2024年は「日米観光交流年」。米国市場のインバウンド動向や需要について、JNTOニューヨーク事務所長 山田氏に取材した

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昨年、コロナ禍で落ち込んだ日本と米国の相互観光往来の回復を目指し、両政府によって今年2024年が「日米観光交流年」と定められました。それに伴い、両国の官民観光関係者による双方向の旅行者の拡大に向けた様々な支援や取り組みが進められています。

そこで今回は、日本政府観光局JNTO)ニューヨーク事務所長 山田 道昭氏(※取材時)に、訪日米国人客数の動向や、今、米国人観光客が日本に求めていることなどを伺いました。今後のインバウンド対策の参考になる記事となっていますので、ぜひご覧ください。

▲日本政府観光局(JNTO)ニューヨーク事務所長 山田 道昭氏
▲日本政府観光局(JNTO)ニューヨーク事務所長 山田 道昭氏

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2023年の訪日米国人客数は、2019年比約120%

ーーコロナ禍以降、米国からの訪日客数は順調に回復していると聞いていますが、直近の動向について教えていただけますか?

おっしゃるとおり、米国から日本への訪日観光客数は非常に好調に伸びています。2023年は2019年と比べて18.7%増となっており、 2024年もまだ5ヶ月しか経っていませんがすでに2019年同期比で50%近く増えている状況です。

ーーこの急回復の背景には、どんな理由があるのでしょうか?

コロナ禍で日本に行けなかった人たちによる「繰越需要」、円安ドル高による割安感、米中間の往来の低迷など、米国人の訪日需要を後押ししている要因はさまざまあります。ただその根本には、旅先としての日本に根強い人気があると考えています。

事実、2020年頃から米国の様々な旅行メディアで「訪れるべきデスティネーション(旅先)」として日本が取り上げられることが増えており、米国人の日本旅行への関心の高さを日々感じています。

ーー米国における訪日需要の今後の見通しについてはいかがでしょうか?

米国における訪日需要は、引き続き高まっていくだろうと考えています。実際、日本への航空運賃や宿泊費の高騰が続いている点はネックの一つになりつつあるものの、「それでも日本に行きたい」という声を一般のお客様からも旅行業界の方々からもよく聞きます。

また、例えば桜は訪日旅行で人気の高いコンテンツなのですが、すでに来年の桜のシーズンなど先々の旅行に関する問い合わせも寄せられている状況です。

観光より体験。旅先は定番から地方へ

ーー最近の米国人の旅のトレンドについて教えてください。

訪日旅行に限らない話ですが、旅行業界では「ソロトラベル」「マルチジェネレーション」というキーワードが話題になっています。特にZ世代の傾向として顕著で、一人旅や、家族や親戚など複数の世代で旅をするということがトレンドになりつつあるようです。

ーー日本は「一人旅がしやすい国」として世界で認知されているようですので、訪日旅行においてもそういった訴求の仕方はありえそうですね。

関連記事:「一人旅でも安全な国」日本が1位 世界的雑誌「リーダーズ・ダイジェスト」英国版で

ーー若い世代では「SNSで旅を共有したい」というニーズが強いとよく聞きますが、米国ではどうでしょうか?

米国でも若い世代はその傾向は強いと思いますね。コロナ禍以降、例えば自然を体験する、現地の人との会話を楽しむなど、特に若い人において現地の人々の暮らしを見たり体験したりするような旅を好む人が増えていると言われています。

ある旅行メディアは、観光地や名所を訪れて楽しむ「sightseeing」に対して、「lifeseeing」という言葉を生み出したほど。景色を見ておしまいではなく、SNSで周りにシェアできるような体験を米国人も求めています。

ーー先ほど、訪日旅行に対する米国人の関心は高いとのことでしたが、桜以外には、具体的にどんな観光コンテンツが今人気なのでしょうか?

引き続き、日本食や伝統文化などへの興味関心は強いです。また、ゴールデンルートと呼ばれる東京・富士山・京都・大阪といった定番の観光地も変わらず人気がありますね。

ただ、米国人にとって日本がポピュラーな旅先になってきていることに伴い、ステレオタイプな日本だけではなく、違う一面も見てみたいというようなニーズが高まっているように思います。

例えば、北陸新幹線が開通してからは北陸方面を旅する人が増えましたし、旅先として瀬戸内などの知名度も上がっています。穴場を求めて旅するという最近の中国人の「逆向旅行」のムーブメントほどではないものの、米国人も今まで以上に日本の地方に目を向けています。

ーー日本としても、オーバーツーリズムの解消のために地方誘客を進めていきたいところですよね。

そうですね。JNTOとしても、いわゆるゴールデンルート以外にも日本には素晴らしい場所がたくさんあるということを多くの米国人に知ってもらえるように、働きかけていきたいと考えています。

ーー他に、世界的な旅のトレンドとして「アドベンチャートラベル」がキーワードになることも少なくありませんが、米国人客の誘致においてもポイントの一つになりそうでしょうか?

そのように思います。自然が豊かな日本はアドベンチャートラベルにもぴったりですし、地方誘客においても良い切り口になると考えています。JNTOとしては昨年度に引き続き今年度も、アドベンチャートラベルを検討するような高付加価値旅行者層との繋がりを持つメディアや旅行会社の方々を対象に招請事業を実施するなど、実際に日本の地方へ足を運んでいただいて魅力を感じてもらう機会を設ける予定です。

日本の治安・衛生面の安心感は世界的なブランドイメージに

ーー米国人旅行者を誘致するにあたり、日本にとってのライバルはどこになるのでしょうか?

