大分県別府市の地域DMO、一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォームB-biz LINK(以下、B-biz LINK)は「別府の稼ぐ力向上」を目的とした組織です。B-biz LINKはその型にはまらないPR手法や多様な関係機関を巻き込んだ取り組みが話題となり、度々業界で注目されています。
今回は、ゼネラルマネージャー兼観光マーケティングチームマネージャーの堀景氏にこれまでのプロジェクトの裏に隠された思い、そして今後さらに別府が観光地として発展していくための取り組みについてインタビューしました。
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独自性の高いキャンペーンがたびたび話題に B-biz LINKとは
B-biz LINKは2017年9月、一般社団法人として立ち上げられました。観光地域づくりを担う観光マーケティングチームと、別府市内のビジネス活性化を目指す地域ビジネスプロデュースチームから成る組織にて事業を展開しています。
主な事業内容は別府市内の旅館・ホテルなどの事業者を対象とした、訪日外国人誘致のためのマーケティング支援です。市内外の事業者、金融機関、大学・行政など様々な機関との連携を図っています。
そのほか、移住を検討中の場合を含むこれから別府市に関わっていきたいと考えている事業者や個人を対象に、事業計画作成・オフィス情報の提供・事業者紹介などの各種相談に対応しています。そして必要に応じて、商工会議所や金融機関、インキュベーション施設への紹介も行っています。
また、B-biz LINKはキャンペーンの独自性の高さが度々話題となっています。例えば、B-biz LINKがアイディアを出し、別府市の和菓子店「茶郎」で販売された「別府3蜜だんご」と「別府ソーシャルディスタンス饅頭」は、コロナ禍のご時世をユーモアに転換して取り入れた商品であり、ネット上でも話題になりました。
ラグビーW杯シーズンでは訪日客向けに「能動的な観光案内所」を展開
また、2019年9月に日本で開催されたラグビーW杯に際する取り組みとして、B-biz LINKはWONDER COMPASSという観光案内所を立ち上げています。
WONDER COMPASSのテーマは、「能動的な観光案内所」です。従来の観光案内所として一般的だった、「カウンター越しに観光客から聞かれたことについて答える」というスタイルを採らず、積極的に観光客に声をかけていく案内所をつくりました。
また、WONDER COMPASSの施設内にはソファやWi-Fi設備が備え付けられ、訪日外国人観光客が「ベース基地」として利用できるような環境づくりがなされています。こうした環境を整えることにより、ホテルをチェックアウトした後に留まれる場所がなくなってしまうという、観光客の不便さを解消することにもつながったということです。
この取り組みは旅先の出会いを大切にする訪日外国人観光客に好評だったようで、WONDER COMPASSにおすすめの観光スポットを聞き、そこに足を運んだ後にまたWONDER COMPASSに戻ってくるという流れをつくり出せたということです。
この事例は実際にその土地に訪れてくれた訪日外国人観光客に対する満足度を上げ、良い口コミを広げてもらう試みとしての、成功事例の一つといえるでしょう。
B-biz LINK ゼネラルマネージャー兼観光マーケティングチームマネージャーの堀景氏に取材
今回は、B-biz LINKの堀景氏に取材し、これまで取り組まれてきたプロジェクトに対する想いや、独自性の高いPRやキャンペーンはどのようにして生み出されているか、そして今後のB-biz LINKの取り組みの展望について話を聞きました。
別府に人を呼び込むには?広域観光実現のための、地域連携の重要さ
_「別府市で人の流れを止める」ことを実現するためには、観光客のペルソナを設定することが重要に思います。B-biz LINKさんでは観光客のペルソナをどのように設定されていますか?
