【前編】クールジャパン戦略とは?これまでの取り組みや、コロナ禍による変化を読み解く

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2023年に閣議決定された「観光立国推進基本計画」において、観光は「我が国の力強い経済を取り戻すための極めて重要な成長分野」と位置づけられ、世界に向けて“日本”を戦略的にマーケティングする取り組みが始まっています。この取り組みに大きく関わってくるのが、先日新たな方針が発表された「クールジャパン戦略」です。

これまでクールジャパン戦略は、アニメ・マンガなどのコンテンツやポップカルチャーを中心に展開されてきましたが、近年ではそれに限らず、食やファッションなどさまざまな分野が対象になってきています。

今回は内閣府が2024年6月に発表した「新たなクールジャパン戦略」の内容を、前後編に分けて解説します。前編ではクールジャパンの概要とこれまでの取り組み、クールジャパンを取り巻く近年の環境変化について振り返り、後編ではクールジャパン戦略が抱える課題と今後の戦略を紹介します。

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クールジャパン戦略とは

近年、アニメやポップカルチャーなど、日本特有の商品やサービスを「クールジャパン」として国外に展開し、我が国の経済成長や雇用創出につなげようとする動きが活発化しています。

クールジャパンに着目した取り組みがスタートしたのは2010年ごろ。その後、2012年12月にクールジャパン戦略担当大臣が設置されると、2015年12月には「クールジャパン官民連携プラットフォーム」が設立され、官民一体となってクールジャパンを深化させる体制が構築されました。

2019年9月には「クールジャパン戦略」が策定され、取り組むべき施策の方向性が示されました。策定から5年目となる2024年6月には「新たなクールジャパン戦略」として改訂され、アニメやポップカルチャーを「基幹産業」と位置づけて国外への売り込みを強化する動きが加速している状況です。

これまでのクールジャパン戦略の取り組み

まずは、近年のクールジャパン戦略の取り組みについて解説します。

1. コンテンツの海外展開とクリエイター支援

クールジャパン戦略」に欠かせないコンテンツ強化のため、各省庁は海外展開とクリエイターをさまざまな形で支援しています。

  • 経済産業省:海外展開するためのローカライズ(コンテンツを特定の国や言語、文化などに合うよう手を加えること)・プロモーション支援 など
  • 文化庁:国内外で活躍が期待される若手クリエイターの支援 など
  • 総務省:国際見本市を通じたコンテンツの海外展開の促進 など

これらの取り組みは一例に過ぎず、国をあげてさまざまな観点からコンテンツ強化を後押ししています。

2. インバウンド誘致

政府は2016年3月に「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、2030年までに訪日外国人旅行者数を6,000万人、訪日外国人旅行消費額を15兆円にすることを目標としました。

それを受けて観光庁は日本政府観光局JNTO)と連携し、外国人目線でのWebサイトの充実や海外旅行博への出展などによって訪日プロモーションを実施しています。

コロナ禍でもSNSを活用した呼びかけを継続し、水際措置の緩和後は「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」をキーワードとするプロモーションに取り組んでいます。

3. 農林水産物・食品の輸出

農林水産省は、日本貿易振興機構(JETRO)による輸出事業者サポート、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)による現地消費者向け戦略的プロモーションの取り組みを支援してきました。

また国税庁は、日本産酒類の認知度向上や事業者の販路開拓支援、海外展開・酒蔵ツーリズムに関する取り組みの支援などを行っています。

4. 海外への情報発信

外務省は世界各地にある在外公館を通じて日本の多様な魅力を紹介し、ジャパン・ハウスでは伝統文化からポップカルチャー、和食・日本酒まで幅広く発信しています。

ジャパン・ハウスは、戦略的対外発信の強化に向けた取り組みの一環として、外務省が世界3都市(サンパウロ、ロサンゼルス、ロンドン)に設置した対外発信拠点で、これまで日本に興味のなかった人々も含め、幅広い層に向けて日本の多様な魅力、政策や取り組みを伝え、親日派・知日派の裾野を拡大していくことを目的としています。

クールジャパンを取り巻く環境の変化

では次にクールジャパンに関連して、どのように環境が変化したのか見ていきましょう。

1. 「日本ファン」の拡大

日本のコンテンツや食文化の人気が世界的に高まり、日本ファンが増加しただけではなく、多様化・深化してきました。それを受けてコンテンツ分野では、これまで同様にアニメ、マンガ、ゲームの人気を活かしつつ、海外市場に対応したビジネスモデルへの構造改革が求められています。

また、ディープな日本ファンへの対応として、高い「体験価値」や日本独自のラグジュアリーな価値提供による訪日観光の“質”を高めることも必要不可欠になってきています。

2. デジタル化・DXの推進

世界各地でデジタル化やDXデジタルトランスフォーメーション)が進む中、日本のクールジャパン関連分野は遅れをとっている状況で、デジタル配信や制作体制のDX、生成AIの活用、チケット販売のデジタル化が求められています。

さらにWeb3やVR/メタバースなどの新技術を活用した「価値体験」創出や、流通の仕組みを整える方法も検討する必要が出てきました。

3. 国際的な政治・経済情勢リスクの高まり

米国と中国の対立、ロシアのウクライナ侵攻、中東の紛争拡大などにより、日本の国際的な政治・経済リスクが高まっていることは説明するまでもないでしょう。こうした中で安全保障の観点からも、世界から「共感」を得て日本ファンを拡大するクールジャパンの重要性が高まっています。

