政府は6月18日、令和6年(2024年)版の観光白書を閣議決定し、公表しました。
今回の観光白書では、主に「訪日外国人旅行者の地方誘客と消費拡大」に焦点をあてて分析を行っています。
訪日ラボでは全5回にわたり、インバウンド向け施策を実施している方なら読んでおきたい箇所をピックアップして説明していきます。(今回の記事では、太字部分を説明します)
- 第Ⅰ部 令和5年観光の動向
- 第1章 世界の観光の動向
- 第2章 日本の観光の動向
- 第3章 インバウンドの地方誘客と消費拡大に向けて
- 1 インバウンド観光の現状と課題
- 2 地方部におけるインバウンド観光の動向と地域の取組事例
- 3 訪日外国人旅行者の地方誘客と消費拡大に向けて
- 第Ⅱ部 令和5年度に講じた施策
- 第Ⅲ部 令和6年度に講じようとする施策
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インバウンド観光の現状と課題
前回の記事でも解説した通り、2022年10月の水際措置の大幅緩和以降、訪日外国人旅行者数や訪日外国人旅行消費額は堅調に回復しています。では、訪日旅行が回復した要因はどこにあるのでしょうか。
中国に代わり韓国が旅行者数トップに
まず2023年の旅行者数の上位5か国・地域(韓国、台湾、中国、香港、米国)を見てみると、2019年トップの中国は74.7%減と回復が顕著に遅れているのに対し、韓国は2019年比24.6%増、米国は同18.7%増と新型コロナウイルス感染拡大前より大きく増加しており、台湾・香港も9割前後まで回復しています。(なお韓国については、2019年後半の日韓関係悪化の影響により、2019年比の回復率が押し上げられていることに留意する必要があります)
その他の国・地域についても、シンガポールをはじめ東南アジアの旅行者の増加が見られました。
なお、中国の回復が遅れた背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い中国国内で行われていた「ゼロコロナ」政策の影響や、その後日本政府から出された水際対策の影響があります。しかしその後2024年2月には、延べ宿泊者数がコロナ後初の1位となりました。訪日外客統計ではこの時点で3位だったため、中国人訪日客の滞在日数が長期化していることが見てとれます。
関連記事:外国人宿泊者数「中国」がコロナ後初の1位に、滞在日数長期化で 【観光庁 宿泊旅行統計 2024年2月・3月】
次に、訪日外国人旅行者数が大きく増加している韓国、米国の旅行者の主な海外旅行先を見てみます。
韓国の2023年のアウトバウンド客数を見ると、ベトナム、タイ、米国等への旅行者数は2019年水準を下回っていますが、日本への旅行者数は2019年比で24.6%増と大きく増加しています。2019年後半の日韓関係悪化の影響も要因として考えられますが、2019年・2023年ともに日本への旅行者数は最も多く、韓国における訪日旅行需要が一貫して高いことがわかるでしょう。
韓国についての基本情報は、関連記事よりご確認ください。
関連記事:韓国と日本の関係は?インバウンドデータや貿易・文化交流、両国関係の改善傾向までわかりやすく解説
米国のアウトバウンド客数を見ると、隣国のメキシコ、カナダを除いて全体的に増加傾向にあります。また2023年の日本への旅行者数は2019年比で高い伸びを示しており、アジアの中ではトップの行き先になっています。韓国や台湾へのアウトバウンド客数も増加しており、日本をはじめ東アジアへの旅行意欲が増しているとも考えられます。
米国(アメリカ)についての基本情報は、関連記事よりご確認ください。
関連記事:アメリカと日本の関係は?2024年は「日米観光交流年」、改めて経済や政治、文化面のつながりをわかりやすく解説!
