ラグビーW杯から日本で始まる「ゴールデン・スポーツイヤーズ(GSYs)」とは?日本社会へのポジティブなインパクトの影に、外国語対応の課題

「ラクビーワールドカップ2019日本大会」が始まりました。ここまで日本は3勝0敗(2019年10月7日現在)となっています。日本のラグビー史上、はじめての決勝トーナメント進出が目前に迫り、期待を高めているラグビーファンの皆さんも多いのではないでしょうか。

ここ日本では、このラグビーワールドカップを皮切りに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年の関西ワールドマスターズゲームズと、3年間連続で大型のスポーツイベントが行われます。いずれもトップクラスの経済規模を誇るスポーツイベントが、3年連続で日本で開催されるわけです。

この3年間を「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と位置づけ、インバウンドの盛り上がりのみならず、日本が抱える潜在的な問題を解決する千載一遇のチャンスと位置づける人は少なくありません。

では、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」とは何でしょうか?「ゴールデン・スポーツイヤーズ」がインバウンドに、そして日本全体にもたらす効果として何が期待できるでしょうか?「外国語対応」の側面から、具体的に何ができるでしょうか?このコラムでは、そうした点を考察してみます。

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「ゴールデン・スポーツイヤーズ」って?参加型「ワールドマスターズゲームズ」にも注目

「世界三大スポーツイベント」と呼ばれる大会があります。第1位はサッカーのFIFAワールドカップ、第2位がオリンピック・パラリンピック、そして第3位がラグビーワールドカップ(以下、W杯)です。

これら3つはいずれも「見る」スポーツの最高峰ですが、「する」スポーツの世界最大の祭典がワールドマスターズゲームズ(以下、WMG)です。

WMGは、30才以上の一般人であれば誰でも参加可能なスポーツイベントで、夏季大会はおおむね4年に一度開催されます。これら4つの世界的イベントのうち3つが同一国で連続して行われるのは世界初のことです。

それで、この3年間を「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と呼ぶようになりました。これは、スポーツ庁と経済産業省が設置した「スポーツ未来開拓会議」の座長などを務める早稲田大学の間野義之教授が、2016年頃に名付けたことが始まりと言われています。

「ゴールデン・スポーツイヤーズ」が日本に与えるインパクトのあまりの大きさから、「スポーツ界に訪れた奇跡の3年間」、明治維新に続く「第二の開国」と呼ぶ人もいるほどです。

「ゴールデン・スポーツイヤーズ」が日本にもたらす経済効果は?

では、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」は日本にどれほどの経済効果をもたらすのでしょうか?一つずつ見ていきましょう。

▲[快進撃を続けるラグビー日本代表]:イメージ
▲[快進撃を続けるラグビー日本代表]:イメージ

ラグビーワールドカップ2019

期間:9月20日~11月2日
日数:44日
出場国や地域、参加競技者数:20カ国・地域(48試合)、1000人
競技開催地:全国の12都市
来場者数予測:220万人
訪日客数予測:40万人
経済効果予測:4,372億円

ラグビーは、1試合あたりの選手の消耗が激しいため、各試合間のインターバルが比較的長く取られます。

この影響で大会期間が長くなり、しかも全国開催のため、海外ファンの日本周遊が見込めます。

他の2つの大会に比べて、大会規模は小さいにも関わらず、4,300億円を超える大きな経済効果が見込めます。訪日観光客としては、欧米や豪の富裕層が多いのも特徴です。

2020年 東京オリンピック・パラリンピック

期間:7月24日~8月9日(オリンピック)/ 8月25日~9月6日(パラリンピック)
日数:合計30日
出場国や地域、参加競技者数:204カ国・地域、1万5,000人
競技開催地:東京を中心とした関東・中部・東北・北海道
来場者数予測:1,000万人
訪日客数予測:40~60万人
経済効果予測:30兆円

短期間の間に、世界中の国と地域から訪日客が大挙して押し寄せてくることが予測されます。多数の国や地域が関わるため、世界に向けて「日本」をプロモーションする絶好の機会ですし、ダイバーシティーやインクルージョンを啓発するすばらしい機会ともなることでしょう。

みずほ総合研究所が作成した資料(※1)によると、予測される経済効果も桁違いです。

直接効果(施設整備費、大会運営費、大会観戦客支出)は2兆円程度ですが、さまざまな分野での投資、インバウンド観光消費、多言語対応、スポーツ需要、日本食への需要、国際会議などの付随効果が約28兆円と膨大だからです。官民挙げての適切なインバウンド対策を総力で進めていくことで、「観光立国日本」の実現に向けた、文字通りエポック・メイキングな年となることでしょう。

ワールドマスターズゲームズ2021関西

期間:5月14日~5月30日
日数:17日
出場国や地域、参加競技者数:150カ国、5万人
競技開催地:関西広域
来場者数予測:20万人
訪日客数予測:10万人
経済効果予測:1,461億円

