日本政府観光局(JNTO)は8月21日、2024年7月の訪日外客数推計値を発表しました。
これによると7月の訪日外客数は329万2,500人で、5か月連続で300万人を超える高水準となっています。その中でも、中国が2022年の水際対策緩和後初めて1位になった点は特筆すべきことだといえるでしょう。
そこで今回は、本データへの見解について、日本政府観光局(JNTO)北京事務所長 佐藤 絵美子氏に取材しました。
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中国インバウンドの状況は、コロナ前とは変わっている
訪日ラボ編集部:先日発表された、訪日外客統計7月分データについての所感をお聞かせください。
JNTO 北京事務所長 佐藤氏:訪日外客数において、中国が国・地域別で1位となるのは、日本の水際対策が緩和された2022年10月以降初めてとなります。
中国から訪日される方が増えたということは大変喜ばしいことですが、まだ単月のデータですので、この傾向が今後も続くのかどうか、何か月か慎重に見ていく必要があると受け止めています。
また、今回のデータについて、人によっては、コロナ前の状況に戻りつつあるのだなという印象を受けるかもしれません。しかしながら、私たちがよく理解する必要があるのは、中国人観光客がただ単にコロナ前の状況に戻ったのではないということです。
コロナ前の中国人観光客は3割が団体ツアーで来ていました。いわゆる「爆買い」が話題になっていたのでご存じの方も多いと思います。しかし、最新のインバウンド消費動向調査(2024年4-6月期1次速報)によれば、今の中国人観光客は団体ツアーが11%に過ぎず、約9割が個人旅行で訪れるようになっているのです。
また、初来日の方が多かったコロナ前よりも、リピーター率が少しずつ上昇しています。
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2024年夏はファミリー層の需要が高い。花火大会・祭りも人気
訪日ラボ編集部:2024年夏の訪日中国人旅行者について、どんな特徴があったのでしょうか。
JNTO 北京事務所長 佐藤氏:中国の学校の夏休みは7月中旬から8月末が多いですが、学校によっては6月中旬〜下旬から夏休みに入ります。
データ上も、中国からの訪日客数が5月までは55万人程度ですが、6月66万人、7月78万人と大幅に増加しています。
旅行会社からは、この夏は親子旅行の需要が高かったという声が多く聞かれました。行き先については、やはりいわゆるゴールデンルートに行く方が多いのですが、親子旅行らしくテーマパークや博物館を巡るものも人気がありました。
また、JNTOで発信しているSNSの記事において、夏の花火大会の日時や楽しみ方を取り上げたのですが、これも非常に人気がありました。旅行会社としても、日本の花火大会や祭りを見に行きたいというニーズに答えるため、都市部だけでなく、地方部の催しなども行程に組み込む工夫をしています。
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航空便はコロナ前7割まで回復、今後は地方便の搭乗率が重要
訪日ラボ編集部:今後の航空便の動向について、航空需要の伸び代やそれに対する日中の温度感などはいかがでしょうか。
JNTO 北京事務所長 佐藤氏:中国と日本を結ぶ航空便数は、徐々に増えてきており、コロナ前の7割程度の便数まで回復しています。そのうち、上海・北京・広州等の沿岸部大都市が全体の7割を占めています。日本側でも、羽田空港便はコロナ前の1.2倍まで増加している一方で、北海道・中部・四国ではコロナ前の4~5割の便数にとどまるなど、地方の復便はまだ途上となっています。
地方便の搭乗率が上がることで、今後さらなる増便や他地域での復便が進んでいくと考えられます。実際、中国の航空会社からも、日本の地方便の搭乗率をどのように高めていくかが課題であるという声が聞こえてきています。こうした点も踏まえ、地方観光の魅力を伝えていくことが非常に重要だと考えています。
また、需要があっても、日本側の航空燃料供給不足により増復便を遅らせている航空会社もあります。これについては、日本政府において官民一体となってこの課題に対応しており、燃料不足の状態は少しずつ解消されていくものと考えています。
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中国人観光客が求めるのは「日本らしい特別感」
訪日ラボ編集部:最新の中国人旅行者の具体的なニーズは何かありますか。
JNTO 北京事務所長 佐藤氏:中国から日本を訪れる観光客の主力層は20代と30代であり、この層で全体の7割近くを占めています。彼らは日本の最新トレンドやニッチな体験の情報を求めています。
中国人に限ったことではありませんが、海外旅行では、自分の国にない物を見たい・買いたい、自分の国ではできないことを体験したいというニーズが前提にありますので、中国ではアクセスできない物や体験の提供が求められていると思います。
インターネットショッピングが発達した結果、中国においても日本の物を相当購入することができるようになったこと、また中国ブランドの商品の質が向上したことから、中国人は日本の物にこだわる必要がなくなってきています。
また中国国内の観光地の開発・再評価が進んでおり、高い旅行費用を払ってまで日本に行く価値があるのか、今後は問われていくことになります。モノでもコトでも、日本らしい特別感を得られるかどうかが重要なポイントだと考えています。
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中国の“今”をリサーチすることが重要
訪日ラボ編集部:中秋節や国慶節、春節など2024年後半とその先に向けて、観光事業者としてはどのような準備を進めるべきでしょうか。
JNTO 北京事務所長 佐藤氏:中国人の旅行需要は旺盛で、今後も個人・家族連れによる訪日旅行の継続的な回復が見込まれます。
中国人観光客にとって何が魅力的に映るのかを知るためには、中国という国の今を知ることが重要です。中国のトレンドは日本にいながらでも、中国独自のSNSである微信や微博、小紅書などで垣間見ることができますので、ぜひこれらに一度アクセスしてみていただきたいと思います。
また、本年6月に北京で開催された北京国際旅遊博覧会(BITE)のJNTOブース来場者アンケート(855人が回答)では、「これまでの海外旅行で日本を選択しなかった理由」として、「言語障壁」が一番の理由となっています。
観光地の多言語化を進めるとともに、安心して観光してもらえるような受け入れ体制や取り組みがあることをPRしてもらえたらと思います。
さらに、実際に日本の観光地を訪れた中国人観光客の方に、ぜひ一度勇気を出して話しかけてみてください。なぜ来ようと思ったのか、どういうところに魅力を感じたのか。きっと新たな日本の魅力を教えてくれると思います。
観光を通じて互いを尊重し、国際相互理解がさらに進むことを願っています。
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