新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、観光業をはじめとする様々な業界が打撃を受けてから約2年が経ちました。
東京五輪の開催に伴い訪日外国人の増加が期待されていた2020年も、五輪の延期や新たな変異株「オミクロン株」の出現と、観光関連事業者、特にインバウンド業界は大きく需要を減らししました。
2019年には訪日外国人数が約3,188万人だったものの、2020年には約412万人、2021年には25万人と大きく人数を減らしています。
本記事では、国際的な往来の再開に伴い観光関連事業者が実施すべき、訪日外国人の集客方法について解説します。
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旅マエの外国人が日本に期待していること
外国人が訪日前に期待していたことは、観光庁の消費観光動向調査より明らかになっています。
以下では、訪日前の外国人が日本に期待していたことについて、いくつかピックアップしていきます。
ショッピング
世界各国から日本を訪れる観光客は、ショッピングを主な目的としている人も少なくありません。
日本のドラッグストアやディスカウントストアでは安く、高品質な商品が人気を博しているほか、コロナ禍で衛生面への意識の高まりから、ドラッグストアなど日用品を販売している小売店の需要は、今後も増加していくことが予想されます。
また、大型のショッピングセンターだけでなく、地方部の店舗では多言語表示の案内板の増加や海外の決済手段に対応してきたりと様々な取り組みがなされています。
しかし、過去の調査では外国人が日本を旅行中に不便に感じた事例として、スタッフとのコミュニケーションや、多言語表示の分かりにくさ・少なさなどが挙げられており、まだまだ課題が山積みです。
関連記事:訪日外国人の買い物事情は? | 国別・特徴・消費額など まずは基本傾向をおさえよう
日本ならではの「食」
「訪日外国人が訪日前に期待していたこと(複数回答)」と「最も期待していたこと(単一回答)」の共に日本食は、最も回答数を得ているコンテンツとなります。
寿司やラーメンといった日本を代表する食事のほか、地方独自の日本食を効果的に訴求することも、海外での訪日需要を高めるきっかけとなり得ます。
例えば農林水産省では、訪日外国人を誘客するために「SAVOR JAPAN」という取り組みを実施しています。
訪日客に食文化を発信し、農山漁村へのインバウンド誘客促進を目的に平成28年に農林水産省が創設され、37地域が認定されています(2022年2月時点)。2022年1月の「SAVOR JAPAN」の認定証授与式では、新たに6つの地域が認定されました。
関連記事
「食」は旅行の最大の楽しみ→インバウンド地方誘致の起爆剤に活用 | 農水省「SAVOR JAPAN(セーバージャパン)」の取り組みとは
日本のフードツーリズムとは|定義と概要、まちおこしへの活用事例を紹介
自然・景勝地観光
自然・景勝地観光は日本食に次いで、訪日外国人に期待されているコンテンツの一つです。
自然豊かな観光地の需要は、観光業はコロナ禍で多くの業種で国内外ともに需要が激減しました。
しかし自然体験、特にアウトドア市場におけるキャンプをした人数は、2019年の860万人から2020年は610万人と前年比約30%減に抑えられています。
また、「アクティビティ」「自然」「文化体験」の3つのうち、2つ以上の要素によって構成されるAT(アドベンチャーツーリズム)は、世界で72兆円の市場規模があるとされており、これは一般旅行者の消費額の約2倍にあたります。
アフターコロナの観光コンテンツとしてこれらを踏まえると、自然・景勝地観光には期待が高まります。
関連記事:アドベンチャーツーリズム(AT)とは | 市場規模・日本での可能性・北海道の事例
訪日外国人を集客するための4つのポイント
1位:SNS
2位:個人ブログ
3位:自国の親戚・知人
4位:口コミサイト
5位:動画サイト
と、上位5項目(全23項目中)がインターネット関連で占められています。
また、日本を訪れる外国人は観光・レジャー目的に限らず、MICE開催に伴うビジネス目的や留学目的など、訪日目的別に集客方法は異なります。
