近年、日本国内でもYouTuberという職業で生計を立てるクリエイターが活躍するなか、YouTuberのタレントマネジメントおよびメディア制作・配信をサポートする組織の存在が知られつつあります。
「MCN」(マルチチャンネルネットワーク)と呼ばれる組織のうち、日本では、HIKAKINなどトップYouTuberたちが所属するUUUM株式会社が有名です。
2017年頃から、中国最大級のSNSであるWeibo(微博・ウェイボー)でもそのプラットフォームの社会的影響力の高まりを背景に、「MCN」の活躍が目立つようになってきました。 【連載】橋梁(チャオリャン)Vol.5では、中国市場のマーケティングやインフルエンサー事業を手掛けるクロスボーダーネクスト株式会社(以下、CBN社)の代表取締役社長Jessica Ho氏(以下、Jessica氏)が登場。中国MCNのシステムや、微博(ウェイボー)コンテンツの動向について話を伺いました。▼連載「橋梁(チャオリャン)」:インバウンドにおいて、圧倒的なシェア率を誇る訪日中国外国人。連載「橋梁(チャオリャン)」は、中国マーケットのインバウンド・アウトバウンド分野で話題の「人物・企業」に焦点をあてたインタビュー記事です。現場取材を通して、トレンド情報をお届けします。
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日本と中国の「MCN」の違いとは
日本のMCNとは、個々のYouTubeチャンネル(クリエイター、いわゆるYouTuber)を束ねて管理し、チャンネルの成長や収益増加、著作権管理など動画制作活動におけるサポートサービスを行う事業を指します。それに対し中国のMCNは、若干異なるとJessica氏は語ります。「中国のMCNの事業体は、日本とほぼ同じです。ただ、中国ではYouTubeチャンネルではなく、Weibo(微博・ウェイボー)を指します。Weibo(微博・ウェイボー)MCNの目的は、市場に散在していたクリエイターやコンテンツの管理です」(Jessica氏)
Weibo(微博・ウェイボー)MCNの特徴は、MCNの組織として企業が申請をします。その際、美容やファッション、アニメ、学者、海外などカテゴリーを選択することになります。 KOLはMCNに所属しますが、ひとつのMCN組織と独占契約もあれば、そうでない場合もあり、契約形態はさまざまです。
これはどういうことかというと、KOLは同じカテゴリーであれば、MCN組織にいくつか所属するパターンもあります。基本的には、ひとつのカテゴリーにしか属することはできません。その理由についてJessica氏は、KOLはあくまで同じ領域(カテゴリー)でユーザーを盛り上げることに本質があるといいます。
「Weibo(微博・ウェイボー)には、個々で活動する数えきれないKOLが存在していました。Weibo(微博・ウェイボー)側は、MCNを作ることによって、KOLのコンテンツの質や、発信状況を把握し、管理化を図りました」(Jessica氏)
2019年1月時点で、Weibo(微博・ウェイボー)のユーザー数は 7億人に達しました。アクティブユーザー数は1日1.39億人、投稿数1日1.3億を記録したとされています。トップMCNの一つルーハンはアリババから52億円資金調達、ナスダックにも上場
Weibo(微博・ウェイボー)MCNといえば、現在押さえておくべきは1,121万人のフォロワー数を誇る张大奕(ジャンダーイー)がCMOも務めるMCN組織「如涵(ルーハン・RUHNN)」です。KOLが113名所属する同MCN組織は、中国IT企業最大手の阿里巴巴(アリババ)集団から4,600万ドル(約52億円)の出資を受け、2019年4月、NASDAQに上場を果たしています。
Weibo(微博・ウェイボー)MCNは、KOLの交通整備を行いながら、個々のKOLが力を発揮できる領域(カテゴリー)を明確化させるシステムと言えるでしょう。
「インフルエンサーのコミュニティを作りたい」前線にいたからこその起業
Jessica氏が代表を務めるCBN社は、海外カテゴリーのMCN組織として、インフルエンサーなどを起用したプロモーションなどを手掛けていま。Jessica氏がCBN社を立ち上げた背景には、2009年から約7年にわたりマーケティング業界において、日中間のアウトバウンドや越境ECにフォーカスした業務経験があります。2010年当時、Facebook Japan株式会社が日本に設立され、アメリカ以外では初となる海外法人ということで話題を呼びました。続いて2011年、Twitter Japan株式会社が設立され日本のSNS市場が更に盛り上がりを見せはじめたころ、Jessica氏は日本にある微博(ウェイボー)総代理店に転職します。その後数年の勤務を経て、2016年末にCBN社を立ち上げます。
「CBN社を立ち上げた理由は、自身のマーケティング領域やインフルエンサー経験の延長線上にありました。MCNもインフルエンサーのコミュニティが必要だと感じ、組織として作りました」(Jessica氏)社長であり、インフルエンサー
