2023年に閣議決定された「観光立国推進基本計画」において、観光は「我が国の力強い経済を取り戻すための極めて重要な成長分野」と位置づけられ、世界に向けて“日本”を戦略的にマーケティングする取り組みが始まっています。その中核を担うのが「クールジャパン戦略」です。
これまでクールジャパン戦略は、アニメ・マンガなどのコンテンツやポップカルチャーを中心に展開されてきましたが、近年ではそれに限らず、食やファッションなどさまざまな分野が対象になってきています。
前編では、内閣府が2024年6月に策定した「新たなクールジャパン戦略」の内容から、「クールジャパン戦略」を取り巻く環境の変化とその成果を振り返りました。後編では、クールジャパンが抱える現在の課題と、クールジャパン関連産業で50兆円以上の経済効果を達成するために今後実施すべき取り組みについて詳しく解説します。
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- これまでのクールジャパン戦略における課題
- 今後のクールジャパンのビジョン・方向性・KGI
- 今後、実施すべき取り組み
- 1. 基幹産業として、海外展開に関するデータを充実させ、PDCAサイクルを高速に回す
- 2. 海外へのビジネス展開力を高める
- 3. デジタル・ビジネスに対応した構造改革を進める
- 4. コンテンツ産業を支える人材を強化する
- 5. 官民一体となって海賊版対策を強化する
- 6. 官民の連携体制を強化する
- 7. 体験価値化、高付加価値化を進め、持続可能なエコシステムを構築する
- 8. マーケットインの視点を重視した価値訴求により市場の新規開拓・拡大を図る
- 9. デザイン、アート機能を強化する
- 10. イノベーション、人材育成を強化する
- 11. 国際的な政治・経済情勢リスクに対応する
- 12. 発信力を強化する
目次
これまでのクールジャパン戦略における課題
まず、「新たなクールジャパン戦略」を参考にクールジャパンが抱える課題の整理から行っていきましょう。
1. PDCAサイクルの欠如
これまでクールジャパン全体のKGI(重要目標達成指標)/KPI(重要達成度指標)が設定されておらず、進捗管理に使用するデータも不明確になっていました。
そのため定量的に進捗管理や成果の評価がしにくく、適切にPDCAサイクルを回せているとは言い難い状況になっていた点を課題として指摘しています。
2. 体制における課題
これまでは「アニメ/マンガ」×「食」など異なる分野を横断する取り組みはもちろん、同じ分野における連携も不十分であり、そのための分析や調査もあまり行われていませんでした。
また、それらを発信するための独自かつグローバルな流通チャネルがないため、戦略的に海外需要を開拓できるフィールドが少ない状態を継続せざるを得ないなど、体制における課題を挙げています。
3. ビジネスモデルにおける課題
日本のコンテンツは主に国内市場をターゲットとしていたため、海外展開を前提としたビジネスモデルではなく、海外での収益を適切に配分・還元する仕組みが整っていませんでした。
さらに海外における日本のプロモーションも完璧とは言えず、日本の魅力が十分に伝わっていなかった点も課題のひとつに挙げています。
4. 人材における課題
これまではコンテンツの作成・発信の多くが個人の才能に委ねられてきましたが、それでも日本国内で多くの優れたクリエイターが生まれ、世界に通用する魅力的なコンテンツが多数発表されてきました。しかし今後は、クリエイターを取り巻く環境を整え、育成する必要があるとしています。
また、それらの魅力を海外に伝える、ビジネス・プロデューサーの育成も今後の課題です。さらに、日本の魅力を適切に伝えられるガイドが不足しているという指摘もあり、今後インバウンドの拡大が見込まれる中で、ガイドの育成も急務となっています。
今後のクールジャパンのビジョン・方向性・KGI
旧来の「クールジャパン戦略」の策定から4年以上が経過し、新たなフェーズに移行する中、「新たなクールジャパン戦略」では次のようにビジョンと方向性を掲げています。
1. ビジョン
新たなクールジャパンのビジョンは、以下の3つで構成されます。
- 世界市場を前提として、再投資に回すエコシステムを確立するクールジャパン
- 好循環の回転により、ブランド価値を引き上げるクールジャパン
