日本の観光業の重要なテーマとして注目されている「観光DX(デジタルトランスフォーメーション)」。人材不足やオーバーツーリズムなど、多くの課題が観光業を取り巻く中、デジタル技術の活用が急務となっています。
そこで今回は、ホテルの観光DX・人手不足対策事例として、富士河口湖リゾートホテル 宿泊部アシスタントマネージャー 石田圭介氏に取材。キャッシュレス決済や多言語対応が行えるセルフオーダーシステム「StarPay-Order」をホテル内の売店に導入した結果、人手不足の解消や売上の向上、さらにはホテル全体のマーケティング戦略にもつながったということで、その取り組みの全貌を伺いました。
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年々高まる富士河口湖周辺のインバウンド特需。ホテルの人手不足は深刻な状況に
—— 富士山周辺は多くの訪日外国人が来訪しているかと思います。富士河口湖リゾートホテルにおけるインバウンド動向を教えてください。
石田氏:コロナ前の2019年と比較して訪日外国人は増加傾向にあり、2024年現在も「インバウンド特需」は続いています。おっしゃる通り河口湖エリアは外国人旅行者に人気が高く、県内には甲府、石和温泉など有名な観光地もありますが、インバウンドに向けては富士山周辺、特に河口湖が一人勝ちのような状態になっています。
2024年は桜シーズンのあたりからホテルの稼働率が常に90%以上と、すべての月が繁忙月です(笑)。春休み、夏休み、週末などは国内の宿泊客も増えますが、そのほかのシーズンや平日ですと3〜5割ほどが訪日外国人のお客様です。国別の割合は各国の休暇によって変わり、たとえば4月はタイやマレーシア、夏は台湾、韓国、ヨーロッパ、10月は中国の方が多いですね。
—— 通年で稼働率が高くなっているとのことですが、人手不足など人材確保の面で課題はありますか。
石田氏:そうですね。ただでさえホテル業界は離職率が高いのですが、コロナ禍でさらに人手不足に拍車がかかる状況になり、現在まで厳しい状況が続いています。
「富士河口湖リゾートホテル」は2019年8月8日にグランドオープンしたのですが、コロナ禍前の開業ということもあり、それまで主流だった人対人のソリューションしかない状況でした。特にホテル内の売店では、フロントのスタッフが売店の対応も兼ねており、チェックインの時間帯などは大変だったと思います。
新型コロナの感染拡大によって一時的に打撃は受けましたが、「非接触型」のソリューションが発展して自動化・DXが主流となったことは、人材不足にあえぐ私たちにとってプラスの側面もありましたね。その中で、フロント業務に関わるスタッフの負担を少しでも減らしたいという思いから、ネットスターズのセルフレジ(StarPay-Order)を売店に導入したんです。
セルフレジの導入で売上は最高額を更新中。人件費をかけずに売店の稼働時間を6時間延長
—— セルフレジの導入によって、具体的にどのような変化がありましたか。
石田氏:売店の売上が月あたり最高で90万円ほどだったところ、セルフレジを導入してから毎月100万円を超え、繁忙期は約120万円と最高額を更新し続けています。もちろんホテルの宿泊客自体が増えているのでセルフレジの効果だけではないと思いますが、「売店に人が常駐しなくて良い」というだけで人件費削減、機会損失の軽減など良いことがたくさんありました。
ちょうど先日、200人規模の修学旅行生の貸切で当ホテルをご利用いただいたのですが、修学旅行のお客様は通常のお客様に比べて非常に多くのお土産を購入されます。従来ならば、売店担当のスタッフは2時間ずっと立ちっぱなしで会計処理に追われていましたが、セルフレジ導入後は、スタッフの作業は両替と品出しくらいで済むなど、劇的な変化がありました。
また、売店の営業時間も伸ばすことができています。セルフレジ導入前は7時〜10時、15時〜22時に営業時間を設けていましたが、現在は7時〜23時まで休みなく開店しています。
そして、以前はチェックイン時間に売店から呼び出しがあっても対応できるスタッフがおらず、お客様が購入を断念されるということもありました。そうした機会損失を防ぎ、お客様が好きな時間に商品を購入できるようになったことも、売上向上につながっていると思います。
—— 人手不足の解消や機会損失の軽減などにつながったということですね。一方で、宿泊客側の反応はいかがでしょうか。特に訪日外国人の方で、セルフレジの操作などオペレーションに不便を感じている様子はありませんか。
石田氏:今回導入した「StarPay-Order」では言語切り替えが可能になっているので、さまざまな国の旅行者にも不便なく使っていただけているようです。
特にアジア圏の人はこういうシステムに馴染みがあるのか、こなれた感じで操作されていますよ。ヨーロッパ圏の方からは使い方を聞かれることもありますが、周りのお客様の操作に倣ったり、お客さん同士で教え合ったりして解決されることが多いです。より分かりやすくするため、当ホテルでは言語切り替え方法を書いたPOPを設置しています。
