「地元民の日常が人気ツアーに」郡上市DMOに聞く 体験商品造成のポイント

完全無料 口コミアカデミー 「インバウンドの教科書」出ました! 国別・都道府県別データ・トレンドをカバー 見てみる

観光地域づくり法人(DMO)は、どうすれば民間事業者や住民など地域関係者と合意形成を進め、その活動に巻き込んでいけるのでしょうか。観光庁の「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」においても、「III 観光地域づくり法人の役割」(P2)として、「観光地域づくり法人を中心として観光地域づくりを行うことについての多様な関係者の合意形成」が第一に掲げられており、この点は多くのDMOや観光協会が悩んでいるところではないかと思います。

今回はDMOと地域の合意形成の事例として、地域アウトドア事業者の連携組織と共に、オリジナル体験商品の造成販売やイベント開催を通じて持続可能な観光を推進する岐阜県の地域DMO、(一社)郡上市観光連盟の取り組みに注目します。

文/萩本良秀(地方創生パートナーズネットワーク)

関連記事:「地域との対話を可能にする」勝山DMOの観光データ活用

インバウンドの最新情報をお届け!訪日ラボのメールマガジンに登録する(無料)


DMOとアウトドア事業者が連携して、次々と着地型体験商品を造成

オンラインイベント「注目DMO Meet up!」(地方創生パートナーズネットワーク主催)は、重要テーマに独自の手法で取り組むDMOの声を聞き、その分野の専門家との意見交換を通じて各DMOが実践できるヒントを明らかにすることを目的に開催されているもので、10月16日に第3回が行われました。

この日は「民間事業者と連携した体験商品造成」をテーマに、郡上市観光連盟(以下、郡上市DMO)の鈴木啓泰氏が登壇。地域事業者とどのように連携して着地型商品をつくり、地域住民も巻き込んで持続可能な観光地を目指した取り組みを行っているか、プレゼンテーション資料を投影しながら活動の詳細を説明してもらいました。

郡上市DMOが中心となって近年取り組んでいるのが「アウトドアプラットフォーム構築事業」です。アウトドア体験を核としたエリアブランディングにより、多様な地域資源を利活用しながら持続可能な地域づくりを推進することを目的に、ウェブサイト「GUJO Outdoor Experiences」、体験予約プラットフォーム「GUJO NOASOBU」、アウトドアイベント「GUJO OUTDOOR WEEK」の3つを事業内容として取り組んでいます。

郡上市DMOは域内の民間事業者22社で構成される「郡上市アウトドア事業者協議会」の自走支援と連携を通じて、アウトドアプラットフォーム構築事業を推進しています。スキー場、キャンプ場、ラフティングなど多様な事業者が集まり、「郡上を年中楽しめるアウトドアの聖地に」を合言葉に、独自性のある豊かな自然環境を利用、保全しながら世界に誇れるアウトドアエリアの構築を目指しています。

「アウトドアプラットフォーム構築事業」3つの施策:郡上市観光連盟
▲「アウトドアプラットフォーム構築事業」3つの施策:郡上市観光連盟提供

以前は各社が個別に行っていたプロモーションをウェブサイト「GUJO Outdoor Experiences」で一括して行い、事業者間連携によるモデルコース作成など多種多様な過ごし方を提案しています。インスタグラム、フェイスブック、LINEにおける友だちやフォロワーは合わせて2万人以上を獲得しています。

「GUJO NOASOBU」は体験商品の掲載、予約販売を行う体験予約プラットフォームで、人、暮らしの知恵、文化といった地域資源を掘り起こしながら、サステナブルな着地型体験商品の開発を推進しています。域内経済循環の促進とDMOの収益モデル構築を目指し、昨年度実績で会員数は約1,300人、造成商品数は40近くとなり、体験者数は約1,000人、売上額は500万円近くになりました。

地域の体験商品を一括して販売する「GUJO NOASOBU」:郡上市観光連盟
▲地域の体験商品を一括して販売する「GUJO NOASOBU」:郡上市観光連盟提供

アウトドアイベント「GUJO OUTDOOR WEEK」は、アウトドア体験を通じたSDGs(持続可能な開発目標)意識の醸成、サステナブルツアーの造成、市内7地域の周遊観光促進などを目的に実施され、イベントの経済波及効果は産業関連表による推計によると2,000万円を超えます。この取り組みは観光庁が今年刊行した「DMOによる観光地域経営ガイドブック」にも、優良事例として掲載されました。