特に関西地方に大きな経済効果をもたらすことが期待されます。例えば、「スポーツ産業は大阪から」という言葉がありますが、関西は世界三大スポーツ用品開発地のひとつです。

ミズノ、アシックス、ゼット、デサント、エスエスケイといったスポーツ関連企業の本社は大阪にあり、WMGを機に関西のスポーツ産業に大きなスポットライトが当たることでしょう。

また、この期間に訪日する外国人の多くは、関西圏内の観光スポットはもちろん、それ以外の地域にも足を運びます。3年間の「ゴールデン・スポーツイヤーズ」による「ホップ・ステップ・ジャンプ」の仕上げとして、日本のインバウンドをさらに飛躍させてくれるはずです。

▲[ワールドマスターズゲームズの競技の一部]:公式サイトより
▲[ワールドマスターズゲームズの競技の一部]:公式サイトより

「ゴールデン・スポーツイヤーズ」が日本にもたらす効果は?

「ゴールデン・スポーツイヤーズ」がもたらしてくれる「経済効果」は膨大ですが、しかしその効果は一時的です。「ゴールデン・スポーツイヤーズ」を一過性のものに終わらせるのではなく、その後も日本が継続的に成長していくためには、この3年間が日本にとって意味するところを正しく理解し、それをしっかりと「レガシー」として残すよう努力しなければなりません。

「ゴールデン・スポーツイヤーズ」は日本にさまざまなレガシーを残してくれる可能性があります。そのうち、2つだけ取り上げてみましょう。

少子高齢化に伴う地方の過疎化・産業の衰退という課題を解決できる可能性がある

ご存じの通り、日本の人口は2011年を皮切りに8年連続で減少を続けています。また、日経新聞の最新の記事(※2)によると、年間の出生数が2016年にはじめて100万人を下回りましたが、今年2019年は90万人を下回るそうです。

出生数減少のスピードが加速しており、これによる過疎化や産業衰退の被害をより深刻に受けるのは地方です。

とはいえ、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」を皮切りにしたスポーツ産業やインバウンドの成長は、この問題が進展するスピードを遅らせ、解決の方向へと転じてくれる可能性を秘めていると間野義之教授は指摘します。

人口減少問題を考える場合、「定住人口」「移住人口」その地域を訪れる「交流人口」をそれぞれ増やしていく必要がありますが、スポーツはいずれの人口増にも貢献できることが証明されているからです。

インバウンドと特に関係があるのは「交流人口」でしょう。この3年間を通じて、日本の多くの地域で「交流人口」が大幅に増加します。

そして、彼らがSNSで評価や写真を拡散してくれます。我が街を訪れる外国人は最高のインフルエンサーになり得ます。適切なインバウンド対策を取れば、地域を訪れてくれた人と、そしてその知人や友人など背後に存在するさらに多くの人たちと、長期的な友好関係を築くことにもつながります。

▲写真や動画でのSNS投稿はもはや日常の一部になりつつある:イメージ
▲写真や動画でのSNS投稿はもはや日常の一部になりつつある:イメージ

最大のレガシーは「人づくり」

この3年間を通じて多くの外国人と接することにより、日本人の国際理解や国際意識が高まること、これが最大のレガシーではないでしょうか。

例えば、1998年に冬季オリンピックの長野大会が開かれたとき、「一校一国運動」が行われました。長野市内の小中学校が、各校で特定の国の歴史や文化を学び、応援するという取り組みです。こうした草の根での国際教育は、非常に優れた教育モデルとして世界中で評価され、国際オリンピック委員会(IOC)の標準プログラムにも導入され、東京オリンピック2020でも行われます。

こうした国際理解教育が、子どもたちに与える影響は計り知れません。この中から、日本の、そして世界のリーダーシップを取れる日本人が育つかもしれません。このような「人づくり」こそ、これからの日本の成長を支える基盤になります。

他にもさまざまなレガシーがあると思います。大切なことは、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」のレガシーが何かを考え、この3年間が終わった後にそれを残すよう、能動的に取り組んでいくことでしょう。

外国語対応の課題と対策

最後に、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」における外国語対応の課題と対策を考えてみましょう。

前回のコラム「笑えるけど笑えない誤訳「堺筋線=サカイマッスル」インバウンド対応の機械翻訳活用には要注意」でも取り上げたとおり、インバウンド多言語対応が改善されているのはうれしい傾向です。

2019年3月の観光庁(JNTO)による調査によると、7割を超える訪日旅行者が、1~2年前と比較して「かなり改善している」「多少改善している」と回答しました。しかし、この努力を継続し、加速していく必要があります。

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私は、翻訳会社の経営という仕事柄、多くのインバウンド業界の方たちと仕事をする機会があります。

その一環として、日本の各地域を定期的に数日かけて周り、地方自治体の観光課や広報課の方、その地域の博物館や郷土資料館といった施設の責任者の方、インバウンド制作を扱うことの多い制作会社の方などを対象に取材を行っています。(今もこの原稿を山形県の山形市で書いています)。

