コロナ後のインバウンド向け戦略を展望する上で、ラグジュアリーツーリズム誘致の重要度は増しています。
しかし、現在の日本では富裕層を受け入れる上での価値の訴求、コンテンツ造成、受け入れ環境の整備については遅れているといわざるを得ない状況にあります。
この記事では、インバウンドにおけるラグジュアリーツーリズムの詳細や成功のポイントなどを解説します。
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インバウンドにおけるラグジュアリーツーリズムの意味
ラグジュアリーツーリズムとは、マス(大衆)ではなくラグジュアリー層の旅行のことです。
メインとなるターゲットは富裕旅行者(ここでは一度の旅行で100万円以上支出する旅行者を定義します。)であり、日本政府観光局の調査によると、世界では全体の1%にしか満たない富裕旅行者が全体の13.1%の消費額を占めています。
しかし、日本においては全体の1.4%である富裕旅行者が全体の1.3%の消費額にとどまっています。
この調査結果は日本がラグジュアリーツーリズム誘致に課題を残していることを示すとともに、日本の観光業界がコロナ禍から立ち直り、より持続可能に成長していく余地があることを示しています。
関連記事:日本人が”知らなすぎる”「富裕層観光」の実態 ラグジュアリージャパン観光推進機構 宮山代表理事に聞く
日本のラグジュアリーツーリズムが抱える問題点
日本はラグジュアリーツーリズムにまだまだ対応できていないといわれています。
現状、日本のラグジュアリーツーリズムが抱えている問題点は以下の3つです。
- ニーズの多様化に対応できていない
- ラグジュアリー層への認知拡大が不十分
- ラグジュアリー層向けのコンテンツが整っていない
問題点を理解することが、問題点を改善するためのファーストステップとなります。
関連記事:日本のインバウンドの課題・その解決策とは?旅行者の地域分散がカギ握る
ニーズの多様化に対応できていない
日本のラグジュアリーツーリズムは、ニーズに対応できていないといえます。
そもそも「ラグジュアリー」という概念について、「金満趣味」「選民意識」「ハイブランド志向」というステレオタイプ的イメージを持つ人も少なくないのではないでしょうか?確かにそういったものを好む方もいますが、その理解のままでは後につづくコンテンツ造成、プロモーションも失敗するでしょう。
日本政府観光局によれば、富裕旅行者の志向は以下の2つに分類されます。
- Classic Luxury(従来型ラグジュアリー志向)
- Modern Luxury(新型ラグジュアリー志向)
Classic Luxuryは従来型のラグジュアリー志向であり、その価値観は「富、力、地位、魅力、願望、消費」が中心であり、旅行についてもベストサービス、ステータスシンボル、エクスクルーシブであるかなどを重視します。50〜60代に多いといわれています。
それに対してModern Luxuryには20〜30代が多く、「文化、起源、遺産、スタイル、独自性、本物、質」を自らの価値観に据えています。
したがって、旅行に対してサステイナビリティ、本物の体験、ボランツーリズムなどを希求する傾向にあります。
ラグジュアリー層への認知拡大が不十分
ラグジュアリー層へ向けた認知拡大も不十分です。
認知されないことには興味をもってもらえることすらなく、そこにインバウンドが訪れることもありません。
WebサイトやSNS、海外の旅行雑誌やパンフレットでの訴求が検討に上がるでしょう。
しかし、富裕層のインバウンドにはそれぞれ懇意にしている海外の旅行代理店がある場合も少なくありません。そういったコネクションを形成していくことも重要です。
そして、プロモーションの際には世界観を丁寧に伝えることも肝要です。
上述したModern Luxury層が求める価値観をまずは深く理解し、自分自身もその価値を見出していなければ、刺さるプロモーションは不可能といってよいでしょう。
ラグジュアリー層向けのコンテンツが整っていない
そもそも、日本の観光業界においてはラグジュアリー層向けのコンテンツが整っていません。
観光庁の「上質な宿泊施設の整備について」を参照すると日本国内のFiveStarAlliance登録の5つ星ホテルの数はインドネシアより少なく、タイの3分の1以下だということがわかります。5つ星ホテル一軒あたりの外国人観光客数も、1位の米国が9.9万人に対して、日本は91.7万人です。
そもそも、いかにラグジュアリー層を誘致するための施設が整っていないことがわかります。
また日本政府観光局によれば、ラグジュアリーツーリズムの消費性向にも以下の2パターンがあります。
- All Luxury(すべてに対して高額消費)
- Selective Luxury(優先度を決めて高額消費)
つまり圧倒的な高額所得者でなかったとしても、優先度を決めて特定のコンテンツに高付加価値なものを求める層もいるということです。これを鑑みると、ラグジュアリーツーリズムの潜在的な市場はもっと大きい(そして、日本のコンテンツはもっと足りていない)ともいえます。
ラグジュアリー層のインバウンドにとって、どんなニーズがあり、何が優先度の高いものなのかを考える必要があるでしょう。
富裕旅行者のニーズは消費性向を掴み、適切なコンテンツを準備することが重要です。
ラグジュアリーツーリズムの成功に必要なこと
ラグジュアリーツーリズムが成功すれば、旅行消費額も人気も大きくなります。
実践したあとにもPDCAを回し続けることで、より効率的かつ効果的な集客が可能になるでしょう。
関連記事:2024年に富裕層旅行市場が22兆円に 求める観光コンテンツとは
高品質サービスを「安売り」しない
今後のインバウンド戦略はコロナ前そうであったような「量」や「安価で大量生産」を追い求めるべきではありません。
ラグジュアリーツーリズムに限らず、低価格だけを売りにしていてはかつて起きていたオーバーツーリズムを再び引き起こし、観光客でごった返した観光地は地元民にとっても外国人旅行客にとっても忌避されるでしょう。
日本には世界に誇る歴史と伝統、文化、そして食事といった魅力があります。これらの観光資源のもつ価値を捉え直し、適切な価格設定で提供する必要があります。
マスツーリズムの色を残す画一的な旅行体験からは、ラグジュアリー層はもちろん、中長期的には一般の旅行客も離れていくでしょう。
そうではなく、混雑を避けたプライベートな空間はもちろん、日本ならではかつ、「本物の体験」が必要不可欠です。
関連記事:30年かけ"貧困化"したニッポン、世界から「安価な観光地」認定される前にやるべきこと
日本がもつ価値を捉え直し、付加価値を高めていく
日本政府観光局の富裕旅行市場調査によると、欧米豪5市場では「全体のわずか1%である富裕旅行者が、全体の消費額の13.1%を担っている」ことがわかっています。
しかし、日本では残念ながら同じ割合の富裕層が訪れていながら消費額は1.3%に留まります。
課題は受け入れ環境の整備、コンテンツの造成、プロモーションとそれぞれにありますが、まずは日本が持つ観光資源を捉え直し、従来型のマスツーリズムから脱却するために事業者側の価値観の転換が求められるのではないでしょうか。
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