ファン数450万のインフルエンサー自身が「インフルエンサーは、あくまで起爆剤」と語る理由 | 「林萍在日本」インタビュー(後編)

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【連載】橋梁(チャオリャン)Vol.2では、前編に続き、微博(ウェイボー)アカウントのフォロワー数450万超の在日中国人KOL 「林萍在日本(リンピンザイリーベン)」さんの登場です。

微博(ウェイボー)アカウント「林萍在日本」は2012年にスタートし、在日KOLとして2015年から活動を本格的にスタートさせ、早4年の月日が経ちます。

驚くべきことは、彼女が仕事や旅行で訪れた地域は、全国47都道府県のうち45都道府県にのぼります。島根県と宮崎県はまだ訪れたことがないといいますが、全国制覇するのもそう遠くないでしょう。

現在、林萍氏のもとには全国各地の企業や自治体からインバウンドプロモーションの依頼が殺到し、案件実績は既に500件を超えるといいます。そんな「日本通」の彼女に、インバウンドプロモーションで感じた「本音」を赤裸々に語ってもらいました。

▼連載「橋梁(チャオリャン)」

インバウンドにおいて、圧倒的なシェア率を誇る訪日中国外国人。連載「橋梁(チャオリャン)」では、中国マーケットのインバウンドアウトバウンド分野で話題の「人物・企業」を筆者独自の視点で深堀。インバウンド企業やインバウンド担当者、潜在層向けに、“現場取材”のトレンド情報を届けます。

▲[林萍在日本(リンピンザイリーベン)さん]
▲[林萍在日本(リンピンザイリーベン)さん]


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「美味しいイチゴ」を作るプロなのに、食べる側へのアプローチを知らない

インバウンドに精通している人もそうでない人も、2015年に起きた訪日中国人の「爆買い」現象は記憶に新しいのではないでしょうか。当時を振り返ると、訪日中国人の人気商品は、炊飯器や空気清浄機、温水便座、神薬と呼ばれる目薬や理美容品たちに集中していました。

その背景には、「日本製は安心で安全、ブランド力もあるから」といった購買心理が働いていたと、筆者は記憶しています。

当時、企業にとっても売れている商品はある程度分析しやすく、店頭にそれらを並べれば、ネット上に出回る「日本で買った方がいい商品」のリスト片手に、彼女たちは旺盛な購買力をみせてくれました。

つまり、売り手側が「受け身」の状態でも、自然とその良さを知ってもらう販売ルートがあり、購買へと繋がっていたのです。しかし、時代の変化に応じて、林萍氏は訪日中国人の購買心理を次のように見立てています。

爆買いされていたものが『日常買い』され、これからは地方などの商品が買われていくと思います。たとえば、美濃焼などの工芸品や、自分の趣味嗜好を追求した個性ある商品。一辺倒に限られた商品が爆発的に売れるよりも、購買される商品の裾野は広がり、もともと知名度のない中小企業の商品も買われていくかもしれません」(林萍氏)

このように、訪日外国人の購買が「一辺倒から裾野が広がる」ことで、地方での商機を示唆した一方で、「日本人は丹精込めて美味しいイチゴを作るのに、そのイチゴを発見して食べる中国人はいない」と、林萍氏は例えてみせました。その意図は、日本人は素晴らしい商品を作る「巧の技」があるにもかかわらず、中国人へのアプローチの仕方を知らないことです。

品質高い日本の商品というブランド力を以てしても、プロモーションの見せ方や、ECサイトへの販売ルートの開拓に苦戦していれば、中国人に発見されず、せっかくのチャンスを逃してしまうのです。

▲[作り手は、商品をどのようにアプローチできるか ※画像はイメージです]
▲[作り手は、商品をどのようにアプローチできるか ※画像はイメージです]

クライアントのストーリーから、「光るモノ」を見つける

林萍氏のもとには、大手メーカーから中小企業まで、インバウンドプロモーションの相談が日々寄せられるといいます。大手企業のようにブランド力や潤沢な予算があれば、それに越したことはありません。しかし、知名度のない地方などの中小企業にとっても、訪日中国人へアプローチする糸口はあるといいます。

「最初は知名度がなく、売れていない商品であっても、そこで勝算は決めません。まずは、ブランドや商品のストーリーを聞くようにしています。そのなかに、私にとって輝いているポイントを探して、そのポイントに焦点をあてて、プロモーションします」(林萍氏)

本編の前編で紹介しましたが、林萍氏の背景には、長年日本での滞在経験で培ってきた日本文化への理解があります。その着眼点や発想力を活かし、彼女にしか思い描けないストーリーでコンテンツを生み出しているのです。