観光事業者から地域住民まで幅広く参加する「GUJO OUTDOOR WEEK」:郡上市観光連盟
▲観光事業者から地域住民まで幅広く参加する「GUJO OUTDOOR WEEK」:郡上市観光連盟提供

これらの施策により、ウェブサイトや展示会による地域ブランディングの結果として1万人のファンリストを獲得、商品造成と販売のプラットフォームでは100以上の商品を造成し、それを2,000人以上の来訪者が体験しました。持続可能な郡上づくりを目指したイベント売上は、環境協力金の拡充と保全対象の拡大に充てられました。

「GUJO OUTDOOR WEEK」の開催趣旨では、「FOR NEXT 100 YEARS~100年先も郡上に遊べる川と雪山を残すために」と宣言されています。住民のシビックプライドやウェルビーイング向上、イベント来訪者にも環境の大切さや保全意識を醸成する目的で、3年間で35コンテンツを実施。参加者は8,000人、50万円以上の環境協力金が集まり、協力金は地域の生ごみ堆肥化事業者支援やサツキマスの保存活動へ寄付されました。地元の子供たちもフィードガイドを務め、中学生はツアー造成段階から参加して、観光関係者に留まらない広がりを生んでいます。郡上市のふるさと納税サイトでは返礼品として体験チケットを販売し、寄付金の一部は自然環境保全に使われています。

「地域事業者はライバルではない」みんなで地域全体への送客に取り組む

イベントの後半には、郡上市で4つのスキー場と2つのホテルを運営する中部スノーアライアンス(株) ダイナランドの堀江政志氏も加わり、郡上市DMOが設立されてからの変化を語ってもらいました。

堀江氏「民間と行政の距離が確実に近づき、これは地域外からも評価されています。市の資源を把握してどこを伸ばすかなど、役割分担ができていると感じます。以前は各スキー場がバラバラに営業活動をしていたのを行政が遠くから見ていた感じでしたが、現在は各社がライバルではなく、オール郡上でブランディングに取り組んでいます。これまで冬のスノーシーズンと夏のグリーンシーズンでは事業者が別々に動いていたのが、現在はお互いの顧客に別のシーズンならでは楽しみ方を伝えて、年に何回も訪れるリピーター層を集めています」

郡上市観光連盟の鈴木啓泰氏、中部スノーアライアンスの堀江政志氏
▲郡上市観光連盟の鈴木啓泰氏、中部スノーアライアンスの堀江政志氏

鈴木氏「現在の市は平成16(2004)年に市町村合併で生まれましたが、暖冬や国内スキー人口減少が進む中で、オールシーズンで集客していかないと立ち行かなくなるという危機感から、夏のアウトドアと冬のスキーで別々だった事業者間で連携が生まれたと思います。DMO設立時には観光立市郡上未来プロデューサーの山田桂一郎JTIC. SWISS. 代表にアドバイスをいただき、事業者や議会からも2年に渡りスイスのツェルマットを視察し、DMOが地域のマーケティングプラットフォームとして機能している現場を学んできました。

また、市内ラフティング事業者の代表が旗振り役となり郡上市アウトドア事業者協議会が設立され、市内の各スキー事業者も既存のライバル関係を超えて、地域全体の事業者間連携が進んでいきました」

日常生活から着想を得て「地元の人だけが知っている秘密の場所」を巡るツアーを開発

着地型体験商品というと、域内の有名な観光スポットを案内するガイドツアーがいくつも乱立して、事業者間で差別化がなされておらず、旅行者からしてもどの事業者を選んだらよいかわからないといった問題が発生する場合も少なくありません。郡上市では、どのように体験商品の多様性を生む地域プロデュースを行っていったのでしょうか。郡上市観光連盟でアウトドアを担当している奥村文乃氏にも聞きました。

奥村氏「得意なジャンルがそれぞれ異なる事業者同士が、しだいにお互いのコンテンツを掛け合わせたコラボに取り組むようになりました。アウトドア以外にも地元の生活の知恵と申しますか、たとえばたけのこ堀りやきのこ採りといった、どの事業者も商品化していなかった平凡な素材が、意外にもおもしろい体験プログラムになることに気づいていったのです。