Jessica氏は、CBN社の代表を務める傍ら、自身もインフルエンサー活動をしています。Weibo(微博・ウェイボー)アカウント名は、「小希在日本(シャオシーザイリーベン)」。2010年から個人アカウントとして現在も続けており、コンビニ限定スイーツなどの美食や百貨店情報など、日本のトレンド情報を発信しています。
現在、「小希在日本」のフォロワー数は39万人にのぼりますが、CBN社創業の2016年当時のフォロワー数は2~3万人だったといいます。 自身もインフルエンサーという立場でありながら、マーケティング領域の業務に従事してきた経験から、より企業目線に立った情報発信に注力し、収益化を考えるようになったとJessica氏は語ります。
「微博(ウェイボー)の主力コンテンツは画像でしたが、2016年頃から動画市場になりだしました。そうなると、動画撮影から編集まで、個人でやるには大変。個人で活動していたインフルエンサーは、いいコンテンツを発信しても利益が見込めず、マネタイズが難しい状況でした」(Jessica氏)
2016年から2017年にかけて、個人での活動に限界があると感じ、個々で活動するインフルエンサーが集まるコミュニティが必要だと感じたというJessica氏。同時に、Weibo(微博・ウェイボー)MCNが創設される動きがあり、Jessica氏の思惑と合致したのです。
海外カテゴリで人気「日本」で勝負に出る
MCN組織を作った背景には、2016年頃、当連載でも先に紹介した「林萍在日本(リンピンザイリーベン)」や、「七日野鬼(ナノカノオニ)」らとの出会いがきっかけにあったといいます。そして、2017年初頭、Weibo(微博・ウェイボー)MCNに海外カテゴリーとして登録し、MCN組織を作りました。
前述のとおり、MCNはさまざまなカテゴリーに細分化されています。とりわけ、海外カテゴリーのうち、日本は特に人気があるとJessica氏は語ります。
「Weibo(微博・ウェイボー)MCNの海外カテゴリーには、アメリカ、イギリス、韓国らがありますが、日本が断トツで人気です」(Jessica氏)
2017年、2018年と2年間にわたって、CBN社は中国微博主催の「微博星耀盛典」において、微博海外部門MCNのTOP10企業賞を表彰されています。
MCNのメリットは、「埋もれない、拡散力」にある
Weibo(微博・ウェイボー)MCNの組織で活動するにあたり、メリットは「コンテンツの拡散力」にあるとJessica氏は語ります。「日本という海外カテゴリーのMCN組織において、KOL同士で相互フォローしリツイートし合うことで、露出を図ることが可能です。それだけでなく、日本の記事では、目立つ位置にトップ記事として露出されるようなサポートもあります」(Jessica氏)
確かに、筆者もWeibo(微博・ウェイボー)で中国人が発信する日本関連の情報収集をする際、「日本」「日本旅行」「美食」で常にトップ記事として躍り出る三銃士の存在が強く印象に残っています。
その他、Weibo(微博・ウェイボー)MCNでは、#ハッシュタグの企画が頻繁に開催されています。Weibo(微博・ウェイボー)から出されるテーマに対して、#ハッシュタグをつけてコンテンツを投稿することで、露出を図ることができます。たとえば、現在では、8月15日から10月7日までの期間で行われている#ハッシュタグイベントがあります。
こちらのイベントは、Weibo(微博・ウェイボー)から同期間中に8つのテーマが出され、「#带着微博去旅行#」(ウェイボーを連れて旅行へ行こう)のハッシュタグに加えて、テーマに沿った画像もしくはVLOGを投稿すると、抽選5名に1,000元(約15,000円)が当たる企画です。
Weibo(微博・ウェイボー)MCNのシステムは、KOLやインフルエンサーを管理するための存在であると同時に、KOLやインフルエンサー側にとってもマネタイズの面でサポートを受けられる組織であるといいます。
「MCNのサポートがないと、せっかくコンテンツを作っても注目されない現状があります。Weibo(微博・ウェイボー)MCNの海外カテゴリーで活動するにあたって、マネタイズの面でも心強いサポートがあり、CBN社は収益化を念頭において、それをサポートする役割も果たしたいと考えています」(Jessica氏)
Weibo(微博・ウェイボー)MCNという強力な後ろ盾があることで、いいコンテンツが埋もれることなく、拡散されるメリットがあります。
とはいえMCNは、あくまで組織としてKOLやインフルエンサーの活動をサポートするに過ぎず、コンテンツの質の高さが発信者としてのインフルエンサーに求められるのは変わらないでしょう。
後編では、「なぜ、インバウンド意識の企業アカウントは中国人ウケが悪いのか:中国SNS・バズらせ専門家が語る3つの理由」をお届けします。
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