1990年代以降、グローバル化の進行により世界中で国境を越えた人の動きが活性化し、インバウンド市場は拡大しています。その中でも世界におけるメディカルツーリズムの経済規模は拡大を続けており、その市場規模は1,000億ドル、日本円で100兆円以上ともいわれています。
メディカルツーリズムとは医療観光や医療ツーリズムともいわれ病気の治療や手術、検診など医療目的のための他国への旅行を意味します。外貨獲得のためにもメディカルツーリズムは重要視されていますが、現状では日本は東南アジアに遅れを取っています。
2015年の東南アジア諸国を訪れたメディカルツーリスト数は、タイが約280万人、シンガポールが約100万人、マレーシアが約85万人と推定されており、この3か国はメディカルツーリズム受け入れの3主要国と位置付けられています。近年ではメディカルツーリズム市場において、特に中国からの需要が注目されています。
世界におけるメディカルツーリズム市場の現状とタイにおける中国市場への取り組みについて解説します。関連記事
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コロナ後の渡航開始、タイの動き
新型コロナウイルスによる世界各国への影響は大きく、メディカルツーリズムにおいてもウィズコロナ時代の施策を求められています。なかでも、タイは新型コロナウイルス明けに向けた動きを見せています。
タイ政府は新型コロナウイルス対策での入国規制を7月1日から緩和し、また、メディカルツーリズムで約3万人の入国を、14日間の検疫隔離などを条件に認めました。
タイのメディカルツーリズムは、民間系医療機関によるメディカルツーリズム発祥国とされ、ホスピタリティの高さや安価な医療費などで定評があります。また、世界的に有名な観光資源が豊富にあり、有名リゾートや歴史的な文化遺産など、医療後の観光も楽しめることも人気の理由の一つです。
すでに新型コロナウイルス後の動きも見せ始めていることから、今後のメディカルツーリストの入国数も伸びることが予想されます。
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タイのメディカルツーリズム
タイでは5月下旬から新型コロナウイルスの市中感染者がなく、新規感染者は国外からの帰国者のみの状態が続いていたこともあって経済活動再開の動きが強まっています。経済を統括するソムキット副首相は7月からの外国人旅行者の受け入れ再開の検討を指示し、タイ観光協議会も外国人旅行者の受け入れ再開を求めて政府に働きかけをしています。観光業界の売上が大きく落ち込むことで、企業へのダメージが大きく、倒産などの2次被害が広がる可能性も出てきているからです。
そのため、メディカルツーリズムとタイで就労する高度人材に限って7月1日から入国制限を緩和し、受け入れが再開されました。年間5,000億円以上もの外貨獲得が期待されるメディカルツーリズムは政府も期待する施策であり産業です。
タイにおける民間大手病院の設備や技術は欧米並みの水準といわれ、欧米や日本などの先進国で医療を学んだ医師が多数在籍しています。欧州や中東、アジアなどから医療観光目的でタイを訪れる観光客は年間約350万人にも上ります。
タイ病院最大手が中国大手と提携
6月29日、タイ病院最大手のバンコク・ドゥシット・メディカル・サービシズ(BDMS)は中国平安保険グループ傘下の平安健康保険と提携したことを発表しました。これにより、中国人患者がタイで医療サービスを受けやすくなります
もともと、安価で質の良いサービスや多言語対応などから今までもメディカルツーリストに人気のタイでしたが、BDMSとの連携によって中国人患者がタイへの渡航に必要なビザの取得の手伝いや通訳、空港からの送迎などのサービスが受けられるようになるため、今後はさらに、より多くの中国人が医療目的でタイを訪れると考えられます
バンコク・ドゥシット・メディカル・サービス(BDMS)グループとは
タイの首都バンコクは、在留邦人数が5万人を超え、バンコク病院では年間約2万7,000人の日本人患者を受け入れています。それを運営するのは、タイ大手私立病院グループのバンコク・ドゥシット・メディカル・サービス(BDMS)グループです。
バンコク病院では年間約85万人の患者を診察し、そのうち約30%が外国人の患者です。この外国人患者のうち約75%がメディカルツーリズムによる患者で、カンボジアやミャンマー、ベトナムなどのタイ周辺国からの患者が増えているとのことです。
また、BDMSは2019年11月に新しく「バンコク国際病院(Bangkok International Hospital)」を開業しました。バンコク国際病院には「整形外科センター」「脳・神経センター」「脊椎センター」などの専門病棟があり、メディカルツーリズムで訪れる外国人患者の割合が、さらに増えることが予想されます。
世界のメディカルツーリズム
医療に対して社会保障の側面が強い日本と比べ、世界では「産業」としてメディカルツーリズムは拡大しています。
メディカルツーリズムにおいての求められる治療の人気分野は渡航先によっても異なり、たとえばメキシコでは歯科治療、米国では最先端の医療技術、韓国は美容整形などです。
メディカルツーリズムは医療目的で渡航するため、国によってそれぞれ秀でた分野があり、メディカルツーリストがそれを目的として渡航することは当然のことといえます。
本当は怖い美容整形ツーリズム:整形大国・韓国の光と影
英国エコノミスト誌が調査した2011年の統計によると、人口1,000人当たりの整形手術件数が最も多い国は韓国でした。事実、韓国は整形手術を中心とする医療産業が大いに発達しており、整形手術を目的に韓国へと赴く外国人も多く存在します。このように、医療行為を受けるために他国を訪問することを、メディカルツーリズム(Medical Tourism/医療観光)と言います。メディカルツーリズムの件数は世界中で増加しており、医療費が著しく高騰している米国の住民が相対的に医療費の安いタイなどの諸国に向かう例...