一般的に、別府への訪日外国人の玄関口は福岡空港と想定されます。その中でも、ターゲットとする観光客の宿泊日数や予算、年齢層などによってそれぞれ異なる取り組みが考えられますが、基本は福岡イン/アウトであることはターゲットの想定としては外せません。
その一方で、ターゲットとする訪日客の国籍が東アジアではなく東南アジアや欧米、大洋州となると、関西国際空港も別府に来るための玄関口になりえます。そこまで想定した場合、関西の交通事業者、例えばJR西日本さんとの連携をはかったり、あるいはフェリー会社さんと協力したら面白いツアーがつくれるんじゃないか、という考え方もできます。
_九州や別府単体という枠組みに囚われず、より広い視点で需要を捉えるということですね。
地域連携や広域観光を実現するためには、宿泊はここ、昼間に遊ぶべきポイントはここ、ここのご飯は絶対に美味しいから食べてほしい、というように、それぞれの地域でできることの魅力を組み合わせて、全体として観光客に魅力的に映らなければならないと思っています。
しかし、観光客目線で考えずにそれぞれの地域が「おらが村」の発想で押し出してしまうと、「別府の温泉旅館に泊まってほしい、そのあと湯布院の温泉旅館にも泊まってほしい」というような、「ありえない」旅行商品が造成されてしまいかねません。
その一方で、「今回のターゲットに対する宿泊はここだよね」「そうだよね」というような合意が取れていれば、そのグループはとても強くなると思います。それぞれの地域が「おらが村」という縄張り意識を持たず、観光客目線で考えることで、九州のみならず西日本全域といった広域観光が実現できると考えています。
大事なことは「なるほどね」と思わせること。B-biz LINKのPRのこだわり
_B-biz LINKさんはユニークなキャンペーンやPRの事例を数多くお持ちと存じます。こうしたプロジェクトについては、どういったこだわりがあるのですか?
PRは本来、public relationsの略であり、ただアピールすることとは異なります。ここで一番大切なことは、「広告を見た人が腑に落ちる」ということだと思っています。
ユニークなことをやって笑わせる、すごいことをやって見ている人を驚かせた後に、最終的には広告を見ている人に「なるほどね」と思わせなければならないと考えています。
#別府エール飯(*1)も、新型コロナウイルスの感染拡大による脅威が現れはじめていたタイミングで、なにかできることはないかと考えた時に仕組みをつくりました。
飲食店側としてはコロナ禍では絶対的に安心・安全だとはなかなか言いにくい中、それでも売り上げを確保しなければなりません。そこで、飲食店を応援したいという思いを形にし、この広告を見た人が、「あ、エール飯ね」と頷くことができるような形を目指しました。
結果的にはこの考え方が皆さんに納得され、そして賛同していただけたと考えています。
_別府発のプロジェクト「#○○エール飯」のプロジェクトは全国に広まりましたね。他の地域の事業者にも無償提供されたとのことですが。
あの時、というか未だにそうですが、日本全国困ってますからね。他の地域の事業者の方が「エール飯」を使わせてくださいと言ってくること自体、よっぽどのことだと思います。
あの時本当に困っていた、方法がなくて、という中で参考にしてもらったということだと思います。
また、無償提供することによって結果的に全国に広まれば、別府の認知度が上がっていくことも期待しています。皆さんも「これは別府市からアイディアをもらいました」と言ってくれていますから。それも狙いです(笑)
「今は、別府行くより、草津行こうぜ」(*2)という広告も、草津温泉が草津白根山の噴火で風評被害にあっていた時に、人々が共感してくれることを見込んで発信しました。
当然、「税金を使って他県をPRするとは何事だ!」という批判もゼロではありませんでしたが、賛同してくれた方はそれ以上に多く、その方々の腑には落ちたと考えています。
(*1)#別府エール飯
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、不要不急の外出自粛が求められる中、別府市が始めた飲食店のテイクアウト(持ち帰り)情報をSNSで共有するプロジェクト。
このプロジェクトは全国の自治体やDMOに広がり、「#○○エール飯」のハッシュタグは200種類以上生まれ、投稿数は1万5千件以上に広がった。
(*2)今は、別府行くより、草津行こうぜ
2018年の草津白根山の噴火の際に、2月16日の西日本新聞の朝刊に掲載された広告。2016年に起きた熊本地震の風評被害で、別府温泉の苦境の際に草津温泉が援助してくれた背景もあり、広告が企画された。SNSでも大きく拡散され話題となった。
