2021年観光白書徹底解説 4.日本の観光面での課題

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2021年6月15日、令和3年版(2021年)観光白書が発表されました。訪日ラボでは、全10回にわたりこの観光白書を基に説明しています。

第4回となる今回は、「第Ⅱ部第2章第1節 我が国の観光の特性と課題」について紹介します。

コロナ禍により大きな打撃を受けた観光業界ですが、日本の観光はコロナ前から消費傾向と雇用形態の2つの面から課題が指摘されていました。

今回は、コロナ禍によって生じた変化も含め、消費額、労働賃金、雇用者数などの数字から、課題を詳しく見ていきます。

本記事では、現在の日本が抱える課題を把握することで、今後求められる変化を予想し、柔軟に対応できるようになることを狙いとしています。

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消費傾向から見る日本の観光業が抱える課題

初めに、旅行需要や消費傾向から、日本の観光業が抱える課題を見ていきます。

観光白書では、国内旅行の宿泊日数の短さ、月ごとの消費額の変動などを日本の観光の特徴として挙げており、同時に課題でもあるとの認識を示しています。

《注目ポイント》

  • 国内旅行は1泊だけで半数を超えるなど宿泊日数の短さが課題
  • 訪日旅行と比較すると、国内旅行は1月ごとの消費額に偏りがある
  • インバウンドでは受入体制強化が大きな課題

宿泊日数の短さ:「1泊」が半数

観光白書では、日本の国内旅行の特徴のひとつに、宿泊日数の短さが挙げられています。

実際に、株式会社JTB総合研究所が2019年に発表した「進化し領域を拡大する日本人の国内旅行(2019)」の調査結果では、2015年から2018年までの国内旅行において、1泊旅行だけで半数を占めていること、2泊と合わせると全体の約8割になっていることが示されています。

日本国内の宿泊日数
▲日本国内の宿泊日数:株式会社JTB総合研究所

また、観光庁が2020年に発表した「旅行・観光消費動向調査 2019年年間値(確報)」からは、日本の旅行消費額の61%を日本人国内宿泊旅行が占めており、日本の観光業において最も大きい要素であることがわかります。

コロナ禍によって2020年以降は海外旅行への制限が続いていることから、日本人の国内宿泊旅行は今後しばらく需要が増加し、注目されることが予想できるでしょう。

2019年の旅行消費額とその内訳
▲2019年の旅行消費額とその内訳:旅行・観光消費動向調査 2019年年間値(確報)

一般的に、滞在日数が長ければ長いほど旅行客による消費機会は多くなると考えられます。そのため、宿泊日数は、客単価に直結するといえるでしょう。

国内旅行の消費額増加、それに伴う日本の観光業の消費額増加を考えると、現状のままでは宿泊日数は大きな課題だといえます。

なお、訪日旅行の宿泊動向については訪日ラボ別記事で紹介しています。

関連記事:インバウンド宿泊データ(宿泊旅行統計調査)

月別旅行消費額の偏り:消費額の差は最大1.9兆円

また、観光白書では、月別の旅行消費額に偏りがあることも改善すべき国内旅行の消費傾向であると指摘されています。

訪日旅行では年間を通じてほぼ一定の旅行消費があるのに対し、国内旅行消費額はゴールデンウィークのある5月とお盆休み等長期休暇がとれる8月に偏っています。

具体的な消費額としては、訪日旅行は12か月すべて3,000億円~5,000億円で推移していますが、国内旅行は、最も消費額が大きい8月(3.2兆円)と、最も消費額が少ない2月(1.3兆円)では1.9兆円の差がみられます。

月別の日本国内における旅行消費額(2019年)
▲月別の日本国内における旅行消費額(2019年):令和3年版観光白書

訪日旅行による消費動向は、コロナ禍前の2011年から2019年までの動向をまとめたものを訪日ラボで紹介しています。

関連記事:インバウンド消費データ(訪日外国人消費動向)

インバウンドに対する日本の観光業が抱える課題:受入体制の強化と地方への分散

これまで、国内旅行について日本の観光業が抱える課題を見てきました。コロナ禍によってインバウンドは停止状態にありますが、今後の再開を見据えると訪日旅行にもさまざまな課題が残存しています。

まず、各業者が取り組むべきは受入体制の強化であるといえます。

メニューやガイドなどのあらゆるコンテンツの多言語化、通貨が異なる国で決済をスムーズにするキャッシュレス決済への対応、訪日観光客の進行する宗教に配慮した施設やメニューの整備などが挙げられます。

また、国土交通省が2018年3月に発表した「地域のモビリティ確保の知恵袋2017」の巻末資料1によると、インバウンド消費では全ての地域に平等に消費が創出されていないことが課題としてあげられます。

その原因として訪日旅行では、ゴールデンルートへの集中などにより、地域間で消費額の差が生まれていると指摘しています。

ガイドなどの雇用創出といった地域内での経済循環を起こす起爆剤として、各地域の特色ある資源を活かして、地方においても訪日外国人客数を増やすことが求められると考えられます。

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雇用形態から見る日本の観光業が抱える課題

次に、観光業と密接に関連する宿泊業の労働実態について紹介します。

観光白書の中では、宿泊業について、賃金や労働生産性の低さ、離職率の高さなどが課題として挙げられています。さらに、コロナ禍による宿泊業の売上高経常利益率のマイナス傾向も問題視されています。

《注目ポイント》

  • 宿泊業の実態は「低賃金長時間労働」
  • 就業者数の減少や非正規雇用の比率が大きいことなどから、宿泊業の雇用は不安定な状態

低賃金と長時間労働:全産業平均よりも2割以上低い水準に

観光白書ではまず、宿泊業の低賃金、長時間労働について言及されています。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から観光庁が作成した資料によると、宿泊業の2020年の年間賃金(現金給与額(月額)×12+年間賞与その他特別給与額で算出しているもの)は、362万円となりました。

