インバウンドにおいて近年最も話題となった「爆買い」そして「爆買いの収束」。2014年〜2015年にかけて、ビザ緩和、LCCの増便、そして円安元高という要因を受けて、訪日中国人観光客数が異例の増加。そして日本製品の大漁買い減少を巻き起こしました。
一転、2016年に円高傾向になると、円ベースでのインバウンド消費額が前年同期比割れするタイミングも出始め、大手メディアを始めとして「爆買い終わったか」という報道が頻発しました。しかしながら、訪日ラボでもお伝えしていたとおり、現地通貨換算ではむしろインバウンド消費は増加傾向にあり、円高の影響を受けての円ベースでの消費額減、という意味であったこと、そして特に高額商品と比較して円高の影響を受けにくい化粧品類を始めとした日用品類においては爆買いは未だ続いています。
訪日客消費額が前年比マイナス…ってホントに?現地通貨ベースでは消費額上昇、原因は「コト消費」ではなく為替にあり!!
観光庁は先日10月19日、訪日外国人消費動向調査の平成28年7-9月期の結果において、訪日外国人旅行消費額が前年同期比2.9%減少で9,717億円だったことを発表しました。前年同期比での減少は平成23年10-12月期以来4年9ヶ月ぶりです。観光庁によれば、訪日外国人観光客の1人あたり旅行支出は155,133円で前年同期比17.1%減少。しかしながら、訪日外国人観光客数は前年同期17.1%増加で626万人になっており、総額の減少幅は2.9%にとどまりました。訪日外国人観光客1人あたりの旅行支...
今回は、その「化粧品は爆買いが続いている」点について、業界全体の生産量と輸出量、そしてインバウンド消費との関係を見ていきます。この数値を見てみると、インバウンドの経済効果は、訪日中(旅ナカ)のみならず、帰国後(旅アト)にも影響を及ぼしていることが垣間見えます。
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化粧品業界2014年から2016年にかけて好調:その理由はインバウンドに喚起された輸出用アップにあり
上記表は2015年1月を基準とした、日本国内の化学製品の生産増減に対する製品類別の寄与度を表したものです。2015年8月を契機に、図表内赤で示された化粧品類がプラス方向で推移しており、2016年に入ってからは、日本の化学製品生産を牽引する存在になっていることがわかります。
化粧品の生産・出荷・輸出量について詳しく見てみましょう。上記表は2010年の化粧品の生産・出荷・輸出量を100とした、それぞれの推移を示したものです。前掲の図「化学製品の生産の寄与度分解」にならって、およそ2015年の8月頃から堅調な増加傾向にあることが見て取れます。
しかしながら、いわゆる「爆買い」現象がはじまった2014年、そして円安が最も進み訪日外国人観光客1人あたりのインバウンド消費額が最も高くなったのが2015年だったことを考えると、ピークの時期が1年ずれていることが気になります。これは何故なのでしょうか?
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化粧品業界の好調の要因は「インバウンド消費」?それとも「輸出」?