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クリエイター等の担い手とともに成長するクールジャパン
国際競争力を強化し、国際水準で外貨を獲得して再投資するエコシステムを形成するだけでなく、異なる分野のコンテンツを連動し、ブランド価値をさらに高めるための体制づくりも行います。
また、国際的な政治・経済情勢が不安定になる中、世界における日本ファンを拡大することが安全保障の観点からも重要であるとして、世界中の日本ファンの量的な拡大とともに、世界各国・地域における政治や経済の意思決定を行う層、影響力を有する層にも日本ファンになってもらうことを目指します。
2. 方向性
方向性は、以下の5つで構成されます。
- 基幹産業として国際競争力を高める
- モノ単体ではなく、体験価値で勝負し、高い利益をあげる
- インテリジェンス機能を高め、戦略的な広報を行う
- 分野連携のクロスオーバーを拡大する
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データ駆動型でPDCAサイクルを高速に回す
これらの要素を集中的に強化することで、クールジャパン戦略をより効果的に推進し、国際市場での競争力を高めることが可能になります。
3. KGI
これまで定めていなかったKGIについても検討し、2033年までにクールジャパン関連産業において50兆円以上規模の経済効果を目標としています(2028年までに30兆円以上が中間目標)。
また、各国・地域における「日本が大好き」の割合について、2033年までに10ポイント上昇させることも目標としました。
これらのKGIの達成に向け、以下3点を評価指標(KPI)としてモニタリングしていくということです。
- 日本の魅力の体験率(アニメ/マンガ等のコンテンツ体験、日本食の体験/日本産の食品等の購入、日本企業の製品の購入)
- 上記の体験により、訪日意向を高めた者の割合
- 上記の体験により、「日本が好き」になった者の割合」
今後、実施すべき取り組み
では、2033年までに50兆円以上の経済効果を達成するためには、どのような取り組みを実施すべきなのでしょうか。
1. 基幹産業として、海外展開に関するデータを充実させ、PDCAサイクルを高速に回す
コンテンツ産業に戦略的に取り組むため、PDCAサイクルをスピーティに回しつつ、産業の成長、国際競争力の強化、海外展開の推進に取り組むことが求められます。
日本発のコンテンツの海外市場規模については、2033年までに20兆円とすることを目標値として設定しています。
2. 海外へのビジネス展開力を高める
日本独自の商慣習を見直すとともに、海外のマーケティング情報の収集・共有化、海外の現地プレイヤー等とのマッチング機能の強化を図ります。
また、外部からの資金調達の促進、情報発信における多言語化対応、海外のロケ誘致による技術力の向上、海外へのPRなどにも取り組みます。
3. デジタル・ビジネスに対応した構造改革を進める
DX化などの新たな技術を活用したビジネスモデルの構築などに取り組むとともに、生成AIを適切に活用することで効率化を図ります。
また、デジタルアーカイブの取り組みを推進します。
4. コンテンツ産業を支える人材を強化する
クリエイターの育成のための枠組みの構築、最先端のデジタル技術を使いこなすデジタルクリエイターの育成、実践的なプロデューサーの育成強化などに取り組みます。
5. 官民一体となって海賊版対策を強化する
国として、コンテンツの海外展開を推進し、民間による正規版の流通促進などを支援するとともに、成長・拡大する海外市場で得られる著作権者等の正当な利益を確保しエコサイクルを回していくため、官民一体となって対策の強化に取り組みます。
6. 官民の連携体制を強化する
官民の連携体制を強化するため、インテリジェンス機能の整備、データ・戦略の共有に取り組むとともに、関係省庁の施策メニューを一覧化するなどユーザーフレンドリーな機能の構築・整備に取り組みます。
7. 体験価値化、高付加価値化を進め、持続可能なエコシステムを構築する
モダンラグジュアリーの視点を意識しつつ、世界から求められる価値を提供し、体験価値による高付加価値化に取り組みます。そのうえで国際水準ベースの価格で収益をあげ、その利益を再投資につなげて持続可能なエコシステムを構築します。
