コロナ禍によって縮小した旅行需要が回復し、日本を訪れる外国人数は飛躍的に増加した2023年。2024年もその勢いは続き、2024年5月の訪日外客数は304万人と、3か月連続で300万人を超えています。
拡大する需要に合わせて、プロモーション活動や受け入れ態勢の整備など、さまざまな対策が進む日本の観光業界。なかでも市場のさらなる成長を図るためには、効果的なターゲティングが不可欠です。
そこで本記事では、「じゃらんリサーチセンター」が発表した「インバウンド市場の注力ターゲット調査2024」をもとに、各自治体の注力ターゲットを紹介。選定理由や直面する課題と合わせてまとめていきます。
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2024年の注力市場トップは「台湾」
じゃらんリサーチセンターは、株式会社リクルートの観光に関する調査機関です。5月22日発表された「インバウンド市場の注力ターゲット調査2024」では、全国のDMOや都道府県のインバウンド担当者らを対象にアンケートを実施。各自治体が注力する市場やターゲット像のほか、インバウンドに関する課題などを調査しました。
調査結果によると、各地域が「現在狙っている市場」のトップ3は以下の通りです。
- 台湾(78.0%)
- 豪州(51.4%)
- 米国( 49.7%)
3か国の注目が高まっている理由について、じゃらんリサーチセンターの松本百加里氏は「台湾は訪日リピート率も高く地方部も狙いやすい」と推察しています。豪州と米国については「消費単価アップを狙いやすい層としてターゲティングされやすかった」としています。
2023年調査との比較
2023年度の調査と比較して、トップ3の国に変化はないものの、豪州が米国を抜いて2位に上昇しています。その他は、以下の国が昨年から順位を上げています。
- 香港(昨年5位→4位)
- 英国(昨年8位→6位)
- 韓国(昨年10位→9位)
- ドイツ(昨年12位→11位)
- イタリア(昨年15位→13位)
- カナダ(昨年16位→14位)
地域別の注力市場
地域別では、北海道から沖縄すべてのエリアで「現在狙っている市場」の上位に台湾が選定されています。また、香港も東北と関東を除くすべての地域で注力市場の上位に入りました。
北陸・中国地域では欧米豪の複数市場が上位となり、四国や九州、沖縄では韓国や豪州を注力市場に選定。東北・中部地域はタイ、関東は米国の注力度が高まっているようです。
注力市場別の具体的なターゲット像
次に、各市場における具体的なターゲット像で最も多かったものをまとめます。
注力市場の上位にあがった台湾・香港・米国などでは、訪日経験者(リピーター)をターゲット層に選定。また、欧米豪市場は世帯可処分所得の高い富裕層(高付加価値旅行層)をターゲット層とする地域が多いようです。
東アジア
- 韓国: 訪日経験者(訪日経験2回以上)、40代以上の夫婦・パートナー、家族・親族
- 中国:ターゲット像まで明確に決めていない
- 台湾:20~40代の夫婦・パートナー、友人、FIT*
- 香港:訪日経験者、①30~40代前半、友人、一人旅行 / ②30~40代、 家族・親族
東南アジア
- タイ:訪日経験者、30~50代、世帯可処分所得上位40%(30万円 / 月以上)
- シンガポール:訪日経験者、20~40代、家族(子連れ)
- マレーシア:ターゲット像まで明確に決めていない
- ベトナム:20~50代、世帯可処分所得上位50%(15万円 / 月以上)
米豪(米国・カナダ・豪州)
- 米国:訪日経験者、20~40代、世帯可処分所得下位90%(2,150万円 / 年未満)
- カナダ:50代以上、世帯可処分所得上位40%(750万円 / 年以上)、夫婦・パートナー、家族・親族
- 豪州:20~40代、夫婦・パートナー 、FIT
ヨーロッパ
- 英国:50代以上、世帯可処分所得上位20%(1,250万円 / 年以上)
- フランス:40代以上、世帯可処分所得上位30%(750万円 / 年以上)
- ドイツ:訪日経験者
- イタリア:世帯可処分所得上位20%(1,050万円 / 年以上)
- スペイン:40代以上、夫婦・パートナー
*FIT(Foreign Independent Tour/Traveler)…パッケージツアーを利用せずに個人で手配する海外旅行のこと
関連記事:FITとは?インバウンドでは個人旅行が増加 | 多様化する訪日客のニーズと3つの効果的な施策をご紹介