日本のメディカルツーリズム:2020年の市場規模は5,500億円に
日本国内におけるメディカルツーリズムは、2020年に市場規模が5,500億円になると見込まれています。
日本国内のメディカルツーリズムの推進は、主に経済産業省が積極的に行っています。その動きのなかでも、2016年に設立した国際医療協力を推進する「Medical Excellence JAPAN(MEJ)」は、訪日外国人観光客の受診者の受け入れ実績のある病院を「ジャパン インターナショナル ホスピタル(JIH)」に認証推奨し、日本の医療情報を海外に発信するための重要な機関となっています。
また、経済産業省は海外での医療渡航イベントに日本のブースを出展し、日本の医療の認知度向上を図るためのプロモーションの実施や、現地コーディネーターや旅行業関係者との商談などにも取り組んでいます。
これだけではなく、厚生労働省が推進する「外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)」は、多言語対応の診療案内、異文化・宗教に配慮した対応など、外国人患者の受け入れに資する体制を評価する制度です。これは厚生労働省が平成23年度に実施した「外国人患者受入れ医療機関認証制度整備のための支援事業」を基盤に策定されました。外国人患者の円滑な受け入れを推進する国の事業の一環です。
まとめ
今後も、医療を目的とした観光産業は拡大するでしょう。特に、中国はタイと密接にかかわっていることからも、今後はタイに中国富裕層のメディカルツーリストが大勢訪れる可能性も十分に考えられます。
日本はもともと中国人観光客の割合でも、タイの後塵を拝していました。コロナ禍でのタイの迅速な対応などを見ても、国内でも引き続き気を引き締める必要があるといえます。
日本の医療資源に関して、メディカルツーリズムを受け入れることによって経済原則に晒されることが懸念されており、収益目的に限られた医療施設や医療従事者が増える可能性も考えられます。日本は公的サービス・社会保障として医療があるため納税者が不利益にならない形でのメディカルツーリズム推進が必要といえるでしょう。
また、新型コロナウイルスの流行にあたっては、医療従事者の疲弊についても広く伝えられています。観光市場回復後の同分野への外国人の受け入れには、働き手への配慮も必要となってくるでしょう。
<参照>曼谷杜斯特医疗服务集团(BDMS)与平安健康保险达成战略合作
東海学院大学研究年報:医療ツーリズムの市場動向-シンガポール,マレーシア,タイの比較検証-
トラベルボイス:メディカルツーリズムとは? -歴史と最新トレンドを総まとめnewsclip.be タイ発ニュース速報:タイ、7月から入国規制緩和 メディカルツーリズム、高度人材など
日本経済新聞:タイBDMS、中国・平安保険系と提携 越境診療 需要狙う
時事ドットコム:日本が出入国制限緩和の相手に選んだ4カ国の現状を現地リポート
JETRO:専門性の高い国際病院が開設、メディカルツーリズムの増加に期待
ウーマンズラボ:医療観光、2020年の市場規模5,500億円へ 日本の取り組みと課題
札医通信:医療ツーリズムの現況と問題点~そのⅠ
清迈印象:泰国曼谷医院入围世界医院100强,泰国医疗如何领先,一组漫画告诉你。
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