再度、図「化粧品の生産・出荷・輸出」を見てみましょう。
こちらの右図を見てみると、輸出量が堅調な伸びを見せており、これに引き上げられる格好で出荷や生産が増加しているのではないか、という仮説が導き出されます。
それを裏付けるように、国内の家計の化粧品支出額はここ数年際立った変化はありません。よって、日本国内の内需による生産・出荷量の押し上げではないことが、ここから読み取れます。
また、訪日旅行中(旅ナカ)のインバウンド消費が化粧品業界好調の1番の要因なのであれば、円安によって、最もインバウンド消費が喚起された2015年の7月〜9月頃にピークを迎えていて良いはずです。
ここからわかることは、2016年に数年の化粧品業界の好調の最も大きな要因は、輸出量の増加にあるのではないか、という仮説が成り立ちます。
化粧品業界好調の直接の要因は輸出量の増加
さて、この図表を見てみると、化粧品の出荷額、輸出額、そしてインバウンド消費の2014年から2016年にかけての推移を表したものです。こちらを参照すると、これら3つの指標が有意に相関しているようにみえます。
前掲の図「化粧品の出荷・輸出・インバウンド消費」より、出荷と輸出のY軸を揃え、出荷額から輸出額を引いて「国内出荷」とし、出荷額の内約を整理してみました。統計元が違っているので正確な数値ではないとは思われますが、化粧品の出荷額の押し上げに、輸出額の増加がかなり寄与していることが感覚的につかめるのではないでしょうか。
化粧品業界の好調の理由は、直接的には輸出額の増加が寄与していることがわかりました。それでは、何故輸出額が多くなっているのかを見ていきましょう。
化粧品業界好調の背景にはやはりインバウンドの存在が
さて、もう一度、図「化粧品の出荷・輸出・インバウンド消費」をみてみましょう。
再度の説明になってしまうものの、化粧品の出荷額、輸出額、そしてインバウンド消費額は有意な相関をもっているように見えます。とすれば、前述の通り化粧品業界好調の直接の要因は輸出にあるものの、その背景にインバウンドの存在があるのでは?という仮説が成り立ちます。
インバウンド消費が大きい国には輸出額も増加している。
こちらの図を見てみると上記仮説が正しそうであることがわかります。上記図は、2014年から2016年にかけての輸出の伸び率をY軸、2014年から2016年にかけてのインバウンド消費の伸び率をX軸として、国ごとの相関関係をプロットしたものです。
こちらを見てみると、中国や香港をはじめとしたインバウンド消費の伸び率が高い国に対する化粧品の輸出が増加していることがわかり、インバウンドが輸出にも影響を与えていることがわかります。
訪日旅行中での買い物の満足度が旅アトでの消費にも影響している
観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、化粧品・香水類は、その他の項目を除いて、全国籍で第2位の満足度を誇ります。特に中国においては電気製品とほぼ同率の1位となっています。
そして、化粧品・香水に一番満足した理由を見てみると「品質が良い」「価格が手頃・自国より安い」「日本製(であること)」が上位に挙げられています。ここから見えることは
- 日本製のの化粧品の品質の良さは、訪日旅行前(旅マエ)から認知されている
- さらに国内で購入するよりも安いことから訪日旅行中(旅ナカ)で買ってみる
- 帰国してから使い続け、満足しているので自国でも同一商品を購入している
と、旅マエ・旅ナカでのブランディングが旅アトでの消費を喚起しているのではないか、ということが読み取れ、これが輸出額増加の背景であることがわかります。
最新インバウンドマーケティング!旅マエ・旅ナカ・旅アトとは?
先月末10月31日、インバウンド業界を盛り上げるニュースが発表されました。国土交通省は、今年1月からの累計訪日外国人観光客数が、10月30日に2000万人を超えたことを発表しました。このペースで行けば2016年は2500万人弱の訪日外国人観光客数を望め、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年に4000万人という目標に向けて着々と増加しつつあります。しかしながら、訪日中国人観光客の伸びが鈍化していたり、為替相場に影響され日本円ベースでの訪日外国人消費額の減少などが騒がれており、...
業界最大手資生堂も日本製を前面にした商品展開を中国国内で開始
これをうけてか、業界最大手資生堂も中国の市場展開について本格化の構えを見せています。先日3月3日、主力基礎化粧品ブランドの「エリクシール」について「日本製」を前面に出したリニューアルをすることを発表しました。
今まで中国国内で流通していた同ブランドの生産拠点がベトナムであったのを、日本で買えるものと同様の「日本製」に切り替え。前述の訪日中に化粧品を購入して満足した理由が「日本製」であることからか、「日本」をブランディングの前面に押し出していく模様です。
まとめ:インバウンドは「インバウンド」に留まらない…今後は旅アトの市場にも要注目
今回解説した化粧品業界の好調の要因についてまとめると
- 化粧品業界好調の直接の要因は輸出量の増加
- 輸出量増加の背景にはインバウンド消費がある
- 訪日旅行でお得に買った日本製の化粧品が気に入って離れられない→国内でも同一商品のリピート
という現象が起こっているのではないか、ということでした。これらの要素から見るに、化粧品などの日用品類といった「リピート系」の商品群は、今後「旅アト」のマーケットも拡大する可能性が高く、越境EC市場なども注目の市場となるでしょう。
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<参考>
【インバウンド情報まとめ 2024年11月後編】中国、タイの2025年祝日発表 ほか
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