「春節へ向け、訪日路線の復便早まる」中国インバウンド需要 回復の動きと今後の予測:JNTO中国4事務所(北京・上海・広州・成都)が詳しく解説

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日本政府観光局JNTO)は2月2日、中国事務所の2024年度事業説明会を実施しました。2023年の中国のインバウンド市場と観光トレンドについて振り返り、2024年度のプロモーション事業の詳細を発表しました。

説明会では、中国国内にある4事務所(北京事務所、上海事務所、広州事務所、成都事務所)の担当者も登壇。各地域ごとの旅行需要の変化などを報告しました。

本記事では発表された内容をもとに、中国インバウンド市場のプロモーション施策について検討していきます。

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中国インバウンド関連2023年の主な動き

2023年 中国 インバウンド JNTO
▲2023年中国インバウンド関連の動き(JNTO)

2023年の中国インバウンド市場における中国側の動きとしては、まず2023年1月に入国時の隔離政策の廃止を実施。2月からは海外団体旅行が段階的に解禁されていきました。

日本向けの団体旅行は2023年8月に解禁されましたが、直後に処理水の放出問題などが浮上。その結果、予想よりも影響は大きくはありませんでしたが、訪日旅行需要の停滞が見られました。

また、中国政府はインバウンド促進施策としてビザ免除措置を矢継ぎ早に実施。2023年12月にはフランスやマレーシアなどの6カ国に対して、1年間のビザ免除措置を試験的に開始しました。さらに直近の2024年1月には、シンガポール及びタイとの間で相互ビザ免除措置に関する協定を調印しています。

各種統計から見る中国インバウンドの現状

政府では、2025年までのインバウンド市場においては「訪日外国人旅行者数」「消費額」「地方部宿泊数」の3つの柱で目標を設定しています。以下にそれぞれの2023年の中国インバウンド市場の詳細と結果をまとめていきます。

訪日外国人旅行者数

中国 訪日外客数 2019年 2023年 JNTO
▲訪日外客数2019年・2023年(JNTO)

2023年の訪日客数は約2,500万人。そのうち約1割に当たる243万人が中国からの訪日客でした。コロナ禍前の2019年と比べると全体の訪日客数は約80%程度まで回復していますが、中国からの訪日客はコロナ禍前の約24%。2019年比で約4分の1程度の水準にとどまっています。

月ごとの訪日外客数 / 季節変動

月ごとの中国からの訪日客数は、2023年1月から8月までは右肩上がりで順調に回復していました。秋以降は旅行のオフシーズンに入ったことや処理水放出の影響などもあり一旦足踏み状態に。12月以降は再び30万人を回復し、2019年同月比では45%となっています。

2016年からの統計を見ると、春から夏にかけて旅行者が増加する一方、秋から春節前の時期まではオフシーズンに入る傾向にある様子。春節団体旅行客が大挙して訪日するイメージがありますが、統計によると春よりも夏の方が需要が高いようです。

また、団体旅行は2ヶ月前に、個人旅行は1ヶ月前を目処に旅行先を決める傾向にあるとのことで、これにより観光プロモーションについてJNTO中国事務所の担当者は、例えば2024年2月の段階であれば、春節後の春スキーや桜のプロモーションに力を入れるのが最適であるとの見解を示しました。

競合国との比較

需要回復が遅れている印象の中国のインバウンド市場。日本の競合となるシンガポールや韓国などのアジアの国々も中国からの旅行者数の伸びは頭打ちになっている場合が多いようです。

中国からの団体旅行が解禁された時期は国によって差がありますが、どの国も大体、2019年同月比30〜50%程度の回復率にとどまっています。2023年の累計で見ても2019年同時期比30%程度であり、中国人の海外旅行の勢いが戻りきっていないのが現状のようです。

中国国内市場との関係性

海外旅行への需要回復が遅れている一方、活況なのが国内旅行需要です。中国の国内旅行人員と旅行消費額は、いずれもコロナ禍前の約8割まで回復。2024年は2019年の水準まで国内旅行の回復がなされるとの予想もあります。国内旅行に目をむけている層に対して、いかに魅力を訴求するかが、今後の課題の一つとも言えるでしょう。

消費額の傾向

訪日外国人 消費動向 消費額 2019 2023年 JNTO
▲訪日外国人消費動向2019年・2023年(JNTO)

2023年の訪日外国人の旅行消費額は、政府目標であった5兆円を達成し、累計5兆2,923億円。そのうち中国人の消費額は7,599億円で、2019年の1兆7,704億円と比較すると1兆円以上の減額となっています。

中国人が全体に占める割合は2019年の約37%から2023年は約14%にまで減少。しかし訪日客数で見ると、全体に占める中国人の割合は9.7%なので、一人当たりの消費額は他国に比べて高いと言えます。

