今改めて考える「ムスリムツーリズム」とは? 〜来たる2026年アジア競技大会に向けて〜

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大阪・関西万博の閉幕を間近に控え、次なる関心は2026年に愛知・名古屋で開催されるアジア競技大会へと移りつつあります。同大会はオリンピックに次ぐ規模を誇るアジア最大級のスポーツイベントで、前回2023年の中国・杭州大会ではASEAN東南アジア諸国連合)や中東を含む45カ国・地域から約1万2500人の選手が集結しました。そのうち半数以上がイスラム諸国であり、来年も「グローバルサウス」と呼ばれる国々からの来訪者が中心になるのは間違いありません。

こうした大規模イベントのたびに、日本は食や礼拝をはじめとする多様な文化習慣への対応を問われてきました。2019年のラグビーW杯、2021年の東京オリンピック・パラリンピックでも、同様の課題が繰り返し浮き彫りになりましたが、平時の運用にまで浸透させるには至らず、近隣諸国と比べて整備はなお遅れています。観光資源の魅力は十分にあるにもかかわらず、受け入れ基盤の日常的な体験——ハラール食、礼拝環境、宿泊や空港の利便性——が後れを取っていることが、日本の国際評価に影を落としています。

本稿では、こうした現状を踏まえ、

  1. 急拡大するムスリムツーリズムの実態と日本の評価
  2. 国際指標から見える課題
  3. アジア大会を契機に取り組むべき方向性

の3点を整理し、日本が観光立国として次のステージに進むためのヒントを考えてみたいと思います。

文/守護 彰浩(フードダイバーシティ株式会社)

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1. 急拡大しているムスリムツーリズムの実態と日本の評価

世界の旅行市場において、ムスリム旅行者はもはや特別な存在ではありません。若年層比率の高さと中間層の可処分所得の拡大を背景に、その市場規模は爆発的な成長を続けています。2019年に1億6,000万人だったムスリム旅行者数は、2024年には1億7,600万人に達し、2030年には2億4,500万人にまで拡大すると予測されています。その消費規模は2,300億米ドル(約34兆円)を超えると見込まれており、この巨大な市場の背後には、21億人を超える世界のムスリム人口とその約7割を占める若年層という、計り知れない将来性が横たわっています。

彼らが旅先を選ぶ際の意思決定は、きわめてシンプルです。第一に「安心して食べられるか」。ハラールムスリムが消費できる)の食材や調味料が使われているか、あるいはアルコールや豚由来の成分が含まれていないかを明確に判断できるか、という点です。第二に「お祈りする場所を確保できるか」。空港や主要駅、観光拠点などで礼拝を行える環境があるか、という点です。

アニメや食文化、四季折々の自然景観といった魅力から、日本はムスリムにとって「行ってみたい国」の上位に常に挙げられています。しかし、実際に旅行先として選ばれにくい最大の理由は、配慮そのものの不足というより、その配慮の“見える化”が決定的に足りないことにあります。現場のホテルやレストランでは素晴らしい対応をしていても、それが旅行前の検索でヒットしない。公式サイトや地図アプリで情報が出てこない。案内表示の用語が統一されておらず、何を根拠に「ムスリムフレンドリー」と謳っているのかが分からない。この「最後の1クリック」での情報不足が、彼らの意思決定を阻んでしまっているのです。

ムスリム旅行者の受け入れで特に重要なのは、次の三つの要素です。

  1. 食(Food): 完全なハラール認証メニューに限定する必要はありません。むしろ、原材料に何が使われているか、アルコールの使用はあるか、調理器具は分けているかといった情報を分かりやすく開示することが重要です。ノンポーク(豚不使用)やベジタリアンの選択肢を設けることで、ムスリムの旅行者だけでなく、その同行者も一緒に食事を楽しめる環境を設計することが、満足度とリピート率を飛躍的に高めます。
  2. 礼拝(Prayer): 豪華な礼拝室は必ずしも必要ではありません。畳一畳ほどの静かなスペースでも使えます。手足や顔を清めるための小さな足洗い場(ウドゥ)があればさらに喜ばれますが、絶対条件ではありません。大切なのは、その場所がどこにあり、いつ利用できるのかを、ピクトグラムや英語(必要に応じてアラビア語)で明確に案内することです。
  3. 安心(Assurance): 提供される情報に根拠があること。公式サイトや地図サービス、そして店頭の表示で、その情報を旅行者が即座に確認できること。そして、現場のスタッフが「このメニューにはアルコールを使っていません」と一言で補足できること。この積み重ねが、旅全体の安心感につながります。

重要なのは、これらの対応に必ずしも巨額の投資は必要ないという点です。まずは既存の取り組みや配慮を“根拠を伴う情報として可視化”し、先に整えることで、まだ日本に来られていない潜在的な需要を短期的に掘り起こすことが可能です。ムスリム市場は巨大でありながら、実は「難しすぎない」有望な領域なのです。

この続きから読める内容

  • 2. 国際指標から見た日本の現状
  • 3. アジア大会を契機に取り組むべき課題
  • 日本発の実装例——控えめに、しかし確かな前進
  • 一年後を、ただの一年後で終わらせないために
  • 著者プロフィール:フードダイバーシティ株式会社 代表取締役 守護 彰浩
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この記事の筆者

守護彰浩

守護彰浩

フードダイバーシティ株式会社 代表取締役

楽天株式会社を経て、2014年より日本国内のハラール情報を6カ国語で発信するポータルサイト「HALAL MEDIA JAPAN」 を運営。
18年より中国語のベジタリアン情報サイト「日本素食餐廳攻略」を運営、同年世界最大のベジタリアンレストラン検索アプリHappyCow」と業務提携を交わす。(日本で唯一)
20年観光戦略実行推進会議にて菅総理大臣(当時)に食分野における政策を提言。
23年観光庁選出の「インバウンド対応にかかる課題を解決するインバウンドベンチャー65社」に3,000社の中から選出。
25年マレーシア観光事業者協会の「World Islamic Tourism Awards 2025」のイスラミック・ツーリズム・メディア部門で受賞(東アジア初)。
これまで全国500以上の企業、店舗、学校等にフードダイバーシティ対応をコンサルティング、日本有数の実績を誇る。
流通経済大学非常勤講師。

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