日本政府観光局(JNTO)によると、2024年上半期の累計訪日外客数は1,777万7,200人となり、過去最高を記録した2019年同期を100万人以上上回りました。
政府は2024年版の「観光白書」内でも、地方を中心としたインバウンド誘客として「消費額拡大・地方誘客促進」を重視した施策を進めており、今後さらなる取り組みの強化が見込まれます。
そこで本記事では、2024年3月に観光庁が発表した「世界的潮流を踏まえた魅力的な観光コンテンツ造成のための基礎調査事業 調査報告書」をもとに、日本の観光コンテンツに対するニーズやトレンドを詳しく解説します。
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旅行における「体験活動とイベント」にフォーカスした調査
日本の旅行ニーズやトレンドを把握するために、本調査では旅行にかかる費用を現地消費・宿泊費・移動費に分け、そのうち「現地消費」に限定。そして、土産物の購入や単純な飲食を除いた「コンテンツ型消費行動」に注目されています。コンテンツ型消費行動には、アウトドア・アドベンチャー体験や観光ツアー参加などの「体験活動」、祭りやイベントへの参加、スポーツ観戦などの「イベント」、テーマパークや観光施設への訪問を含む「施設訪問」がありますが、この調査では特に「体験活動」と「イベント」に絞って行われました。
次からは、調査で明らかになった観光のトレンドについて詳しく解説していきます。
グローバルな視点で見る、アフターコロナ観光の5つのトレンド
この調査では、グローバルな観光のトレンドを、以下の3つの傾向を加味して抽出しています。
- 国際機関やOTAなどが発表する観光・旅行トレンド・キーワード
- パンデミックによる短期的影響
- 体験全般に係る中長期の傾向
こうした条件下で調査した結果、以下の5つの主要なトレンドが抽出されました。
- ウェルネス
- ネイチャーアクティビティ
- 聖地巡礼
- イベント
- 生活没入
5つのトレンドに共通するのは、「イマーシブ」の要素です。イマーシブとは「没入型」という意味で、旅行者が特定の環境や体験に深く浸ることを指します。
この抽出結果により、旅行者がただ訪れるだけでなく、現地の文化や環境に深く関わり、より豊かな体験を得ることを求めている様子がわかります。
ウェルネスやネイチャーアクティビティでは自然や健康に没頭する時間、聖地巡礼やイベントでは、特定のテーマや出来事に没入する体験を得られます。生活没入では、現地の生活そのものを体験し、深い理解と共感を得ることができます。
このように「イマーシブ」な体験を重視することで、旅行者は一層豊かな旅行体験を得られるといえるでしょう。
関連記事:じゃらん、2024年の旅のトレンドに「イマーシブ体験」と「ナイトタイムエコノミー」を選出
では以下より、5つのトレンドについて詳しく解説します。
1. ウェルネス
ウェルネスツーリズムは、心身の健康増進を目的とした旅行です。リラクゼーションや健康増進プログラムなどによって旅行者は日常のストレスから解放され、リフレッシュできます。具体的な例として、ヨガリトリートやスパツーリズムがあります。ウェルネスツーリズムは単なる癒やしにとどまらず、「旅行を通じて健康を促進したい」「リラックスという贅沢」などへの根強いニーズを示しています。
また今回発表された資料によると、ウェルネス市場は2027年までに1,100兆円以上の規模に成長すると見込まれています。ウェルネス分野の中でも、特にウェルネスツーリズムは年平均で約17%の高成長が予想されています。
関連記事:ウェルネスツーリズムとは?健康を目的とした新しい旅、日本の取り組み
2. ネイチャーアクティビティ
自然を楽しむアクティビティへの関心が高まっており、エコツーリズムやアウトドアアドベンチャーなどが人気です。旅行者は自然の中での体験を求め、ハイキングやキャンプ、サイクリングなどのアクティビティに参加します。「気ままさ」「新しい発見の旅」を求める旅行者が多く見られるのが大きな特徴です。またネイチャーアクティビティに関連する市場は、業界全体の成長率を上回る成長率を見込んでいるといいます。
具体的には、トラベル&ツーリズムの市場全体の成長率は2022年から2022年にかけて年間平均成長率5.8%で成長する見込みであることに対して、ネイチャーアクティビティ関連の市場規模の年間平均成長率は次の通りです。
- アドベンチャーツーリズム:+19.5%
- エコツーリズム:+16.4%
- 野生動物観光:+7.9%
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3. 聖地巡礼
映画やアニメの舞台となった場所を訪れる聖地巡礼(Set-jetting)が、特に若い世代の間で人気です。具体例として、映画『君の名は。』の舞台となった場所などがあります。これは「アニメツーリズム」とも言われ、国内外からの観光促進として、国も推進しています。海外のトレンドを見てみると、聖地巡礼を意味する「Set-jetting」の検索需要が伸びているといいます。大手OTAやクレジット会社がこれを次なる旅行トレンドとして認定しており、今後も拡大が見込まれています。
聖地巡礼がトレンドとなっている背景要因として、今回発表された資料では動画配信サービスのグローバル化やコロナ禍による巣ごもり消費の伸び、SNSによるファン訪問意欲の掻きたてなどを挙げています。
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4. イベント
