近年の訪日外国人観光客の急増により、訪日外国人向けのマーケティング全般を意味する「インバウンドマーケティング」の考え方が浸透しています。この記事では、中国版インフルエンサーマーケティング「KOL」とは何か?注意点や活用方法、事例を解説します。
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「インバウンドマーケティング」とは
インバウンドマーケティングという言葉があります。顧客に自社(製品)を「自ら見つけてもらう」ことを目指すプル型のアプローチ です。
テレマーケティングやダイレクトメール、マス広告といった従来型のプッシュ型の「アウトバウンドマーケティング」に対する用語です。インバウンドマーケティングが注目される背景には、アウトバンドマーケティングだけの手法に頼っていては、新規顧客の獲得が困難な時代に突入したことがあります。
インターネット、ひいてはソーシャル・ネットワーク全盛の時代においては、テレビや新聞・雑誌等を通して一方的に送られてくる情報を受動的に消費することは少なくなっています。むしろ消費者は、積極的に情報を検索・収集し、自分ながらの分析を行うことで購買アクションを起こしている といえます。
KOLマーケティング・インフルエンサーマーケティングとは?
そんなインバウンドマーケティングを重視するトレンドの延長線上にKOLマーケティングがあります。KOLとは「Key Opinion Leader/キー・オピニオン・リーダー」の略であり、ある一定の領域で発言力をもつ有名人やネットユーザーを指します。 いわゆる「インフルエンサー」と同義ですが、殊中国においては、このKOLが良く使われます。
たとえば、中国版Twitter(ツイッター)と言われるWeibo(微博)、あるいはQQなどのSNSツールでは、趣味を同じくする人たちがサークルをつくっています。そこで多くのフォロワーを持ち、影響力ある書き込みを行っている人がいれば、その人がその分野におけるKOLと見なすことができます。
日本でもある有名人がTwitter(ツイッター)で行った発言がメディアで紹介され話題になることは頻繁にあります。中国でも同じくWeibo(微博)での発言が世論を構築するキッカケになることがあります。
それは、大衆宣伝を信じない中国人の志向性や、マーケットの特徴も関係しているかも知れません。折しも、がんの最新治療法に関する情報を検索エンジン「百度」を通して見つけた大学生が、その内容を「詐欺広告」であると告発し、問題となった矢先です。大学生が時を経ずして死亡してしまっただけに、インターネットの検索エンジンでさえ信用のおけないメディアとみなされているのが中国の現状なのです。
そのような中で、中国人がどんな情報を比較的信用がおけるものとしているかといえば、それは口コミです。むろん、そのなかにも、スポンサーの後押しを受けていることが一瞥してわかるほど宣伝色の強い情報も多くあります。しかし、それでも口コミの発信者が魅力的な人であればあるほど、その情報は信頼をもったものとして消費者に受け止められ、大規模な情報拡散を期待できるのです。
KOLの作用する力はことのほか大きく、訪日中国人観光客のインバウンド対策を講じるうえで大きなカギ となっているのです。
中国の人気SNS「Weibo(微博)」のKOL
では、KOLにはどんな人がいるのでしょうか。KOLは大きく著名人と草の根(一般人)に分けられるでしょう。 前者はむろん高い知名度を保つ芸能人や実業家、あるいはスポーツマンなどが代表的な存在となります。
Weibo(微博)のサイトでは、各分野ごとのKOLの一覧表を容易に見つけることができるほか、著名アカウントのフォロワー数順位表も紹介されています。
最も多くのフォロワーを有するのが中央テレビ司会の謝娜であり、その数はなんと8,400万人以上(2016年6月末現在)にのぼります。そのほか、俳優の陳坤、姚晨や、実業家の李開復などが上位にランクされています。
なお、実業家としては「物言う不動産屋」との異名を持つ任志強氏のWeibo(微博)がこれまで大きな影響力を持ってきますが、今年に入り、彼が政府当局に対する批判を重ねたことからアカウントまで突然閉鎖されてしまう事件が発生しました。当局による任志強の処分は、当初危惧された深刻な事態となることは免れましたが、Weibo(微博)で彼のアカウントを検索してももはや該当するものはヒットしません。いまだ(アカウントは)閉鎖されたままと理解できます。
ちなみに、日本人のアカウントで最も多くのフォロワーを有しているのが蒼井そらで、1640万人強に及んでいます。
一方、「草の根」にも、人を惹きつけるコンテンツをたゆまなく発信している多くのKOLがいます。自身の関心や目的に応じて、それぞれのジャンルでどんな人が影響力を持っているのかがサイトを見れば一目瞭然です。
KOLマーケティングにおいては、自社が売り込む製品のジャンルに関係するKOLを選ぶのが妥当です。むろん潤沢な予算があれば、著名人の一本釣りという選択も可能でしょうが、そうでなければより有効な運用の仕方を検討すべきです。
たとえば、サプリメント関連の販売を担うのでしたら、それに詳しい専門家としてドクターや栄養学者、健康コンサルタント等のKOLを見つけ出し、協力を依頼するのが良いでしょう。
KOL選抜の際の注意点