またリスクを回避するためには輸出先を特定の国や地域に依存せず、多様な海外市場を開拓することが求められています。

4. 「ウェルビーイング」「トランスフォーマティブ」などの意識の高まり

日本国内でも「サステイナブル」の考え方が浸透してきましたが、世界的には「ウェルビーイング(肉体的、精神的、社会的に健康的で充実した状態)」や「トランスフォーマティブ(旅の経験を日常生活に取り入れ、人生を豊かにする)」の意識も高まっています。

訪日外国人の中には、人間と自然が調和した里山などの「オーセンティック(これぞ日本という本物感)」な魅力を求める層もいます。こうした価値観を念頭に置きながら、日本独自の「体験価値」を訴求することが重要です。

5. 大阪・関西万博の開催

2025年に開催が決定している大阪・関西万博では、350万人の訪日外国人客が見込まれており、全国各地にも波及すると予想されています。

万博は日本のテクノロジーと魅力を世界に発信する絶好の機会であり、関連イベントを通じて日本ファンの拡大とソフトパワーの強化を図ることが期待されています。

コロナ禍がクールジャパンにもたらした好影響

コロナ禍によって日本の観光産業は大きな打撃を受けました。しかしアフターコロナを迎え、日本は外国人観光客を受け入れられるようになり、クールジャパンに好影響をもたらした変化もあります。下記に3つの変化をまとめました。

1. コンテンツの人気拡大と“聖地巡礼”

1つ目の変化として、ゲームやアニメを中心に、日本のコンテンツの人気が世界中で急速に高まっていることが挙げられます。コロナ禍による外出制限をきっかけに、これまで一部のファンにしか知られていなかった日本のコンテンツが、さらに多くの人々に広まるきっかけとなりました。

たとえば2023年8月に米Netflixにおいて配信された実写ドラマ版『ONE PIECE(ワンピース)』は、世界46か国で初登場1位を獲得。93か国でトップ10入りし、このドラマをきっかけに同作品のマンガやアニメに興味を持ったファンも一定数いたのではないかと考えられます。

こういった背景もあり、コンテンツ産業は半導体産業に迫る勢いの4.7兆円規模の大きなビジネスへと成長しました。さらにいわゆる“聖地巡礼”と呼ばれる、作品の舞台となった場所などを訪れる外国人観光客も増加し、関連地域にも大きな経済効果が生まれています。

関連記事:外国人観光客に人気のアニメ聖地5選/鎌倉の踏切に訪日外国人が殺到するワケ

2. 日本の「食」への期待・関心の高まり

2つ目に、日本の「食」に対する期待や関心の高まりが挙げられます。寿司や天ぷらのような代表的な料理だけでなく、ラーメン、カレー、おにぎりといった、これまで知られていなかった日本食を求める観光客が増えてきました。1で紹介したコンテンツの人気拡大と関連し、作中に出てきた料理を見て、関心を持った人もいるかもしれません。

また、都市部だけでなく、地方にも特産品を使用した料理を提供するオーベルジュ(地方や郊外にある宿泊施設を備えたレストランのこと)が増えており、料理を楽しむためにわざわざその地を訪れる観光客が増えている点も変化として挙げられます。

関連記事:日本産食材の輸出拡大へ繋げる、訪日外国人向けの食体験事例

3. 訪日外国人の多様化・深化

3つ目に、訪日経験が2回以上の外国人(リピーター)が増えるとともに、滞在期間が長期化するなど、訪日外国人の多様化・深化が進んでいることが挙げられます。

2011年と2019年を比較した「訪日外国人消費動向調査」によると、観光・レジャーにおける滞在期間について、6日間以下の滞在の割合が減少し(71.1%→61.7%、9.4ポイント減少)、7~13日間の滞在の割合が増加しています(20.0%→30.7%、10.7ポイント増加)。

初めて訪日する外国人は、いわゆる「ゴールデンルート」(東京・箱根・富士山・名古屋・京都・大阪)を回って有名な観光地を巡るのが一般的です。一方で何回も訪日している外国人はさまざまな場所を訪問するよりも、1つの場所や地域を長期間かけて「ありのままを味わう」あるいは「非日常的な体験をする」といった「体験」に価値を見出しています。

これまでのクールジャパン戦略は「一定の成果あり」その一方で…

クールジャパン戦略」の成果を測る指標のひとつに、国別好感度調査があります。2023年の調査では、日本への好感度(「大好き」および「好き」の割合)は多くの国・地域で90%を超えました。

「次に旅行したい国・地域」についても、アジアの居住者においては2012年以降、常に日本が1位となっており、欧州・米国・豪州でも日本は上位に入っています。内閣府が発表した「新たなクールジャパン戦略」においては、「様々な政策や政府の取組との直接的な因果関係を分析することは難しい」と前置きしたうえではありますが、クールジャパン戦略については一定の成果が出ているものと考えられるとしています。

また、インバウンドについては地域独自の文化や産業の体験・交流を重視した旅行商品のニーズが高まっていることを受け、2017年に旅行業法(昭和27年法律第239号)を改正し、地域の観光資源・魅力を活かした体験や交流型旅行商品の企画・販売に向けた見直しを行っています。

しかし、一定の成果をあげているとはいえ、資料ではクールジャパン戦略のさらなる推進に向けてさまざまな課題があると結論づけています。今後の課題や今後の戦略については、後編で解説します。

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<参照>

知的財産戦略本部:新たなクールジャパン戦略

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    この記事の筆者

    訪日ラボ編集部

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