近年では、「インバウンド」という言葉をテレビや新聞で見かけることも珍しくなくなりました。
「インバウンド」はもともと英語で「内に入ってくる」といった意味があり、英語では「inbound」と表記されます。一方、「インバウンド」の反対語の「アウトバウンド」も英語由来で、「外へ出ていく」といった意味合いで使われ、「outbound」と表記します。
最近は、さまざまな業界でこの2つの単語が使われています。本記事では、各業界で使用される「インバウンド」「アウトバウンド」について解説します。
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「インバウンド」・「アウトバウンド」の意味
インバウンド(Inbound)とは、「内に入ってくる」ことを意味する英単語で、観光業界では「外国から自国への旅行」のことを指します。一方で、アウトバウンド(Outbound)とは、「外へ出ていく」ことを意味する英単語で、観光業界では「日本人の海外旅行」を指します。
業界別「インバウンド」・「アウトバウンド」の違い
「インバウンド」・「アウトバウンド」の代表的な使われ方を表にまとめました。
インバウンド | アウトバウンド | |
観光 | 外国から自国への旅行(日本では訪日旅行)のこと |
日本人の海外旅行のこと |
コールセンター・テレマーケティング |
顧客あるいは見込客から電話を受けること |
企業側が顧客または見込み客に電話をかけること |
ブログ・動画SNSなどを通じて見込み顧客に自社のコンテンツを見つけてもらい、問い合わせや資料請求などのアクションを起こさせるマーケティング手法のこと |
テレビやラジオのCMや屋外広告などのように、情報を企業から顧客に対して一方的に情報を提供するマーケティング手法のこと |
観光業界の「インバウンド」・「アウトバウンド」
観光業界では、「インバウンド」は訪日旅行や訪日外国人を表します。一方、「アウトバウンド」は日本からの海外旅行に行くことや日本人海外旅行客を表す言葉です。
以下では、用語が広まった背景やそれぞれの実態を解説します。
「訪日旅行」という意味での「インバウンド」
観光業界で「インバウンド」とは、「外国から自国への旅行」あるいは「自国への外国人旅行者」を意味します。日本で「インバウンド」というと、訪日外国人旅行、または訪日旅行を指します。
「インバウンド客(訪日外国人観光客)」というワードは、観光業界において2000年代以降に注目を集めるようになりましたが、その背景には日本政府によるインバウンド促進の動きがありました。
2002年に「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」が閣議決定され、同年、国土交通省は「グローバル観光戦略」を策定します。
その後、2000年代前半頃からの日本文化の世界的なブームを受け、日本政府は「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を策定しました。ここでは、2010年までに年間1,000万人の訪日外客数が訪れるようなインバウンド市場を日本に拡大することが目標とされました。
なお、2000年代前半では、日本からの出国者(アウトバウンド)数が訪日外国人(インバウンド客)数を上回っていたのです。日本政府観光局(JNTO)日本の観光統計データのグラフをご覧ください。

訪日外国人を誘致し、消費を促すビジネスが注目を集めるにつれ、「訪日旅行」という意味での「インバウンド」という言葉が急速に一般化することになりました。
なお「インバウンド」の関連用語としては、インバウンド消費、インバウンド需要、インバウンド市場、インバウンド対策(インバウンド施策)、インバウンド対応、インバウンドマーケティングなどがあげられます。
関連記事:インバウンドとは
「日本人の海外旅行」のアウトバウンド
旅行業界でのアウトバウンドは、日本人が外国へ行くことを意味する言葉として使われます。
日本政府は2008年よりアウトバウンド促進協議会(Japan Outbound Tourism Council)を設立し、日本人の海外渡航者数2,000万人達成を目標に、海外旅行促進活動の更なる活性化を図っています。
日本人が積極的に海外へ渡航することで、国際感覚の向上や外国人との相互理解の向上などの効果が期待でき、「グローバル人材」の育成につながります。また、航空路線の維持などの観点から、今後のインバウンドの拡大にはアウトバウンドの活性化も不可欠です。
インバウンドとアウトバウンドという双方向の交流人口を増やしていく方針は「ツーウェイツーリズム」と呼ばれます。
関連記事:アウトバウンドの定義、インバウンドとの関連性を解説
「インバウンド」と「アウトバウンド」の市場規模とは?