滞在中は必ず居酒屋に何度か足を運びます。その地域の特産物がメニューに並ぶことが多く、また日本の「IZAKAYA」は世界にも知れ渡っているので、外国人が集まる可能性が高い場所となっています。

課題が見えてくる現場

山形市でも、ある居酒屋に入りました。モツ煮や芋煮、山形牛や山形地鶏に舌鼓を打ちながら周りを見回すと、客の3分の一程度が外国人です。

私の隣に座った男性は台湾人で、日本は7回目とのこと。東京や大阪はもう飽きたので、日本の地方を見たいと思い、家族で来たそうです。

困っていることは何か聞いたところ、やはり言葉の問題を挙げていました。

その居酒屋もそうだったのですが、メニューが縦書きの日本語だけで、写真がついていないため、日本語が分からない外国人はお手上げです。他のお店も、外国語のメニューは英語しかないお店が多く、中国語、特に最近の山形に増えている台湾人が使う繁体字中国語でメニューが準備されているのはまれのようです。

店員さんも、片言の英語しかできず、翻訳アプリをスマホですぐ使えるように準備しているようでもありません。

その結果、ビールを1~2杯と、有名どころの日本食をささっと食べて帰ってしまう外国人が多く、これでは一人あたりの客単価も低くなってしまうだけではなく、リピーターになることも期待できません。

たぶん、お腹いっぱいではないと思うので、どうするのでしょうか。コンビニでおにぎりでも買って、ホテルの部屋で食べるのでしょうか。これでは、せっかくの旅行の雰囲気も半減です。実にもったいないなと感じました。

▲居酒屋:イメージ
▲居酒屋:イメージ

改善策は?

飲食店の場合、以下のような準備をしておくだけで、この状況は大きく改善できると考えられます。

  1. 写真付きのメニューを準備する。また、メニュー名を英語だけでなく、中国語や韓国語、タイ語やベトナム語など、インバウンド客が増えている国の言語でも準備しておく。
  2. 簡単な会話は翻訳アプリで十分。スマホで、いつでも翻訳アプリを使用できるように準備しておく。 

これに加えて、各メニューの簡単な説明を、外国語でも準備しておければさらによいでしょう。

地域の特産物には、他の地域の日本人にも分からない独特な名前がついていることも多いです。外国人であればなおさら理解できないでしょうし、理解できないものは注文しようともしないものです。

Webサイト・SNSの多言語運営、ホストタウン推進事業など…集客効果と国際意識の醸成も

中期的にお店のファンになってもらうために、Webサイトの多言語化、SNSの多言語運営などができればなおよいでしょう。例えばインフルエンサーを招待して楽しんでもらい、その様子を動画やテキストで拡散してもらうことも検討に値します。

自治体レベルであれば、山形県の南陽市の取り組みが参考になります。同市は、オリンピックのキャンプ地として、カリブ海のバルバドスという国を誘致し、「ホストタウン推進事業」と題して話題性の高いさまざまな施策を打っています。

南陽市は、オリンピックに出場するバルバドス選手を招待したり、バルバドスのインターナショナルスクールに鯉のぼりをプレゼントしたり、草の根レベルで相互理解を図るプロジェクトを推進しています。

これによって感化されたこの地域の若者が成長し、日本と世界をつなぐ国際的な日本人として育っていくことも結果としてはあるかもしれません。 非常に意義深い取り組みと言えます。

まとめ

「ゴールデン・スポーツイヤーズ」は、日本のインバウンド業界にはもちろんのこと、日本という国全体の課題を解決する千載一遇のチャンスです。

しかしそのためには、この3年間が日本に残すであろう「レガシー」は何かを深く考え、傍観者としてではなく参加者として、能動的に取り組んでいく必要があります。

その中で、外国語対応も大きな役割を果たします。英語や中国語、その他の言語に関心を持ち、勉強してみるのもよいでしょう。

訪日客と接する人たちの外国語力が、すぐに飛躍的に上がるわけではありません。「千里の道も一歩から」の言葉の通り、まずは、メニューの外国語版を準備したり、スマホで最低限のコミュニケーションが取れるように準備しておくなど、身近なところから始めることで、徐々に対応の質も上がっていくでしょう。

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<参照>

※1 https://www.mizuho-fg.co.jp/company/activity/onethinktank/pdf/vol008.pdf

※2 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50672490W9A001C1MM8000/

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この記事の筆者

株式会社アットグローバル

株式会社アットグローバル

株式会社アットグローバル 代表取締役 小田島耕治。1994年から約7年間、IBM系の会社で翻訳業務を担当した後、独立してアットグローバルを設立。25年間の翻訳業界での経験と、10万件以上の多言語翻訳の実績を活かし、世界の40以上の言語での翻訳サービスと、多言語化のコンサルサービスを提供中。インバウンドの多言語対応に役立つ情報を発信いたします。