「KOL」は起爆剤になっても、販売ルートは「ショートカット」できない

前述で述べたように、KOLプロモーションには、ブランド力よりも「ストーリー性・スピード力・判断力」の三原則が企業側には必要となります。KOLは、あくまで「起爆剤」として考えることが大事と林萍氏は語ります。

「たとえ良い商品を紹介しても、購入までの販売ルートの開拓できていなければ、効果は高まりません。クライアントの事例で、いざ商品プロモーションを行ってファンが興味を示すも、『ECサイトがなく、どこで購入できるかわからない』『サイトに商品の中国語説明がない』『決済方法がクレジットのみで、銀聯や電子決済に対応していない』といった反応があり、せっかくのチャンスを逃した苦い経験もあります」(林萍氏)

プロモーションまでの基盤が整ってはじめて、「KOLのプロモーションは、コストパフォーマンスに優れる」と、彼女は苦言を呈しました。

微博(ウェイボー)は、中国版Twitterではない

日本では、「微博(ウェイボー)=中国版Twitter」と称され、そのように認識している人も少なくないでしょう。実はTwitter だけではなく、『Twitter+Facebook+Youtube』らがミックスされたようなものと、林萍氏は語ります。

微博(ウェイボー)は、ソーシャルコンテンツが集まった多彩なコンテンツのプラットフォームです。日本のクライアントにとって効果が見えやすく、入口としては最適です。ただ、さまざまなKOLやコンテンツ・情報で溢れているので、選択肢やプロモーション方法によって効果が異なってきます」(林萍氏)

例えば、 微博(ウェイボー)アカウント「林萍在日本」には、オーソドックスな「写真+テキスト」があります。美しい商品画像に加えて、林萍氏の感想や意見を盛り込めば、フォロワーから一定の反響はあるといいます。

しかし、近年では中国人の生活リズムの加速化で、ゆっくり長文を読む習慣がなくなり、テキストの文字数は最大300字以内、且つ面白いコンテンツに置き換えることが求められるのです。また、ショートムービー型の動画や、文章の代わりに映像や動画を用いるVLOG(Video+BLOG)、商品を試供する動画、ライブ配信など多彩なコンテンツが盛り込まれています。

つまり、微博(ウェイボー)は、日本のクライアントにとって一番効果が見えやすいプラットフォームとされる一方で、単に「中国版Twitter」と一括りにできないプラットフォームであることを認識しておくべきでしょう。

[多彩なプラットフォーム ※画像はイメージです]

日本の日常生活は、「コンテンツの宝庫」である

林萍氏の微博(ウェイボー)には、ファンから反響の高い「ライブ配信」というコンテンツがあります。 他在日KOLのコンテンツにはあまり見受けられない、彼女の「強み」でもある部分です。

それもそのはず、2016年からライブ配信をいち早く日本に取り入れた張本人なのです。コンテンツ探しから配信内容に至るまで、全て我流でライブ配信を重ねてきたといいます。

「当初から、旅行先で起こる『ハプニング』を『面白さ』と捉えて、視聴者へ配信しました。たとえば、中国にはない日本独自のシステム。ラーメン店の『食券券売機』や『新幹線チケット』の購入方法について、順を追って実演しました。視聴者の質問に即回答して、丁寧に紹介しました。日本の日常は、非日常。発見の連続で、旅行は自分が楽しむよりも、どうすればファンを楽しませるコンテンツになるか、常に考えて行動しています」(林萍氏)
▲[日本独自の文化、食券券売機 ※画像はイメージです]
▲[日本独自の文化、食券券売機 ※画像はイメージです]
こうした独自の配信スタイルによって、林萍氏は現在、多くのクライアントに支持されています。いわば、インバウンド業界に日本流の「ライブ配信」を取り入れた、パイオニアともいえるでしょう。

日本には各観光名所があり、商業施設で毎月イベントが開催され、豊富なコンテンツが発掘できる環境に、林萍氏は、「ライブ配信ほど、インバウンドに優れたツールはない」と断言しています。

日本人にとってありふれた「日常」は、彼女のフィルターを通せば、多彩な「コンテンツの宝庫」に変貌するのです。 

「PV数3億超え」のライブ配信、そのテクニックは「自転車をこぐように」

林萍氏のライブ配信は、単に携帯画面の前で商品紹介するだけに留まりません。その内容は、クライアントとすり合わせを行うこともあれば、自作で台本作りをすることも。

その特徴は、商品紹介・実演、日本人店員との会話、同時通訳、臨場感伝わる現場の空気感、言葉のニュアンス、ファンへのリアクション、ストーリ展開など、多岐にわたって取りこぼしがありません。

かく言う筆者も、彼女のライブ配信にひき込まれました。例えば、日本でありがちな、スタイリッシュな横文字英語の店名。中国人にとっては馴染みがなく、どんなお店なのかイメージが沸きません。