インバウンド(訪日旅行)、アウトバウンド(日本人の海外旅行)それぞれの市場規模について解説します。
インバウンドの市場規模は、2024年の訪日客数は3,687万人。また、2024年の訪日消費額は8兆1,257億円を記録しています(日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計 / 観光庁 インバウンド消費動向調査より)。
次にアウトバウンドの市場規模は、2024年の出国日本人数は1,300万人。さらに、2024年の日本人海外旅行(国内分)は1.0兆円となっています(JNTO 日本の観光統計データ / 観光庁 旅行・観光動向調査より)。
インバウンド市場が訪日客数・消費額ともに過去最高を記録した一方で、アウトバウンド市場はコロナ前の水準に届いていません。日本としては、アウトバウンドの促進へ向け、パスポート取得支援や海外旅行機運醸成などの政策を展開しています。
関連記事:「もっと!海外へ宣言」観光庁・外務省・JATAが共同で発出 アウトバウンド促進キャンペーン展開
観光業界のインバウンドに関する課題
ここでは、観光業界の「インバウンド」に関する課題について見ていきます。
インバウンド受け入れ初期の課題であった、フリーWi-Fiの少なさや多言語対応の未整備などは、徐々に改善されてきています。観光庁の最新の調査によると、訪日旅行中に「困ったことはなかった」と答えた人が半数を超えています。

一方で、集客が好調であるからこその課題も見え始めています。たとえば、観光客が一極集中することで起こる「オーバーツーリズム」、コロナ禍で従業員が離れたことを発端とした人手不足。さらには、データ活用・マーケティングのノウハウ不足が挙げられます。
観光庁の調査では「ごみ箱の少なさ」が最も大きな課題として浮上しており、観光地ではごみのポイ捨てなどのマナー問題も「オーバーツーリズム」と紐づく形で顕在化しはじめています。
観光業界のインバウンドの課題に対する解決策
では、こうした課題への解決策としてはどういったものがあるのでしょうか。
現在の観光業界で課題となっている「オーバーツーリズム」においては、観光客を「分散」させることや、「高付加価値化」によって同じ人数でより大きな消費額を得ること、マナー問題においては「相互理解」を促進することなどが挙げられます。
人手不足については、賃金が他産業の水準と比較して低いことが大きな要因です。観光DXなどによって労働生産性を向上させるとともに、それを従業員に還元していく姿勢が求められます。
関連記事:宿泊・観光業の「人手不足」に挑む、観光庁の戦略と展望
マーケティングについては、インターネットの発展に続いてスマートフォンが普及したことにより、位置情報データ、検索・予約データなどさまざまなデータを取得する方法が登場しています。
関連記事:インバウンド集客成功のカギを握る!インバウンド戦略の考え方
観光業界のインバウンドの課題の成功事例
業界の課題を解決する事例として、ここでは「オーバーツーリズム」の事例をご紹介します。
たとえば、「相互理解」を促進する取り組みとして、京都市の事例があります。京都市観光協会は、外国人に向けたルールの周知やマナー啓発を実施しています。観光客による混雑が課題となっている京都市では、観光振興計画において「住んでよし、訪れてよし、働いてよし。歴史や文化を希望にかえるまち 京都」をテーマとしており、何より「地域住民」の生活を優先事項としている点において、今後「オーバーツーリズム」が課題となる地域にとっては大いに参考になる事例です。
訪日客が最も困ったこととして挙げていた「ごみ箱の少なさ」においては、IoTスマートゴミ箱「SmaGO(スマゴ)」(フォースティック社)の事例があります。回収したゴミを自動で圧縮したり、回収のタイミングをゴミ業者に知らせたりと、コスト削減しながら効率的にごみを回収できる仕組みです。
その他の事例については、関連記事をご覧ください。
関連記事:
その他各業界の「インバウンド」・「アウトバウンド」
ここまで、観光業界における「インバウンド」・「アウトバウンド」について詳しく説明しました。しかし、この2語を使う業界は他にもあります。そして、それぞれの業界では、それぞれことなる「インバウンド」・「アウトバウンド」の定義があります。観光業界以外の業界用語としての「インバウンド」・「アウトバウンド」について説明します。
コールセンターの「インバウンド」・「アウトバウンド」
「インバウンド」・「アウトバウンド」という言葉が日常的に使われる業界の一つが、テレマーケティング業界です。
この業界では、「インバウンド」というと顧客あるいは見込客から電話を受けることで、「受信」へ対応する業務のことを意味します。具体的には、「問い合わせ」、「申し込み」、「クレーム」などを担当することになります。なお、インバウンドコールセンターでの仕事はしばしば「テレオペ」と呼ばれます。