音楽フェスティバルやスポーツイベントなど、一度きりの特別な体験を求める旅行者が増えています。イベントへの参加は旅行者にとって忘れられない思い出となり、地域経済にも大きな影響を与えます。例として、2024年5月30日から4日間で開催された「ポケモンGOフェスト」(仙台市)では、仙台市内のホテルはほぼ満室に。経済効果は40〜50億円にのぼったとも言われています。
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今回の発表では、今後参加性・貢献性の強いイベントや唯一無二の体験ができるイベントが観光コンテンツとしての価値を高めていくと推測されます。
その背景には、所有から体験重視へとシフトした価値観や、コロナ禍を経てリアルのつながりへの欲求が増大したことなどが指摘されています。
資料では観光コンテンツとして有望なイベントの例と仮説として、徳島県の阿波踊りや青森県のねぶた祭などを挙げており、参加者としての臨場感や唯一無二の体験を享受し得る点を理由としています。
5. 生活没入
旅行先で現地の生活を体験することで、地域文化や歴史に深く関わる旅行スタイルが注目されています。地元の人々と交流し、その地域ならではの生活を体験することに価値を見出す旅行者が増えています。具体例として、農家に滞在して農作業を体験するアグリツーリズムがあります。関連記事:アグリツーリズムとグリーンツーリズムの違い | 農業×観光・日本の農泊・取組事例3選
生活没入の市場が拡大している背景として、「ツーリズムの日常化」と「日常のツーリズム化」の動きが同時進行していることが挙げられています。
- ツーリズムの日常化:働き方・暮らし方の変化で、これまで非日常的な行為だったツーリズムが日常に接近
- 日常のツーリズム化:従来は目立たなかったが、地域の生活や日常に根差した資源がツーリストからの注目を集めている
コロナ禍による働き方の変化やSNSの情報発信・拡散の活発化も背景に、今後ますます生活没入に関連する市場は拡大が見込まれています。
なぜ今、「イマーシブ」が求められるのか
近年、消費のスタイルが大きく変わっています。以前は物を買うこと(モノ消費)が主流でしたが、今では多くの人が体験を楽しむこと(コト消費)を重視するようになっています。中でも、一度しか体験できない特別なイベントに参加するなど、「トキ消費」を重視した体験に注目が集まっています。若いミレニアル世代はSNSの影響を大きく受けていることもあり、特にトキ消費を重視する傾向が見られます。思い出を作ることに重点を置き、またその時限りのイベントを見逃すことへの恐れから、有意義な体験やイベントにお金を惜しまず使うようになりました。
これにより、特定のテーマや世界観に深く没入する「イマーシブ」な体験がキーワードとなっているのです。
パンデミックによって加速、または生じた4つの傾向
世界を震撼させたコロナ禍は、観光業界に新たな価値観・トレンドを生み出しました。具体的には、以下の4つの傾向が見られるようになっています。
1. サステナビリティ志向の強化
「サステナビリティ」は以前から注目されていましたが、パンデミックを経て、旅行者はさらに環境に優しい旅行を求めるようになりました。エコフレンドリーホテルや低炭素ツアーが注目され、観光地でも環境保護への取り組みが進んでいます。
2. 健康志向の高まり
パンデミックの影響で、健康と安全が最優先事項となりました。非接触型のサービスや衛生管理が徹底された宿泊施設が選ばれやすくなったほか、癒やしやストレス解消、ウェルビーイングを重視する傾向が高まっています。
3. 自然志向の増加
都市化が進むなかで、人々は自然豊かな場所への旅行を求めるようになりました。例として、アドベンチャーツーリズムや自然体験などがあります。ステイホームが続き自然への接触機会が減っていたことも、自然への需要が高まっている要因だと考えられています。
4. ハイブリッドな働き方の普及
パンデミックによって生じた新たな傾向の一つが、ハイブリッドな働き方の普及です。リモートワークが増加し、ワーケーション(ワーク+バケーション)という新しい働き方が生まれました。旅行者は仕事と旅行を両立させることができる環境を求め、長期滞在型の宿泊施設やワークスペースが充実した場所が人気となっています。
関連記事:ワーケーションとは?インバウンドから国内誘致を目指す!成功事例も紹介
日本のインバウンド戦略に重要キーワードは「イマーシブ」
本調査では、ウェルネス・ネイチャーアクティビティ・聖地巡礼・イベント・生活没入の5つの主要トレンドが明らかになりました。これらはいずれも「イマーシブ」な体験を重視し、旅行者が現地の文化や環境への没入感を求めていることを示しています。今後ますますインバウンド誘致の重要性が叫ばれるなか、日本の観光戦略は、これらのトレンドを取り入れ、魅力的な体験を提供することが重要となります。
地方への誘客と観光消費額の向上を目指し、こうしたイマーシブな体験を提供することで、さらに多くの旅行者を惹きつけることが期待されます。
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【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
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【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
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→「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年6月後編】
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