米国では地理的な面も含めて圧倒的にヨーロッパの人気が高く、誘致におけるこれからの日本の競合として考えても良いかもしれません。また、地理的には東アジアの国々も当然競合になります。

コロナ禍前は、東アジアの中では中国が日本のライバルでした。実際、米国から中国への渡航者は日本以上でした。一方、感染症拡大を機に生じた米中間の政治的な緊張が今も続いている影響もあり、両国の往来は低迷したままで、航空便数も以前の3分の1以下に留まっています。

ただし、元々中国は米国人の海外旅行先として東アジアの中では大きな人気を誇っていましたので、両者の政治的関係が改善された時には、また日本にとって強力なライバルになる可能性も十分にあります。

ーー米国人客誘致における様々な競合国の中で、日本の魅力はどんなところにあると考えていますか?

なかなか統計上に表れるものではないのですが、旅行業界の方からは、治安の良さや衛生面での安心感、サービスの質の高さが、米国人が旅先に日本を選ぶ大きな理由の一つになっていると聞いています。コロナ禍を経て、旅行先に求めるもの・優先度が変化したことが感じられますよね。アフターコロナの今、旅先としての日本には「安全で綺麗で旅行がしやすい国」というブランドイメージのようなものが世界的に出来上がりつつあるように思います。

そのイメージは東アジアやヨーロッパなどの国と比較した際にも有利になるでしょう。歴史的な観光コンテンツや食文化など、米国人の旅の候補地として魅力ある国・地域はたくさんあるものの、旅行者に与えられる安心感は日本の大きなアドバンテージになっていると思っています。

JNTOでは米国メディアでの情報発信や旅行会社等との連携を強化

ーー日本への米国人客の誘致を進めるため、JNTOとしては現在どのような戦略を描いていますか?

米国の海外旅行市場は20〜40代の比較的若い世代が最も大きなボリュームを占めているため、まずはその層に対する働きかけが有効だと考えています。訪日未経験の方々には旅先としての日本を知ってもらえるよう、メディアでの情報発信を、そしてリピーターの方々には地方の魅力に気付いてもらえるよう、対旅行会社などBtoBの取り組みを中心に行うつもりです。地方誘客を進めることで訪日旅行の旅程が伸び、消費単価が上がることも狙いの一つです。

また、米国では富裕層の需要の伸び代も大きいため、旅行会社とのネットワークなどを活用して高付加価値旅行層に対するアプローチにも力を入れたいと思っています。

米国市場は非常に大きいので、日本への誘致を図るうえで数と質の両方を追求する考えです。

ーーMICEなど、ビジネス需要の誘致の推進についてはいかがでしょうか?

もちろん日本の存在をPRする考えですが、すぐに結果に繋がる分野ではないため、カンファレンスや商談会への出展などを通じて、プランナーの方々との関係構築を地道に進めていきたいと思っています。

「日米観光交流年」に向け、イベントやキャンペーンを実施

ーー「日米観光交流年」に関連した取り組みとしては、どのようなことを行っているのでしょうか?

日本と米国の双方向の交流を拡大させるという日米観光交流年の狙いの中でも、JNTOの役割としてはやはり、米国から日本への往来を増やすことになります。そのための様々な取り組みを行っているところです。

5月上旬には、ニューヨークで行われた日本文化の魅力を発信する「ジャパンパレード」に参加しました。『STAR WARS』で有名な映画制作会社ルーカスフィルムとのコラボレーションで制作した山車をパレードで走らせ、会場内のブースで日本の観光情報パンフレットを配布したほか、日本への航空券やホテル宿泊券が当たるキャンペーンも開始しました。イベント来場者は5万人以上にのぼったそうで、パンフレットもイベント終了前にはけてしまうなど、米国における日本への関心の高さを改めて感じた次第です。

ーー今後はどのような取り組みや動きを予定していますか?

今後も旅行博などのイベントへの参加を予定していますが、そういった場で日米観光交流年をPRすることによって往来を盛り上げていきたいと考えています。

また、日米観光交流年は両政府による取り組みでもあるため、大使館や領事館などとも連携しながら気運醸成を図れたらと思っています。

ーー今後米国人客誘致を進めたいと考える日本の民間企業や地方自治体が増えていくと思われますが、JNTOの支援を受けるにはどうすればよいのでしょうか?

実際に、コロナ禍以降、民間企業や自治体の方々から「今まで米国市場を見ていなかったけれど、乗り出してみようか」という声を聞くようになりました。私たちは随時米国市場に関する情報提供を行っていますので、「米国市場ってどうなっているの?」「どのように始めたらいいか?」といったご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。また、JNTOにはSNSやニュースレターなどのメディアもあるので、民間企業や自治体の方々が持つ情報を多くの人へ展開することのお手伝いもできるかと思います。

民間企業や自治体の方々が良い旅行商品やサービスを提供することで日本の観光地としての魅力が高まり、我々JNTOがその魅力を現地にお伝えする。そのような連携によって日本への米国人客誘致が進められると考えているので、今後米国市場を見つめるサプライヤーが増え、そして商品やサービスづくりに創意工夫を凝らしていただけるようになると嬉しいですね。

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    この記事の筆者

    訪日ラボ編集部

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