ禍を経たことによって、従来の戦略からの脱却を求められたといえます。
本記事では、コロナ禍を経て活発に議論されるようになった旅行形態や、滞在のあり方を表す4つの言葉について改めて整理します。
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コロナ禍で注目される新しい旅行の形
新型コロナウイルスの感染拡大により、世間では「新しい生活様式」の実践が求められるようになりました。
例えば、密集、密接、密閉の「3密」を避けることや、テレワークやオンライン会議の推進などが挙げられます。新しい生活様式の実践は、旅行の形にも変化をもたらしています。
今回は、コロナ禍で生まれた、または注目されている新たな旅行の形として、ステイケーション、ロングステイ、アンダーツーリズム、ワーケーションの4つの用語の意味や事例を解説します。
1. ステイケーションとは
ステイケーションとは「滞在」を意味する「ステイ」と、「休暇」を意味する「バケーション」を組み合わせて作られた、アメリカ発祥の造語です。
具体的には、飛行機や新幹線には乗らず、近場のホテルなどで休暇を過ごすことを指します。
交通機関や観光地における人との接触を避けながらも、旅行の非日常感を楽しめるとして、コロナ禍で再注目されている旅行の形です。
日本でも、各宿泊施設がステイケーションの需要獲得に向けた取り組みをしています。
事例として、ザ・ペニンシュラ東京では2020年12月20日まで、ステイケーション宿泊プランを用意しています。5,000円分のスパクレジットや朝食など、全8種類の特典を受けられる内容です。さらに、皇居外苑散策ツアーやフード体験など、全8種類のアクティビティが用意されているほか、2泊目以降を50%オフで滞在できるなど、連泊に繋げる工夫も特徴的です。
ステイケーションとは
ステイケーションとは、新幹線や飛行機で移動せずに自宅近郊のホテルなどで旅行気分を味わう週末の過ごし方です。滞在するという意味の「ステイ」と休暇の意味の「バケーション」を合わせた造語として徐々に浸透しており、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため積極的な遠出がしにくい今、新しい形の旅として注目されています。本記事では、ステイケーションが今人気の理由や、各ホテルの具体的な取り組みを紹介します。インバウンド対策にお困りですか?「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集...
2. ロングステイとは
一般財団法人ロングステイ財団は、国内と海外のケースに分けて、ロングステイの定義を示しています。
日本国内のロングステイは、通常の生活拠点と異なる地域に1週間以上滞在したり、繰り返し滞在したりしながら、滞在地域の文化とのふれあいや住民との交流を深めるライフスタイルを指します。
海外におけるロングステイは、生活の源泉を日本に置きながら、1地域に約2週間以上などの比較的長期間滞在し、その土地の文化や生活を体験する余暇のスタイルを指します。
ロングステイを定義する際の要素として、以下の5つが挙げられます。
- 1週間以上の比較的長い間の滞在であること
- 目的を余暇とすること
- 非日常空間における日常体験を目指すこと
- 生活に必要な設備が整っている滞在先を賃借または保有すること
- 海外ロングステイの場合、生活資金の源泉は日本にあること
ロングステイとは?定義・地域へのメリット・インバウンド誘致事例を紹介
旅行についてさまざまなスタイルが誕生している中、注目されているのがロングステイです。ロングステイ(長期滞在型休暇)は、長期間滞在することでその土地で生活するように滞在する旅のスタイルを指します。滞在者にとっては費用を抑えられるなどのメリットがある一方で、地域にとってもリピーターが増えることや経済の活性化などのメリットがあります。本記事ではロングステイの特徴や定義について触れながら、そのメリットやロングステイにより観光客の誘致に成功した事例について解説します。関連記事「観光×仕事」のロングス...
アフターコロナのインバウンド対策としても注目
欧州豪を中心に、訪日外国人観光客にも人気の旅行形態で、2018年には154万人以上が2週間以上のロングステイを経験しました。
ロングステイは長期滞在になるため地域経済の活性化が期待できるほか、地域の魅力を伝えられ、リピーターの獲得に繋げることも可能です。
政府はアフターコロナのインバウンドのターゲットとして「富裕層」を挙げており、インバウンドの長期滞在と消費拡大を目指しています。
インバウンドの富裕層の取り込みや長期滞在の受け入れ体制を強化する上で、施設の整備やコンテンツ作りを図っていくとしているため、アフターコロナのインバウンドに向けたロングステイの推進にも注目が集まります。
3. アンダーツーリズムとは
アンダーツーリズムとは、大都市や混雑する観光名所ではなく、あまりまだ注目されていない観光スポットや穴場スポットといったローカルな場所を旅行することを意味します。
近年話題となっている、観光地のキャパシティを超えた観光客が訪れることで発生する「オーバーツーリズム」による住環境への影響や、観光客へのストレスを緩和するための対策として注目されています。
コロナ禍では、観光地における「三密」を避ける意味でも、アンダーツーリズムが推進・注目されている状況です。混雑したスポットを避け、穴場スポットを訪れるアンダーツーリズムは、アフターコロナに向けてますます浸透していくと考えられます。
アンダーツーリズムとは?オーバーツーリズム問題で生まれた新しい旅行形態・地域へのメリットや推進事例を紹介
アンダーツーリズムとは、これまで有名な観光地として注目されていないローカルな場所を旅行することを指しています。有名LCCや民泊など低価格で旅行ができるサービスが続々と提供され始めたことにより、観光地に多くの観光客が集まる「オーバーツーリズム」が問題視されていた昨今、それを解決し、持続可能な観光開発につながるとされる「アンダーツーリズム」という考え方が注目を集めています。この記事では、アンダーツーリズムの定義や、そのメリット、アンダーツーリズムを推進している観光地の取り組みについて紹介します...
