【徹底考察】20年ぶり"円安"はインバウンド回復の起爆剤となるか?

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在日外国人向け街歩きツアーや海外向けオンライン体験の企画運営をしております、Japan Localizedインバウンドアナリストの宮本です。

前回の記事から世界情勢はウクライナ侵攻、原油高、物価高、連邦準備理事会のゼロ金利政策解除の決定などでマーケットは大荒れ。日本国内ではまん延防止等重点措置の解除、観光目的以外の外国人入国の緩和、東京証券取引所が東証一部、二部を廃止し新区分へ移行など、我々を取り巻く環境が大きく変わりました。

さて今回の記事では、円安はインバウンド復活の起爆剤となるのか?というテーマで考察していきたいと思います。

これまでの連載
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ドル円が2015年以来となる125円台

2021年12月末のドル円は115円前後でしたが、2022年3月28日に一時125円台をつけ、急速に円安が進みました。これは2015年以来の円安水準です。(※編集部注:4月13日時点では 1ドル=126円台まで値下がり、約20年ぶりの円安水準となりました。)

円安が急速に進んだのは、日本銀行が長期金利上昇を抑えるために行った連続指値オペや連邦準備理事会のゼロ金利政策の解除のなどが主な要因になりますが、この記事ではこれ以上円安の理由を深追いしません。

円安の中、ネットニュースや新聞などで「円安はインバウンド客を引き寄せる」や「円安がインバウンドに追い風」などと書かれた記事を見かけるようになりました。

円安になれば、海外から日本へ旅行するときに自国通貨ベースで負担額が減るので、日本へ旅行しやすくなると考えるのが前提にあると思います。

では、本当に円安はインバウンドに追い風なのか?を見ていきたいと思います。

アベノミクスと爆買い

多くの方は、アベノミクス(2012年10月)以降の円安局面と同時期にインバウンド客が増え、「爆買い」が話題になった2015年のインパクトが強く残っているかと思います。

その時のドル円と月間訪日観光客数をグラフで見ると、以下のようになります。

円安局面での月間訪日観光客数とドル円
▲円安局面での月間訪日観光客数とドル円:日本銀行、観光庁のデータの元、Japan Localized作成 

2012年10月、ドル円は78円前後で推移しておりました。そこから11月の総選挙で安倍総裁率いる自民党が大勝。

大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略、所謂「三本の矢」を期待し、株式市場はじめ、為替市場も大きく動きだしました。そして、「爆買い」が流行語大賞となった2015年には、ドル円は120円台前半まで円安が進みました。

その間、訪日観光客数も大幅に増加しました。それまで月間訪日観光客数は100万人を超えることはありませんでしたが、2013年7月に月間訪日観光客数が100万人の大台を突破しました。そこから、2014年3月以降、100万人台を維持しながら推移し、2015年末には月間200万人へ迫る勢いへ伸びていきました。

このグラフを見れば、誰でも「円安はインバウンドに追い風」と思いたくなります。もちろん、円安の方が訪日旅行をする方にとって自国通貨ベースでの旅費が安くなりますし、旅行予算にもゆとりが出てくることは確かです。

円高は「インバウンドに逆風」なのか?

では、「円安はインバウンドに追い風」と言うのならば、円安の逆、「円高はインバウンドに逆風」なのか?を検証しなければなりません。

以下の図をご覧ください。

円高局面での月間訪日観光客数とドル円
▲円高局面での月間訪日観光客数とドル円:日本銀行、観光庁のデータの元、Japan Localized作成 


こちらは2007年から2011年までのドル円と月間訪日観光客数の推移です。

まず、2007年1月から2008年3月までドル円は120円から100円まで大幅に円高が進みました。しかし、訪日観光客数は2006年の733万人(月平均61万人)から2007年の834万人(月平均69万人)と、月平均及び年間でも大幅に増加しました。

月間訪日観光客数は200万人の大台を突破

また、2016年以降の期間を見てみましょう。

円高・円安局面での月間訪日観光客数とドル円
▲円高・円安局面での月間訪日観光客数とドル円:日本銀行、観光庁のデータの元、Japan Localized作成 

この図を見ての通り、ドル円が乱高下している時期でも、月間訪日観光客数は堅調に推移をしていました。つまり、2007年から2011年、2016年から2019年の円高局面を見ても、訪日観光客数は減少しておらず、「円高はインバウンドに逆風」とは証明できませんでした。

2016年1月、ドル円は118円前後を推移していました。そこから、同年9月に101円台まで円高が急速に進みました。そして、年末にかけて急速な巻き戻しが起こり、116円まで円が急落しました。そのあと、ドル円相場が落ち着きを取り戻し、2019年末まで106円から114円のレンジで推移していました。

こちらは2016年から2019年までのドル円と月間訪日観光客数の推移です。2016年3月に月間訪日観光客数は200万人の大台を突破しました。以降2017年は200万人台を維持しながら2019年7月に300万人の大台目前まで迫りました。その間、ドル円はどうだったのでしょうか?