決済手段も非常に豊富で、現金、クレジットカード、タッチ決済、QR、Alipay、WeChat Payなどの各種インバウンド系決済が使えます。以前からAlipay、WeChat Payでの決済をお断りすることが多々あったので、導入によりお客様の利便性向上にもつながっていると思います。
購入履歴を分析し、マーケティングに活用。売店の品揃えは1.5倍に
—— セルフレジを導入後、売れるものに変化はありましたか。
石田氏:特定の商品が伸びたというよりは、全体的に底上げされた印象です。特段、セルフレジによって買いやすくなったものがあるわけではないようですね。
ただ、セルフレジの管理画面で購入された商品を分かりやすく見られるようになったこと、レジ対応の時間が削減されたことで、これまで以上に「傾向と対策」に時間を割けるようになったというのは大きな変化です。現在はレジのデータを参考に、若手の社員が一人で売店の分析、仕入れを担当しています。なんとセルフレジを導入してから、品揃えが1.5倍になったんですよ。
—— 1.5倍とはすごいですね。その中で、外国人観光客にはどんなお土産が人気なのでしょうか。
石田氏:たとえば東南アジア系のお客様にはカップラーメンが人気ですね。あとは、ウケるかなと思って置いてみた「富士山Tシャツ」「日本刀を模した傘」などコテコテの「日本っぽいお土産」もやはり人気です。
また、当ホテルの館内着は浴衣なのですが、これまで買いたいと言われてお断りすることが結構ありました。そこで売店に浴衣を置いてみたところ、喜んで買われていく方がたくさんいらっしゃいます。
高級商品では「江戸切子」をご購入いただいたり、お土産を入れるための7万円ほどのスーツケースを買っていかれたりした事例もあります。セルフレジになったから売れるようになったというわけではないと思いますが、少なくとも品揃えを増やしたことで良い方に影響していますね。
セルフレジを活用したホテル全体のマーケティングに挑戦中。「日本初」の取り組みも
—— セルフレジの購入データを品揃えに反映しているとのお話でしたが、そのほかの活用法など期待していることはありますか。
石田氏:「StarPay-Order」には割引クーポンを発券する機能があり、それを活用したマーケティングができないかと考えています。
たとえば、特定のOTAから予約された方にクーポンを発行することで、私たちが強化していきたいサイトだけにブーストをかけられるのではないか、といったものですね。現在、トリップドットコムと協力して試験的に取り組みを実施しています。トリップドットコムでも「日本初」の事例とのことで、双方にメリットがあり効果を最大化できる方法を探っています。
—— それは画期的な活用方法ですね。時期やターゲットに合わせた展開も期待できそうです。
石田氏:そうなんです。特定の国に対してプロモーションを打った上で、売店でその国に人気の商品を揃えておくといった施策にもつなげられそうです。
またオンラインに限らず、リアルエージェントに対してもツアー単位や、シーズンのお客様にクーポンを出すなど、やれることはかなりありますね。
セルフレジに感じる「とんでもないポテンシャル」。ホテルマーケティングの起爆剤になり得るか
—— 現在導入しているセルフレジは1台のみだということですが、今後追加で導入する予定などはありますか。
石田氏:レストランのドリンクカウンターに導入を考えています。現状はスタッフが注文をうけ、部屋番号を確認して精算に追加するというオペレーションですが、お客様から部屋番号を間違えて伝えられるなどして別の部屋に精算を付けてしまう、といったヒューマンエラーが起こることがあるんです。セルフレジ上で注文してもらい、レシートと引き換えでドリンクに交換するというオペレーションにできれば、そういったトラブルもなくなります。
また、先ほどのクーポンを「ビール一杯無料」にするといった活用もできそうです。売店の割引よりもビールの方がよりニーズが高いような気もしますし、より効果の高い方法を探したいですね。
—— 売店以外の活用にも期待が持てそうですね。最後に、今後のビジョンを教えてください。
石田氏:セルフレジには大きな可能性を感じています。最初は売店の人手不足解消として導入したものでしたが、とんでもないポテンシャルを持ってるマシーンだと気付いてからは、「宝くじが当たった」みたいな嬉しい拾い物だと感じています。
人手不足の解消に始まり、売店の高い稼働率実現、データ分析への活用、クーポンによるプロモーション。そしてホテル全体のマーケティングにも関わってくる非常に魅力的なソリューションです。
これからやりたいと考えていることはまだたくさんあり、実現できればホテルのマーケティングが格段にレベルアップすると感じています。現在試験中のクーポン運用に加え、新規システムの導入など、あらゆる可能性を考えながら、お客様と従業員双方にとってより良いホテル作りに活用してまいりたいと思います。
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