上記を踏まえ以下で、効果的に訪日外国人を集客するためのポイントについて解説していきます。
1. PR媒体の多言語化を強化
観光庁によると2016年度~2018年度に訪日外国人に取ったアンケートのうち、旅ナカで困ったこととして「多言語表示の分かりにくさ・少なさ」「施設等のスタッフとコミュニケーションをとれないこと」が、各年度ともに合算して4割前後の割合で挙げられています。
訪日外国人の旅マエでの使用媒体と、旅ナカに不便を感じている上記の事柄を踏まえると、受け入れる前の集客において対策できる内容としては、
- 英語をはじめとする多言語に対応したウェブサイトの充実(リンク先も日本語かどうか、外国人に訴求力のある画像が使用されているか、ネイティブ話者に理解されやすい文章で綴られているか)
- 多言語に対応した問い合わせ対応
- 現地での多言語対応(観光案内センターや駅構内をはじめとする案内施設に、多言語対応話者を設置&デジタルサイネージや案内板などが適切に整備されているか)
関連記事:飲食店に外国人スタッフは必要?意外と低い「多言語化」のハードル
2. 旅行メディア&海外OTAへの掲載
オンライン旅行予約サイトを指す「OTA」はOnline Travel Agentの略で、旅行関連商品が掲載されています。
海外ではExpediaやAgoda、Hoptels.comなどの大手があり、これらのOTAや海外からの閲覧者の多い旅行メディアからの情報発信も集客に向けた有効な手段です。
特に外国人に向けた日本の観光情報を発信するメディアや、海外の大手OTAへの掲載は有効な手段ですが、手数料や掲載費用を高く取られる場合もあるため費用対効果を熟考する必要があります。
関連記事:OTA(Online Travel Agency)とは | オンライン旅行予約サイト8選・利用のメリットと注意点
3. 口コミサイトへの投稿を促す
昨今、口コミサイトがPRに与える影響は観光業に限らず飲食業など、様々な業界で注目されています。
訪日外国人は旅マエにどこに宿泊するか、どのようなアクティビティをするか、何を食べるかといった情報収集をする人が多くいます。
その際に重視するのは口コミです。そのため、訪日を考えている外国人にとって有益な口コミが多く投稿されていれば、それだけで集客効果があります。
現在インターネットの世界は、一つは中国、もう一つは中国以外の2つに大別されていますが、各国で使用されている口コミサイトを把握した上で、それらを活用する必要があります。
例えば、中国人を誘客したいと思う事業者は、大衆点評やfliggyなど中国人利用者の多い口コミサイトに取り組まないと中国人に情報が伝わらずPRできません。
口コミサイトへの投稿で旅行中にかかった費用をキャッシュバックしたり、観光施設への割引サービスを受けられるなど口コミを促す方法には様々なものが考えられます。
なお、2019年のJTBによる「JTB訪日旅行重点15カ国調査2019」では、中国人の旅マエ・旅ナカでの情報収集手段として、旅行口コミサイトの利用が一番多く旅マエは66.9%、旅ナカでは51.5%の人が利用しています。
4. 観光の専門家に相談
観光事情に精通したコンサルタントや専門家に相談することも、訪日外国人の集客に向けた有効な手段です。
訪日外国人の集客に上手くいかない場合、現在取り組んでいる集客方法について、外国人の訪日目的に沿うものであるか今一度考える必要があります。
専門家によっては事業者側が実施していた、もしくはこれから取り組む予定であった集客方法について、費用対効果がより高い方法を提案してもらえるかもしれません。
国土交通省では「観光地域づくり相談窓口」として、観光による地域活性化を目指す地域を対象に、関連施策の紹介や、関係省庁への仲介などで地域の取組を支援する相談窓口を開設しています。
観光庁の公式サイト上では、広く観光地域づくりに取り組む事業者に参考となるよう、事例集が公開されています。
関連記事:【事例】豪華講師陣による、全3回「観光経営力強化セミナー」の様子を紹介
訪日外国人の集客・PR方法の成功事例
ここまで訪日外国人の集客に関して重要なポイントについて解説していきました。
以下で、訪日外国人の集客についての成功事例を紹介します。
宮崎県高千穂町「思い込みの排除」観光客数伸び率700%達成