続いて主要国のインバウンド消費額に着目します。
現地通貨建てのインバウンド消費額の推移をみると、国際観光客数と同様に、欧米諸国では回復が開始した時期が早く、アジア諸国では1年以上遅れてから回復の動きが見られました。日本は特に回復の開始時期が遅かったようですが、2022年10〜12月期以降急速に回復し、2023年7〜9月期には2019年水準を上回り、同年10〜12月期には2019年同期比で38.8%増となりました。
各国通貨の対米ドル為替レートの推移をみると、アジアは通貨安の傾向にあり、なかでも日本円は2023年末には2019年比で約25%下落しており、円安傾向にあります。また、日本の消費者物価指数は、2023年末で2019年比約7%の上昇と、欧米諸国と比較すると緩やかな上昇にとどまっています。
日本の財・サービスの相対的な割安感が、訪日外国人の消費を促したとも考えられます。
旅行者の国外旅行の理由はさまざま、サステナビリティや地域貢献への関心も高い
ここで世界の旅行者の旅行志向を見てみましょう。
「海外旅行を予定・検討している理由」として、アジアでは「リラックスや癒しを得たいから」、欧米豪では「海外旅行が好きだから」が最も多くなっています。「為替の影響で海外旅行費用が少額になるから」は、アジア、欧米豪ともに低い順位となりました。
国外旅行の主な目的として最も多く挙げられたものは、「ガストロノミー・美食」です。次いで「テーマパーク」「アート鑑賞」「庭園、花鑑賞」「ラグジュアリーホテル」の順となっており、世界の旅行者は様々な目的で国外旅行をしていることがわかります。
さらに世界の旅行者のうち「よりサステナブルな旅行をすることは自身にとって重要」と回答した割合は80%、「今後1年間によりサステナブルに旅行したい」が76%となっており、持続可能な観光への意識が高いことがわかります。
また「地域コミュニティを支援する休暇に興味がある」と回答した割合が78%、「地域コミュニティを支援すると知っていれば休暇にもっとお金を費やしても構わない」が69%と、旅行を通じた地域貢献に対する関心も高いと言えるでしょう。
また「訪れたことがない目的地を旅行したい」が89%、「人里離れた目的地を旅行したい」が71%と、知られていない地域の訪問ニーズも高いことがわかります。
このように、世界の旅行者は持続可能な観光の実現や地域貢献を見据えており、有名な観光地のみならず地方部に対する関心も高まりつつあると推測されます。
関連記事:「低予算」でも自治体ブランディングに成功したワケ 世界が認めるサステイナブルな観光地・岐阜県の挑戦
日本食や文化、暮らしへの関心は高まっている
続いて訪日旅行における旅行志向に着目します。
「訪日前に期待していたこと」を見ると、2023年は「日本食を食べること」や「ショッピング」、「繁華街の街歩き」等の割合が高く、特に「日本食を食べること」「日本の酒を飲むこと」は2019年から大きく増加しています。日本食、日常の暮らしや文化等は重要な観光資源であり、魅力的なコンテンツとなる可能性が高いことがわかります。
次に大都市(東京都、大阪府・京都府)以外の地方エリア訪問意向をみると、東アジア・東南アジア地域では、地方エリア訪問希望率は8割以上と高く、欧米豪地域では5〜7割程度となっています。
また「今後の地方エリアへの訪問意向を高めるもの」のうち観光コンテンツについて見ると、「その土地ならではの飲食が楽しめる」「その土地ならではの文化が体験できる」「花見や紅葉、雪景色を楽しめる」は選択率が高く、地方エリア訪問への意向を高める重要なポイントとなり得そうです。
「コト消費」の水準は米国に比べ低く、高付加価値な体験ツアーの底上げが課題
続いて観光・レジャー目的の訪日外国人旅行者の消費動向について、2023年と新型コロナウイルス感染拡大前の2019年の比較を行います。
2023年における訪日外国人旅行者の一人当たり旅行支出(消費単価)は20.4万円であり、2019年の15.5万円から約3割増加しています。消費単価が増加した背景としては、円高・物価上昇等の影響に加え、訪日外国人旅行者の滞在の長期化が考えられます。2023年の訪日外国人旅行者の平均泊数は6.9泊であり、2019年から0.7泊増加しました。
費目別にみると、2019年と比べ買い物代以外(宿泊費、飲食費、交通費、娯楽等サービス費)が増えており、体験消費を含む「コト消費」の成長の兆しがみられます。
しかし米国と比較すると娯楽等サービス費の割合は依然低く、観光・レジャー目的の訪日外国人旅行者の「現地ツアー・観光ガイド」の購入率は1割未満となっています。地域の魅力を生かした高付加価値な体験ツアーの造成や発信など、娯楽等サービス費の底上げが課題となっています。
外国人旅行者の消費単価は増加、国・地域で娯楽や交通手段に傾向あり
国籍・地域別でみてみると、日本に長く滞在する傾向がある欧米豪からの旅行者は宿泊費が高く、全体の消費単価も高い傾向にあります。一方中国をはじめとするアジアからの旅行者は、買物代の消費全体に占める割合が高い傾向にあるようです。
詳細項目では、国籍・地域により異なる傾向がみられます。