消費項目調査の結果

訪日中国人の旅行支出の項目は、コロナ禍前から支出のトレンドが大きく変わってきています。

2015年に約60%を占めた買い物代は割合を減らし、2023年は宿泊費や娯楽サービス費の割合が上昇。特に娯楽サービス費の伸びが顕著であり、体験型の観光に移行してきている状況です。世界的な観光のトレンドでもある「コト消費」の需要が中国でも高まっていると言えます。

一人当たりの消費額

中国の一人当たりの消費額は、コロナ禍前から政府目標の20万円(一人当たり)は達成していましたが、2023年では約32万円でした。2023年前半に中国の高所得者向けのビザが発給されたことで所得の高い層を中心に訪日旅行が進んだことが、消費額の増加に繋がったと考えられます。いずれにせよ過去10年間で最高を記録しました。

地方宿泊

都道府県別 中国人 宿泊旅行統計 JNTO
▲都道府県別 中国人の宿泊旅行統計(JNTO)

都道府県別の中国人宿泊者数の2019年比率を見ると、各地域でおおむね中国人の割合が低い傾向にあります。北海道や沖縄、中部各県など、コロナ禍前には多くの中国人観光客が訪れていた地域でも回復は鈍く、中国人観光客の関東や近畿への集中が顕著でした。

中国市場に限らず、地方への誘客はインバウンド市場全体で喫緊の課題であり、JNTOも地方への誘客プロモーションを積極的に進めていくとのことです。

航空便について

地方への誘客を進める上で重要な要素となるのが地方への航空路線の復便・増便です。2023年の冬ダイヤではコロナ禍前の約43%に回復し、2024年4月以降のダイヤではさらに増便が進む見込み。順調に行けば2024年末には2019年比で80%の水準に回復するという予想もあるようです。

ただし、復便・増便については、ビザの関係もあり急に進むものではありません。日本人に対する中国の短期ビザなし渡航の停止は継続中です。日本から中国の出張者や旅行者が戻らないことには便数を戻しづらいとの声も航空会社から聞いているそうです。

いずれにせよJNTOは引き続き航空各社に対する働きかけを継続的に行っていく予定とのことです。

クルーズについて

2019年は年間約160万人の中国人がクルーズ船で入国していましたが、2023年は11月時点で4.6万人に止まっています。クルーズ船の再就航は航空便以上にハードルが高く、徐々に回復傾向ではありますが、JNTOとしては、そのペースはゆっくりであるとの見方を示しました。

中国旅行会社の現状

JNTO中国事務所では、中国国内で訪日旅行を取り扱う旅行会社へのヒアリングを毎月実施しています。その結果によると、旅行会社の勤務体制はコロナ前とほぼ同じ状態に戻っているとのことです。

さらに中国人の海外旅行トレンドの変化に伴い、現在は大型の団体旅行よりも小規模のオーダーメイドツアーなどに注力しているようです。

中国では動画による情報収集が急速に広まっていて、"動画がバズって人気観光地になる"というケースが2023年だけでも多くあったようです。旅行者のトレンドやニーズに合わせたプロモーション方法が求められています。

2024年の中国人向けプロモーション事業

中国人 プロモーション ターゲット JNTO
▲中国人向けプロモーションのターゲット(JNTO)

説明会では次に、JNTOの中国市場向けプロモーション事業の詳細について発表がありました。観光庁JNTOでは2025年度までを対象とした訪日外国人向け戦略を策定しており、その中で各国の市場別にターゲット設定を行っています。

中国からの訪日客については約60%を占める20〜40代をメインターゲットに設定。特に夫婦やパートナー向けのプロモーション施策を予定しているとのことです。

地方誘客と消費単価向上を目標に、高所得者向けの情報発信や訪日旅行未経験者の興味を喚起するコンテンツの制作に注力していく予定としています。オーバーツーリズムを意識しつつ、地方部の宿泊率を向上させる取り組みを進めていく方針を示しました。

プロモーション施策の詳細について以下にまとめていきます。

中国人 インバウンド プロモーション 方向性 JNTO
▲中国人向けプロモーションの方向性(JNTO)

SNS事業

中国人観光客はSNSを使って観光情報を収集する人が多いため、JNTOではその状況に合わせたコンテンツ制作と情報発信に注力していくということです。

中国ではFacebookなど海外のSNSが使用できないため、中国版SNSを積極的に活用。中国版blogと言われる「微博Weibo)」などと合わせて、2024年度は、Instagramと似た要素を持つ「小紅書(Xiaohongshu、通称RED)」の活用も予定しています。