今後は長期的スパンでのコンテンツ造成を目指す
_今まで様々な活動をされた中で直面した課題や、今後の取り組みの方向性について教えてください
今まさに直面していることですが、PRがうまくいっただけに、実際に別府に旅行に来ていただいた方々にどれだけ満足していただけているのか、という課題があります。
PRに力点を置いてしまっていた反省の一つとして、行政中心でやってしまっていたことにあります。行政の担当者の方は2〜3年で人が変わってしまうため、裏を返せば2〜3年で結果を出さなければならないということになります。
そうした中で新たな観光資源を作り上げていくことはかなり無理のある話になってしまい、結果としてPRに重きを置いた施策に落ち着いてしまうというジレンマがありました。
そのため、今後は我々も自主事業といいますか、行政や国の補助金にできるだけとらわれないようなプロジェクトを進めていかなくてはならないと思っています。
_もし今現在取り組まれているプロジェクトで、お話できることがあればお願いします
勝手には語れない部分もありますが、やはりうちは温泉という部分抜きにはなかなか語れない場所です。そこで、ただ温泉につかるといったことではない温泉の見せ方、もしくは温泉そのものの価値の再構築のようなことを目指しています。
日本人の持つ温泉のイメージって露天風呂で山の中、静かなところで雰囲気よくしっぽりと...という感じだと思いますが、そこだけではないと思います。そんな温泉の魅力を多角化していきたいなという思いで、コンテンツ作りに取り組んでいます。
_普通の温泉としてだけではない見せ方ということですか
それは、現在既に立ち上げているプロジェクト、「KEEP DISTANCING: &FLOW」についても意識して行っていることです。
キープディスタンスという新しくできた概念を温泉の価値と結びつけ、表現していくことで、新たな価値観を構築していきたいと思っています。
さきほどのPRの話にもつながりますが、うちが腑に落ちてもらえるのって今のところは温泉ぐらいなので。
そのほかには、例えばワーケーションと温泉との掛け算ですとか、方法はいろいろと考えられますが、温泉は切り離せない要素だと思っています。箱根さんや草津さんという強いライバルがいる中で、「別府が言うならうなづけるな」という部分をブランディングし、コンテンツとして打ち出していきたいと考えています。
インバウンドは必ず戻る:今やるべきこととは?
_他の地域の自治体やDMOの方々へ向けて、コロナ禍でインバウンド客そのものが減少している中、今何を取り組むべきだと思いますか?
まずは海外との関係性を閉ざさないこと、止めてしまわないことだと思います。
オンラインWEB会議システムを活用したり、YouTubeを使ってモニターツアーを開催したりなど方法はいろいろありますが、まずは電話一本でもいいと思うんですよね。
これらはBtoBに対しての取り組みですが、BtoCに対してもできることはあると思います。
うちは今、軸足をコンテンツの開発に置くようにしていて、観光施設やコンテンツの開発を行っているほか、入浴剤の別府温泉薬用「湯の花」のような、外への流通が可能なプロダクト開発も行っています。
そして、ターゲットをどこに定めるかで違ってくるんですけど、基本一つのエリア、一つの地域で完結することはないと思いますし、地域・行動エリアを広げることで魅力は何乗にもなると思うんですよね。自分たちのエリアだけにあまり固執するのではなく、お客さん本位の旅行商品、旅の提案をやっていくべきだと思っています。
自分たちの魅力そのものを上げるためには、エリアを広げていかなくてはなりません。そのエリアはアメーバのようなエリアでいいと思っています。
例えば、「ここをターゲットにしたときにはこのゾーニングで攻めていこう」であったり、「ここをターゲットにしたときにはこの人たちの力を借りないと」など、機能的な連携というのは意識すべきでしょうね。
そして今、確実に言えることは、インバウンドは必ず戻ってくるということです。それは2年後になるか3年後になるかは分かりませんが、戻ってくるその時まで今の形で観光を維持できるかというと、それは現実的ではないでしょう。
そこまで考える時間の猶予がある立場にいる私たちがその後を見据えて、未来に遺すべきものは遺しながら、どれだけ新しいものを見出し、磨き上げることができるのか。そこにかかっていると思います。
<取材協力>
・B-biz LINK:公式WEBサイト
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