娯楽等サービス費のうち、アジアからの旅行者は「テーマパーク」の支出割合が高く、特にシンガポールは57.6%となっています。対して欧米からの旅行者は、「美術館・博物館・動植物園・水族館」の支出割合が高く、特にフランスでは40.6%となっています。地方部での消費に関連する項目としては、現地ツアー、温泉やスキー等が挙げられますが、米国は「現地ツアー・観光ガイド」、香港は「温泉・温浴施設・エステ・リラクゼーション」、オーストラリアは「スキー場リフト」といった項目の支出割合が高いという特徴がみられます。
交通費については、いずれの国籍・地域の旅行者も「新幹線・鉄道・地下鉄・モノレール」や「ジャパン・レール・パス」への支出割合が高く、鉄道等を利用して国内を移動している割合が高いことがわかります。一方で台湾や香港からの旅行者は、「レンタカー」の支出割合が高く、アジアでは一定数の利用が見られます。
このように国籍・地域別によって異なる消費傾向があるため、これを踏まえた体験コンテンツの造成やターゲット市場の設定が必要となるでしょう。
滞在と消費は三大都市圏に集中
訪日外国人旅行者の滞在と消費を三大都市圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、愛知県、大阪府、京都府、兵庫県の8都府県)と地方部(三大都市圏以外)で比較すると、いずれも三大都市圏に集中していることがわかります。
2023年の三大都市圏における外国人延べ宿泊者数の割合は、全体の7割強を占め、2019年と比べて増加しています。これは、三大都市圏における外国人延べ宿泊者数は2019年比14%増であったのに対し、地方部では同26%減であり、地方部でのインバウンド需要の回復が遅れていることによります。また、2023年の観光・レジャー目的の訪日外国人旅行消費額を都道府県別にみると、東京都・大阪府・京都府が顕著に高く、三大都市圏に偏っていることがわかります。
訪日外国人旅行者の滞在と消費のいずれも集中している背景には、三大都市圏からの入国者割合が上昇したことが一因として考えられます。
2023年は2019年と比べ、三大都市圏にある空港のうち成田国際空港・東京国際空港(羽田空港)からの入国者割合が増加しました。一方で、福岡空港を除き、地方空海港は回復が遅れており、2019年と比べ入国者割合が減少しています。この背景には、訪日クルーズ旅客の回復の遅れも影響しています。
交通の確保や多言語対応などの環境整備が必須
最後に、インバウンドの地方誘客に必要な取り組みの方向性について把握するため、「今後の地方エリアへの訪問意向を高めるもの」のうち「アクセシビリティ・受入体制」を見てみましょう。
いずれの国籍・地域も「地方部への・地方部におけるアクセスに不安がない」や「言葉の心配がない」といった項目が上位に入っています。また、アジアにおいては「自国から日本の地方空港への直行便がある」が地方エリアへの訪問意向を高める重要な要素となっていることがわかります。交通の確保・充実や多言語対応等の受け入れ面の環境整備が、地方部への訪問意欲の向上に欠かせないのです。
訪日旅行者のニーズや関心に沿った取り組みの推進が必要
これまでの分析で、2023年の訪日外国人旅行消費額が過去最高となった背景として、滞在の長期化や円安・物価上昇があることがわかりました。また世界の旅行者は目的やニーズが多様化しており、持続可能な観光や地域貢献、魅力ある地域への訪問に対する関心が高いこともわかりました。
しかしその一方で、訪日外国人旅行者は三大都市圏に集中しており、地方部にも旅行者を呼び込めるかどうかが重要な課題となっています。
そのためには、地域ならではの魅力を生かした「コト消費」の底上げとともに、交通サービスの確保・充実や多言語対応等、受け入れ面の環境整備も推進していく必要があります。
次回はさらに詳しく、三大都市圏・地方部別に分析を行う節に入っていきます。また、実際に地域独自の資源を活用して取り組みを行う事例を見ていき、今後のインバウンド施策の方向性を探っていきたいと思います。
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▼この連載の記事
- 世界・日本の観光動向は?【令和6年版観光白書 徹底解説(1)】
- インバウンドの現状と課題は?【令和6年版観光白書 徹底解説(2)】
- インバウンドの地方誘客と消費拡大の動向は?取り組み事例も紹介【令和6年版観光白書 徹底解説(3)】
- 2023年度に日本政府が行ったインバウンド施策を紹介【令和6年版観光白書 徹底解説(4)】
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2024年度、政府が進めるインバウンド施策とは【令和6年版観光白書 徹底解説(5)】
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<参照>
観光庁:「令和5年度観光の状況」及び「令和6年度観光施策」(観光白書)について
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