観光庁の各種支援事業により造成されたコンテンツについて、連携したプロモーションを行っていく予定があるとのことです。

旅博

中国3大都市で開催される旅行博覧会。JNTOは毎年出展していますが、2024年度も例年通り出展予定とのことです。今年は開催に合わせて中国旅行会社との商談会を実施し、日中の旅行関係者間でネットワークの構築を目指す方針を示しました。

大手旅行会社・航空会社との共同広告

中国の大手旅行会社や航空会社との共同広告を予定。各社のプロモーション施策を戦略的に組み合わせ、変化の速い中国の広告市場に対応していくとのことです。

BtoC事業

一般消費者向けのプロモーションについては、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型のイベントの開催や日本からのライブ配信などを予定。

イベントでは中国の9都市で、少人数制イベントを実施するとのことです。自治体による観光PRに加え、実際に参加者に食やものづくり体験をする機会の提供を予定しています。

また、日本からのライブ配信には、中国のメディアインフルエンサーKOL)を活用し、日本各地域から中国人観光客目線での情報発信を行っていくとのことです。

各種招請事業

BtoC及びBtoBの各種招請事業については、「メディアインフルエンサー」「2025年大阪・関西万博」「高付加価値旅行の取り扱い会社」の3つをメインに招請活動を進める予定です。

中国各地の様子

最後の質疑応答では、中国にある4つのJNTO事務所からそれぞれの担当者が登壇。「訪日客数が伸びそうな地域は?」「各地域の顧客層の違いは?」といった質問に現地の状況を回答しました。以下に各事務所のコメントをまとめます。

訪日が伸びそうな地域:春節へ向け、訪日路線の復便が早まっているとの声も

上海事務所

杭州や南京などの「新一級都市」の旅行需要の回復に期待しています。特に上海は、他の地方都市に比べ戻りが早く、春節に向けて中華系航空会社が訪日路線の復便速度を早めている印象。2024年は、訪日需要の伸びに非常に期待が持てるのではないか。

広州事務所

訪日旅行が伸びそうな地域として、華南地域では、広東省、深圳市が有望です。平均年齢が30代と若く、世界的な電気自動車やドローンメーカーなど産業も好調な地域。先進技術を持つ企業も多く所得が伸びており、隣が香港なので、香港空港を利用して日本の地方へ直接アクセスできるアドバンテージもあります。旅行需要も高まるのでは。

成都事務所

成都市から高速鉄道で1時間ほどのところに人口3,000万人を超える重慶市があり、成都(2,100万人)と重慶で大きな経済圏が構築されています。

昨年来、中国景気の減速が話題になっていますが、中国全体の経済成長率5.2%に対して、(成都が省都の)四川省と重慶市はそれぞれ6%台と堅調。2024年も中国全体の成長率を超える水準になると予想されています。

不動産関係の景気停滞に伴う若干の影響はあるものの、それほど大きくはないという印象です。遅れている航空便の復便が伸びれば、旅行需要は一気に伸びるのではないか。

北京事務所

従来から訪日客の多い北京市周辺と大連などの東北地域に加え、人口1億人を超える山東省に注目。現在はビジネス客の方が多いが、今後の観光需要の掘り起こしが重要だと思います。

各地域の顧客層の違いや効果的な施策

北京事務所

北京周辺は、中国の中でも特に高所得者が多く、消費意欲が旺盛な地域です。いわゆる定番の観光地ではない地域の魅力を知ってもらうことが大切。中国の富裕層は情報感度が高いので、彼らが見るような動画やSNSを活用して知名度をあげていくことが重要です。

成都事務所

四川省、雲南省、重慶市などの西南地区では、個人旅行の増加に伴いOTAの利用が増えています。

一方、沿岸部と比べ店舗型の旅行会社の存在感が引き続き顕在で、情報収集をSNSで行い、購入はカウンターで相談しながら店舗で行う層も多い。成都事務所が実施したアンケートでは、店舗で予約をする人は全体の30%にも上ります。

効果的な施策としては、OTAでの施策やSNSでの情報発信と合わせて、現地旅行会社での販売促進支援も必要だと考えています。

上海事務所

上海市民は日本へ旅行に出かける人が多く、リピーターが多い地域。富裕層だけでなく一般の人も日本に行っている方が多いのが特徴です。

上海空港からは、日本の20都市を超える地域へ航空路線が就航していることもあり、東京や大阪以外の地方都市に目を向ける人も多くいます。中国全土と同様にSNSを駆使した情報発信を継続し、各地の魅力を訴求することが大切です。

広州事務所

華南地域においてはコロナ禍後に、団体旅行から個人旅行へ非常に大きくシフトしました。そのため、SNSや動画での発信など、個人旅行ニーズに合わせたアプローチで売り込んでいくのが効果的です。

広東省、福建省からの飛行機は現在、東京と大阪に限定されているので、地方への誘客には少し時間かかるのでは。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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