宮崎県高千穂町では、2011年から2017年にかけて外国人観光客数の伸び率が700%を達成しました。
- 協会が運営する事業所(観光案内所など)や土産店、宿泊施設の利用客へのアンケート調査
- 最も外国人が訪れる高千穂峡での聞き取り調査(英語の話せる町おこし協力隊に依頼)
- Googleアナリティクスを利用したwebサイトのアクセス解析
- 外国人も日本人と同様、高千穂峡の風景を楽しんでいるという「思い込み」が間違っていること
- 具体的なターゲットはフランス人の30代女性
などの課題が浮き彫りになりました。
これらの課題からインバウンド施策に活かすため、以下の3つの取り組みを実施しました。
- 日本人の思い込みを排除し、データを重視
- 周辺地域への中継地点としての高千穂から脱却するため、カスタマー・ジャーニーマップを作成し旅行者の旅マエ・旅ナカ・旅アトの行動と心理を図式化
- 高千穂の強みである、「神話」に基づいたプロモーションを実施
岐阜県高山市、Webサイトを11言語に対応
岐阜県飛騨高山市では歴史や文化、風習、生活様式が大きく日本と異なる国の人々を迎え入れることで、日本の魅力を再認識できる機会を構築しました。
主に訪日外国人の誘客から、来日後の対応に関して以下の取り組みを実施しています。
- ムスリム旅行者向け市内散策マップを作成し、ムスリム観光客の満足度向上を図るとともに市内消費の拡大に貢献
- 高山市を含む「杉原千畝ルート」「北陸・飛騨・信州3つ星街道」といった観光ルートの形成
- 海外戦略室の設置(平成23年)、海外への戦略的な職員派遣を通じた海外販路の開拓(フランス・中国・香港・アメリカなど)
- 全国初の「免税一括手続きカウンター」の設置
- 外国人対応おもてなし拠点施設「EaTown飛騨高山」整備
また、訪日外国人の誘客に則しては、Webサイトの多言語化を実施しています。多言語対応した飛騨高山観光サイトは日本語を除いて11言語です。
日本語サイトをそのまま訳しただけでなく、国ごとに異なった内容が表示されるため、その言語の訪問者が読みやすい記事を閲覧できる工夫がなされています。
結果、2006年から2016年で外国人宿泊者数が4.3倍、2011年から2019年の外国人宿泊者数は年々増加しており、2019年には過去最多の60万人を突破しています。
SNS活用事例「ヤキニクバル 韓の台所」
渋谷の道玄坂にある「ヤキニクバル 韓の台所」は、2018年にトリップアドバイザーによって発表された「外国人に人気の日本のレストラン」ランキングで1位になりました。
Facebookを運用しているヤキニクバル 韓の台所では、店舗内、トイレなどいたる箇所にFacebookにいいねや口コミを書きたくなるキャンペーンの案内が貼ってあり、口コミ投稿を促す取り組みがなされています。
また、ヤキニクバル 韓の台所ではSNSで大量に情報発信するというよりも、来店した訪日外国人観光客の接客を丁寧に行い、来店者の満足度を高めることで口コミを促すというインバウンド対策を作っています。
訪日外国人を「見込み客」から「顧客」へ、アフターコロナに向け効果的な集客を
海外へ直接足を運ぶ販路拡大が難しい今、SNSや口コミサイトの活用しつつ旅マエの段階にいる外国人に働きかけることが非常に重要です。
旅マエの外国人に向けどのようにPRし、実際に集客につなげるか、コロナ禍の今から対策していくことで他社と差をつけることができるでしょう。
自身の予算にあったPR方法をしっかりと見極め、より費用対効果の高い集客を実現することが大切です。
関連記事
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<参照>
観光庁:訪日外国人が旅行中に困ったこと、受入環境整備の課題が明らかになりました ~受入環境について訪日外国人旅行者にアンケート調査を実施~
観光庁:訪日外国人の消費動向(2019年年次報告書)
観光庁:訪日外国人旅行者数・出国日本人数
岐阜県高山市:高山市におけるインバウンドの取り組み
JNTO:観光コンテンツ造成のポイントと旅マエ・旅ナカの受入体制
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