一方、テレマーケティング業界での「アウトバウンド」は、企業側が顧客または見込客に電話をかけること、「発信」の業務を意味します。具体的には、「営業」や「アンケート・調査」などが行われます。アウトバウンドコールセンターでの仕事は「テレアポ」と呼ばれます。
テレマーケティング(コールセンター)業界では、近年のIT技術の進化により、インバウンド向けまたはアウトバウンド向け、それぞれの機能を備えたコールセンターのシステムが生まれています。
マーケティングの「インバウンド」・「アウトバウンド」
マーケティング用語としても「インバウンド」「アウトバウンド」は使われます。
「インバウンドマーケティング」とは、企業がブログ・動画SNSなどを駆使して見込み顧客に自社のコンテンツを見つけてもらい、自社の商品やサービスを抵抗なく受け入れてもらうために情報を設計するマーケティング手法のことです。
「アウトバウンドマーケティング」とは、テレビやラジオのCMや屋外広告などのように、情報を企業から顧客に対して一方的に情報を提供する広告戦略のことです。
Web業界
Web業界でも、「インバウンド」・「アウトバウンド」という言葉が、「リンク」という言葉を伴って使われます。
「インバウンドリンク」とは、インターネット上のハイパーリンクから自サイトに向かって貼られたリンク(外部リンク)を意味し、「アウトバウンドリンク」とは、インターネット上の自サイトから外部のページに向かって貼られたリンク(外部リンク)を意味します。
Webの分野では、WebページやWebサイト間を結ぶリンクについて、「インバウンド」か「アウトバウンド」かを判断します。
IT・通信業界
IT・通信業界でも「インバウンド」・「アウトバウンド」という言葉が使われます。
この業界での「インバウンド」とは、外部から機器を通して情報を受信することを指します。対して、「アウトバウンド」は、外部へ情報を送ることを意味します。
具体的には、インバウンドは「機器やシステムへ外部からデータ受信や接続があること」となり、外部から受信するデータ量はインバウンド・トラフィック、外部から受信するデータはインバウンド・データと呼びます。
また、アウトバウンドは、「外部の機器やシステムへデータ送信や接続をすること」を表し、外部へ送るデータ量のことをアウトバウンド・トラフィック、外部へ送るデータのことをアウトバウンド・データと呼びます。
各業界の「インバウンド」「アウトバウンド」を押さえよう
各業界の「インバウンド」・「アウトバウンド」について解説しました。どの業界でも基本的な意味として、インバウンドは「外から内へはいってくる」「内向きの」という意味であるのに対し、アウトバウンドは「内から外へ出ていく」「外向きの」という意味を持っています。どの業界においても、それぞれの特徴を理解しておくことが大切です。
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<参考>
・アウトバウンド促進協議会:アウトバウンド促進協議会とは
・国土交通省:グローバル観光戦略
・日本政府観光局(JNTO):訪日外客統計、日本の観光統計データ
・観光庁:インバウンド消費動向調査、旅行・観光動向調査
・観光庁:訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査を実施しました ~旅行中「困ったことは無かった」と回答した割合が大幅増~
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
本イベントでは「顧客への情報アピール」「顧客体験(ゲストエクスペリエンス)」「運営のデジタル化」など、施設運営に必要なをテーマを、市場の最前線を走るエキスパートたちが集結。お客様が施設を見つける「旅マエ」から、実際に滞在する「旅ナカ」まで、あらゆるフェーズにおける最新戦略と成功事例を徹底解説します。
<本セミナーのポイント>
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詳しくはこちらをご覧ください。
→宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」【7/3開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
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この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
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→「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年6月後編】
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