「ニセコ離れ」の現状からスノーツーリズムに見えてきた課題とこれからを考える

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新型コロナウイルスの影響で来年に東京オリンピックの開催が控えている日本では、スポーツツーリズムへの注目度が益々増しています。

日本の行政機関であるスポーツ庁も、目標としてスポーツ市場の規模を2025年までに15兆円まで拡大させることを掲げました。

そのスポーツ産業の中でも特に、旅行と結びつけたスポーツツーリズムは、観光業をはじめとしたその他の産業との相乗効果も強く、インバウンド需要創出への期待も高まっています。

この記事では、そんなスポーツツーリズムの中でも降雪地帯におけるスノーツーリズムに焦点を当て、その歴史や現状を紹介し、今後の可能性についても考察します。

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ニセコのスノーツーリズムの歴史

今となっては、ニセコといえばインバウンド先進地域、インバウンドの成功事例といった、ある種ブランドのような位置付けがされています。

北海道倶知安町、北海道ニセコ町などともにニセコ観光圏を形成していますが、なぜニセコがここまで観光地として発展したのか整理します。

まずはニセコを訪れる外国人観光客についてですが、オーストラリアからのスキー客が特に多いという特徴があります。

2004年ごろから急激にオーストラリア人が増え始め、2015年にはそのピークである年間約3万人もの観光客がオーストラリアから訪れました。

またオーストラリア人は、平均宿泊日数もその他の国からの観光客よりも長く、地域における経済効果の割合も非常に大きなものとなっています。
▲[外国人宿泊客の平均宿泊日数]:倶知安町 観光客入込状況
▲[外国人宿泊客の平均宿泊日数]:倶知安町 観光客入込状況

ここまでオーストラリア人観光客が増加した背景には、パウダースノーと呼ばれる上質な雪質、ヨーロッパやカナダよりも近く時差もないという地理的優位性、温泉や日本食を通した異文化体験、他国と比較した際のツアー料金の安さオーストラリアが夏の時期にスキーが楽しめるといった複数の要因が挙げられます。

また、そういった恵まれた環境にいち早く目を付け外国人目線でニセコをプロデュースした、オーストラリア人のロス・フィンドレー氏の存在も大きいといわれています。

英語での情報発信はもちろん、冬のみでなくラフティングなど夏のアクティビティにも着目し、ニセコを1年中楽しめる観光地へと整備していきました。

そうして徐々に口コミなどでニセコが広まり、今となってはインバウンド先進地域と呼ばれるまでに発展していきました。

ニセコの現状:豪州客離れとその理由

年々右肩上がりにインバウンド観光客数を伸ばしてきたニセコエリアですが、実は昨年2019年に初めて外国人宿泊人数が減少に転じました。

特に、前項で示した国地域別の外国人宿泊数・延数データを見ても分かるように、これまで大きくシェアを占めていたオーストラリア人客のニセコ離れがじわりとはじまっています。

▲[【参考】ニセコエリア外国人宿泊客数と延数の推移]:倶知安町 観光客入込状況
▲【参考】ニセコエリア外国人宿泊客数と延数の推移:倶知安町 観光客入込状況

こちらの倶知安町から提供されているデータを見ても分かるように、2018年まではニセコエリアの外国人宿泊客数が年々増加していましたが、2019年には大幅に減少しています。

その理由としては、円高による割高感も指摘されていますが、ニセコバブルによりエリア内宿泊施設の宿泊料が高騰しているのも大きな要因といわれています。

(※10月12日 編集部追記:倶知安町の公式資料では、2020年1月から新型コロナウイルスの影響が出始め、3月は(外国人宿泊延数が)激減したとも言及しています。)

外国人観光客数が毎年順調に伸びてきたことから、ニセコエリアのホテルの新規建築数は増加し、特に外資系ホテルにいたっては10年間で約90倍以上に激増しました。

また、それに応じるように中国、香港、シンガポールなどからの投資マネーも大きく流入しており、それらが要因でニセコはバブル状態となっていきました。

そうなると特に富裕層以外の観光客にとって、ニセコ観光は本州のスノーリゾートと比べても割高になってしまい、観光客は本州の雪質の高い地域へと流れるようになってきました。