たとえば農林水産省は、食文化や農山漁村の魅力と現地でしかできない体験等を海外へ一元的に発信することにより、海外の消費者の日本食・食文化への興味・関心を高め、インバウンド消費と農林水産物・食品の輸出市場の相乗的な拡大を図ります。
また、データ分析による地域の魅力の可視化といったインバウンド誘致や、各地域の実情に応じたオーバーツーリズム対策の実施などを支援します。
8. マーケットインの視点を重視した価値訴求により市場の新規開拓・拡大を図る
「世界から真に何を求められているのは何か」といったマーケットインの視点をさらに重視した取り組みを進めます。
9. デザイン、アート機能を強化する
デザインやアートに関する機能の強化は、文化・創造セクターの成長につながるだけではなく、企業価値の向上など日本社会全体にポジティブな影響をおよぼすことから、デザインやアートの機能を活用して横串を通し、クールジャパンの取り組みの底上げを図ります。
アートを振興することにより、海外の富裕層の日本への関心が高まり、インバウンドによる大きな経済効果につながることも期待できます。
関連記事:文化・芸術でインバウンド需要を取り込むには?「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」から読み解く
10. イノベーション、人材育成を強化する
イノベーションを生み出す中小企業やスタートアップの支援、新規参入しやすい環境の整備を図るとともに、新たな技術を活用した取組を推進。また、外国人の活用も含めてプロデューサーの確保・育成、DX人材やガイドの育成などを行います。
たとえば「コンテンツ」×「インバウンド」(ex.アニメツーリズム)、「食」×「インバウンド」(ex.農泊や酒蔵ツーリズム)といった、分野連携・分野融合してプロデュースできる外国人プロデューサー同士のネットワーク化に取り組みます。
関連記事:アニメツーリズムとは | インバウンド需要とコロナ禍における取り組み
11. 国際的な政治・経済情勢リスクに対応する
誤った情報の是正や科学的根拠に基づかない輸入規制措置の即時撤廃の働きかけを行うとともに、輸出先の多角化、新規開拓に取り組みます。
また、インバウンドについても、国際的な政治・経済情勢などを踏まえ、出国元に関し、さまざまな国・地域からなるポートフォリオを構築するため、マーケットの多角化・分散、新規開拓に取り組む予定です。また、国際的なさまざまな規制の動向などを把握し適切に対応します。
具体的には、農林水産物などの輸出先やインバウンドの出国元を一部の国・地域に過度に依存することを避けるため、海外マーケットのニーズを適切に把握しつつ、輸出先の多角化、新たなマーケットの開拓を行います。
12. 発信力を強化する
日本ファンの拡大や日本のブランド価値の向上に向けて、各国・地域の政財界の意思決定層や富裕層を含めて、日本の魅力を多くの国・地域に届けるため、発信力の強化に取り組みます。
その際、関係府省等によって分野間、官民の連携を図り、点ではなく面でプロモーションを行うなど効果的な発信を行うとしています。
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以上、「新たなクールジャパン戦略」資料の概要を前後編に分けて紹介しました。
クールジャパン戦略の取り組みには課題が山積していますが、アニメやマンガ、ゲーム、食といった世界に誇る日本のコンテンツを中心に、クリエイターが活躍できる環境の整備や、プロデューサーの育成などによる海外への発信力強化、海賊版対策などクリエイターの権利を保護する取り組みなどが促進されていくことは、コンテンツ産業のさらなる発展に寄与するでしょう。
また、コンテンツの海外輸出はもちろん、日本のファンを増やすことによるインバウンドの拡大も含めて、外貨を稼ぎ日本経済を立て直す基幹産業となることが期待されます。
前編はこちら:【前編】クールジャパン戦略とは?これまでの取り組みや、コロナ禍による変化を読み解く
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<参照>
知的財産戦略本部:新たなクールジャパン戦略
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