注力市場の選定理由
ターゲット市場を選んだ理由のトップ5は、以下の通りです。
- 自地域の観光資源と相性が良いから(64.4%)
- 自地域への来訪実績が多いから(48.6%)
- 訪日リピーターが多いから(42.4%)
- 訪日旅行の消費金額が高い層だから(36.7%)
- 訪日旅行者数が多い市場だから(35.0%)
2023年調査との比較では「訪日旅行の消費金額が高い層だから」「プロモーションしやすい層だから」がそれぞれひとつずつ順位をあげました。円安を影響もあり、高付加価値旅行者層の獲得を目指す地域が増えているようです。
日本政府観光局(JNTO)でも、高付加価値旅行者層の誘致を促進するためにさまざまな施策に取り組んでいます。高付加価値旅行者層は知的好奇心が高いことから、地方誘客との親和性が注目されており、地方部の消費額拡大にも期待がかかります。
2023年3月には11のモデル観光地を選定し、高付加価値旅行者層の誘致に向けて重点的な支援を行なっています。
関連記事:2024年度は「地方誘客の強化」と「高付加価値旅行の推進」が鍵。JNTOの方針と取り組みを聞いた
インバウンドに関する課題
インバウンドに関する課題のなかで、上位5つは以下の通りです。
- 受け入れ整備(68.9%)
- 人手不足(65.5%)
- 誘客プロモーション(58.2%)
- コンテンツ造成・磨き上げ(54.8%)
- 周遊促進(42.9%)
受け入れ整備や人手不足が挙げられた要因として、じゃらんリサーチセンター松本氏は「マーケットの急な戻りに対し、地域側の受け入れ体制を構築しきれなかった」と分析しています。拡大する需要に対処するために、早急な受け入れ体制の構築と最適な人員配置が各地で求められています。
またインバウンドに関する課題は、一般社団法人 日本旅行業協会(JATA)が実施している「インバウンド旅行客受入拡大に向けた意識調査」でも取り上げられています。
JATAの調査でも「人手・人材不足」は最大の課題として挙げられており、その要因として待遇の改善や労働環境の改善について指摘されています。またライドシェア・観光型複数MaaSへの関心の高さと連動して、「二次交通の整備不足」も新たな課題として挙げられています。
関連記事:インバウンド業界の課題はどこまで解決したのか?【インバウンド旅行客受入拡大に向けた第2回意識調査】
インバウンドマーケティングデータの活用
注力市場を選定するにあたって、活用するマーケティングデータとして選ばれている上位5つは、以下の通りです。
- 観光庁:訪日外国人消費動向調査*(57.1%)
- JNTO:訪日外客統計(52.0%)
- 観光庁・JNTO:訪日マーケティング戦略(47.5%)
- 観光庁:宿泊旅行統計調査(45.8%)
- JNTO:日本の観光統計データ(42.9%)
また今回の調査では、訪日マーケティング戦略の市場別ターゲットデータについて、53.7%が「発表されたデータの内容を確認した」と答えたことがわかりました。一方で「ターゲット設定に活用した」や「プロモーション施策に活用した」はどちらも20%程度にとどまっており、データの認識や活用状況について事業者間で差がある様子がうかがえます。
訪日ラボでは、インバウンドに関するマーケティングデータをわかりやすく紹介・解説しています。
*訪日外国人消費動向調査について、2024年4-6月期調査以降はインバウンド消費動向調査としてリニューアルされます
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ターゲットに合わせた効果的なマーケティング戦略を
訪日外国人旅行者の増加は、日本の観光業界にとって大きな追い風となっています。拡大する需要に対応するためには、ターゲット層に合わせたマーケティングや受け入れ環境の整備が不可欠です。
今回の調査結果で明らかになったように、各自治体は特にリピーターや消費金額の高い層を重視しており、地域の観光資源と相性が良い市場に注力する姿勢が見受けられます。
一方で、急増する需要に対する受け入れ環境の整備やオーバーツーリズム問題など課題も山積みです。これらの課題に対処し、持続可能な観光発展を実現するために、地域ごとの特性を活かした戦略的な取り組みが求められています。
関連記事:観光業3〜5年目の方向け!改めて読みたい「オーバーツーリズム」特集
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