豪州客は本州のスノーリゾートへ(志賀高原・野沢温泉・白馬など)

ニセコバブルによってこれまでニセコに集中していた訪日スキー客は、本州の雪質の高い地域へと足を伸ばすようになってきています。

特に長野県のインバウンドスキー客数の伸びは著しく、白馬村のエコーランドエリアなど地域によっては町中にほとんど外国人しか見かけないような状態になっています。

以下の資料は、長野県内の年別延宿泊者数の国別の推移です。

平成11年の訪日外国人の宿泊延数が約4.6万人泊から、平成30年には約120万人泊まで増加していることがわかります。

同じく平成30年のニセコエリアの宿泊延数が約68万人泊であることからも、雪を求める訪日外国人ニセコから本州に流れつつあることがわかります。

▲[平成30年外国人延べ宿泊者数調査]:長野県観光部山岳高原観光課
▲[平成30年外国人延べ宿泊者数調査]:長野県観光部山岳高原観光課

資料を見ると、オーストラリア人観光客の伸びが圧倒的に高く、平成30年には約20万人泊に上っています。そしてこのほとんどがスキーを目的にした滞在です。

ニセコバブルによる本州への流入も要因ではありますが、長野県のスキーエリアはその高い雪質に加え、スキー以外の時間も充実させる観光コンテンツも揃っています。

スキーエリア内では温泉や日本食も楽しめ、エリアから少し移動すればその他の観光地へ簡単にアクセスできます。

白馬村や野沢温泉から日帰り観光バスに乗り、地獄谷野猿公苑に詰めかける豪州客はテレビなどでもよく紹介されています。

面積の広い北海道、特にニセコエリアでは小樽を除くと容易にアクセス可能な圏内に観光地が乏しく、長野県のような日帰り観光プランが複数立てにくいという難点があります。

本州のスノーリゾートも、本格的に海外に向けて幅広くPRを展開してきましたが、ようやくその効果が現れてきています。

ニセコバブルから学ぶ今後のスノーツーリズム

ニセコバブルによる外国人スキー客のニセコ離れから学ぶべきことは多くあります。

近年ようやく好調に推移し始めた本州のスノーリゾートも、ニセコのような状態になるのは時間の問題かもしれません。

事実、白馬村には外資系ホテルを筆頭にホテルの新規建設が進んでいたり、中国の投資マネーも流入してきています。

先陣を切ってインバウンド誘致に成功したニセコですが、継続して外国人観光客に来てもらうためには持続可能なスノーツーリズムを考えていかなければなりません。

近年は雪不足というスノーリゾートには死活問題となる課題や、民宿やペンション経営者の高齢化、後継者不足などの課題も山積しており、簡単ではないのも事実です。

若い力でそういった地域を活性化していくことはもちろん、外資資本による投機的な動きを制限していくことも重要です。

ジャパウ(ジャパンとパウダースノーをかけた造語)と呼ばれるその高い雪質は、世界に誇れる日本の観光資源です。

中国政府がスキー市場の拡大、活性化を掲げていることからも、やり方によっては今後の日本のスノーツーリズムおよびスポーツツーリズムが大きく飛躍する可能性を秘めています。

先頭に立って日本のインバウンドを牽引してきたニセコの事例から学び、持続可能なスノーツーリズムを各地で構築していくことが今求められています。

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<参照>

・倶知安町令和元年度(2019-20)観光客入込状況:https://www.town.kutchan.hokkaido.jp/file/contents/2515/33566/rR01_2019-20_REV.pdf

・国土交通省観光庁:https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/jinzai/charisma/mr_findlay.html

・長野県観光部山岳高原観光課:https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/sangyo/kanko/toukei/documents/h30gaikokujin.pdf

・北杜の窓:http://hokutonomado.com/?p=580

・BLOGOS:https://blogos.com/article/398703/

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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