アンダーツーリズムに取り組む京都市・インバウンド対策にも
日本国内でも特にオーバーツーリズムが深刻な地域とされている京都では、観光客の訪問先を分散させるために「とっておきの京都~定番のその先へ~」というプロジェクトに取り組んでいます。
京都市周辺の伏見や大原、高雄、山科、西京、京北といった6エリアの周辺で楽しめる体験型観光コンテンツを造成し、「隠れた名所」として観光客に発信するプロジェクトです。
2020年3月からは、本プロジェクトの一環として、インバウンド向けの「里山コミュニティ・ツーリズム事業」を開始しました。
京北エリアにて、農家民宿の滞在者に対して、電動クロスバイクによるサイクリングやトレッキングといった里山体験ツアーや、木こりや農家体験ができる里山スタディツアーなどの体験プログラムを提供しています。
このように、有名観光地としてオーバーツーリズムの問題が顕著な京都市の周辺地域の魅力をPRし、混雑緩和と地域の魅力発信に繋げるという、アンダーツーリズムの推進が活発化しています。
4. ワーケーションとは
ワーケーションは、英語のWork(仕事)とVacation(休暇)の造語となっています。名前の通り、普段のオフィスを離れて、リゾート地や地方などで働きながら休暇も取得したり、休暇と合わせて旅先で仕事も行うスタイルを意味します。
7月に当時の菅官房長官が、新型コロナウイルスの大きな打撃を受けた観光需要を喚起する目的で、休暇を楽しみながらテレワークで働く「ワーケーション」の普及を目指す方針を発表しました。それに伴い、ホテルのWi-Fi環境の整備や企業の休暇分散、休暇取得促進の支援を進めるとしています。
現在は、多くの自治体がワーケーションの誘致に取り組み始めました。長野県は「信州リゾートテレワーク」と称し、長野県でのワーケーションをPRしています。ワーケーションに関心がある企業を対象に、長野県でワーケーションをする魅力やメリットを発信しています。
また、旅行者がワーケーションを実践する前に不安に思うこととして、時短はできても業務効率が悪い、時間内に業務が完了せずに新たなストレスがかかる...といったことが挙げられるでしょう。そんな不安に対して、信州リゾートワーク公式サイトではモデルプランを用意し、成果を出す仕事とアクティビティを両立させる時間の過ごし方を提案しています。
ワーケーションとは?誘致に必要なもの・取り組み事例3選
「ワーケーション」とは、仕事と休暇を同時に行う新しい働き方で、「ワーク(Work・仕事)」と「バケーション(Vacation・休暇)」を組み合わせた造語で、働き方改革や地方創生につながると期待されています。この記事では、ワーケーションとは何か、都市部から人を誘致するにあたっての課題を解説します。インバウンド対策にお困りですか?「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!訪日ラボに相談してみる目次ワーケーションとはワーケーション...
コロナ禍で広まる新しい旅の考え方
コロナ禍により広まった「新しい生活様式」の実践に伴い、ステイケーションやロングステイ、アンダーツーリズムといった新しい旅のスタイルをはじめ、ワーケーションといった新しい働き方に対する考え方が浸透しはじめています。
その一方で考え方自体は広まっているものの、実践している人が増えているかというと、未だ発展途上といえるでしょう。コロナ禍によって旅行や働き方への価値観の変化は急速に進んでいます。観光事業者、及びインバウンド事業者がコロナ後の世界で発展していくためには、その変化を感じ取り、先回りして旅行者に提案・啓蒙していく必要があります。
来るべき観光需要、インバウンド需要の回復に向けて、今回紹介した4つの用語の意義を整理しておきましょう。
菅首相、成長戦略会議にデービッド・アトキンソン氏を起用:今後の動きを過去の発言から予想
菅首相は、成長戦略の推進に向けて新たに設置した「成長戦略会議」にて、民間有識者として元金融アナリストで「新・観光立国論」の著者である、デービッド・アトキンソン氏を起用しました。インバウンド政策に意欲的な菅首相は、2013年からアトキンソン氏との交流があったとされており、今後のインバウンド戦略に注目が集まります。そこで今回は、成長戦略会議の概要をふまえ、菅首相とアトキンソン氏の過去の発言から、今後のインバウンド戦略の方向性について予想します。インバウンド対策にお困りですか?「訪日ラボ」のイン...
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<参考>
・厚生労働省:新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例を公表しました
・一般財団法人ロングステイ財団:ロングステイとは
・観光庁:訪日外国人旅行者の長期滞在と消費拡大に向けて~「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」を開催~
・京都市情報館:【広報資料】「とっておきの京都プロジェクト」DMC支援制度による新事業 インバウンド向け「里山コミュニティ・ツーリズム事業」の開始について
・信州リゾートテレワーク:公式サイト
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