インバウンドに追い風なのはビザ要件の緩和

ではなぜ、2012年のアベノミクスから2015年の爆買いが流行語大賞になるまでの円安局面の時に訪日観光客数が伸びたのでしょうか?

2013年に「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」が閣議決定されました。この中で以下4つが柱とされました。

  1. 日本ブランドの作り上げと発信
  2. ビザ要件の緩和等による訪日旅行の促進
  3. 外国人旅行者の受入の改善
  4. 国際会議等(MICE)の誘致や投資の促進

その中で、2. ビザ要件の緩和等による訪日旅行の促進が訪日観光客数に大きな追い風となったといえます。以下の図をご覧ください。

ビザ発給統計
▲ビザ発給統計:外務省データの元、Japan Localized作成 


上記の図は外務省が発表しているビザ(査証)発給統計の短期滞在査証の2011年から2019年までの発給数値の推移になります。

上記で述べた「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」が閣議決定されたことにより、日本政府は、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、中国からの観光客のビザ発給件数を大幅に緩和しました。

その結果、2013年に155万だった短期滞在ビザ発給数が、2015年には436万まで約2. 8倍となりました。また、そこから2019年には769万と、約1.7倍になりました。

つまり、2013年以降の訪日観光客数の成長の主な要因はビザの緩和であることがわかります。

インバウンドに逆風なのは経済・自然災害要因

インバウンドに逆風なのは円高ではないことは上記で検証しました。では、何がインバウンドに逆風なのか?それは経済と自然災害要因だということは以下の図と表を見ればわかります。

2006年-2012年の月間訪日観光客数
▲2006年-2012年の月間訪日観光客数:観光庁データの元、Japan Localized作成 

2003年-2012年の月間訪日観光客数(平均)
▲2003年-2012年の月間訪日観光客数(平均):観光庁データの元、Japan Localized作成 

2008年9月にサブプライローン問題をきっかけに、アメリカの投資銀行であるリーマンブラザーズが経営破綻し、連鎖的に世界規模の金融危機が起こりました。

それをきっかけに月間訪日観光客数は大幅に減少しました。2009年の月間訪日観光客数平均は前年と比べて-19%となりました。また、東日本大震災時の2011年の月間訪日観光客数平均は前年比-28%となりました。

それ以外の期間の月間訪日観光客数の平均値は新型コロナウィルス感染症のパンデミックが起きるまで伸び続けていました。

円安・円高はインバウンド“客数”には関係がない

ここまでの検証で明らかになった事は、訪日観光客数が伸び続けていたのは、ビジットジャパン事業が開始され、そして2013年からのビザの緩和が大きく影響したことがわかります。

そしてその時たまたま円安だった事もあり、円安はインバウンドにとって追い風だと思われがちですが、円高の時でもインバウンド数は伸び続けていたので円安・円高はインバウンド“客数”には強い因果関係は見られないことがわかりました。

しかし、円安によって相対的に訪日外国人の日本旅行中の購買意欲を刺激し、消費を後押しする可能性はあるのでしょうか。インバウンド関連事業者にとってはそう思いたいものですが、次回の記事ではそのあたりを詳しく検証していければと思います。お楽しみに!

筆者紹介:Japan Localized代表 宮本 大

・立命館大学卒
・SMBCフレンド証券(現SMBC日興証券)を経てかんぽ生命保険入社
・外国債券・為替ポートフォリオマネイジメント、日本株アナリスト兼株式ポートフォリオマネイジメントを担当
・米国College of William & Mary School of Business 卒(MBA)
・Japan Localized設立後、訪日観光客向けへ体験ツアーの企画運営、インバウンド市場のリサーチ業務に従事
・まいまい京都・東京事務局
・会計事務所にて、資金調達・事業計画アドバイザー
・訪日ラボで「株式市場からインバウンド復活の動向を読み解く」を連載中
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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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