これは全産業平均よりも2割以上低い水準で、低賃金の中就労していることがわかります。

産業別年間賃金の推移
▲産業別年間賃金の推移:令和3年版観光白書

さらに、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から3年間の年間賃金をみると、3年間すべてにおいて宿泊、飲食サービス業の年間賃金が全産業の中で最も低いことがわかりました。

そうした中、総務省「労働力調査」より観光庁が作成した資料では、全産業の平均よりも宿泊業の就業時間は12時間長いことが示されています。

産業別サービス職業従事者月間平均就業時間(2020年)
▲産業別サービス職業従事者月間平均就業時間(2020年):令和3年版観光白書

宿泊業の月間平均就業時間は142時間で、就業時間が最も短いと示される飲食店の就業時間とは22時間の差が生じています。

前述の「年間賃金の推移」のグラフでは、年間賃金で比較した場合、400万円に届いていないという点で宿泊業と飲食店の差は見られませんでした。しかし月間平均就業時間を見ると、宿泊業のほうが飲食店よりも金銭面では労働対価が低いことが見て取れます。

2020年、就業者数が5年ぶりに減少:コロナ禍の影響も強く

また、就業者数という面でも宿泊業は課題を抱えています。

宿泊業における就業者数の推移
▲宿泊業における就業者数の推移:令和3年版観光白書

宿泊業における就業者数は2015年から2019年まで増加が続いており、4年間で10万人の増加が見られましたが、その1年後の2020年には6万人減少した59万人へと転じています。

就業者数が減少したのは2014-2015年以降で、5年ぶりの事となります。コロナ禍による観光停滞や五輪延期によって、見込んでいた宿泊需要が消失されたことが原因の一つと考えられるのではないでしょうか。

また低賃金、長時間労働問題は解消されたとはいいがたいため、これらの問題に早急に手を打つことが必要だと考えられます。

非正規雇用者比率の高さ:人材育成に課題

加えて、宿泊業の雇用形態に注目すると、雇用形態の不安定さがうかがえます。

産業別正規・非正規比率(2020年)
▲産業別正規・非正規比率(2020年):令和3年版観光白書

宿泊業の雇用形態については、全産業平均に比べ非正規雇用率が15%以上高い約54%となっています。

非正規雇用(派遣、パート、アルバイト)は、労働者、雇用者両方へのデメリットを持ちます。労働者にとっては各種保証や手当が希薄という点、そして雇用者にとっては、長期的な労働が保障されないため教育体制が不十分となり、人材育成が乏しくなるという点です。

今後日本において観光業界に注力していくためには、人材育成が必須であり、不安定な雇用形態による人材の流出を防ぐべきであると考えられます。

入職率、離職率の高さ:SDGsにも関心低く

さらに、雇用形態と関連して、入職率、離職率が他産業より高いことも課題であるといえます。

厚生労働省による2019年の「雇用動向調査」によると、宿泊業、飲食サービス業の入職率、離職率は全産業の中で最も高いことがわかりました。

産業別入職率・離職率(令和元年)
▲産業別入職率・離職率(令和元年):2019年(令和元年)雇用動向調査結果

入職、離職率が高いことはSDGs(持続可能な開発目標)の達成から遠のいているという面でも危惧されています。

立教大学観光学部の野田健太郎教授と、株式会社JTB総合研究所が2021年6月に発表した「観光産業におけるSDGsの取り組み推進に向けた組織・企業団体の状況調査」の調査結果では、観光業のSDGsへの関心の低さや人材不足が叫ばれています。

旅行業でSDGsに取り組む企業の割合は16.0%で業種別では最低となりました。

SDGsの観点から見ると、観光産業では自然環境への関心は高いものの、雇用・生産性の関心が低い傾向にあるということです。

生産性という面では、売上高経常利益率をみると、宿泊業はわずか0.2%となっています。これは全業種平均の4.8%からみても極めて低い水準であるといえるでしょう。

関連記事:観光産業のSDGsへの取り組み、「20.3%」と全業種で最も低く 人材・財源不足ネックに

日本の観光は消費、労働実態ともに課題あり

令和3年版観光白書より、日本の観光業は消費傾向、労働実態の両面で課題を抱えていることがわかりました。

消費面に関しては、訪日旅行が未だ停止状態にあることから、国内旅行の消費拡大が求められると考えられます。

観光白書内で指摘されていた課題から、長期滞在促進のためのコンテンツ開発や、これまでのいわゆる「閑散期」に観光客を誘致することなどが必要とされるでしょう。

また労働に関しては、長期的なメリットを考えて人材育成や雇用形態を見つめなおす事が求められると予想できます。

これらの解決策について、現在までの取組を続いての連載記事「【2021年観光白書徹底解説】5.観光業の体質強化・観光地の再生に向けた取組」で詳しく紹介いたします。

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<参照>
株式会社JTB:プレスリリース
株式会社JTB総合研究所:進化し領域を拡大する日本人の国内旅行(2019)
観光庁:「令和2年度観光の状況」及び「令和3年度観光施策」(観光白書)について
観光庁:旅行・観光消費動向調査 2019年年間値(確報)
厚生労働省:賃金構造基本統計調査
厚生労働省:2019年(令和元年)雇用動向調査結果 入職と離職の推移
国土交通省:地域のモビリティ確保の知恵袋2017~訪日外国人旅行者の地方誘客を支える交通施策~(巻末資料1)
日本航空株式会社:プレスリリース

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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