彼女の配信は、冒頭から店頭のファサードに着目し、店名の由来を丁寧に中国語で解説。そのきめ細かな対応に、450万人のファンたちを飽きさせないテクニックを実感したのです。

▲[英語の店名について解説する林萍氏]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用
▲[英語の店名について解説する林萍氏]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用
「2016~2018年の3年間、300回以上ライブ配信をしました。3億PV数(再生回数)の実績があるので、そのテクニックは、自転車をこぐように自然に身についています」(林萍氏)

その力強い言葉から、「ライブ配信で彼女の右に出る者はいない」と感じさせられました。 

コンテンツは、「商品と日本文化」の組み合わせ

彼女が一番記憶に残っているライブ配信は、今年春節(中国旧正月)期間に合わせて京都で行われた、食品メーカーのイベントといいます。

「従来の商品ラインナップに抹茶味のフレーバーが加わったことを紹介しました。衣装も春節仕様に演出し、現地にいた中国人にも試食してもらいました。ライブ配信時間は、朝10時(中国現地は朝9時)にもかかわらず、視聴者数は200万人にも及びました。キャプションには『京都抹茶味、舞妓、茶道』といった中国人にヒットするキーワードもこだわって盛り込みました」(林萍氏)

ライブ配信などのコンテンツにおいて、「日本の商品と日本文化を組み合わせて反響を呼ぶ」といった、林萍氏の持ち味をみせてくれました。

▲[京都で行われたイベント、春節仕様の林萍氏。]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用
▲[京都で行われたイベント、春節仕様の林萍氏。]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用

▲[銀座+桜+店名のキーワードをキャプションに]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用
▲[銀座+桜+店名のキーワードをキャプションに]:「林萍在日本」微博(ウェイボー)より引用

見据える先は、「中国のKOL」に匹敵する存在

一昔前、アジアのコンテンツの発祥地といえば日本でした。しかし、近年では日本以外のアジアでもコンテンツは生まれ、日本に影響を与えています。例えば、日本の若者に人気のあるショート動画モバイルアプリ「TikTok」も、本元は中国北京の会社が2016年9月にサービスを開始し、翌年日本に導入されています。

その他、日本の若い女性に人気の画像加工アプリ「Beauty Cam」や「Meitu」も中国の会社です。 このように、中国のプラットフォームやコンテンツの成熟化が見受けられるなか、林萍氏は自身の活動をどのように見据えているのでしょうか。

「日本にはまだたくさんのいいコンテンツ、深いコンテンツが眠っています。日本のコンテンツを発掘し、中国の市場に見合うコンテンツ作りを目指しています。フォロワー数よりもファンの質を高めて、自分の影響力を高めること。そして、中国のKOLに匹敵するようなステータスを築きたいです」(林萍氏)

林萍氏は、彼女はクライアントからの相談やファンの反響、中国のプラットフォーム担当者と交流を重ねてアップデートし、日々最新のトレンドにアンテナを張り巡らせていると語ります。

在日KOLとして、確固たる地位を確立している彼女ですが、常に中国に視野を向け、その勢いは現状に留まることを知りません。

インバウンドの壁は高いからこそ、ノウハウを伝えていきたい

日本のインバウンド市場の現状について、中国は近隣国で、日本の商品も中国人に人気が高いことが証明されている一方で、インバウンドの壁は高いとされています。

その背景には、中国を深く理解している人材が十分に足りていないことが理由にあります。そのような状況に林萍氏は、「KOLとして中国の事情やノウハウを、少しでも多くの人に伝えてたい」と語ります。

最後に、林萍氏は今後のインバウンド市場の展望を次のように締めくくりました。

「全国各地のインバウンドプロモーションは、やり方次第です。飛行機発着の有無など多少差はあるものの、日本は交通の便がいいので、同じスタートラインに立っていると思います。まだ知らないコンテンツの発掘に、ワクワクしています」(林萍氏)

インタビューを終えて

「少しでもインバウンド業界のためになる話ができれば」と、取材に応じてくれた林萍氏。 全国各地を飛び回り、精力的にKOLの活動する日々に、「正直、疲れますよ」と苦笑い。その裏には、彼女の「利他主義」という本質を感じ取りました。

彼女のようなKOLの存在によって、日本のインバウンド市場は新たな息吹をもたらし、最盛期を迎えるのかもしれません。

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この記事の筆者

沖 えり

沖 えり

山口県生まれ。中国ハルビンの黒龍江大学に留学、中国在住歴8年。インバウンド事業を手がける外資系小売企業の広報を経て、2019年ライターに転身。「爆買い」時代から現場の取材経験を重ね、「インバウンド」「中国人」にフォーカスした原稿を得意としている。

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