ただ、KOLが有するフォロワーの数は過度に信用してはいけません。その理由は二つあります。
ひとつはWeibo(微博)自体が数年前と比べて下火となっていることがあります。中国におけるKOLマーケティングの話題は、いまでもWeibo(微博)に関する情報がメインとなっていますが、中国のSNS市場の現状から見て、WeChat(微信)やQQ、あるいいは別の新興サービスをターゲットにした対策も検討したほうがよいでしょう。
もうひとつは、フォロワーの数が金銭で売買されていることがあります。これは他のSNSでも同じことが言えるかも知れませんが、ただでさえアクティブユーザー数に減速感が見られるWeibo(微博)ですので、数十万程度のフォロワーでは影響力をもったKOLとは言えないのです。かりにフォロワー数が数十万のレベルであっても、アクティブ状態にあるフォロワーからのコメントや拡散効果は、せいぜい数百ぐらいが関の山でしょう。
KOLの活用方法とその事例
O2Oというキーワードが注目されて久しくなります。Weibo(微博)に対して若干ネガティブな言及をしてしまいましたが、少なくとも、オフラインのイベントを組み合わせた効果的なプロモーションの展開というのは有効です。
散見されるのは、企業がKOLに対して製品サンプルを配布し、KOLによるプレゼントキャンペーンの実施を依頼する方法です。KOLにとっても、もらい受けた製品サンプルをフォロワーへの福利活動という目的で利用することができるためメリットがあります。
初期段階では、たとえば、企業が宣伝したい商品に関する話題をKOLに依頼しWeibo(微博)上で提起してもらいます。かりにKOLがアバターの写真を一新して、その商品が表示するようにしたとしましょう。フォロワーは怪訝に思いながらも、KOLが取り上げる商品に関する情報に関心を強めていくことでしょう。
企業がスポンサーとなり景品をKOLを供給すると、SNS上での拡散はさらに進みます。参加者には景品があるという情報をフォロワーが次々と転送していくことで、イベントへの応募者が増加していきます。
イベントが終わり、景品を参加者(フォロワー)に渡した後はアフターフォローです。KOL自身が関連商品の使用体験についてレポートすると、フォロワーたちも生の体験の声を寄せてきます。
このように、企業が潜在ユーザーとの関係を築くうえで、KOLが重要な役割を示してくれるのです。
では、KOLを活用するにはどの程度のコストが発生するでしょうか。一概にいくらが相場という推定は難しいのですが、かりに芸能人に情報拡散をオファーした場合、一回につき2万元(36万円)以上かかるというのが通常の見方でしょう。
かりに相手が「草の根」のKOLで、フォロワーが100万人を超えるということであれば、1回の情報拡散(転送)につき、500人民元から1000人民元が支払われるケースが多いようです。
5月9日付「Sankei Biz」によると、Weibo(微博)の日本オフィシャルパートナーであるFindJapan株式会社は、同社のプロモーション企画に協力している日本の情報に精通したKOL(=Key Opinion Leader、キーオピニオンリーダー)を招待した感謝祭を4月28日に実施しています。
同イベントでは、各スポンサー企業による商品のPRやプレゼントキャンペーン、サンプルの配布が行われ、口コミ情報はさらにソーシャルバイヤーによって拡散されたといいます。実際の効果がどれほどのものかは、クライアントである企業の業績動向を見ないことには判断がつきかねるでしょうが、少なくとも、商品売買が活性化する緒が、KOLの活用によって見られるのは確かです。
爆買時代の終焉、そして個性消費の時代へ
このところ、熊本大地震やオリンピックの誘致を巡るスキャンダル、あるいは円安から円高へのトレンドシフト等、インバウンドを巡っては雲行き怪しいニュースばかりが流れています。2020年までに訪日外国人客数を4000万人まで引き上げるという政府目標の達成は極めて難しいといえるでしょう。
訪日中国人観光客に関するニュースでも激震が走りました。日本百貨店協会が4月における全国百貨店の免税売上高が前年同月比で9.3%減となったからです。購買客数は同7.8%増だっただけに、「爆買い」トレンドが終焉に向かっていることが指摘されるのもうなずけます。
一方で明るいニュースもありました。高知に「ほにや」という和雑貨のブランドがあります。日本全国のいろいろな祭りで大賞や金賞を数多く受賞している「よさこいチーム」の名であり、創造性に富んだオリジナルブランドの雑貨・衣装・バッグなどの商品も扱う企業です。
その「ほにや」の中国における知名度はちょっと前までは限りなくゼロに等しいものでした。それが、上海郊外の都市、義烏で行われた展示会の会場に登場するや、たちまちテレビ局や新聞社、見学者から注目の的になり、すっかり同展示会の目玉として扱われることとなったのです。
このことは、中国人消費者が、国際的に知名度の高い既存ブランドではなく、魅力ある個性に裏づけられたものへと関心をシフトしている証左のひとつかも知れません。そんなところにも、KOLを通した有効なマーケティング展開について考慮する余地があるといえるでしょう。
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