たとえば、子供が学校から帰ると竿を持って近所の川へ釣りに行くのが地元の日常なのですが、これをもとに釣りが好きなサイクリングガイドが『Eバイクツアー』を思いつくといった発想の仕方です。人気のお菓子屋さんでおやつを食べるとか、空き家を活用したデイキャンプとか、地域から案内人を買って出る人も出てきて、これを続けていくとお客さんとコミュニケーションが楽しくなって地域全体に活力が広がっていく。事業者だけでなく一般の住民も巻き込むことで、シビックプライドが醸成されていきました」

地元の子供たちだけが知っている秘密の釣り場に、Eバイクでめぐるエコツアー。ホンモノのNIPPONを体験したい外国人観光客も興味を持ちそうです。郡上市を含む岐阜県長良川流域は、グリーン・デスティネーションズの「持続可能な世界の観光地100選」に選出された実績もありますが、インバウンド誘客にはどのように取り組んでいるのでしょうか。

鈴木氏「予約サイト『NOASOBU』の多言語化はまだできておらず、インバウンドについては事業者ごとに対応している現況です。今後はシステムの多言語化を検討し、サステナブルな体験に関心のある外国人観光客にも来てもらえるようにしていきたいと思っています」

「FOR NEXT 100 YEARS」を見据える郡上市観光協会:郡上市観光連盟
▲「FOR NEXT 100 YEARS」を見据える郡上市観光協会:郡上市観光連盟提供

スキー場の生き残りについての危機感から、夏の集客も見据えてスノーとグリーンシーズンの事業者交流が始まった郡上市。スキーオフシーズンには、ゲレンデ上に花畑を造りマウンテンバイクを組み合わせて、夏もリフト収入も得られるようになったといいます。また、従来から提供していたラフティングも、川の清掃を合わせたグリーンなツアーや、地域食材のBBQ付きツアーなど付加価値を加えて多様化。地元には当たり前の日常だったキノコ狩り体験は、すぐに予約がいっぱいになる人気ツアーになりました。

この話を聞いて思い出すのが、星野リゾート事例。リフトメンテナンス担当が雲海ツアーを、ネイチャーガイドとしても働く社員が苔ツアーを提案、商品化すると看板サービスになるなど「全社員がサービスエイター」として新たなサービスを生みだす社風があり、郡上市の事例はそれに通ずるものがあると思います。郡上市観光連盟と郡上市アウトドア事業者協議会を構成する事業者は別々の法人ですが、その枠を超えてアイディアとサービスを生み出す姿は、「地域全体が一つの会社」とも言える一体感と活気を感じました。

セミナーの最後には、「市内を歩いていたら、手に持っていたゴミを『それ、もらいますよ』と通りがかったお店の人に言われた」とのエピソードが参加者から紹介されました(もちろん、その店で買った商品ではありません)。個々の会社の連携だけでなく住民理解や子供たちの参加も含めて、自分たちが誇れる地域づくりに取り組む空気が生まれていく。それが郡上市観光連盟と関係者が取り組む、地域の今の姿です。

次回は11/29開催:豊の国千年ロマン観光圏

次回の「注目DMO Meet up!」は11月29日(金)17:00~、欧米豪旅行者の長期滞在につながる高付加価値体験商品を造成販売する大分県8市町村の地域連携DMO、豊の国千年ロマン観光圏を迎えてオンラインで開催されます。どなたでも無料で申し込めますので、この機会にご覧ください。

→ 次回のセミナーについて詳しく見てみる

著者プロフィール:萩本 良秀

地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター

民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語ウェブサイトやInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士(英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣」など観光庁や文化庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める


インバウンド対策にお困りですか?
「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!

訪日ラボに相談してみる

【インバウンド情報まとめ 2024年11月後編】中国、タイの2025年祝日発表 ほか

訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月発行しています。

この記事では、主に11月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。

※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。

口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。

詳しくはこちらをご覧ください。

中国、タイの2025年祝日発表 ほか:インバウンド情報まとめ【2024年11月後編】

今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」

スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。

「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!

→ 【無料】「インバウンドの教科書」を見てみる


完全無料 口コミアカデミー 「インバウンドの教科書」出ました! 国別・都道府県別データ・トレンドをカバー 見てみる

関連インバウンド記事

 

役にたったら
いいね!してください

この記事の筆者

萩本良秀

萩本良秀

地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター。民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語ウェブサイトやInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士(英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣」など、観光庁や文化庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める。

プロモーションのご相談や店舗の集客力アップに